「ワーク・エンゲイジメント」で、誰もが活き活きと健康的に働ける社会にするには?

「ワーク・エンゲイジメント」で、誰もが活き活きと健康的に働ける社会にするには?

11月22日(金)、東京ミッドタウンタワーで【第24回慶應義塾大学 SFC Open Research Forum 2019「働き方改革とワーク・エンゲイジメント」セッション】が行なわれました。今の時代は働き方改革が進み、多様な人材の活用、柔軟な働き方が求められています。どうすれば働く人々が健康で活き活きと働けるか、「ワーク・エンゲイジメント」をキーワードに研究者、省庁職員、大企業やベンチャー企業の社員など、様々な領域の実践者でトークセッションを行ないました。働き方の最前線を知れる、トークセッションのレポートを4回に分けてお届けします!

働き方改革とも密接に関わる「ワーク・エンゲイジメント」

働き方改革が進む中で、一人ひとりが健康でありながら活き活きと働くための職場づくりが企業に求められています。では、どんなことを我々はすればいいのか、研究はどこまで進んでいるのか、といったことをこのセッションでは考えていきたいと思います。

働き方改革の全体像としては、「働く方々が、個々の事情に応じて多用で柔軟な働き方を自分で『選択』できるようにするための改革」と厚労省は発表しています。課題としては、生産年齢人口の減少、働く方々のニーズの多様化などが挙げられています。これらの課題の中で、ワーク・エンゲイジメントと特に深く関わるのが、生産年齢人口の減少です。

この課題を克服するための打ち手として、ワーク・エンゲイジメントを高めることで、一人ひとりの生産性の質を上げることが必要となってくるのです。 さらに、SDGsで定められた17の目標の中で、「3.すべての人に健康と福祉を」「8.働きがいも経済成長も」という2点において、ワーク・エンゲイジメントは深い関わりがあると私は考えています。

それではもう少し詳しく、ワーク・エンゲイジメントとはどのようなものか、研究の視点からお話ししていきたいと思います。 ワーク・エンゲイジメントという言葉を学術的に定義したのは、オランダのシャウフェリ先生です。シャウフェリ先生は、ワーク・エンゲイジメントを以下の3つの要素から構成されていると定義しました。

この中でも3が、コアになると言われています。もともとシャウフェリ先生は、バーンアウト、つまり燃え尽き症候群の予防をテーマに研究を行っていた方でした。その研究の中で、燃え尽きないだけでなくて、活き活きと働ける状態を作っていくことも大事なんじゃないかと気付きます。そこで、まだ研究が進んでいなかったワーク・エンゲイジメントの研究を進めることになりました。

あの島耕作も「ワーク・エンゲイジメント」を意識している

私がワーク・エンゲイジメントという言葉を知り、研究を始めたのは2005年にオランダに留学したことがきっかけでした。そこから、この言葉、考え方を広めようと発信し続けていたのですが、最近こんなことがありました。あの、有名な島耕作シリーズの最新作である「相談役・島耕作」の中のセリフで、主人公の島耕作が「ワーク・エンゲイジメント」という言葉を使ったんですね。

こういった形で、ワーク・エンゲイジメントという言葉は少しずつ市民権を得てきているのかな、と思います。 ワーク・エンゲイジメントと似た概念で、1つ注意しなければいけないものに「ワーカホリズム」があります。これは、仕事をしてはいるんだけれども、やらされ感が強かったり、不安を回避するためだったりと、不快な状態で働いている概念を指します。ぱっと見は仕事に集中しているので、ワーク・エンゲージメントと似たように思われるのですが、実は心理状態は大きく違います。

分かりやすく言えば、ワーク・エンゲージメントは「I want to work」、仕事をしたい状態。ワーカホリズムは「I have to work」、仕事をしなければいけない状態を指します。

私が過去にビジネスパーソンを2年間追った調査があります。この調査では、ワーク・エンゲイジメントが高い人は健康で、生活満足度が高く、仕事のパフォーマンスも上がる傾向にあることが分かっています。逆にワーカホリズムの人は、不健康となり、生活満足度は下がり、仕事のパフォーマンスは上がりも下がりもしない、という結果が出ています。

仕事に対してエネルギーを費やしている点では両者は似ているのですが、その理由の違いによって与える影響が大きく違ってくるのです。ですから、仕事に熱心に取り組んでいる人が「ワーク・エンゲイジメント=夢中型の努力」なのか、「ワーカホリズム=我慢型の努力」なのかを見極めることが重要になってきます。

世界中で加速する「ワーク・エンゲイジメント」の研究

それから、ワーク・エンゲージメントは人に伝染るんですね。活き活きと働くリーダーのエンゲージメントは部下に伝わります。だから、「部下が最近活き活きしてなくて…」と言っているリーダー層の人は、自分自身が活き活きと働けているか、をもう一度振り返ってみることも大切です。 経済にも影響があって、国単位で見た時にワーク・エンゲイジメントとGDPはプラスの相関関係があるという調査結果があります。

ワーク・エンゲイジメントが高いからGDPが高いのか、GDPが高いからワーク・エンゲージメントが高いのか、というところまではまだ分かっていませんが、関連性があるということですね。この調査(European Working Conditions Survey)はアジアでは韓国が対象になっています。次の調査は2020年なのですが、ぜひ日本も導入してほしいと思っています。

ワーク・エンゲイジメントと国民総生産(出典: Schaufeli, 2017; Work engagement in Europe: relations with national economy, governance, and culture, KU Leuven)

ワーク・エンゲイジメントを向上させるために開発された様々な手法

では、どのようにワーク・エンゲイジメントを向上させればいいのか。3年前から厚生労働省科学研究として、「労働生産性を向上しながら健康増進手法を開発する」というテーマで、研究を行ってきました。この研究結果をもとに、新しくマニュアルを開発しています。 マニュアルでは、エンゲイジメントの向上によって「健康」と「生産性」を改善していくことを目的としています。

「健康」においては、損なうことで多大な影響を与えるメンタルヘルスと腰痛に着目しました。そして、エンゲイジメントを向上させるため、「職場要因」に対しては「職場環境へのポジティブ介入、CREW」、個人要因には「ジョブ・クラフティング、思いやり行動」という介入手法を開発し、マニュアル化したのです。それぞれの手法を簡単に説明していきます。

まずは、職場環境へのポジティブな介入についてです。この手法においては、企業で義務化されているストレスチェックに着目しました。ストレスチェックを、「悪いところを見つけるのではなく、職場の強みを見つけるためのもの」と視点を広げることで、前向きに取り組めないか、と考えたのです。

具体的には、ストレスチェックの項目にエンゲイジメントや職場の強みに関する項目を付け加えて、結果を職場単位でフィードバックします。その後、働く人たちが集まり、参加型のワークショップで自分たちの強みを活かすためにどのようなことができるのかを考え、実行していくという手法です。

続いて、CREWについて。今、職場のいじめやハラスメントといった課題が注目されていますが、温かい職場があればこうした問題も起きづらいのではないか、と考えています。このCREWプログラムでは、お互いが尊重し合える関係性によって、温かい活き活きとした職場を作っていくことを目的としています。

次に、個人要因に焦点を当てた介入手法の1つ、ジョブ・クラフティングです。自分がやらなければいけない仕事はたくさんありますよね。その中で、自分が本当にやりたいと思っている仕事がどれくらいか、と聞かれたら「3割ぐらい」と答えるのではないでしょうか。それ以外の7割の仕事を嫌々するのではなく、いかにやりがいのある仕事に変えていくのか、という手法がジョブ・クラフティングになります。

そして、最後が思いやり行動です。一時期、成果主義が広まり、自分の仕事さえできていればいいという風潮が生まれてしまいました。これでは、職場全体のパフォーマンスが落ちてしまうという反省があります。お互いが助け合うことで、活き活きとした職場をつくり、仕事のパフォーマンスを上げていくための思いやり行動のマニュアルとなっています。 ワーク・エンゲイジメントという言葉をそのまま日本語に訳すのが難しかったのですが、今私は「主体的朗働」という言葉に置き換えています。

他の人にやらされている働き方ではなく、自律して、やりがいを持って働く。そのために、いろいろな支援の手法を考えていく必要がありますし、まだ乗り越えなければいけない課題もあります。今日登壇していただく3名の取り組みも参考にさせていただきながら、またいろいろと考え、実行していきたいと思っています。ありがとうございました。

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