
B2優勝&B1昇格を目指し「周りのための見えない動き」を称賛できるチームに ――アルティーリ千葉・大塚キャプテンが実践するチームマネジメント

1987年生まれ。北海道出身。2010年に東海大学を卒業後、TGI・Dライズ、宮崎シャイニングサンズ、秋田ノーザンハピネッツ、サンロッカーズ渋谷、富山グラウジーズ、川崎ブレイブサンダースを経て、2021年よりアルティーリ千葉に所属。クラブ創設時よりレオ・ライオンズ選手と共同キャプテンを務めている。ポジションはシューティングガード。
男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)B2で戦うアルティーリ千葉。2020年に創設され、「最短でB1リーグに昇格し、5年以内にその頂点を目指す」という高い目標のもと2021-22シーズンよりB3リーグに参入し、見事1年でB2に昇格という結果を出しました。次なる目標としてB2優勝、B1昇格を掲げるクラブで創設時からキャプテンを務めるのが、大塚選手です。キャプテンとして、どのようなリーダーシップを意識し、チームメンバーとコミュニケーションをとっているのか。大塚選手の経験から、スポーツとビジネスに共通する「強いチーム」になるためのチームマネジメントを探ります。
キャプテンとして感じた、チームをまとめる難しさ
―大塚選手は、クラブ創設時からキャプテンを務め、2シーズン戦ってこられました。キャプテンを任されることに関しては、最初どのように受け止めましたか?
前所属の川崎ブレイブサンダース時代に、キャプテンではなかったですが、年齢が他メンバーより上だったこともあり、コーチとの間に入ってコミュニケーションを図る機会は多くありました。結果的にチームは一度優勝も経験して、リーダーシップに繋がる土台が自分にできていたので、正直なところ「余裕でまとめられるだろう」と思っていました。
でも、まったくそんなことはなくて。初年度は、自分の話がメンバーに響いている感覚や、メンバーがついてきている感覚がなく、ストレスを感じることもありましたね。自分が言っていることを、はたして理解してくれているのかどうか疑問に思う日々でした。

―若手からベテランまで、選手の年齢層が幅広く、外国籍選手もいて、ヘッドコーチも外国籍という多様性のある環境にいらっしゃいますが、苦労された要因は何だったと思われますか?
まず、それぞれの選手がアルティーリ千葉に入ってきた経緯が異なることが大きかったように思います。
例えば、僕はクラブの創設への思いやビジョンを早い段階で知っていて、長い期間、いろいろなことを考えた上でこのクラブに入ってきました。同じような流れで加入したメンバーも何人かいます。一方、若手の選手であとから加入が決まった選手の中には、「アルティーリ千葉のビジョンは何か?」を考えて選択したというより、オファーの中で「ここがいいかな」と選んだ選手もいると思います。
そうなると、それぞれのゴールがかなり違っていて、「最短で昇格しましょう」「B3で優勝しましょう」といった言葉を発しても、受け取る重さにかなりの違いが出てしまうんです。一つひとつのコミュニケーションの重さが異なっていたことで、伝わっているのか伝わっていないのかわからないと感じる状況になってしまったんじゃないかと思います。
そういった若手選手の底上げの部分でストレスを感じた面が多かったのが正直なところで、一方で言語の異なる外国籍選手やヘッドコーチとのすれ違いは感じなかったですね。ビジョンに共感をしていたからだと思います。
―川崎ブレイブサンダース時代には、どのようにチームに関わってこられたのですか?
31歳で加入して、その時点で、年齢が一番上だったんですね。キャプテンは長年所属している、代表も経験した選手がやっていたのですが、年上が入ってきたことで安心している姿を感じられました。そのキャプテンはかなり1人で抱えていて、誰にも相談できないような様子だったんです。その姿を見て、自分がオフコートの部分で何かできないかなと考え始めたのが、今のリーダーシップに繋がってくるところです。
関わり方としては、キャプテンという役職がなくても、コーチの発言に対してプラスアルファで1つ2つ考えた発言をみんなの前でしたり、メインの選手への声かけなどを意識していました。例えば、在籍が長いメインの選手に「君たちがリーダーシップをとってもっといろんな場面で声を出していかないと、チームの士気が上がらないよね」と声をかけたりして、コーチと在籍が長い選手との間に自分が入るような動きをしていましたね。それで、チームがいい感じに循環している手応えもありました。
そうした経験をもとに、アルティーリ千葉でキャプテンを任されたとき、みんなを集めてああしなさい、こうしなさいといったコミュニケーションはやらないようにしようと考えていました。みんな大人ですし、プロフェッショナルですからね。そうではなく、日常的な声かけを意識しています。特に若手の選手には、「今後このクラブのメインの選手になるんだから、必要と思ってもらえるようにやっていこう」ということを、少しずつ、自分なりにわかりやすく伝えたりはしていました。そうやって、選手の意欲を上げて目標に導くのがキャプテンの役割だと考えています。
プロとして、人として必要な姿勢をチームメイトに伝えていく
―昇格や優勝といった短期的な目標がある一方で、「世界中のファンを魅了するクラブを創る」という長期的なビジョンもアルティーリ千葉にはあります。それぞれのバランスをどのように考えていらっしゃいますか?
シュートを決めるために、シューティングの練習をするのは短期的な成果に繋がります。それだけでなく、コートに立ち、上で残っていられる選手になっていくには、コミュニケーションの部分にも視野を広げていくことが大事じゃないかと、よく若手選手に話していますね。
特に外国籍のヘッドコーチだと、自分が伝えたいことを理解してもらえなければ試合に出られません。例えば、試合時間が残り10秒という大事な場面のタイムアウトで、ヘッドコーチから英語で出される指示が理解できる選手じゃなければ、コートに立たせられない。
だから、「普段からヘッドコーチとコミュニケーションをとることも大事だよね」、「『調子どう?』といった会話もできないと、シリアスな状態になったときにお互いに言いたいことが伝わらないよね」といった話は、個々の選手の状態に応じて結構しています。

―かなり周りの選手に目を向けて、気を遣われていたことがお話から伝わってきます。他方で、大塚選手ご自身も、選手としての能力を上げたいという思いあると思います。そこはどのようにバランスをとられていますか?
正直なところ、今もバランスは見つけられていなくて、めちゃくちゃ苦労しています。コーチ陣からは「メンバーの成長に関してはコーチが考えるから、あまり考えすぎなくていいよ」とよく言われたりもするんです。ただ、自分にストレスがかかったとしても、この先うまいバランスを見つけていきたいと思っています。
―大塚選手ご自身は、多少ストレスがかかったとしても、他のメンバーを気にかけたり言葉をかけたりすることはやっていかなきゃと思っているのですか?
そうですね。アルティーリ千葉のキャプテンはこのくらいはやらなきゃという思いが、自分の中にありますね。このクラブのキャプテンになる重みや、クラブの雰囲気といったものは、初期のメンバーが作ったものが続いていくと思うので、自分の姿を一生懸命見せていきたいです。それで自分にストレスがかかったとしても、自分のパフォーマンスをしっかりと出すことができれば、自分の自信にもなるので。
―そういった、ご自身がいつかアルティーリ千葉を卒業するときも見据えたところまで考えるような、クラブに対する思いはどこから来ているんでしょうか?
オーナーやGMに恩を返していきたいという気持ちからです。2人が食事の機会を設けてくださることがよくあって、そこで本音で話してくださるんですよね。そういう機会は他のクラブではなかったですし、コートに立てない2人が、経済的にも時間的にもリソースを割いてくれていて、各地を回って選手を集めてくださったりもする。そのたびに、コートで返さなきゃいけないという気持ちがわき上がってきます。
―先ほど、「上で残っていく」という言葉が出てきましたが、「上」というのは、選手としての「上」ということなのか、人としての「上」ということなのか、どの意味でしょう か?
両方ありますね。キャプテンじゃなくても、自発的にチームを引っ張る選手になることは、プロバスケットボール選手としても、人としても必要なことだと僕自身は思っています。好きなバスケットボールでコミュニケーションを取れない人が、引退後に一般企業に入社したら、もっとコミュニケーションができなくなる可能性があります。そういう人は、会社からも必要とされないですよね。だから、人間的にも成長すべきだし、バスケットボール選手としても成長すべきだと思います。
僕もいろんな企業の社長さんとお話をさせてもらう機会が多いですが、仕事の内容に関係なく、ある程度上の立場にいる人のマインドには似ているところがあるんですよね。それを見てきたのもあって、コミュニケーション量が豊富であるとか、自分のことを伝えられるとか、人をひきつけるといったことができれば、引退して何をやってもうまくいくのかなと思っています。
周りのために動く人を称賛することで、チームの質が上がる
―アルティーリ千葉では、アンドレ・レマニスヘッドコーチが「UBUNTU(ウブントゥ※)」という言葉でチームのあり方をメッセージングされています。「私個人が成功するためにはあなたの成功が必要。あなたがいてこその私」という意味であるとヘッドコーチは説明されていますが、エンゲージメントの概念や考え方にも似ていると感じました。この言葉がチームに与えた影響や、この言葉があることでチームに起こった変化などがあれば教えてください。
※南アフリカ共和国を中心に、アフリカ南部で話されているズールー語の言葉
前提として、誰か1人がたくさん得点するよりも、試合ごとにヒーローが変わって、相手から難しい選択を迫られても勝てるようなチームになることを理想としています。この理想のもと、その日調子が良い選手をサポートして勝率をなるべく上げていったり、プレータイムが少なかったとしても、コートに入った選手が流れを変えられる状態をシーズン中にいくつか作ることができました。そうした試合ができたときは、ベンチも含めてすごく盛り上がります。そういうときに、アンドレがチームミーティングで「こういうのがUBUNTUだよね」と話してくれますね。

―UBUNTUという言葉があるのとないのとでは、チームプレーにも違いが出るものですか?
例えば、味方がシュートを打ちたいときに、スクリーンをしっかりかけることで相手の守備にズレを作って、味方のスペースを空けるといったプレーは、トップチームになればなるほどクオリティが上がってきます。つまり、トップチームはUBUNTUという言葉は使ってはいないけど、それと同じ状態は作っているということです。なので、トップレベルを目指すアルティーリ千葉においては、UBUNTUという言葉があることで強いチームが持つマインドの醸成に繋がっていると思います。過去に所属したチームでも、UBUNTUという言葉はなくても、味方をしっかり活かすことができているチームが良い成績を残せていました。
―会社もチームプレーなので、通ずるものがありますね。他方で、会社組織において、マネージャーがメンバーに対して「『周りのためにやる』ということを考えないといけないよね」という話をすると、「自己犠牲しろってことですか?」という反応をもらうケースも見受けられます。なかなか説明が難しいと感じますが、大塚選手はどのようにお考えですか?
バスケットでいうと、自己犠牲的なプレーを称える周りの人がいるから成り立つんですよね。自己犠牲をしっかりと評価して本人に伝えてあげることも含めて自己犠牲、みたいな考え方です。アシストなどボールがあるところでの動きはもちろん、ボールがないところでのスペースの空け方とか、カットしてディフェンスを引きつけるとか、そういったところを評価する風土が確立しているチームは強いと思います。それに、見ている人も応援したいと思ってくれるようになるはずです。
それから、「自分が犠牲になろうとすればするほど自分にチャンスが来るよ」といったことはアンドレも言っています。そうやって、チーム全体で自己犠牲が持つ意味を共有することも大切かと思います。
―UBUNTUに関して、キャプテンとしてご自身の姿を見せたり、言葉の伝え方を意識されたりもしていますか?
練習中でも試合中でも、例えば、他のメンバーがシュートを決められるように、自己犠牲的ないい動きをしている選手などには積極的に声をかけるようにしています。そうした声で意欲が上がり、維持できるというのは自分自身も経験しています。見えないところでの動きを「良かった」と言ってもらえることで「次またやろう」と思えるし、言ってもらえなければ「次はいいかな」となってしまいます。そういうメンバーが増えると、チームプレーが減り結果を出しづらくなります。キャプテンとして、評価する、称える側に回ることは意識していますね。
チームやキャリアをドライブする「ビジョン」の重要性
―また少し異なる観点から伺いたいのが、会社員だと長期間その会社にいるつもりで働くことが多いですが、バスケットボール選手の場合、年単位の契約期間というものがあります。選手の皆さんの感覚としては、「契約しているからこのチームに貢献する」という感じなのか、契約期間といったものを超えた形でチームに貢献したいという感覚もあったりするものなのでしょうか?
自分の経験で言うと、クラブの成長などは考えないで自分のことだけを考えて在籍していたチームもありました。ただ、今振り返ると、そういった気持ちだったときのクラブの共通点は、クラブ側のビジョンがあまり見えなかったり、ゴールやそこに向かうステップが明確でなかったりしたことです。アルティーリ千葉では、所属する前からビジョンなどを聞いていたことが大きかったと思いますね。
―自分の損得を超えて組織に貢献したいと思えるのは、ビジョンの存在が大きいということでしょうか?
それは1つあります。付け加えるなら、僕もキャリアの終盤に来ていて、残り何年になるかはわかりませんが、プレーヤーとしてバスケットボールをする中で誰かの記憶に残りたいということは、このクラブに入ってより思いました。10年後に誰かが僕を見かけたときに「あの選手、アルティーリ千葉ができたときに頑張った人だよね」と思い出してもらえるとうれしいですよね。

―なるほど。会社員の場合、定年が見えてきている人たちの中には、「あと5年どうやって頑張っていこうか...」と悩む人が見受けられたりもします。それから、意欲が低いまま残りの会社員生活をやりすごそうとするメンバーに、悩むマネージャーの声もよく聞きます。バスケットボール選手の場合はどうでしょうか?
ビジョンを持って引退に向かっている選手はなかなか少ないと思います。引退後を見据えた準備を何もしていない状態で所属先が決まらず引退するなど、自分でコントロールできない事情で辞めざるを得ないことも多いので、なかなかビジョンを持ちづらいのかなとは思います。
―もし隣にいる選手がそんな状態になっていたら、どんな声がけをしますか?
難しいですね。自分の意見を押し付けるのではなく、「自分はこういったビジョンを持って、こういうふうに終えていきたい」ということは、例として話すかなと思います。
僕もキャプテンとして、リーダーシップについての本をちょこちょこ読んだりしたんですが、押し付けるのはあまり効果がないんですよね。実際にやってみてもそうだと思ったし、自発的になるのが一番継続します。言い方に気をつけて声をかけて、相手の表情を見つつ、意欲が上がってきそうだなと思ったら、「一緒に頑張らないか、こういう感じで終わろうよ」といった声かけをします。
でも、バスケットボール選手という、来年終わるかもしれない人と、会社員で定年が決まっている人の意欲の上げ方はちょっと違うと思うので、僕の話が参考になるかどうかはわからないですけどね。
―いえいえ、すごく参考になりました。最後に、次シーズンの展望などをお聞かせいただけますか?
今日話したような、コミュニケーションの量や質を上げていきたいですね。浅い会話だけで1年間を過ごすと、シーズン終盤に必ず来る、チームが苦しくなる場面で「どうしたらいいんだろう?」となります。そうなると、「あれやってよ」「いや俺無理だよ」といったUBUNTUからはかけ離れた状態になってしまいます。
そうならないよう、普段から苦しい状況を打破できる行動や言動をとれるようにしていきたいですね。そうすることで、メンバーそれぞれが成長できて、いい結果に繋がると思います。チームも3年目で、言い訳ができないメンバーが揃っていますから、B2で優勝して、B1への昇格を目指していきます。








