【後編】チームの心理的安全性を高める鍵は?〜リーダーとメンバーそれぞれの立場でできること〜 【加藤雅則氏×Wevoxユーザー対話イベントレポート】
Leaders Voice

【後編】チームの心理的安全性を高める鍵は?〜リーダーとメンバーそれぞれの立場でできること〜 【加藤雅則氏×Wevoxユーザー対話イベントレポート】

加藤 雅則 氏
加藤 雅則 氏
株式会社アクション・デザイン 代表取締役

日本興業銀行、環境教育NPO、事業投資育成会社を経て現職。2000年~2007年まで、日本におけるコーチングの紹介と普及に取り組む。2000年以来、上場企業を中心とした人材開発・組織開発に従事する。経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とする。 「両利きの経営」の提唱者であるオライリー教授(スタンフォード大学ビジネススクール)の日本における共同研究者であり、オライリー教授が会長を務めるコンサルティング会社changelogic社(https://changelogic.com)の東京駐在も兼務する。大手企業を中心に、人材育成・組織開発・後継者育成に関するアドバイザーを多数務める。

昨今、注目度が高まる組織における“心理的安全性”。バズワードにもなっているこの考え方ですが、自分たちの組織やチームに根付かせるには何が必要なのでしょうか。このテーマをもとに、両利きの経営でおなじみの加藤雅則氏とWevoxユーザーが対話をしたイベント『全社員必見! チームに必要な心理的安全性とは~リスクをフォローしてくれるチームですか?~』をレポートします。

前編はこちらから!

強みだけでなく弱みも共有することで関係性は深まる

平野:ありがとうございました。では、2つ目の質問に進みます。

転職や異動してきた社員、新入社員の方たちとリモートワークが故に直接会えないケースをイメージした質問です。そういった状況からどう事業部として成果を出していけるのか、チームづくりの観点で心理的安全性に関連するところがあればとご質問しました。

加藤:チームディベロップメントというか、チームビルディングみたいな観点でこれを捉えるのであれば、「ようこそ我々のチームへ」というようなオンボーディングをしっかりやることですね。仲間として迎え入れることはすごく大事ですし、それぞれどういう接点を作るかという儀式でもあります。僕の例ですが、オライリー先生たちが作ったコンサル会社の東京駐在にこの3月から指名されまして、オンボーディングということで全拠点を繋いでみんなから「ウェルカム」をやってもらいました。

そこでは自分はもちろんのこと、メンバーも自己紹介してくれますし、強みや弱みについてなどを雑談するのに1時間半くらい費やしました。やはり人間集団にはセレモニーが大事だと個人的には思います。よくベンチャーの方たちは、オンボーディングなどを大事にされていますね。「誰をバスに乗せるか」というのはすごく大事な話ですから。

もう1つ、リーダーシップの観点から言いますと、僕の実務的な経験で、自分の弱いところや情けないところも含めて自己開示できるかどうかが大切ですね。自分はこういう痛い目にあって、実はこういう不得意なことや苦手があるんだ、といったことです。ただ苦手ばかりを言っても仕方ないので、自分はこういうことが得意ですしこの辺はぜひ貢献したいというストロングポイントも出せるといいですね。

業務や年齢にもよりますが、ストロングポイントだけでは、特に男性だとお互いにちょっと競争モードになってしまって「自分の方ができる」という感じになるときもあります。こういうモードを避けるためにも、弱さで繋がるという心理的距離が大切になってきます。思わず自然に防御してしまうかもしれませんが、あまり固くなる必要はありませんし、ガードを下げることは僕も意図的にやっています。僕の場合は商売なので本能的にやってしまいますが、なるべくガードを下げて祭り上げられないようにするという感じです。

自然にそういうことをやっている人たちもいます。もっともらしい言葉では「バルネラブルリーダーシップ」といい、バルネラブルは「弱い所」を意味します。自分の弱さをさらけ出すことによって、そこで共感を生み出してチームを束ねることができるんですね。ポジションが上がれば上がるほど自分の弱さを語れるようになりなさいということで、アメリカの企業などではトレーニングを積んだり、コーチングでテーマにすることもあります。ですから、リーダーシップの観点で言うと、上の人が最初に自分の弱さについて話してあげると、相手も「それなら自分もそのレベルまで話そうかな」と連鎖する可能性が出てくると思います。

強面のリーダーが作った「わたしの取扱説明書」

1つの具体的な例として、某メーカーにガツガツと生産技術をやっている親方みたいな人がいて、その人には「みんなが怖がって近寄ってこない」という悩みがありました。今後役員になるのにこのままだと浮いてしまうということで、個人セッションを10ヶ月ほど続けていました。その人が編み出した技の1つをあくまで笑いのネタとしてご紹介しますと、その人は自分の取扱説明書というのを作りまして、「こういうときに声をかけてください」「こういうときに声をかけられるとムスッとします」「こういうときは要注意です」といった内容を公開したんですね。部下にも少し手を入れてもらったりしてみんなで「〇〇さん取扱説明書」をTeamsで共有していました。ということで心理的な距離をどう詰めるかというお話をしているわけですが、何が効くか分からないので、やはり自分からあえて崩すようなことがリーダーシップの観点では大事ではないかと思います。

平野:取扱説明書って本当に素敵ですね。一個人としてもですし、そういった上司の方とかがいらっしゃると、もし私がそのメンバーだったらと思うと少し頑張ってリスクを取ってやってみようかという気にもなりますし、その心意気が信頼感に繋がると思いました。

加藤:50代・おじさん・ガリガリ・職人肌という、見るからに強面なんですが、みんなが近寄ってこないとなると、接点を持つには自分から崩すしかない。それを自身でやれるかは、すごく大事なポイントかと思います。

僕が尊敬している経営者に、空調メーカーのダイキン工業がありまして、カリスマ経営者の井上会長は御歳86歳ほどになられたと思いますが、井上会長が次の経営者の人たちに必ず言う言葉は「リーダーは3つの顔を持たなくてはいけない」ということです。「前面の理」前面には理屈の顔で、「背面の恐怖」恐怖心を持たせないと人間は怠ける、やりきらせるには恐怖心を持たせないといけない、もう1つは「側面の情」袖振り合うも多生の縁ですから、やはり側面の情が必要で、利の顔と恐怖の顔と情の顔と、この3つの顔を使い分けないとリーダーは務まらないと仰っているんですね。

例えば観音様は十一面観音とかになっていますが、そういう話とも繋がると思って僕自身もすごく影響を受けています。1つの顔やキャラクターだけでやるのはすごく難しいので、リーダーシップ的にはいくつかの顔をモードチェンジできるような、柔軟性を持つ必要があると感じます。僕は実際に役員や経営者の人にコーチングするときなどは、この辺りをよくテーマにしていますね。

平野:ありがとうございます。コメントが入っています。「取扱説明書作成にチーム構成員も参加することで、共同作業によるチーム員同士の心理安全性を高めることに繋がるのでしょうね」といただいています。

加藤:そのチームのあのリーダーがやったら他のメンバーも真似する感じで、「じゃあ今度は〇〇君でやろう」というようなゲーム感覚でやってみるのもいいですよね。ここを助けてほしいと言えるのが一番強いチームだと思います。早稲田の村瀬先生は海兵隊の研究を行っていますが、海兵隊では「cover for me」とお互いがカバーする状況をいかに作るかということが研究対象となっています。ヘルプと言えてカバーし合える関係をどう作るかというのはチームビルディングの肝中の肝です。ですから、リーダーから「むしろみんなで助けてほしい」とか、「こういうことが必要で教えてほしい」と自分から崩すのがリーダーシップ的には大事だと思います。

いきなり「How」から入るのはリスクがある

平野:ありがとうございます。では3つ目の質問に移りたいと思います。

こういった色々な方がいる職場の話も悩みとしていただくことが多いです。派遣社員さんや時短の方など、色々なシチュエーションがあると思います。一概にみなさんが均一な状態で同じような方向性を向いて仕事している状態ではないときに、コミュニケーションや心理的安全性という背景から何かできることはないかということで、こちらの質問を取り上げました。

加藤:これについては、「僕は答えを知っているわけじゃないよ」ということが大前提だと最初にお伝えさせてください。例えばこういう質問を自分が直接受けたとき、どう立ち振る舞うかを今振り返りながら聞いていたのですが、「どうすればいいと思いますか」と聞かれたときに「こうするといいと思います」と答えるのは、危険だと思います。

なぜなら、「こうしたらいい」ではいきなり「How」にいってしまからです。「How」の前に踏みとどまって「ちょっと待て、これは何が問題なのか」と一度ステップバックして「What」。もっというと「What」の前には「Why」、つまりなぜなのかが大事なポイントだと、セッションをやっていてすごく感じます。ビジネス本には「これをやればこうなる」というようなものが本当に数多あって、「1on1がいい」とか「2on2で組織が変わる」などと書かれていると「いや本当かよ」「変わるときもあるが変わるとは限らない」と僕なんかは思います。「対話が必要」と言ってやたら対話をやりますが、「もう対話なんていいよ」ということがいろんな所で起きているような気がしますし、そういう相談も多いです。

そういう観点でこれ見たときに、僕が少し引っ掛かっているのは「エンゲージメントを求めるのは無理があると思いますが」という部分で、これは数ある中の1つの前提ではないかと思っています。「いやいや派遣社員さんだろうがなんだろうが、エンゲージメントがあってもいい」という立場もありますよね。「少なくともこの職場に来てもらっているときには時間の差はあれど、気持ちよく楽しくやりがいをもって働いてほしい」と思ってもいいと思います。

この組織では派遣社員さんが多い中で、その人たちの影響力が大きいわけですよね。「それは何なのか、何が起きているのか」と考えたときに「派遣社員の人がどういう心情でいるのか」と、また一方で「どういう形で受け入れているのか」というようなことをインタビューする必要があるでしょう。また、一体全体ここの職場では何が起きているのかという仮説を立てる必要があると思います。それが本当かどうかをすり合わせてそれから「How」にいってみてはいかがでしょうか。当事者の方に伺ってみないと分かりませんが、「派遣社員の人たちが元気を出して働くには何が必要か」という課題立てが必要なのかもしれません。こういうことは本当によくあるんですよ。要するに前提があるんですよね。「本当に問題なのか」と言われると、みなさんはどうでしょうか。

私たちは全員何かしらの「前提」の中にいる

平野:チャットのコメントには、「思い込みやとらわれにいつの間にかはまっていることがありますよね」とあります。まさに前提を自分で作っていると、私も感じました。

加藤:それがいい悪いとか駄目ということではなくて「We are in the box」、つまり「我々は箱の中に入っている」という考え方なんですね。問題が起きているときには必ずある前提の中にいるわけで、その前提を疑うには対話が必要なんです。僕は20何年対話をやってきた中で、最初の方は「対話だ」なんて言っても「お前は馬鹿か」と言われました。「会社で対話なんかやらなくていい」と。いよいよ対話が必要な時代になったのは僕にとって隔世の感があります。

何を対話するかもすごく大事で、何に注目しているのか、それからその注目しているものに対してどう解釈している・理解しているかを考えなくてはいけません。ここを考えていないとお互いの意見がずれてしまいます。だから「We are in the box」なんです。

お互いのずれを確認するために、お互いの判断をいい悪いは別にして保留し、みんながこの職場で何に注目しているか、どういう所に不安を感じているのか、それをどう理解・解釈しているのか、そのときにどう感じているかに注目します。その感情を生み出しているのが前提、つまり思い込みやとらわれなんですよね。ですから、支援者として関わる場合にはそこにどういう感情エネルギーがあるのかを見て、その感情エネルギーはどういう前提から生まれてきているのかを見極めることが重要です。それから、その職場で今どういうことが起きているのか、それはどういう前提に基づいているのかなどを丁寧に解きほぐしていくと、意外と突破口は些細なことだったりします。

例えばある工場で、事故もあるしみんな不満たらたらな状態だったときに耳にしたのは、「経営者が自分たちのことを大事にしてくれていない」という声でした。そこで、工場長とつるんで新しい喫煙所や休憩部屋を作り、最新のクーラーを導入してみたら、エンゲージメントスコアが一発で上がりました。みんな「新しい工場長は僕らのことを見てくれている」「僕らのことを信頼してくれて大事にしている」という納得感が生まれたことにより、ガラッと動いたんですね。

ありきたりの打ち手というか、ビジネス書に書いてあることをやっても外すリスクの方が高いと思うんです。ですからそこは丁寧に、対話する必要がありますね。「こういう前提がある」とか「こういうことに引っ掛かっている」とか「こうあるべきだ」とか言っているけれど、「本当にそうなのか」をやるのが本来の対話の役割で、不平不満のガス抜きだけだと対話は続きません。不平不満を出す対話をやってもいいのですが、その不平不満はどこから来ているかを捉えて、それに対してチームのリーダー層は何らかのアクションを取らないといけません。そうしないと対話をとっても「またあれか。時間の無駄だ」とか「あれをやっても何も変わらない」とますます信頼度が下がってしまいます。対話をやるならそこまで見越してやらないと。2〜3回対話をやって終わってしまうケースはすごく多いです。

エンゲージメントは「上げる」ではなく「上がる」もの

平野:コメントが来ています。「弊社もエンゲージメント活動を実質今年から始めて今は組織の一割も活動していない状況で、今季4月から来年3月は多くの部署に活動の輪を広げたいと思っていますが、日々多忙のなかで取り組みに消極的な部署も多くあります。そのような部署にまで活動するように働きかけて結果的に不満しか残らない状態になるよりも、積極的にやってくれる部署に手厚く支援を行い、そこから横展開する方が結果的にいいでしょうか」といただいております。

加藤:これについては、いろんなアプローチがあってこれだけしかないということではないのですが、直感的にすごくいいなと思います。アトラエのみなさんにもよく言っていますが、エンゲージメントは結果だからと結果を上げようとしても駄目で、その核になるものを上げないと上がりません。エンゲージメントは上げるものではなくて上がるものだろうと僕は思っています。

「上げよう」という他動詞で考えないで「何があると上がるのか」という問いを立てた方が自然ではないかと思います。そういう意味でいうと、全社でやるというやり方もあります。例えばトップが交代するとか、一気呵成にどんと仕掛けるというアプローチもあります。ただそうでないのであれば、アップルやグーグルの事例を言われても困りますよね。それよりも自社事例で「あそこの部署がいいな、ああいう風になりたいな」というアプローチの方が広がりやすいです。そういう意味では、やってくれる方を支援して「だったらうちでもやってよ」とか、部長さん同士でそれをやっていると「あの部長がやっているなら俺もやらないと役員になれないな」と思う部長さんも出てきたりとかするので、僕はこうしたアプローチは好きですね。

平野:他の方からもご質問をいただいているので読み上げます。「質問2にも関連しますが、下の者から見てリーダーが心理的安全性を確保していない場合どのように対処すべきなのでしょうか。下の者から上の方に対話を求めるべきでしょうか」

加藤:僕はやれるならやられたらいいと思うのですが、その上司がどういうキャラの人かにもよりますよね。「お前は俺にものを言うか」という感じの人であれば色々と考えなければいけませんし、作戦が必要ですが、基本的にはフィードバックをよしとする文化を作っていく必要があると思います。「駄目だ」ではなく「何があれば次にいけるのか」という合意形成をしたいわけですから、リーダーの人には、フィードバックを求めることを強く推したいです。リーダーというのは、フィードバックを意識的にもらわない限りはもらえませんから。その一方で、部下の立場から「みんなでフィードバックさせてもらいたいのですが、いかがですか」という機会づくりをするのがいいと思います。上の人も忙しくて、全部は見られないというのが正直なところでしょうしね。

さっきの話ではないですが「何をどう見るか」というすり合わせの場は、高速回転でPDCAが回っているからこそ、意図的に設けた方がいいと思います。ですからリーダーの人はぜひフィードバックをもらい、部下の人たちはボトムアップをするのがいいですし、そういう機会を定期的に設けるのはチームのために必要ですね。

前提を共有しあうミーティングも効果大

平野:ありがとうございます。感想もいただいいているので読ませていただきます。「今度チーム内の振り返りを実施します。多忙のため3回リスケというだけでもチーム全体の士気が下がっている印象が自分の中にあったのですが、それは自分が勝手に作っていた前提だと実感しました。フラットな気持ちで臨みたいと思います」素敵なコメントをありがとうございます。

加藤:僕は、組織開発の方とトレーニングをするときには「自分はこういう前提を持っているんです」と自分から言ってもらう練習をよくやっています。例えばチームでミーティングがあるなら、「私実はこういう前提を持っていたんですがどうですか」と投げかけてみることをお勧めしますね。ポジティブでもネガティブでもいいので、お互いの前提を共有する。そうやって前提をすり合わせていくんです。

心理的安全性はそういう土台の下に生まれますから。組織の課題に対して、どういう角度で入るかなんです。いろんな課題や入口があり得るので、僕は面白いところを狙って入られるといいと思います。それこそがリーダーシップですよね。

平野:まさに素敵なリーダーシップの話でした。弱さというか、自分がどういう前提を持っているかをシェアするのはすごく怖いのではないかと思います。

加藤:チームで自分の違和感を共有する時間を持つのも1つの手で、僕はすごくやりますね。そうすると結果的に前提の話にいきやすいです。誰かを批判しているわけではなくて、自分はこういう違和感があると言える場を作ることが、最終的には心理的安全性だと思います。心理的安全性というのは定義から言えば「何か言ったときに罰せられるのではないか」ということなので、「こういったことをやっても怒られない、罰せられないんだ」と思う場をどう作るかという話なんですよね。心理的な安全と心理的柔軟性の話は少し混乱して日本では伝わっているのですが、要は実際に罰せられないことを見せて事例を積み上げたらいいですし、一番いいのはリーダー自らが見せることですね。そういう意味では違和感を共有することはやりやすいですし、私の薬箱の中にある道具の1つですね。

両利きの経営における評価体制のあり方とは?

平野:貴重な薬をシェアしていただきましたが、そろそろお時間が迫ってきました。最後にもう1人だけご質問いただければと思いますが、いかがでしょうか。

質問者:前半に仰っていた両利きの経営のお話がありましたが、新しく探索して組織の中でもやっていこうという試みをするときに、それを上手く回している会社というのはどういう評価をされているのでしょうか。どうしても会社的に目標管理というものがあって、既存でやっていかなくてはいけない評価軸と、今までチャレンジしたことがない領域のエンゲージメントをやろうとしたときに、どう評価していいか分からないという観点がありそうです。その辺りを上手く評価している例などがあればお聞きしたいです。

加藤:ソニーさんなんかも二軸経営と明確に打ち出されていますよね。経営の軸が明確に違っているので、その評価する軸も全く違うという話になります。AGCでも当然評価軸は違うのですが、彼らの場合はバンドをかなり広げてお給与の評価体系を変えるなどの工夫もされているので、評価するものが違うんです。既存事業は公立の世界ですが、探索事業は打率・確率の世界なので、何をよしとするかも全然違うじゃないですか。だから評価体系を変えるんですね。

コングルエンスモデルの中でも、ストラクチャが入っている仕組みの部分は評価なんです。組織を成り立たせている4つの要素のアラインメントを取らないと、組織は力を発揮できないというのは基本理論です。その中の1つのお話をされていると思うのですが、評価制度は絶対に変えなければ駄目です。新しい取り組みをされる所は評価制度を変えますし、極端にいえば給与体系、そして何をやってよしとするかというKGIやKPIも変えてますよね。そこまでやらないと、両利きの経営は実践できないと思います。

この辺りは概念的な話になってしまうのですが、組織を4つの観点から見て「どういう組織目標を持っている組織なのか」、「それをどういう人に担ってもらうといいのか」、「その人たちをどう評価したらいいのか」、「その人たちにどういう行動基準で動いてもらうのか」というこの4つの要素が矛盾なく噛み合っていないと組織が機能しないんです。そういう観点で、ご自分たちで組織もデザインされるといいと思います。

まず組織目標が違いますし、打率の世界ですから試行錯誤をどれだけできるか、どれだけ失敗できるかという組織をつくらないといけません。それにはどういう人材が必要か、どういう評価制度が必要か、どういうカルチャーが必要かをみなさんで合意した方がいいと思います。サッカーをやらなければいけないのに野球のルールでやろうとするから失敗するんです。そこの合意をちゃんと丁寧にしてないと、口だけの両利きになってしまいます。実際、多くのところでそうなってしまっているんですけどね。

心理的安全性を自分たちの言葉に置き換えてみる

平野:ありがとうございます。では最後に、全体を通して加藤さんからお願いします。

加藤:IESEの客員教授にしてもらったので、教授らしくしなくてはいけないかと思って今日は概念的になってしまいました(笑)。「何だかよく分からないことを言ってるな」と感じられた方もいるかもしれません。言いたいことは心理的安全性でも両利きの経営でもいいのですが、概念的な言葉ってパスワード的にガッと入ってきますよね。ただそれは、自分たちの言葉で解きほぐしたほうがいいような気がします。例えば今の僕なら、「心理的安全性というのはどういうことなのか」を「違和感を言葉にできる組織かどうか」という風に変換していると思います。

概念ではなくて自分たちの経験、事業、組織に基づいた言葉に変換する作業を2〜3回した方が、手のうちに入ってくる感じがするんです。こういったものを平仮名思考術という人もいますが、それぐらいまで引き寄せたほうが、打ち手がリアルに見えてくる気がします。概念を概念のままで扱わない。でないと、流行りに振り回されてしまいます。そういうコンセプトの人はいっぱいいますが、振り回されないのがいいのは僕自身の経験として肝に銘じているところなので、みなさんにも共有しました。今日も色々申し上げましたが、「では私の場合どうなんだ」とみなさんの中で変換作業をしてみてください。

資料を一括ダウンロードする