学びデザイン荒木博行氏に聞く、“主体性”が令和のビジネスパーソンに必要な理由

学びデザイン荒木博行氏に聞く、“主体性”が令和のビジネスパーソンに必要な理由

荒木 博行 氏
荒木 博行 氏
株式会社学びデザイン 代表取締役社長/株式会社フライヤー アドバイザー兼エバンジェリスト/武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所 客員研究員/武蔵野大学 客員教員/株式会社絵本ナビ 社外監査役/株式会社NOKIOO スクラ事業アドバイザー

「会社のメンバーに主体性がない」…ここ数年、組織づくりの現場においてこうした声が度々あがってくるようになりました。「指示待ち人間になっている」「アイデアや意見が出てこない」「活気のない職場」…など、主体性に関わる課題に悩む人が増えてきているのです。なぜ、昨今になって“主体性”が注目を浴びるようになってきたのでしょうか。

この疑問を、株式会社学びデザイン代表で組織づくりに関する著書も多数手掛ける、荒木博行さんにぶつけてみました。主体性に関わる発言も多い荒木さんは、令和時代のビジネスパーソンにどのようなアドバイスを送るのでしょうか?

会社も個人も「何者か」を語る必要がある時代

―多くのビジネスパーソンを悩ませる“主体性”について今日は荒木さんにいろいろと伺いたいと思います。実は、編集部やWevoxチームに荒木さんファンがたくさんいまして…。著書やVoicy、Podcast(超相対性理論)などを通じていつも勉強しています。そんな荒木さんに、ぜひ主体性についてお聞きしたいと打診しました。

ありがとうございます。主体性は確かに、現代のビジネスパーソンにとってはすごく大切なテーマだと思います。悩まれている方が多い、というのも想像がつきますね。

―さっそくですが、最初に伺いたいのが、「主体性がある人」とはどういう人なのか?ということです。ハッキリと「こういう人です」と答えられる人は少ないのかな、と思うのですが、荒木さんはどう答えるでしょうか?

そうですね。最初に結論から言ってしまうと、主体性がある人というのは「会社や組織とフラットに契約できる人」です。

―意外な答えです。どういうことでしょうか?

これを結論としたのには、いろいろな背景があるのですが、今注目を集めているパーパス経営の視点から話していきましょうか。パーパス経営とは、会社が「自分たちは何者であるか、なんのために存在するか」といったパーパス(目的)をしっかりと持ったうえで、ビジネスを行う考え方です。

2021年は経営のキーワードとして多くの関連書籍や記事が出たので、一度は言葉を目にした人は多いのではないでしょうか。このように、今は会社自体が「自分たちは何者なのか」をしっかり言わなければいけない時代になってきている、という大きな背景があります。

―何をしている会社なのか、ではなくて何のために存在している会社なのか、が大事だということですね。それが、個人の主体性とどう関わるのでしょう?

会社が何者であるかを明示するということは、個人も「自分は何者であるか」という考えを明確に持たなければいけない時代とも言えるんです。

「企業が何者であるか」という円があり、「個人が何者であるか」という円がある。この重なりが大きいと、両者はフラットで良好な関係で仕事ができる。この個人としての円をしっかり持つということが、主体性を持つということなのです。

ーなるほど。主体性がある=自分が何者かという考えを持っている。それがあれば、会社とフラットな契約、関係性が結べるのですね。

はい。これまでは、“入社する”ということは“会社の下に入る”というイメージが強かったですよね。これまでのマネジメントモデルが、トップダウンで成り立っていたので、会社との契約も明確に上下関係があったんです。こうしたマネジメントモデルにおいては、賢いリーダーが意思決定をすることで成果を出していきます。ただ、変化の激しいこの時代において、どれだけ賢いリーダーでも先を読むことはできません。

ですので、特定の1人に頼るのではなく、会社と個人がフラットな関係で、ボトムアップを交えながら様々な意思決定を行っていく必要があります。ここ最近、主体性の重要性が叫ばれているのは、こうした社会的な背景があるのです。

これまでは、主体性が評価されてこなかった

ー会社も個人も、「何者か」を語れるようにならなければいけない。そのためには、主体性が必要になってくる、ということですね。では、なぜ多くの組織で「主体性のなさ」が課題となってしまうのでしょうか。

端的に言ってしまえば、これまでビジネスの場において、主体性が求められてこなかったからです。つまり、これまでは「会社の道具」として有能かどうかが求められていた。「会社が求める条件を達成すれば一人前である」という考え方でマネジメントを行っていたので、個々に主体性があるかどうかはさほど評価されてこなかったのです。

ーなるほど。「仕事ができる」という意味合いの中に、主体性の有無は含まれていなかったのですね。

むしろ、主体性がないほうが会社としてはマネジメントしやすかったのです。そうしたトップダウン型の組織マネジメントの名残がいまだに存在し、「社員に主体性がない」と言われてしまう構造を作ってしまっているんです。にもかかわらず、会社は変わろうとせず、個人の主体性だけに目を向けてしまっているケースも多く、「主体性を持ちたくても持てない」という人も多いのではないかと思います。

―確かに、個人だけの課題として捉えてしまうと厳しいですよね。

会社が人間から主体性を奪って道具として扱い、“手段化”してしまう、というのは実際にありえる話なんですよ。そうして手段化された人間を描いたのが、村田沙耶香さんの小説「コンビニ人間」(文藝春秋)です。この小説では、主人公であるコンビニ勤務の女性が、マニュアルのある仕事から抜け出せない様子を描いています。多くは描かれていませんが、作中で、彼女を代替する存在として外国人労働者が出てきます。

―手段化された人間は、簡単に仕事を奪われてしまうかもしれない。

そうなんです。道具ということは、代替可能な存在でもあるんですよ。取って代わられる相手として、「コンビニ人間」では外国人労働者が描かれていましたし、今なら自動レジをはじめとしたAIも驚異となるでしょう。

もともとは、「コンビニ人間」の主人公の女性も、「とりあえず」という感覚でその仕事を始めました。しかし、一度マニュアルのある世界にハマってしまうと抜け出すのはなかなか大変なことでもあります。似たようなことは、コンビニという業態でなくても、多くの組織で起きていることではないでしょうか。

こうした罠から抜け出すために主体性が大切になってきますし、何よりその主体性という言葉は“人間”だけが持てるキーワードなはずなんです。

管理職はどんどん“板挟み”になった方がいい

―管理職層の中には、「主体性のある人ばかりになってしまったら、マネジメントが大変だし、組織が崩壊してしまいそう」という感覚を持っている人もいます。会社、個人の主体性の重要性はよく理解できましたが、中間にいる管理職の苦労も増すのではないか…という懸念についてはどう思いますか?

そうですね、管理職の人にとっては新しい悩みの種にはなるでしょう。ハッキリ言えば、短期的にはものすごく“めんどうな状況”になると思います。これまでは、「つべこべ言わずにやっといて」でよかったのに、それが通用しなくなりますから。

ただ、長期的には主体性のある個人が、高い意欲を持って活躍できる組織となることで、会社の成長に繋げることができます。めんどうな状況から、会社の成長へブレイクスルーさせられるかどうかが、これからの管理職に求められる役割のひとつになってくるでしょう。

―部下が主体性を持ち始めたら、どんどん経営側との板挟みになる管理職も増えそうです。

増えるでしょうね。ただ、実はそうした「板挟みの構造」って人が効果的に成長するんですよ。鈴木寛先生(東京大学教授、慶應義塾大学教授、社会創発塾塾長など)は、探究学習で効果があるのは“板挟み”構造だと言っていました。板挟みになって、上からの意見、下からの意見を聞くことによって初めて到達する思考の回転というのがあるのではないかと思います。

当然、空回りすることもあるでしょう。しかし、こうした経験を積み重ねていくことで、人は成長をしていくのだと思います。

だから、主体性を確立しようと思ったら、普段から歯切れの良いすっきりした話を求めてはならないのだと思います。あっちが立てばこっちが立たず、のような挟まれた環境の中で、自分の考えを導き出していく。普段からそんなことを意識していくと良いのだと思います。

主体性を持つと、仕事が楽しくなってくる

―一般社員の視点で考えると「主体性を持つことで、日常の業務に何かいいことあるの?」という疑問を持つ人もいると思います。この疑問にはどう答えますか?

シンプルに「仕事が楽しくなる」ってことだと思います。よく言われる「レンガ積みの職人」の話は、まさにそれですね。主体性がなく「レンガを積む」ことだけを考えている人と、「立派な教会の壁を作る」ためにレンガを積んでいる人で言えば、後者の方が仕事は楽しそうですよね。おそらく「教会だったら、こういう壁がいいんじゃないか」という創造性が働くと思いますし、その教会に集まる人のことを考えたら意欲も高まるでしょう。

―なるほど、主体性は仕事の楽しさにも繋がってくるんですね。

ただ、先ほどの話にもありましたが、会社が変わらないままだとそれはそれで悩みを抱えることになります。「余計なことを考えないで、とりあえずレンガ100個積んで」というマネジメントを会社なり、管理職がしていたら…。

―確かに、会社や管理職と「いい教会を作ろう」という目標を共有できていればいいですけど、そうでなかったら悩みますよね。「なんで理解されないんだ」とか、「このままでいいのか…」とかいろいろ考えてしまいそうです。

でも、そうした悩みは持っていたほうがいいと思うんですよね。そこで悩むことを放棄してしまうと、会社のために手段化された人間、つまり道具のような存在になってしまいますから。

“悩み”で感覚をマヒさせることなく、内省をし続ける

―「主体性を持つことの悩み」というのは、何か新しい悩みのような気もします。これまでのビジネスパーソンがあまり抱えてこなかった種類の悩みと言いますか…そういったものと向き合うことが大事だということですよね。

その通りですね。主体性を持とうとすると、悩みの種類が変わってくるんです。でも、そうやって悩んでいると、感覚をマヒさせることなく、新しい自分のキャリアであったり、自己成長にいきつくことができるんです。

―「悩みの種類を変えて、大いに悩んでいこう」はいいメッセージですね。主体性について、いろいろ伺いましたが、最後に聞きたいのが「どうやったら主体性って育まれるの?」ということです。主体性の大事さを理解したとしても、何から手をつけていいかわからない人も多いはずです。

ある程度は中長期的な視点を持って向き合うことは、大前提になると思います。すぐに、ポンッと出てくるものでもありませんからね。ただ、普段からできる行動として「内省」があげられます。内省する習慣を付けられるかどうかは、大きな分かれ道になります。むしろ、内省をし続けることしか、方法はないのかなとも思います。

―内省というと、例えばどのようなことを考えればいいのでしょう?

日常的に自分がなんとなくモヤモヤと違和感を感じているレベルのことでいいので、「なぜ自分はモヤモヤしているのだろう?」「何に疑問を感じているのだろう?」と自問自答していくのです。…なのですが、こうしたことを、1人で考えるのって結構難しいですよね。

主体性は1人でなく、関係性の中から育てればいい

―そうですね。なかなか壮大なテーマですし…。

そんなときに重要になってくるのが他者の存在です。同僚や上司、友達などとの対話の中から、自分とは何者なのかのヒントが出てくることは多々あります。そうしたことから気づきを得られるように、「感受性のアンテナ」を張るようにするんです。

私も若いときに、価値観が違う同僚と対話を行う中で、多くの気づきを得られました。彼とは違うキャリアを歩んでいますが、今でもよく連絡を取り合う仲です。「彼はこう考えているけど、自分はどうだろう?」といったことを考えていくと、「自分は何者か」といった主体性に繋がる考えを育めるんです。

―対話の中からのヒントを逃さないようにすることも大切ですね。

主体性と言うと1人で生み出さなきゃいけないと考えがちですが、周囲との関係性の中から育まれていくものでもあると思います。ただ、ずっとそういうことばかり考える必要もなくて、定期的に「何者か」を考える時期を作るといいと思います。その時期はアンテナをたくさん張って、たくさん考える。

私が書いた「藁を手に旅に出よう」(文藝春秋)の中でも、神戸大学の金井先生の考え方である「竹の節目のようにキャリアを考えていこう」という話を出しています。竹には節目がありますが、ああいう形で定期的に自分を見直す時期をつくる。そして、何者かが決まったらいったん突っ走ってみる。そうしたサイクルを繰り返すことで、竹のようにしなやかに強く、上に伸びていける。そうやって竹のように、自分のキャリアを作っていくことが、主体性を持つことに繋がるのだと思います。

―荒木さんの場合は、何年ぐらいの周期で「節目」を作っているのでしょう?

2~3年ぐらいでしょうか。今はちょうど節の時期かもしれませんね。というのも、つい先日、とある番組で自分の肩書きを「失敗の専門家」と紹介されたんですよ。『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(共に日経BP)といった本を出していることもあって、その番組スタッフの方からは失敗について詳しい人と認知されていたようなんです(笑)。もちろん違和感しかないわけですが。

ただ、その経験から「自分は何屋さんなんだろう?」という問いも生まれたんですよ。いろいろと幅広くやってきた中で自分の軸はどこにあるのか。その番組での違和感が自分のアンテナに引っかかって、考え直すきっかけを得ました。

―そうやって気づきを得ながら「内省」していけばいいんですね。すごくイメージがつきました。違和感があってもそれは新しい「問い」になる、と。

そうです。だから、他人から思ってもないこと、あるいは落ち込むようなことを言われても、「なんであの人はそう言ったんだろう」という「問い」に変換してみるといいと思います。人間なので、一時的には落ち込むとは思いますが、いい内省の材料をもらったと捉えられるといいですよね。「節目に来ているのでは?」と、少しでも前向きに考えられるようになるといいのかなと思います。

そうした日々を過ごしているうちに、主体性というものが育まれていくでしょうし、仕事の楽しさや会社の成長に繋がっていくはずです。

―内省することで、悩みが問いになり、その問いから主体性が育まれていくのですね。主体性が重要である背景から、管理職・一般社員視点での主体性、そして主体性を育むための“内省”と“悩むことの大切さ”など、示唆に富んだ話をしていただき大変勉強になりました。本日は貴重なお話をありがとうございました!

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