「必要なのは人事制度の足し算ではなくサーベイでの客観視」30人の訪問看護師がチームになる2年間

「必要なのは人事制度の足し算ではなくサーベイでの客観視」30人の訪問看護師がチームになる2年間

天野 博 氏
天野 博 氏
代表取締役、みのり訪問看護ステーション所長

介護保険制度の開始以前に家族を病院で看取った経験から看護師の道へ。病院勤務を経て2015年2月にAGO株式会社を設立し、千葉県流山市に「みのり訪問看護ステーション」を開設。事業主 兼 事業所の管理者 兼 訪問看護師として約30名のスタッフとともに訪問看護事業にあたっている。

近年経営指標としても注目を集める「エンゲージメント」(いきいきと働いている心理状態)は、1つの決まった形があるわけではなく、10の組織があれば10通りの形が存在します。このシリーズでは、エンゲージメントサーベイ「Wevox」と共に組織づくりを行う企業のストーリーを通じて、様々なエンゲージメントの形を届けていきます。今回は、千葉県流山市にて訪問看護事業を展開するAGO株式会社のエンゲージメントストーリーをご紹介します。

2015年の開業以降、スタッフが増えるにつれて、「スタッフ全員の声を汲み上げること」と「働きやすい職場の実現」に課題を感じ、組織づくりについて考えるようになったという天野さん。Wevox導入によってスタッフや組織がどのように変化したか、お話を伺いました。

理不尽さ、不公平さがない組織に必要だったエンゲージメント

―まずは、取り組まれている訪問看護事業について教えていただけますか?

当社は、2015年に「ささえあえるつながりをつくる 大切な人がただいまと言えるように」という理念を掲げて訪問看護事業を始めました。

0歳から100歳を超える方まで、病気や障害と向き合いながら自宅で過ごす方が安心して生活できるようお手伝いしています。ご本人の対処能力を最大限伸ばし、我々看護師がいなくてもなんとかやっていける、でも何かあったときには看護師が対処するという体制の構築が目的です。

利用者さん宅に訪問する看護師は1名ですが、1対1で担当するのではなく、5〜6人ずつでチームを組んで、チームメンバーが育児などに伴う急な休みを取るときなどにフォローし合って利用者さんの看護にあたっています。また、利用者さんの状況を共有し、適切な介助・看護を検討する事例検討ミーティングや、現場で経験した辛い思いなどを共有し合うピアカウンセリングなどもチームで行っています。

―ありがとうございます。では、Wevoxはどのような経緯から導入されたのでしょうか? 課題に感じていらっしゃったことなども教えてください。

スタッフ数が15人を超えた2019年ごろから、僕が組織全体を把握しづらくなってきたことがきっかけです。全員とコミュニケーションするには時間が足りず、チームリーダーとのコミュニケーションが主になったことで、声の大きい人たちの意見だけを聞いてしまっているのではないかと感じるようになりました。

加えて、開設以来、働きやすい職場にするべく、短時間正社員、1時間単位での有休など、いろいろな制度をつくってきましたが、数十人規模の事業所であれもこれもと足し算のように制度をつくることが、金銭面でも制度を検討する時間の面でも大変になってきてしまって。

「働きやすさ」の追求の仕方はこれでいいんだろうか?と改めて考えたとき、自分が実現したいのは「働きやすさ」よりも、「理不尽さや不公平さがない組織」だと気づきました。そうして組織づくりについて考え、調べる中で出会ったのがWevoxでした。

―Wevoxのどんなところに魅力を感じられたのでしょうか?

まず、「みんなの声で組織を変えていこう」「サービス名は “we(私たち)”と “vox(声)”という言葉から名づけた」というコンセプトが、自分がつくりたい組織に合っているかもしれないと興味を持ったんです。

そして、決め手になったのはサーベイの手法です。パルスサーベイで、かつ、シンプルな質問に自分たちが決めた頻度で回答していくところが僕のやりたいことに合っていました。あとは、価格も魅力的でしたね。

―エンゲージメントという言葉には、なじみはありましたか?

ありました。どうすれば組織が良くなるか?という勉強をしていましたし、サービス業として、サービスプロフィットチェーンの考え方に基づいて「自分たちが満足していないと、利用者さんの満足にもつながらない」という考えで経営を行っていたので、なんとなくではありますが、エンゲージメントの考え方自体は知っていました。

1カ月サイクルで、サーベイ→振り返り→実践に取り組む

―実際に、Wevoxをどのように活用していらっしゃいますか?

試行錯誤を経て、

1.毎月1日〜10日にサーベイ

2.中旬にチームごとにサーベイをもとに振り返りをしてアクションを決めるワークショップ

3.月の後半にワークショップを踏まえたアクションの実践

4.そしてまた翌月の上旬にサーベイ、というサイクルに落ち着いています。

比較的正攻法な使い方かと思います。

―基本でもあり、とても効果的な取り組み方かと思います。この方法に至るまでに、どのような試行錯誤があったのでしょうか?

2019年5月の導入当初は、スタッフ全員に説明したうえで、チームリーダーをメインにサーベイとワークショップ、実践のサイクルを回そうとしました。ただ、リーダーの中で「それって意味あるの?」「今のままでもいいじゃん」などさまざまな意見が出て、サーベイは毎月やるもののワークショップができない期間が半年ほど続きました。

それで、僕自身が使い方をわかっていないからみんなをリードできないんだと気づき、やり方を変えました。

―どのように変えられたんですか?

「1チームでもいいから、僕と一緒にやれるチームはないですかね?」と声かけて、手を挙げてくれたチームに僕も入って「サーベイ→ワークショップ→実践」のサイクルを回して学ぶことを半年くらいかけてやりました。

で、次のステップに行こうとしたところに新型コロナウイルス感染症の流行が来て、またサーベイのみを続ける時期が続いて。その後、2020年夏ごろに会社としてコロナの対処方法が定まってきたので、もう一度ちゃんとサイクルを回すべく、全チームに月1回、1時間、業務としてワークショップの時間をとるように働きかけました。ただ、チームによって温度差があり、なかなか難しいなというのが当時の感覚でした。

―その後はどのような変化があったんでしょうか?

2020年11月から12月にかけて業務改善のためにトップダウンで業務支援システムを変更したのですが、新しいことを始めることへの警戒心があったようで、スコアがすごく下がったんです。それでみんなの仕事への意欲も下がってしまったんですけど、ワークショップは続けたかったので、「業務の一環としてやろう」ということを働きかけ続けました。

で、2021年に入って、スタッフから「KPT(※)の方法で意見を出し合えているけれど、スコアにつながらない」という声がたびたび挙がるようになっていたので、5・6月ごろから僕がファシリテーター役となって、スコアの見方を示したり、振り返りの際にポジティブなフィードバックを意図的に返したりするようにしました。このスタイルに今は落ち着いており、ここ最近はスコアも上がってきています。

※KPT…Keep(続けていきたいこと)、Problem(問題だと思うこと)、Try(挑戦したいこと)をそれぞれ出し合い、振り返りを行うフレームワーク。

―なかなか思うような形にできなかったり、スコアが落ちたりした時期があったんですね。

そうですね。ただ、ワークショップができない時期もサーベイだけは続けたことで、スタッフ同士のつながりや個々の仕事量など、把握したくても見えていなかった部分がスコアとして可視化されたので意味はありました。客観的指標としてスコアがあれば、組織の状態に波があっても「あのときはこういうことがあったからこのスコアだったんだな」と解釈できます。エンゲージゲージメントを可視化できたことはすごくよかったと思います。

チームを客観視することが、自走できる組織への第一歩

―先ほど、ファシリテーションを先導しているというお話がありましたが、具体的にどのような介入をされているのですか?

まず、スコアの見方として、スコアがどのように上下しているのかを見ることを伝えています。「『90点だからいい』『60点だからだめだ』といった見方もあるかもしれないけど、このチームにとって本当にそう言えるかはわからない。一方で『この項目のスコアが上がった/下がった』というのは、チームの状態を客観的に表しているものだから、その視点でちゃんと見ていこう」と働きかけています。

加えて、自分たちが大事にしたい項目はどれか?どの項目のスコアが上がっているとうれしいのか?ということを考えること、そして、先ほど話した視点でスコアを見たうえでKPTに入ろうということも伝えています。振り返りの中でスコアとの紐付けをするのが正攻法だと思いますが、みんなそれが苦手だったので、まずはスコアの上がり下がりや大事にしたい項目のスコアを見て、そのうえでKPTに入ることを促しています。

―天野さんのファシリテーションの成果はいかがでしたか?

例えば、スコアが相対的に低かったチームが1チームあり、話を聞いてみると「スコアを十分に見れていない、ワークショップも流れでなんとなくやってしまっている」とのことでした。そこで、「必ず自分たちで改善できるから、まずは大切にしたい項目に絞ってスコアをちゃんと見て、できることを探してやってみよう」と声をかけました。またワークショップの方法も我流になってきてしまっている状況でしたので、今一度、会社の理念やワークショップの方法を見直しました。

特に他のチームでもうまくいかなかった、「振り返りとスコアが結びついている実感がない」という課題について共有し、事前にスコアを見て、自分たちの大事にしたいスコアを共有してもらうようにしたんです。それを経て、KPTでいろいろな仮説を考えてもらうよう、チームの中に直接入ってファシリテートしたんです。すると、伝えたことを実践してくれるようになり、同僚からの支援も生まれ、スコアが改善していったことがありました。

―スコアの生かし方の理解が深まり、実践に至ったんですね。当初は「なんのためにやるのか?」という声も挙がっていたとのことですが、メンバーのみなさんの受け止め方や捉え方はどのように変化していきましたか?

一番変わったと思うのは、個々の視野が広がっていることです。「今までは自分のことだけを考えていたけれど、より全体のことを見ていかないといけないだと思った」といった声が挙がっていて、「自分と他の人がつながって組織ができている」ということまで意識できるようになっていることを感じます。

―それは、メンバーのみなさんの働きぶりにも変化として表れていますか?

会社が示している事業の目的や方針に沿って、個々人、そして組織が自走している状態になれていると思います。各自が自主的に助け合って物事を進めてくれていますし、互いに信頼し合って「みんながあれをやるなら私はこれをちゃんとやろう」といった考えで動いてくれています。実際、僕が指示を出すことはほとんどなく、現場でも一切指揮をとっていません。

―訪問看護の中でのチーム感や助け合いは、どういう場面で出るものなんでしょうか?

まずは技術面での助け合いです。臨床判断と言って、僕らは現場で常に利用者さんの状態に応じて対処方法を判断していますが、それには「気づく→(医学や看護の知識に基づいて)解釈する→解釈に基づいて反応する(=対処する)→振り返る」という4つのプロセスがあります。ただ、臨床判断の経験が浅いスタッフや、経験は長くても訪問看護が初めてだったり組織が変わったりしたスタッフは臨床判断の力を十分に発揮できないことがあるので、熟達しているスタッフが助言したりします。その部分での助け合いがまず1つあります。

あとは、育児などにより急に休まないといけなくなったスタッフのフォローや、現場で経験したつらい思いなどを話し合うピアカウンセリングなども助け合いの一つですね。実際、僕らのスコアで一番高いのは「同僚からの支援」です。このスコアは、サーベイ全体のスコアが谷の時期もずっと高かったです。

―臨床判断のサイクル自体が、Wevoxのスコアを見るサイクルに似ていますね。

そうなんです。僕らが使ってる業務支援システムもWevoxにそっくりなんです。利用者さんの状態を評価する際は、まずは今の状態について3項目15点満点で点数をつけ、その後、看護師が介入した後にスコアがどう動いたのかを見て課題などを判断します。Wevoxと似てるなと思いますね。僕らが相手にしているのは人の健康ですけど、Wevoxは組織の健康状態を見る指標になっていると感じます。

―お話をうかがっていると、もともと助け合いはあったけれど、Wevoxをきっかけに、さらにチームでの対話ができるようになったという変化が起こっているように感じました。

強みが“見える化”された、という感覚が近いですね。Wevoxを導入するまでは、「同僚からの支援が強いよね」みたいに言語化されたことがなかったんですよ。それが見える化したので、スコアさまさまですね。

エンゲージメントは、ミッションを果たすために頼りになる指標

―2年間、Wevoxを使ってきて、エンゲージメントの価値をどのように感じていらっしゃいますか?

まず、前提として、エンゲージメントは会社のミッションを果たすために頼りになる指標の1つであって、エンゲージメントを高めることが第一目的ではないということを、自分も間違えないように意識しています。会社には果たすべきミッションがあり、そのミッションを果たすためにみんなが集まっていて、ミッションを果たすために頼りにしているのがエンゲージメントと考えています。

その前提のもとで言うと、エンゲージメントは、自発的に助け合う組織をつくってくれる大事なものだと感じています。個人と仕事とのつながりや、個人と組織とのつながりの太さと言えるもので、細ければ簡単に切れてしまう一方で、太ければ「そっちであれやっとくならこっちでこれやっとくよ」みたいな自発性が生まれるんです。また、「黙っていてもあの人ならこれを仕上げてくれるよね」とか「この人ならこういうふうに動いてくれるよね」といった信頼感のある組織をつくってくれるものでもある。エンゲージメントが高いチームはこういった助け合いが自然にできて、うまくいくほうに勝手に動くように思います。

そして、それを自力でモニタリングするのはすごく大変なので、Wevoxというシステムでできるのはすごく助かるし、これからもやっていきたいと思っています。

―最後に、これからの組織運営やチーム作りをどのように行なっていきたいとお考えですか?今後の展望をお聞かせください。

これからも、ミッションや理念にしたがって事業に取り組んでいきますが、その過程で、事業の規模が大きくなったり、業務のオペレーションが大きく変わったりすることがあると思います。そういった変化や波においても、Wevoxのスコアが組織の状態を客観的に表してくれるので、いいときも悪いときも、みんなでスコアを共有して、「じゃあみんなでどうしていく?」と考え、実践することをやっていきたいなと思っています。そうしてみんなの声で組織をより良い方向に変えていきたいですね。

―正攻法でシンプルに、でも、コツコツと積み重ねていらっしゃること、そして、確固たる理念のもとに活用されていることが素晴らしいなと思いました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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