エンゲージメントを落とす「3つの罠」とエンゲージメントを高める「2つのコツ」

エンゲージメントを落とす「3つの罠」とエンゲージメントを高める「2つのコツ」

two edge合同会社
中村 勇気氏
中村 勇気氏
two edge合同会社
LLC founder / 才能パーソナルトレーナー/ファシリテーター

"才能"をテーマにおいた個人開発、組織開発を提供。個人開発としては、経営層、ミドルマネジメント層を中心としたビジネスパーソン向けに「才能や強みの使いこなし方」をレクチャー・コーチング。組織開発としては、ミドルマネジメント層の「才能を活かすマネジメント手法」を開発し、ファシリテーション、ワークショップ、コンサルティングとして提供。過去上場企業、スタートアップ企業、非営利団体など様々な組織・団体で活動中。

今回の特別公開クラスでは、two edgeのLLC founderであり、才能パーソナルトレーナー/ファシリテーターとしても活躍する中村 勇気さんをお招きしました。企業や自治体などを対象に才能のトレーニングを行い、大学では才能・強みをテーマとした研究も進めている中村さん。今回は、その研究から得られた知見をもとに、エンゲージメント向上を左右する要素について詳しく語っていただきました。

今回のテーマは、エンゲージメントを落とす「3つの罠」とエンゲージメントを高める「2つのコツ」です。よろしくお願いします。

中村:僕は、人の才能というものを生業に組織・個人のご支援をさせていただく傍ら、大学に在籍し、動的な才能・能力開発をテーマにした研究や、才能をどんなプロセスでどういう風に開発していけば一番ポテンシャルが花開くのかというようなメソドロジー(方法論)をテーマにした研究を行っています。また、才能の形は人それぞれなので、その才能を特定、発展させていく方法についてトレーニングを行う、パーソナルトレーナーとしての役割も担っています。個人の才能についてのお話は、組織単位で見ると組織のカルチャーやバリューに置き換えられるものなので、会社様へのご支援では、組織の才能を伸ばすことを目指した組織開発という名目で協力しています。最近では自治体の方々との事業も進んでおり、フリーランスの方や働くお母さん方の強みを開発して、社会にオンボーディングしていけるような状態を作っていけるよう連携しています。

まず必要なのは自分の「強み」をつけるようになること

まず知っていただきたいのは、学術上では「才能」と「強み」が別の概念として定義されているということです。才能とは「自然に繰り返される思考・感情・行動のパターン」のことで、強みとは「才能を使って完璧に近いパフォーマンスを発揮すること」を指します。例えば、野球の大谷選手やフィギュアスケートの羽生選手は、当たり前にできる行動群を何度も反復練習することによって、完璧に近いパフォーマンスを発揮できる確率を向上させます。それが強みと呼ばれるものです。ただ、当たり前にできてしまうパターンであるが故に、その才能を自覚できていない方も多くいます。

強みの研究で明らかになっているのは、個人と組織の価値観が一致しているからといって、エンゲージメントが上がるわけではないということです。「なんとなくこの会社と相性が良さそうだな」と感じていて、個人と組織がカルチャーフィットしている状態でも、必ずしもエンゲージメントが高くなるような有意な相関はなかったんです。研究では、「意義のある仕事(ミーニングフルワーク)」と自分の強みの2つを媒介することによって、エンゲージメントが上がりやすくなると言われています。つまりは、いい会社に入ったからエンゲージメントが上がるわけではなく、意義のある仕事があって、そこに自分の強みを用いられているからエンゲージメントが上がるということです。

才能や強みの研究はここ10〜15年でかなり盛り上がりを見せている分野なのですが、その中でもよく言われているのが「心的資本」という考え方です。

心的資本では、「希望(Hope)」「自己効力感(Efficacy)」「再起力(Resilience)」「楽観性(Optimistic)」という4つの心的要因を、それぞれの頭文字を取って「HERO(ヒーロー)」と呼んでいて、あなたの心にはヒーローがいますよ、なんて言うことがあります。HEROは、4つの心的要因によって、資本が豊富なのか枯渇してるのかを表現するものです。研究では、自分の強みをしっかり使っている人ほど、この4つが上がりやすいということが明らかになっています。これはエンゲージメントにも繋がってくる部分です。

重要なのは「強みアプローチ」→「欠乏アプローチ」の順番

クリフトンストレングス®を作っているGallup社の様々なリサーチの中では、経営陣が強みに着目している場合、100人中73人の従業員は仕事にやりがいを感じていて、そうでない場合は100人中9人しかやりがいを感じられていないという結果が出ています。また、国ごとのエンゲージメントスコアも明らかになっていて、アメリカでは34%は仕事にやりがいを感じている一方、日本では6%しかやりがいを感じていない状況となっています。このように、心的資本とエンゲージメントの質感はとても似ているんですね。この他にも、強みについては様々な角度から研究が行われており、強みをしっかり使っている人ほど、積極性やウェルビーイングが高くなったり、自分が取り組んでいることが天職だと思えるような感覚が強くなったり、想像性や問題解決能力が上がりやすい傾向にあります。

現在多くの会社様で強み開発が導入されていますが、あまり上手くいってない会社様が多いなと感じています。強みを使ってエンゲージメントを高めるには、今回のタイトルにもある通り、2つのコツがあります。1つ目は「強みアプローチ」という視点の持ち方を大事にすることです。例えば、受けたテストの点数が1回目40点、2回目70点だった場合、「欠乏アプローチ」では物事の差分を見ます。何かが欠落している、壊れている状態だから自分は上手くいっていない、残り60点は何ができていなかったんだろう、それを直せば上手くいくはずだ、というのが欠乏アプローチの物事の捉え方です。それに対して強みアプローチは、無いものに着目するのではなく、あるものに目を向けるので、1回目のテストの40点分は何ができたんだろう、2回目のプラス30点分は何ができるようになったんだろう、もっとできるようになるにはどうすればいいんだろうというような考え方をします。人によってはこの2つアプローチの割合が0:10だったり、7:3や5:5という方もいると思います。

このアプローチは、自分という冷蔵庫と、その中に入っているキラキラと光る食材で例えることもできます。食材=才能で、1人1人全く異なる食材が冷蔵庫に入っていると想像してください。それを美味しく料理できた時に初めて美味しいと感じられて、周りのみんなが美味しいと言ってくれるとその食材が強みになり、高いパフォーマンスが発揮できるようになります。つまり、自分の冷蔵庫にある食材をしっかり使っていくことが重要になるのですが、欠乏アプローチの場合は、冷蔵庫を開けた時に「あれもない、これもない」と足りない食材のことばかりを考えてしまって、キラキラと光る独自の食材を使う前に新しいものをどんどんと買ってきます。その後、いざ自分の食材を使おうとしても賞味期限を迎えているというようなパターンが起きるのが欠乏アプローチの弱点です。強みアプローチの場合は、冷蔵庫に入っている自分の食材を使い切ろう、これを美味しく料理できれば1つ星レストランぐらいになるはずだ、といった考え方になります。とはいえ、マネジメントをやったことのない人が強みアプローチだけでマネジメントをできるようになるかというとそんなことはなく、あくまでも順番が重要です。

心的資本の研究では、欠乏アプローチでも先述した心的資本、HEROは上がるものの、強みアプローチの方が上がり幅の大きいことが明らかになっています。ただ、欠乏アプローチが行き過ぎてしまうと、いかに自分が何も持ってないかを自覚してしまうため、結果としてHEROが下がってしまいます。HEROが下がったまま新しいものにチャレンジする状態は、何の準備もできていない状態でいきなり100m走を走らされるようなものです。それではベストなパフォーマンスを発揮できないので、強みアプローチで「自分の持っているものを使えばなんとかできるかもしれない」という状態を作ってから、「とはいえまだ足りないものもあるからそれを埋めていこう」という欠乏アプローチに切り替えていく。強みアプローチから始めて、欠乏アプローチに移行していくという順番が大事なポイントです。

強みアプローチ+ジョブ・クラフティングでエンゲージメントを高める

もう1つのコツはジョブ・クラフティングです。楽しそうと思えなかった内容なのに、総意工夫していくうちに自分の中に楽しさが芽生えて、いつの間にかハマっていたなんてことは、誰しも仕事や趣味、遊びの中で経験したことがあるかと思います。それと同じで、物事に取り組む時に何を創意工夫していけば楽しくなっていくかを考え、クラフティング(工作)していくことがジョブ・クラフティングという概念です。ジョブ・クラフティングと、エンゲージメント、職務に対するコミットメントや自己成長は有意に相関しているので、強みアプローチでジョブ・クラフティングをしていくことが必要です。欠乏アプローチでは「あの技術もこの知識も経験も足りていないから、それを獲得してからクラフティングをしないと」と考えるので、HEROが下がった状態でクラフティングして、上手くできない自分を自覚するだけになってしまいます。手応えをしっかり感じながら、心的資本とエンゲージメントが上がりやすい状態で取り組むには、強みアプローチでジョブクラフティングしていきましょう。

強みアプローチとジョブ・クラフティングの2つがエンゲージメントを高めるのに効果的ということを踏まえた上で、3つの罠の1つ目からご紹介します。強み開発を組織で導入する際によく起きるのが、今の強みだけにフォーカスしてしまうことです。Gallup社のクリフトンストレングス®やWevoxの個人特性診断など様々なサーベイがありますが、自身の強みが明らかになった時は、自分に合うものや、自分に向いている仕事、相性のいい人に意識が向きがちです。これによって、整理されていない環境、働き方、人間関係が整理されるので、一時的にパフォーマンスは上がるのですが、今の強みにフォーカスしていると、今の自分が快適だと感じている環境に合わせていこうとするマインドが仕上がってしまいます。その結果、チャレンジが起こらなかったり、本来やるべきことに対して「それって強みじゃないんだよね」と拒否傾向が出てしまったり、より好みをする人だけが増えていく状況になる恐れがあります。

人で例えると少し分かりづらいので、保湿クリームを擬人化して例えてみましょう。無い物ねだりをしてしまっている保湿クリームは、絆創膏や胃腸薬、頭痛薬と自分を比べて、「私は傷も腹痛も直せないからダメだ」と感じています。これはつまり、保湿ができるという自分の強みを理解していないことにより自己認識の罠に陥り、物事を欠乏アプローチで捉えている状態です。こうなると、自分にとって正しい自己投資やトレーニングの機会を選択することができないまま、何もかもを治すことを目指して、そもそも自分に必要のないスキル投資を始めてしまいます。保湿クリームがこの悲劇から抜け出すには、自分の強みと自分が何屋さんなのかを自覚しなければいけません。ただ、これは今の自分の強みを守り続けることではなくて、今後保湿クリームとしてどのように機能を増やして、保湿効果を伸ばしていけばミッションやゴールにたどり着けるのかを考えていく必要があるので、そこでジョブ・クラフティングの出番になります。

上司の理解不足がエンゲージメント向上を妨げてしまうことも

2つ目の罠は、強みが育つ環境が用意されておらず、お祭り化して終わることです。強みを自覚するための研修制度やトレーニング制度が導入されていても、強みを育てるには強みアプローチから欠乏アプローチに移行する必要があることを上司が理解しておらず、「できないことを克服していくことが成長、強みに行くのは逃げだ」と考えている場合、エンゲージメントは下がっていく一方です。この環境設定ができていないケースが意外と多く、ジョブ・クラフティングの技術はあるのにその裁量がないことでやきもきして、最終的に退職につながってしまうこともあります。

また、才能が弱みになっている場合も非常に多くあります。先ほどの食材の例えで言うと、冷蔵庫の中の食材を使い過ぎることによって食材が弱みになるケースです。具体的には、共感能力が高過ぎて自分がしんどくなってしまったり、思考能力を強みに持つ人が企画を思考していく中で、結果的に思考に寄り過ぎて人の感情を蔑ろにしてしまったり。自分の才能を過剰に使ってるから、弱み化してしまうんですね。これを避けるためには、上司や仲間からの相互のフィードバックで、適度に自分の才能を使え、強みを認知し合えるような状態を作っていく必要があります。プレイヤー時代に自分の強みを発揮して、それが評価されてマネージャーに昇格した方の中には、「どうしてこのやり方でできないんだ」と自分の成功パターンを部下に押し付けるタイプの上司になってしまう方がいます。ですが、部下は全く違う才能と成功パターンを持っているのに、俺様リーダーシップのような間違ったマネジメントを進めていては部下をダメにしてしまいます。そういった意味でも、いい塩梅に調整しながら強みを認識し合える環境設定はとても重要です。

「当たり前」の定義をしっかりと見極めることが大切

3つ目の罠は、「実は強みがずれている」ことです。「才能とは自然に繰り返される思考・感情・行動のパターン」とお話ししましたが、これは3Eと呼ばれます。「自分らしさ(Essential)」、「自然と表せる(Effortless)」、「自然と活力が湧く(Energizing)」という3つの状態が揃っている行動群が皆さんにとっての本来の才能です。周りから見ると努力している風に見えるけど自分では鼻歌混じりにやっていて、時間や労力を使っても活力が沸き続ける、自分らしい思考・感情・行動のパターンというわけですね。ただ、クリフトンストレングス®やWevox個人特性診断などを受けた時に、「当たり前」という定義をどう捉えているかがとても大事です。当たり前にできてしまうこと、が本当に3Eなのかを正しく捉えて回答することで、強みがずれずに良い結果につながります。

例えば、職務についてる時の自分と、家族や気の許せる仲間といる時の自分って、ちょっとキャラが違うものですよね。社会で生きている中で、マネージャーだったり営業だったり、お兄さんお姉さん、親または子供としての自分だとか、人それぞれの社会的役割を持っていると思います。その社会的役割に乗っ取って当たり前にできていることもあると思うのですが、強みを発見する時にその社会的役割の仮面をかぶったまま回答してしまうと、3Eではない強みが出てくることがあります。さらに、それを自分の強みだと思い込んでやればやるほど、社会的仮面を強化していくというループに入ってしまうわけです。つまり、エンゲージメントやHEROが高まるような3Eのスイッチを押したいのに、ズレたスイッチを押したまま勘違いした強みを伸ばすからしんどくなっていくんですね。それではHEROもエンゲージメントも上がらないので、他者から承認してもらわないといけない、報酬を上げてもらないとやる気になれないという状態に陥って、本質的なエンゲージメント向上とは違うところに逸れてしまいます。

もう1つの強みがずれる原因は、学習された行動です。九九や、業務で言うとルーティン化している業務やブラインドタッチなど、当たり前かつ自然にできるものがあるかと思いますが、これは全て、何回も繰り返してきたからできることです。「当たり前にできていることは強みじゃないの?」と思われるかもしれませんが、九九はあなたにとっての3Eですかと聞かれると、そうじゃない方が多いのではないでしょうか。当たり前にできる行動でも、それが3Eに乗っ取った行動である必要がありますし、クリフトンストレングス®の結果の中に3Eに当てはまるものがあるか、そこまで絞り込めるかどうかがポイントです。

改めてお伝えしたいのは、自分の中にある才能をしっかりと使い切って、自分のエンゲージメントを上げていくことがファーストステップであること。そしてそれをジョブクラフティングし続けながら才能を開発することがエンゲージメントを高める方法の1つだということです。今の強みだけにフォーカスすると、選り好みする人、今の心地いい場所から出ようとしない人が増えてしまいます。自分が何屋さんなのかを明確にするために強みを使うことは大事ですが、ジョブ・クラフティングもやりながら、もっと作りたい、作ったことないけどやってみたいと思う部分に強みを使う流れを作っていかないと本来の強みの価値は生み出せません。

加えてとにかく大事なのは、環境と上司の存在です。上司が強み開発の重要性を理解していて、1on1などを通じて一緒にジョブ・クラフティングをできることも、マネジメントのスキルとして重要な部分です。こういったことを取り入れると継続的な強み開発ができるようになってくるので、単なる単発の祭りで終わらずに済みます。

かつ、「当たり前にできる」行動群を絞った上で、自分の強みとなる、3Eの行動群にまでしっかり絞り込んで、それをクラフティングしていくことが最も真意を突いたエンゲージメントの高め方に繋がります。その点を意識して、ぜひ強み開発を行ってみてください。

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