
【テキスト版】今日からすぐできる!リーダーのための心理的安全性が高まる声かけ講座

1999年にソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第一期生としてインターネット産業黎明期を経験。 その後ネットイヤーグループ、コーポレートディレクションを経て、2005年ネットエイジグループ(現ユナイテッド社)執行役員。モバイル広告代理店事業を立ち上げ後、2005年アドテクとインターネット広告代理店のFringe81株式会社を創業。代表取締役に就任。 2013年3月マネジメントバイアウトにより独立。2017年8月に東証マザーズへ上場。 2017年に発⾒⼤賞という社内⼈事制度から着想を得たUniposのサービスを開始。2021年10月に社名変更し、Unipos株式会社 代表取締役社長として感情報酬の社会実装に取り組む。2023年より日本企業956社すべての統合報告書を読み、人的資本経営や開示手法について研究・発言をしている。ITmediaにて人的資本に関する記事を連載中。 「心理的安全性を高める リーダーの声かけベスト100(ダイヤモンド社)」著者。
本記事は、『今日からすぐできる!リーダーのための心理的安全性が高まる声かけ講座』をテーマに、Unipos株式会社代表取締役社長CEO 田中弦(たなか ゆづる)氏ご登壇イベントのテキスト版です。
コロナ禍、人的資本の開示義務化など、組織を取り巻く環境の大きな変化が止まりません。さらに日本の労働人口は減り続け、一人ひとりの力を最大限活かせなければ、成功や成長はますます遠のいていきます。これからの組織は、一人一人を最大限生かせる組織風土・文化づくりを進めていく必要があります。その風土づくりの土台となるのが「心理的安全性」です。
1000万件以上の「実際に心理的安全性が高まった」という声かけから構成された「心理的安全性の高まるリーダーの声かけ100」の著者であり、370社以上に心理的安全性を高めるピアボーナス®サービス「Unipos」を提供してきた、Unipos株式会社代表・田中弦氏が心理的安全性を高め健全な組織風土をつくる方法を徹底解説します。
※「ピアボーナス」はUnipos株式会社の登録商標です。
心理的安全性とは環境のこと
平木:本日のテーマは「リーダーのための心理的安全性が高まる声かけ講座」です。よろしくお願いします。
田中:よろしくお願いします。最初に、自己紹介をさせてください。僕は元々ソフトバンクにいまして、その後いくつか会社を作り、現在は『Unipos』という心理的安全性を高めるウェブサービスを行っています。心理的安全性はすごく流行っていますが、正しく理解しないと間違って使ってしまうケースも少なくないので、今日は「こういうことなんだな」と理解していただける場となればと思っています。
心理的安全性は1999年にアメリカの論文で発表された内容がきっかけで注目を集めるようになりました。日本語に直訳されて「心理的安全性」と名付けられているので、僕なりにいろいろな本を読んで「組織の中で自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる環境」と定義することにしました。環境=誰にでも壊せるものと想像してください。例えば、綺麗な水の沸いている場所に誰かがゴミを投げつけると、誰でもその環境を破壊できてしまいますよね。例えば「うちの部長は心理的安全性が低い」という言い方をするケースがありますが、実は「心理的安全性が低い部長」というのはいません。心理的安全性はあくまで環境のことなので、部長は壊している側なのです。

まずは、こんな声がけをしていませんか?ということで、上のようなスライドを用意しました。今時こんな声がけをする方はほとんどいないかもしれませんが、ただ、こういった声がけは受け取り側次第な面もあります。受け取り側が「そんなことも分からないのか」もしくは「勝手に余計な仕事を増やすな」と言われたように感じると、対人リスクはどんどん上がります。
ですから、沈黙を選んだ方が、対人リスクが減る環境になるわけですね。例えば1時間の会議のうち、最後の10分に「何か意見や補足はありますか」と聞いてシーンとなることはありませんか?もしくは、気にせずに発言してねと促しても恥ずかしそうにしているような場合もあるかもしれません。
こちらとしては少し不満に感じるものですが、そういうとき、相手は「こんなことを言って無知だと思われたら嫌だ」「無知だと思われたら出世に響くかも知れない」と一生懸命計算しています。そういった計算上では、黙っている方が圧倒的に得なんです。ですから、皆さんの部下なり同僚の方の頭の中に、「発言をしようか」という重りと「沈黙しようか」という重りがあるということを意識して環境をつくっていく必要があります。
心理的安全性は離職が起こりにくい日本組織にこそ必要
日本の企業による隠蔽や不祥事のニュースを耳にすることがありますが、結局はあれも言い出せなかったということに他なりません。人の出入りの多い会社であれば環境が常にリフレッシュされるのであまり問題ではありませんが、退職や離職が少ない会社であればあるほど環境をしっかりとつくらなければいけません。
「アメリカの新しい概念を持ってきたところで、日本ではそんなことは関係ないよ」と思われる方もいるかもしれませんが、僕自身は、アメリカの組織よりも日本の組織の方が心理的安全性を重視すべきだと考えています。離職が起こりにくい環境である分、後に続く人たちをどうやって守るか、もしくは発言してもらうかを考えておかないと、沈黙を守った方が得だという空気が出来上がってしまうからです。
日本の労働力人口について調べてみましたが、20代は15%しかいません。米国でももちろん少子高齢化が進んでいますが、移民の国ということもあり、実際のボリュームゾーンは30〜34歳です。圧倒的に日本の方が、年齢が離れたギャップのある方達が「挑戦しなさい」と言いやすい環境のため、その人達を乗り越えて挑戦することがいかに困難かとお分かりいただけるかと思います。
心理的安全性を高める鍵は「称賛」
心理的安全性を高めることは簡単で、どの論文を読んでも「称賛が効果的」だと書かれています。僕も、部下の仕事が自分の期待値と少しずれていたときに突っ込みたくなることがあります。部下との1対1の関係上において突っ込むのはいいことですが、一方で、それを見た周りの人が「あんな風に扱われるのなら黙っていた方がいいな」となると環境が壊れてしまいます。
ですから、環境づくりとは1対1の関係ではなく、1対nの関係における環境づくりを意味するものなんですね。称賛として何を褒めればいいのかという話ですが、「お茶を持って来てくれてありがとう」とたくさん褒めても、組織的に共有する意味はないと思います。
現場の力を形成する3つの能力というのがあるのですが、改善したことを褒めてあげると、それ見た周りの人達が「こういう行動が組織内で推奨されているなら私もやってみようかな」と思い始めることへと繋がります。特にマネージャーやリーダーの方達においては、発見して称賛してあげることがとても効果的だと学術上でも証明されています。

僕もたまに頭に血が上ってしまうことがありますし、皆さんにもそういうことがあるかと思います。そんなときにどうすればいいのかというと、次の日にとりあえず「少し言い過ぎてしまったね」と言ってください。1週間放置してしまうと、「じゃあ飲みに行こうか」と言って2時間飲んで元に戻せるような状態ではなく、既に取り返しがつかなくなっています。周りにもそれがどんどん伝播していくことを考えると、即日謝るのがベストです。
そうすることによってある程度リカバーすることはできます。「少し言い過ぎてしまった」とか「あのときは頭に血が上ってしまって」とか、「こういう言い方の方が良かった」とか、そういうことを伝えるだけでいいんです。これを行わないことには、どんどんと不安な環境が出来上がってしまいます。
増幅型リーダーになって、心理的安全性を高める
僕はリーダーには3種類あると思っていて、心理的安全性の目指すところのリーダーというのはこの「増幅型リーダー」だと考えています。「消耗型リーダー」と呼ばれる人たちは、結果や成果のみを求め、失敗を恥であると捉えているので、周りはどんどん消耗していきます。「ぬるいリーダー」では人間関係は良くなりますが、成果は全然出ないので、しっかり最高の仕事を求めるというピリッとした状況が必要となります。

ですから、「私達は仲良しだし毎日飲み会に行っているよ」と言っている人たちも、「実は心理的安全性が高い状況ではないかもしれない」と思っていただいた方が良いかもしれません。少し極端に言っていますが、そのぐらいピキッと分けないと環境はすぐに壊れてしまうので注意していただきたいです。
心理的安全性を高める声がけについては、僕の本の中に実際の良い声がけとあまり良くない声がけの例が100パターンほど載っていますが、今日はその中でも代表的なものをご紹介したいと思います。
ヒエラルキーを言葉でつくっていないか?

新入社員と書いていますが、ここでは中途の方も新入社員として考えてください。新入社員が入ってきて仕事が軌道に乗ってきたというシチュエーションで、Beforeに「その調子で早く一人前になってね」、Afterに「1年目とは思えない仕事ぶりだよ」と書いています。Beforeの言い方でも別にいいんじゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、僕はAfterの方が絶対に良いと思っていて、これは先ほどの対人リスクの話につながります。
本人は悪気があって言っているわけではなくても、「その調子で早く一人前になってね」には明らかに「お前は半人前だ」という意味合いが含まれているわけで、そういったヒエラルキーを言葉でつくってしまうと環境は崩れます。心理的安全性と対人リスクは常にシーソーの関係なので、対人リスクが上がることによって変わってしまうのです。

次の例を見てみましょう。期待している部下に難しい仕事を任せるということはよくありますよね。「少し難しい仕事だけどよろしくね」と言うのと「君なら心配なく任せられるよ、困ったらいつでも相談してね」と言うのでは何が違うのでしょうか。実は、この2つの声がけには大きな違いがあります。
Beforeも優しそうに聞こえますが、「困ったらいつでも相談してね」と言えば、困っていないと相談はしませんし、本当に困っているときは「そうだ困ったから相談しよう」と相談しやすくなります。この「困ったら〜」を抜いて「いつでも相談してね」だけでは、どのタイミングでどういうときに相談していいのか全然分からないんです。上司の方も当然忙しいので、それを押し分けてでも言っていいのか、対人リスクのシーソーがグラグラと揺れてしまいます。
皆さんの普段のお声がけでも、この条件分岐無しに「いつでも相談してね」が使われている場合があるかと思いますが、相手が対人リスクを計算している状況においては条件分岐を付けてあげるととても良いので、テクニックとして使っていただければと思います。

ミスが続くときは、未来に視点を向ける

次は、自分の仕事ではないものに対応してもらったときの例です。先ほど称賛についてお話ししましたが、Afterでは「価値あるリスク対応だったよ」ととりあえず褒めていますよね。褒めることは組織の推奨行動になります。繰り返しになりますが、その場面を周りの人も見ていて、「こういう仕事をやっていいんだ」という許可が得られるためです。
そうすることで、この範囲内においては心理的安全が高まるので「よし俺もやってみよう」といった感じでフォロワーが生まれます。みんなの前で褒めるのは少し嫌だなと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、褒めるところから入ると環境づくりも大きく違ってきますので、ぜひ褒めていただきたいです。
相手の行動は「先輩が見やすいようにエクセルで罫線をつけておきました」とか「色を塗り分けときました」などで別にいいんです。こういう少しの工夫を認めてあげることが、心理的安全性を高めるということにつながっていきます。

次は相手がミスをした場合の例です。わざわざBeforeのように言う人はいないと思いますが、この2つの違いは、Beforeは過去を見せているという点です。「また同じミスをしたんだな」と言われた相手は、おそらく「なんであんなミスをしちゃったんだろう」と過去の自分を見つめますよね。
一方で「次からどうすれば防げるのか」と言うと、未来の自分を見つめさせることができます。他の方がミスしてしまったときに怒りたくなるのは当然だと思います。一方で、今後その人にどちらを見させたほうが会社や組織にとって得なのか。1対1の関係であればいいのですが、周りの環境も同時につくるとなると、未来を見つめさせたほうが得なのではないでしょうか。
リーダーだって不安を口にしていい
今度は不安を打ち明けられた際の例です。僕もそうなのですが、リーダーは強いもの、または背中を見せつけるものだと言われてきたので、「自分も不安になることがある」なんて言ってはいけないと思われがちです。でもそれは明らかに変わってきているとい感じています。
経済成長の途中で人口もどんどん増えている時代なら、リーダーが先輩から受け継いだ知識と経験を基に回答を持っていると言えるのですが、今は上司の方もマネージメントという役割を果たしているだけの時代です。ですから、上司の人も一人の人間で、しかもチームの力を全てフル活用するということ考えると、弱さを見せてもいいんです。強い言葉をずっと言い続けていると自分が疲れてしまいます。疲れてしまうと正しい判断が出来なくなってくるので、一人で抱え込もうとするのは非常に良くないですし、全員の脳みそをフル活用する=心理的安全性を高めた環境をつくり、リーダーの役割を全うしていくことになると思っています。

大変な仕事を任せるときには「成長のチャンスだよ」と言ってあげてもいいですよね。これはリフレーミングと呼ばれるとてもお勧めのテクニックです。リフレーミングとは「コップに水が半分しかない」と言われるのと「水が半分もある」と言われるのでは明らかに後者の方がよく伝わるというものです。ファクトとしては一緒なのですが、伝え方ひとつで「これは挑戦してみようかな」と心理的安全が変わってきます。

全ての人が強みと弱みを持っている
先ほどもお話ししましたが、「なんでミスするんだ」と怒るのではなく、「君以上に失敗した私が言うのもなんだけど、こうやってみるのはどうだろう」くらい言っても大丈夫です。最近流行っている人的資本経営は僕の専門でもありますが、昔は、優秀な人とダメな人がいて、人事制度でも優秀な人を残らせて取捨選択をする考え方でした。
今の人的資本経営では、いろんな人がいてその強みと弱みをどうやって活かすのかという考え方へとシフトしています。少子化になって人が採れなくなって、少ない資源で戦わなければいけないわけですから、「全ての人が強み・弱みを持っている」という考え方で扱った方がいいのは明確です。ただやはり、人事制度はどうしても競走の側面があるので、人事制度にはそぐわないという話になるかもしれませんが、少なくとも環境においてはこういった全ての人のパワーを上手く使うことが、求められてきているのではないかと考えています。

進行中のトラブルも「何をしているんだ」と言うよりも「失敗から学んだら一歩前進です」という言い方をしていただきたいと思っています。心理的安全性は1999年頃に論文で発表されたとお話ししましたが、何の論文だったかというと、救急救命医療の現場の研究の論文なんです。
ミスの報告が多い組織の方が重大な医療事故が少ない
研究者のエイミー・エドモンドソンさんは、人の命に関わるような重大な医療事故が起こる組織とそうではない組織の違いに着目して研究を始めました。その結果、ミスの報告の数自体は心理的安全性が高い組織の方が多いことが分かりました。見た目上は大失敗をたくさんしているチームに見えます。ところが、ミスの報告が多い分、その数の多さからみんなが学んでいるため、人の命に関わるような重大な事故は減っているのです。
ですので、皆さんの組織の中で「うちはミスや失敗が少ないからいい組織なんだ」と感じていらっしゃる方がいるなら、それはもしかしたら重大事故がいっぱい起きる可能性を孕んでいる可能性があります。難しいところなのですが、ミスの報告をなるべく多く保つということが実はとても重要です。いろんな製造業の隠蔽などに関する第三者委員会の報告書を見ていると、そのほとんどに「目の前のミスを繰り返すと馬鹿にされるかもしれないとか、無知だと思われるかもしれないというのが怖くて言っていませんでした」というような内容が書かれています。
ミスの報告が多いと組織のパフォーマンスが落ちているように思われがちですが、実はそれは組織のパフォーマンスとしては良い状態なので、上から「お前のところミスが多くないか」と言われても心配する必要はありません。

結局、心理的安全性は何に効くのかというと、組織風土や組織の空気です。では文化や能力と風土は何が違うのかというと、風土は土台だと思ってください。例えばトヨタは現場に凄い力があって、「いつでも改善できるようにしていこう」という風土があります。「カイゼン文化」と呼ばれるほどにどんどん強みになっていき、最終的にはもう誰も真似できない競走力になっていくというのが組織能力だと思うのですが、この土台はやはり風土です。
僕は、風土が痛んでいて文化が優れている組織を見たことがありません。先人がつくってくれたものがなんとか生きている場合もありますが、必ず風土が先です。この空気が淀んでいると、往々にしてだんだん文化も能力も落ちていくものです。ですから、この順番を頭に入れておくと良いかと思います。
発言の中身より、発言したことを称賛する
平木:ありがとうございました。続いて質疑応答に移ります。
質問者:私は医師として病院に勤務しているのですが、私どもの病院の大きな会議の場でアグレッシブな発言をする、立場の上の方がいます。私に対して言ってくる分にはかわしようがあるのですが、弱い立場の人達もそこにいたり、見聞きしたりしている場合は、アグレッシブな発言や否定的な発言をされる方、特に同じくらいの立場かもう少し目上への立場の方をどのように対処するのがいいのでしょうか?
田中:厄介ですよね。「部下は厳しく指導したらいい」という信念みたいなものを持っているのであって、おそらくわざといじめているという人は少ないと思います。良かれと思ってその方もやっていたりするはずですし、1対1の関係だったら別にいいと思います。ただそれをみんなの前でやってしまったりすると環境が壊れていきますし、その後に続く人が減ってしまいます。
減るというのは組織にとってマイナスなので、「あなたの行動は環境に悪影響を与えています」ということを、まずは1対1でマイルドに伝えた方がいいですね。「環境を整備するために一緒につくりませんか」「あなたの信念を否定しているわけではないんだけど、その行動だと環境が破壊されやすくなってしまうので」という言い方をしていただくといいかと思います。あとは、多くの会社さんで360度評価をやられていると思うのですが、そういったものを通じて気付いてもらえればいいですね。まともにしっかり受け止められない方も中にはいらっしゃるかと思うので、1on1でビシッと伝えた方が、その人の心理的安全性にとってもいいと思います。
質問者:発言をしたことをなんでも褒めるというのはゆるい環境になりますし、響かない褒め方になるのは理解できます。とはいえ、発言内容で褒める方針にした場合でも、発言内容が明らかに誤りであったり、他者の発言や説明している内容と異なった話や、話の腰を折るような発言である場合はどのように対処すればいいでしょうか?
田中:少し難しいシチュエーションだと思いますが、とりあえず意見の中身を褒めるのではなくて、意見をした姿勢を褒めた方がいいと思います。中身を褒めたりけなしたり、もしくは信憑したりなどをやっていると、中身の戦いになっていきます。そうすると中身の良し悪しの話になってしまうのですが、それだとらちが明かないときもあるので、どちらかと言うと発言してくれたことを褒めてあげるべきですね。発言したことに対して「発言したの、とても良かったね。次もまた発言してね」と言って、また次の話題に移っても別にいいと思うんです。ですので、そういう形で工夫していただければいいかと思います。
リーダーばかりが話していないか?
質問者:気軽に発言する雰囲気が大事なのはもちろん理解できますが、うまく回ってより多くの人が今まで以上に発言した場合、会議などの時間的制約や、聞く人の時間的制約の問題が出てきそうです。そうなった場合はどのように対応すればいいでしょうか?
田中:これは簡単です。大体にして、リーダーの人は会議で発言し過ぎなんです。リーダーの方が50分話して残り10分で発言する人が増えてしまうと大変なことになってしまいますよね。リーダーの話が30分で、残りの30分は意見を戦わせる時間であってもいいと思います。そちらの方が明らかに生産的な議論ができると思うのですが、皆さんの会社ではどうでしょうか?
リーダーの方が結構な分量を話している気がするのですが、果たしてそこまで時間がいるでしょうか。僕は、しっかりアジェンダ設定されていて、リーダーが多様性も含めていろんな人の意見をコントロールしていればそこまでの時間は必要ないと思います。どちらかというと、リーダーは発言する人じゃなくてコントロールする人になった方がよりいろんな人の意見を吸い上げられるかと思うので、会議のやり方自体を調整・変革する方が早いですね。
質問者:例えば失敗したときに「良い経験になったね」という声がけをされるいう話があったと思うのですが、どうしても余裕がなくて、感情の部分で少しイラッとしてしまうような場合がありそうです。そういったことにならないように、何か気をつけるコツはありますか?
田中:これは完全に僕のやり方なので、質問者さんにも合うかどうかは分からないのですが、コツとしては一拍置くことです。売り言葉に買い言葉ではないですが、リアルタイムにカッとなって言っちゃうと、相手もカッとなってどんどんエスカレートするということがあると思うんです。どんなチャットツールでもそういう機能があると思うのですが、returnキーを押すと送信できますよね。
これはリアルタイムで売り言葉に買い言葉で返すという現象に似ています。怒っている上司の方から長文のチャットがドーンと来るときがありませんか?それではまずいので、僕が何をやっているかというと、僕はMacを使っているので、optionキーとcommandキーとreturnキーを同時に押さないと送信できないようにしているんです。
つまり、難しいショートカットを使うことで物理的に一拍置くということです。これもアンガーマネジメントのひとつですが、何か立ち止まれるような障壁を自分で作ってやればいいんです。特にリアルタイムチャットなどは、相手がそこにいない分、相手を傷つけるようなことを平気で言えてしまったりするものです。送信を難しくすることで、対面でも「ショートカットを押さないと」と考えられるようになります。アンガーマネジメントでもなんでもいいので、気分をせき止めるルールや仕組みを設けておくと、自分の癖付けになるのでいいかと思います。2〜3秒置くというだけでも全然違いますからね。
反応が薄くてもリターンがあると信じて環境づくりを続けていく
質問者:褒めても反応が薄い相手や、褒めた内容を素直に受け止めない、場合によっては卑屈に捉えてしまう相手には、どのような問題や対策が考えられるでしょうか?
田中:心理的安全性とは環境づくりですが、例えば、地球温暖化だからっていきなり気温が2℃下がったりすることはないじゃないですか。それと同じで、いきなりリターンがあるというものではないと思っています。ただ、だんだんと自分のマネジメントは楽になっていきます。
これは、部下の方が勝手にやってくれて、どんどん意見も言ってくれるようになるためです。「こういう考え方もあったんだ」と自分の仕事やマネージメントが楽になるという類のものなので、そのときにその方の反応が薄かったり素直に受け止めてもらえなかったりしても大丈夫です。環境をつくるということにおいては、反応が薄くても続けるしかありません。後で必ずご自分にリターンが帰ってくるので、それを信じて続けていただけるといいかと思います。
質問者:安全性が高くなってきたと実感する方法や、向上しているときの個人や組織に兆しとして表れる変化があれば教えてください。
田中:僕は、心理的安全性が高まっているかどうかを確かめる際にアンケートを活用しています。上司でもいいですし、そういった人に「発言しやすくなりましたか」というテーマでビフォー・アフターを尋ねるんです。GoogleドキュメントやGoogleフォームで5問ぐらいの質問を用意しているのですが、数ヶ月〜半年などの単位で環境がどれくらい変わったのかについて、3問〜5問ぐらいでいいので聞けばいいと思います。「上司・同僚や、斜め上の上司・別の部署の人と話しやすくなりましたか」といった内容を聞いていくと、どれくらいその環境は良くなったのかというのは分かってきます。
また、それを組織の中で「自分たちはこんなに話しやすくなったようです」と共有していただくと、「やっぱり雰囲気が良くなったよね」と再認識させることができます。ファクトや数字ベースで「私達は明らかに良くなっているからもっとこういう環境を一緒につくっていこう」と促していった方がいいですし、プロが作るものでなくてもいいので、僕は簡単なアンケートをお勧めしています。
リーダーより大切なフォロワーの存在
質問者:年長者が部下にいる場合、グッドサイクルも気持ちを逆撫でしてしまうことを危惧しています。どのように配慮すれば良いでしょうか?また、年長者の部下のモチベーションを向上させるコツがあればご教示いただきたいです。
田中:周辺にその方がいると話しにくいかもしれませんが、年齢が年上の方が部下になるということは凄く増えていると思います。ただ、もう配慮はしないです。心理的安全性の高い環境をつくるということにおいて年齢や性別は本当に関係ない話なので、年長者だからというのは気にしなくても大丈夫です。
もしその年長者の方によって環境が少し壊されているのであれば指導する必要があると思うのですが、その場合も「あなたはダメだ」ではなくて、「一緒に心理的安全性が高い環境をつくっていこう」「あなたもつくり手の一人なんですよ」と指導していただけると良いんじゃないかと思います。
質問者:心理的安全性について、アクションの弱い人などについてはブレーキを解除して、レベルが低いちょっとしたものでも引き出すことを認知するのが有効だと分かってはいるのですが、いくらやってもなかなか考えようともしない人も中にはいます。そういった場合は、1on1や伴走支援を併用した方がいいのでしょうか?
田中:ついてこられない方とか、先ほどのご質問にあった年長者の方など、なかなか変わってくださらない方はやはりいらっしゃると思います。それを一つひとつ解決していくと少し時間がかかってしまうので、ついてくる人を大事にされることをお勧めします。リーダーの方が「こういうのをやろう」と言うと「いいですね」とついてきてくれる方が何人かいらっしゃると思うのですが、その方を大事にしてください。
重要なのはリーダーが頑張りすぎないということです。そのフォロワーの人たちに「よくぞついてきてくれた。こういう環境をつくりたいからぜひ協力してほしい」と言って、フォロワーの人たちを一人ずつ増やしていくと、だんだんと他の人にも「あっちにいった方が良さそうだね」という流れが生まれます。僕はデレク・シヴァーズという方の「社会運動の起こし方」というビデオが大好きなのですが、「リーダーが大事なのではなく、リーダーがフォロワーの人たちを大切に扱うと、その組織や運動が雰囲気を含めて変わっていく」という内容なので、そのビデオを見ていただくと僕の言ってることがお分かりいただけるかと思います。






