
なぜ多くの管理職は組織づくりに消極的? 古くて新しいテーマ「管理職の主体性」を考える

大学卒業後、芝浦工業大学大学院 工学修士課程修了。日本能率協会コンサルティングにて企業・組織の改革・改善活動の支援に関わる。専門は、研究開発、商品開発、新規事業開発、事業改革など企業・組織内での「新しい動き」をつくる活動を中心とする。また人と組織の力を最大限に引き出す支援として、キヤリアビジョン開発、コーチング、ファシリテーション、リーダーシップ、社内コンサルタント養成などのヒト系ソリューション事業を開発してきた。2009年独立。現在までエグゼクティブ・コーチング、職場開発(チームスキル)、社内改革推進者養成や内製化など企業や団体の改革を支援している。2012年一般社団法人チームスキル研究所を設立。その後、Wevox組織・人財アドバイザー、一般社団法人経営支援機構 技術顧問などを兼務。現在に至る。
組織のエンゲージメント向上において、管理職の存在は大きなカギを握ります。チームメンバーとのコミュニケーション機会も多く、上層部とのハブともなる管理職ですが、激変するビジネス環境において、「人と向き合う」意識をなかなか持てない人もいます。
こうした中、エンゲージメント活動を推進したい人事や組織開発担当者が、管理職の消極的な姿勢に頭を抱えることも少なくありません。
「どうして、管理職は主体性を持って組織、チームと向き合ってくれないのか?」この疑問を、数多くの悩める管理職と向き合い続けてきた、チームスキル研究所所長の田中信さん(通称マコさん)にぶつけてみました。
※本取材には、オンラインアカデミー「Engagement Run!」メンバーがオブザーバーとして参加しました。記事内の一部質問は、メンバーからの質問をベースとしています。
ここ数年で変わってきた、主体性の質
―今日は、「なぜ、多くの管理職は組織づくりに主体的になれないのか」をテーマに、マコさんに話を伺います。マコさんはチームスキル研究所での活動を通して、多くの悩める管理職とガチ対話をされていると思います。人事部の中には、管理職に組織づくりに取り組んでほしいと思いながらも理解を得られずに悩む方も多くいますので、そうした人へヒントを届けられればいいなと思っています。
そうですね。管理職が置かれる環境は年々変化していきていますし、悩みの種類も変わってきています。大人の学び直しが注目されていますが、管理職がどのように成長して、組織づくりと向き合えばいいのか、今日はいろいろ話しながら、一緒に考えていければと思います。
―さっそく最初の質問ですが、マコさんが考える「管理職にとっての主体性」とはどのようなものでしょうか?
この主体性をどう捉えるかも、意味合いがまた変わってきているのかなと感じています。古くて新しいテーマ、とでも言いましょうか。主体性の質が変わってきているのでしょうね。
これまでだったら、会社の言うことをしっかりと実行してくれる管理職のことを「主体性がある管理職」と認識していたでしょう。ただ、今は経営も答えを持っていない時代ですから、ただ会社の言うことを聞いている人間は、主体性がないと見なされてしまいます。会社にとって“あたらしいものを提供してくれる”主体性が求められる時代になっています。
どれだけ企業規模が大きくても、環境が激変し3年5年で自分たちの事業が、新興企業にディスラプションされるかもしれないと、戦々恐々としている企業においては、なおさら管理職の“あたらしいものを提供できる”主体性が求められています。

―管理職が会社からの指示を待たず、どんどん新しい挑戦をしていく、という意味での主体性ですね。
そうです。ベンチャー企業だと、ある種こうした主体性を管理職、マネージャーが持つのは当たり前だとは思うんです。ただ、トラディショナルな企業においては、なかなかそうした志向性を持つ管理職は少ないです。感覚的には、10%もいないぐらいではないでしょうか。
面白いのは、これまではマイノリティであったその10%の「主体性のある管理職」が、これからの時代には必要になってくるということです。今、各社で一生懸命リスキルに取り組んでいるのも、管理職のOSをアップデートして、革新的な考え方、挑戦心を身につけてもらうためでもあるんです。そう考えると、管理職であってもちゃんと成長のサポートをしていこう、人的資本に投資していこうという流れは年々強くなっているのかなと感じています。
さらに現代の管理職には自身の主体性発揮だけでなく、部下の主体性を開発するため、一人ひとりの強みや才能を引き出し、組織で活かすことも求められています。しかし、トラディショナルな企業の管理職のOSでは、今までそのような部下の扱い方をしていないため、どのようにやればよいかわからない管理職が多いことも大きな課題です。
「1円の大切さ」を、経営や管理職が体験したことがあるか
―とはいえ、いきなり「OSをアップデートしよう」と言われても、管理職当人からすれば大変なのかなと思います。
私が支援している企業の管理職はみんな、ひーひー言ってますよ。「そんなことまでしなきゃいけないの?」なんて声も、よく聞きます。
管理職の身になって考えてみると、彼・彼女たちの多くは、既存事業をしっかりと維持成長させることで、成果を出してきたんですよね。その功績自体は何も否定することでもないですし、会社側が求めていたミッションでもあったはずです。
それが、ここ数年で既存事業の維持成長に加え、新規事業の開拓も行わなければならなくなってきた。この流れの中で、冒頭の「主体性」の質もどんどん変化していったわけです。ただ、経営側がちゃんと考えなきゃいけないのがいくら既存事業のキーパーソンだったとしても、新規事業においても同等の成果を残せるかどうかは別の話だということです。
―よく言う、「0→1」的な能力か「1→10」的な能力の違いですね。
そうです。既存事業の維持成長と新規事業の成功は全然求められる能力が違います。それを、ただ管理職だからというだけで、どちらの成果も求められている、という状況が多くの企業で散見されます。
なぜ、こうした状況が起きているかというと、今の経営層自体が「0→1」の経験をしたことない人が多いからなんですよね。自分たちは「0→1」をしていないのに、管理職にはそれを求めている。管理職からすれば、維持成長と新規事業開拓という“両利き”を急に求められて、四苦八苦している状況です。
学びデザイン代表荒木さんの記事に「管理職は板挟みになったほうが成長するのでは?」という話がありました。ご指摘の通り「板挟み」といった葛藤状態にあることで、成長を促すことは可能だと思います。しかし管理職の許容を超えた板挟みでは、日常に流されてしまい逆に自信をなくしてしまうことにも繋がることを心配しています。
―大変そうですね…。
経営層がUの経験、つまり事業がどん底まで落ちて、1円の売り上げの大変さを身にしみて体験しているかどうかは大事なんです。既存事業の成長だけをしてきた経営層は、そうした経験を持っていないですから、新規事業を行う際もある程度の成功条件がそろった状態ではじめられるという感覚を持ってしまう。

それは管理職も同じです。既存事業にだけ専念してきた管理職は、新規事業をミッションに課せられたときに権利を主張しようとするんです。「予算はこれくらいないとできない」「人員はこれぐらいないとできない」…。そんな贅沢な権利は、本来新規事業をはじめるにあたってはないはずなんですよ。
このような形で、両利きの経営もままならない経営層が、両利きのビジネスを管理職個人に求めている。その中で、様々な苦悩が生まれている、というのが最近よく立ち会う企業の課題ですね。
管理職にとってのWillは何か
―前回の取材のときにも、管理職の悩みについて話していただきましたが、また新しい悩みも生まれてきているんですね。
そうですね。そうした状況の中で、エンゲージメントを高めようと言われても、なかなか意識が向かないですよね。心に余裕がないなかで、人に意識が向けられるかと言うと、厳しいでしょう。
ただ、私が出会った管理職全員が人に意識が向いていないかというとそうではありません。仕事にも、人にも意識を向け、両面に取り組めている人も少なからずいます。そうした人は当たり前のように1on1の時間を大切にしていますし、部下の成長に懸命に取り組んでいます。ある管理職は、過去に他チームでローパフォーマーとのレッテルを貼られていた部下に対して、どうやったら活躍できるかを一生懸命考えていました。
―状況はよくわかりましたが、その上で管理職はどうすればいいんでしょうか?
そこでまた主体性の話に戻ってくるのですが、何よりも自分自身が何をしたいのか、Willをしっかり持つことです。
一言で管理職と言っても、既存事業向きなのか新規事業向きなのか、チームマネジメント向きなのか、職人気質なのか…など様々な特性があるはずです。それを、多くの日本の組織運営においては、いっしょくたに「管理職」とまとめられてしまうのが、これまで話してきた問題の原因でもあります。

ですから、経営側は管理職の中でも、それぞれがどのようなWillを持ち、特性や強みがあるのかを知り、それに合わせた組織体制を構築していく必要があります。一方で、管理職も「部長になれたらよし」ではなく、そのポジションに就くことで何をしたいかを明確に持つ必要があります。そうでないと、ただ会社の言うことをだけを聞いて、四苦八苦するだけの管理職になってしまいますよ。
もっと踏み込んで言うと、多くの企業で「部長」がボトルネックになっているのをよく見ます。若い課長が、エンゲージメントなどに着目して今の時代にマッチした組織マネジメントに取り組もうとしても、会社から課された成果目標だけしか頭にない部長が、そうした動きを止めてしまうことが多いんです。なんなら、部長がプレイヤーになって、課長の仕事まで奪ってしまうケースも多い。
部長までなってしまうと、会社もなかなかメスを入れませんから。よかれと思って過去の組織マネジメント手法で、組織を運営しようとしているんです。部長クラスが、新しい時代に通用する組織マネジメント手法を体験できていないのが多くの企業の現状です。これはとても大きな組織マネジメント課題です。エグゼクティブ・コーチングなどを用いた、部長クラスの組織マネジメントに関するリスキル(学び直し)が早急に必要だと思います。
人事は管理職全員と面談し、少なくていいから仲間を見つける
―会社としても、どういう人を管理職にすればいいのかを改めて考え直す必要があるのかもしれませんね。管理職試験を行っている企業も多いかと思いますが、そういったアセスメントの必要性についてはどう考えていますか?
単刀直入に言うと、そういった試験、アセスメントの類はなくなっていくと私は考えています。そうした制度を取り入れている企業は、果たしてちゃんと機能しているでしょうか。一定の能力がないと管理職になれない、という考えはわかりますが、それを一律の試験で判定するのはどうでしょう。結局は受験競争みたいになって、点数を取ることが上手な人だけがキャリアアップしていくようになるのではないかと危惧しています。
仕事は結局実務ができないと意味がありません。試験をする時間と労力があるなら、幹部候補をシャドーイングなど経営層の下につかせて、実務現場を体験させた方がよっぽどいいと思います。実際の経営の現場に立ち会い、修羅場も経験しながら成長を促していく。その中で、適正も見えてくるでしょうし、本当に自分は経営をやりたいのかどうかというWillも明確になってくるはずです。
―なるほど。では、人事部は、管理職とどう連携を取ればいいでしょうか? 組織づくりにおいて、管理職の協力は欠かせませんが、先ほどの話のように人に意識が向いている人が少ない中で、孤立している人事も多くいます。
可能であれば、管理職全員と面談してください。第三者的な立場で、管理職のWillを聞き、特性を見ながら、組織や人への意識が高い人を見つけるのです。そうした人たちは、仕事だけでなく、部下の成長やチーム内の人間関係、コミュニケーションの課題…などなど組織に関する悩みを何かしら抱えているはずです。
まずは、そうした悩みを一緒に解決してあげて、いいチームづくりをサポートしていくこと。最初は、数が少ないと思いますが、少しずつ、そうした人に意識を向けている管理職を見つけて、彼・彼女たちの取り組みを社内広報などで組全体へ組織マネジメントの好事例として周知していく。時間はかかるでしょうが、少しずつそうやって味方を増やしていくのが、正攻法でしょう。
管理職自身も、上司には相談できない悩みを抱えている人が多いのが実態です。残念なことに組織階層上の1on1は十分に機能していないことが多いようです。先日もある会社の管理職たちに個別インタビューを実施し、上司とは異なる対話機会の必要性を求める声を多くいただきました。第三者的に人事スタッフと対話する機会を通じて、管理職自らが自身の課題認識を整理したり、Willを再確認する機会をつくることも、現在の組織が健全性を高めるためには効果的であると実感しています。
研修から研究へ。仲間と一緒に考えていく
―人事部は管理職研修を担うことも多いと思いますが、どうすれば効果が出るのか悩む方も多いと思います。
最近、私は管理職研修の場面で、「研修」ではなく、“研究”という言葉を使うようにしています。これだけ環境が激変している中で、これまでの研修のような「正解を教える」スタンスは難しい。ですから、「研究なんだ」という意識を持って、管理職たちがみんなで課題に対してどう対応をしていくか、職場での試行錯誤とグループトークを繰り返していくスタイルをオススメしています。
例えば「チームマネジメント」についてテーマがあったとして、最初はのらりくらり話をする管理職もいるでしょう。でも3回、4回の職場実践と振り返りのグループトークを続けていくと、自分で考えないと発言もできませんから、だんだん態度も変わってきますし、レポートの内容も変化してきます。1回きりの研修ではなく、グループトークを通じて考えを深めていく「職場マネジメント研究」のスタイルをぜひ模索してみてください。

―どれくらいの頻度で研修を行えばいいかも悩みどころかと思いますが…。
1カ月に一度程度を推奨していますが、難しい場合は、「研究と捉える」とはまた別に、「研修は仲間を見つける場」として捉えるといいと思います。先ほど管理職全員と面談して仲間を見つけていくという話をしましたが、研修を通じてでも人に対して意欲を持った管理職を見つけられるはずです。繰り返しますが、そうした人は組織内では非常にマイノリティです。社内に埋もれていて、見つけるのも大変です。
ですから、そういった貴重な仲間を見つける場として、研修を活用し、ぜひ繋がりを作って一緒に活動を行ってみてください。人事や経営企画の皆さんも、激変する環境の中でもWillをもつ管理職たちとの出会いによって勇気をもらえるはずです。人事が一般的に持つ「広くあまねく」の見方を外して、「思いのある管理職と個別に深く繋がる」ことへチャレンジすることを強くお勧めします。Willをもつ管理職を応援することで、主体的に組織変革する文化を広げる強力なドライバーになってくれます。
―ありがとうございます。管理職が置かれている状況、そして人事部はその中でどういう意識を持って管理職と連携を取っていけばいいのか、とても多くのヒントをいただけました。
管理職が置かれている状況も、様々な面で過渡期を迎えています。人事の方もいろいろと苦労していると思いますが、今が変化していく大切なタイミングでもありますから、ぜひがんばってください。まだまだお話したいことはたくさんあるので、またイベントや記事などを通して、一緒に考えていきましょう!






