
【イベントレポート】投資家コミュニケーションのプロが語る!~サステナビリティ追求企業の「ESG経営・人的資本開示」とは?~

1988年富士銀行(現みずほ銀行)入行。みずほコーポレート銀行・みずほ銀行を通じ、金利デリバティブや外国為替のトレーディング、市場企画、証券化商品のクレジット投資の立ち上げや、総合資金部ALM(Asset Liability Management)など、一貫して市場部門を牽引。その後 証券決済業務室長として、みずほ銀行決済営業部でカストディ業務を担当。2015年より みずほ投信投資顧問運用企画部長。2016年10月、アセットマネジメントOne発足時より責任投資部長を務め、2022年4月より現職。2022年より人的資本経営コンソーシアムの委員を務める。
2023年4月12日に開催された本イベントでは、アセットマネジメントOne株式会社エグゼクティブESGアドバイザー寺沢氏に登壇いただき、機関投資家としての視点からサステナビリティ追求企業の「ESG経営・人的資本開示」について数々の企業様と向き合う中での具体的な実践ポイントをお話しいただきました。
また、同社ご自身もサスティナビリティを追求され「従業員のエンゲージメント向上活動」に取り組んでいます。投資家としての視点、実際に自社のエンゲージメント活動に取り組む一企業としての視点、さらには「人的資本経営コンソーシアム」の発起人としての視点等、多面的な角度から「人的資本開示」に関するリアルな話をたっぷりとお伝えいただいたイベントの内容をテキスト版でお届けします。
アセットマネジメントOneがスチュワードシップ活動に力を入れる背景
川本:本日のテーマは「投資家コミュニケーションのプロが語るサステナビリティ追求企業のESG経営・人的資本開示とは?」です。
昨今非常に注目されております人的資本開示の文脈において、統合報告書等でWevoxのエンゲージメントスコアを開示いただくような企業様も増えてきています。Wevoxにご興味いただく企業様からも「人的資本開示とは何なのか」といったご相談を非常によく受けます。プロの視点から人的資本開示においてのお話をいただければなということで今回、このような会を設けさせていただきました。それでは寺沢さん、よろしくお願いいたします。
寺沢:アセットマネジメントOne運用本部スチュワードシップ推進グループの寺沢です。まずは簡単に自己紹介をさせていただきます。私は昭和の最後の年に工学部を出て富士銀行に入社しました。当時は金利デリバティブが世の中で流行り始めた頃です。周りや私も興味を持っていたので、デリバティブをやりたいと金融機関の門を叩きました。
アセットマネジメントOneができた2016年から、今の責任投資という部門でチームを任されており、議決権行使や企業との対話、スチュワードシップ活動を率いています。また、業界活動などもしていましたので、経産省などの各種委員などにもお声がかかり、そちらでの活動も行っています。ESGの分野と言うのは通常、株式のアナリストをずっとやっていた方が多いですが、私自身は皆さんと同じように企業の本部に近いところで新しいビジネスを立ち上げた経験や、財務に近いような分野の経験があるため、こういった部分が企業との対話などにも上手く生かされていると思っています。次に、アセットマネジメントOneのサスティナビリティへの取り組みを簡単に説明させていただきます。
アセットマネジメントOneは、2016年にこちらの3つの運用会社とみずほ信託の資産運用部門が合併して出来上がりました。

総AUMは60兆を超えておりまして、パッシブ運用の比率が非常に高いことが大きなポイントとなっています。全体の中では日本株が30%、約20兆円ちょっとです。そのため、かなりの量の議決権行使に影響しています。2016年当時は「コストも安いし、パッシブ運用はトピックスや日経平均についていけばいい」というような流れがあり、どんどん世界中でシェアが高まっていましたが、議決権行使や“投資機関と企業との建設的な対話を意味するエンゲージメント”はなかなか進められておらず、ちゃんと企業に向けて対話をするべきであるといったことが金融庁のフォローアップ会議などで議論されていました。
そうした真っ只中にアセットマネジメントOneを発足したということもあり、議決権行使やパッシブ運用の観点から、長期目線でのエンゲージメントを含めた新しいビジネスモデルでのスチュワードシップ活動を立ち上げたというのが当社設立の動きです。

何にフォーカスしてサステナビリティに取り組んでいくか?
投資先も含め、お客様、アセットオーナー様からもご好評を得て、これをアクティブ運用にも広げていくことを目的にしたものがESGインテグレーションです。2020年頃からはこれをサステナビリティという形に変えて、全社的な取り組みにしようと動き始めました。世間でいうパーパスに近いコーポレートメッセージというものですが、当社では「投資の力で未来をはぐくむ」というパーパスを掲げてサステナビリティへの取り組みを進めています。こういった取り組みの詳細につきましては、「アセットマネジメントOne サステナビリティレポート」でご検索いただくと出てまいりますので、そちらをご覧いただければと思います。

サステナビリティの取り組みを進めるにあたって、まずはグローバル社会や環境に関する課題に注目しました。縦がサステナビリティの観点、横が財務的な影響も含めたマテリアリティで、赤で囲まれているものは、定期的に、または情勢不安による財務的な影響など何か大きな出来事があった際に見直しています。また、経済への影響が大きく なった場合は位置付けを変えることもあります。

当社では、先ほどの図の右上にあった気候変動や生物多様性に加えて、人権と健康・ウェルビーイングの3つを大きく取り上げ、フォーカスエリアとして捉えています。これは企業との対話や投資に役立てられています。

パッシブ運用の観点からのエンゲージメント、そして企業との対話という意味のエンゲージメントも含めて、2021年度は600社ちょっとに対して約2000件の対話を行っており、1社と年3回ほどしっかりとお話しさせていただいている状況です。私の部署で手がけているパッシブ分野の場合、特に議決権に関するミーティングが多いので、エンゲージメントを行う件数・会社というのが大きくなっており、対話の中のお題もESGに関するものが約4分の3を占めています。アセットマネジメントOneができた当初の2016年頃ではこの割合は半分ぐらいだったので、徐々にESGに関する話題が増えていると感じています。

人的資本経営に必要な2つの取り組み
こちらは皆さんも見慣れたグラフだと思います。日本の1人当たりのGDPは欧米に比べて伸び感がいまいち。平均賃金も、他の国は伸びている一方で日本は30年間ほとんど横ばいです。人材投資においても、元々諸外国に比べて低かったのがさらに縮んでいます。日本の場合、人材投資を人件費として捉えていました。その後、90年代後半から2000年にかけてバブル崩壊後の不況が訪れ、円安になることもなく、ハンディキャップをつけられたまま円高の状態で不良債権処理などを続けることとなりました。
競争力のない中で、企業はどんどん人件費を切り詰めていってしまったというのが大きな ポイントです。人件費ではなく投資としてどう捉えていくかといったところが昨今の動きだと思います。イギリスやアメリカでのスタートは少し日本とは違っていて、企業の中でも人種差別、人権に対する課題といったベーシックなところから議論が始まりました。日本でも、有価証券報告書への記載をするというような動きが徐々に強まってきています。一橋大学の伊藤先生が2020年に人材版伊東レポートを公表したあたりから、今申し上げたような企業価値にどうつなげていくかという議論が進んできました。

これは伊藤先生が中心に立ち上げたコンソーシアムでも我々の方からお示しした図ですが、当社としては、人的資本には大きく分けて2つの必要な取り組みがあると思っています。最低限やっていただきたいのは、社会へのネガティブな影響を減らすことを目的とした、男女間の賃金の比率や研修など、企業存続の前提として必須の取り組み。そして、もう1つが企業価値をどう高めていくかについての取り組みです。そのためには、まず取り組みを考えていただいて、それをどう情報開示して具体的な戦略に落とし込んでいくかが重要となります。当社でも、企業との対話などを含めてこのような取り組みをお願いしています。

これは人材版伊藤レポートの一番鍵となる図ですが、企業価値を上げていくというところでいうと、特に大きいのは視点1の経営戦略と人材戦略の連動です。業態にもよると思いますが、今まで、戦略はすべて部門だけでやる、人の動きも各本部だけで動かさないというようなケースが多く、銀行やお役所のように、人事部は計画に関係なく人を動かす面でものすごく権力を持っているので、経営戦略と人材戦略がなかなか連動しませんでした。まずはここを連動させて、「人的資本への取り組みは経営戦略の重要な柱です」という目線で動いていただければと思います。

アセットマネジメントOneが取り組む社員のウェルビーイング
こちらは内閣府の可視化指針の大きなポイントとなる図です。リスクマネジメントの観点では、これを最低限やっていただきたいです。やらなければ企業の存続が危ぶまれる項目もありますし、企業価値向上の観点においてもこういった情報開示を進めることが必要です。じゃあアセットマネジメントOneはどうなの?というご質問をよく頂戴しますが、企業に取り組みをお願いしている限りは、我々も取り組みを進めていかなければいけません。完璧ではないですが、進めている姿をお見せしようとしているところで、社員のウェルビーイング、 働きがい向上の取り組みといったような形で様々な手を打っています。

開示の際に多くの企業さんが特に悩んでいるのが男女間賃金格差ではないでしょうか。当社の場合、社員合計が7割ですが、多くの女性社員が男性社員の賃金の7割を切っており、あまり良くない数字だと感じています。ただこれは過去からのストックなので、差が出ているのは当然です。男女間賃金格差への対応として、会社の打ち手とともに、まずはこの数値を出すことが開示だと考えています。しかし、ただ数字さえ出せばいいという話でもなく、どのように取り組むかも含めて出していただければと思います。当然当社も手は打っていますが、だからといって70という数字が一気に90に上がることなんて全然ありません。少しずつ上げていくための努力をしている様を見せることが大きなポイントだと思います。
先ほど企業との対話をエンゲージメントとしてお話ししましたが、人事におけるエンゲージメントについては、冒頭の川本さんのご説明にもありましたアトラエ社さんのWevoxがかなりのシェアを誇っています。当社でも導入していますし、社長含め、社内でもよくスコアを見ています。スコアを見て打ち手を考えていくこともできるわけですが、部署ごとにスコアが出るため、「君のグループはスコアが低いよね」なんて言われて、スコアを上げるのが目的化してしまうケースもあります。
取り組もうという姿勢はいいのですが、目的はスコアを上げることではなく、ウェルビーイングの実現です。何が今良くなかったのかという要因分析に使用する点では、次の打ち手を考えるのに活用するのが一番いい方法ではないかなと思います。あとは、人事部のアンケートって、なかなか本音で書けないですよね。あまり文句を言うと飛ばされるんじゃないかと心配する人もいるのではないでしょうか。この辺りは私も危惧していたのですが、アトラエさんの場合は毎月アンケートが配信されるのでその流れで書いたというケースがありました。継続的に運営されているので本音も拾いやすいですし、人事部というちょっと斜めから来るようなメールに答える形式なのがいいのではないかなと思っています。
これを我々がどういう風に使用しているかというと、先ほど川本さんがお見せしていた三井住友さんやエーザイさんの事例のように、それぞれの会社の過去からの推移には使えるのですが、「エーザイさんはいくらで三井住友さんいくらでした」という横比較に活用できるほどには定着してないかなと感じています。

「投資家」にも様々なスタンス、視点を持った人がいる
よく「投資家としてどう考えていますか」と聞かれることがありますが、投資家といっても様々です。ファンドマネージャーが投資判断をするジャッジメンタル、アルゴリズムで投資先を決めていくクオンツは、とにかく運用成績が指数を上回ることを目的としています。パッシブ運用は指数連動で、投資先がすでに決まっているので、あえて選ぶことはありません。人間が運用しているようなアクティブ運用の場合は様々なタイプがあり、投資信託も様々な種類があるのと同じです。
ジャッジメンタルはコストも高いですが、企業との対話や経営方針を見ることもあれば、短期でマーケットの材料を拾いながら売り買いを行うこともあります。クオンツは、1回ルール決めるとあとは淡々と運営していくので、そんなにコストは高くなく、システム売買のような形で運営していくこともあります。パッシブ運用のポイントは半永久的に保有することです。こんな会社に投資したくないと思っても、トピックスや日経平均に入っていると投資せざるを得ません。つまり、嫌でも付き合わなきゃいけないうえに、半永久的につきまとうわけです。今回のテーマは企業への情報開示ですが、皆さんから見たお客様と同じで、投資家も様々です。ですから、一括りにしないで、皆さんがどういう投資家に対して情報開示をする、またはアピールするか考える、いわゆるマーケティング的な発想が重要です。
企業戦略と人的資本の取り組みのストーリーをどうマッチさせるか
川本:プロフェッショナルかつリアルなお話をたくさんいただき、ありがとうございます。それでは質疑応答へと移ります。

寺沢:人的資本開示といっても、やらされ感があると、研修の時間がどうとか管理職の比率がどうとか、これ出して何になるの?と反発されるケースが少なくありません。企業戦略と、ストーリーとして立てた人的資本の取り組みがどうマッチしているかが大切ですね。例えば、DXは戦略の柱ですと言うのであれば、どうやって人材を確保して教育するのか、その部署のマネジメントをどう選んでいくのかが定まっていないと、それまでデジタルに関わる取り組みがあまり足りていなかった会社が急にできるのかと疑問です。そこで、「人の手当てはこのようにしています」「マネジメントはこうやって選んでいます」ときちんと定まっていれば、もしかしたらこの会社ならできそうだなと判断します。
当然ですが、我々も企業戦略についてご説明いただいたものに対して、本当にできそうだと思うことができれば確信が増します。開示という言葉を使うとやらされ感がありますが、そういった形で人的資本への取り組みをアピールしていただくというのが最大のポイントですし、そうすることで企業価値につながっていくと考えています。

寺沢:クオンツ運用や、ESG投資でスコアを出している人たちには、開示のボリュームというのが非常に重要になると思います。どういった投資家に何をアピールしたいか、ですね。ファンドマネージャーやアナリストが企業と対話する際には、企業戦略と人的資本の取り組みがどう結びついているかを説明する。男女間賃金格差があれば、これはどう埋めていくのかを説明する。なぜなら、これ埋めることによってウェルビーイングが達成されるからです。ウェルビーイングが必要ないと思っている投資家は恐らくいません。我々は、このあたりを補強するような材料をストーリー立てて、会社の戦略に実現可能性を高めるような形の対話を求めています。
ストーリーを重視するか、項目の網羅性を重視するかは投資家それぞれ

寺沢:KPIについても、先ほどお見せした図のジャッジメンタルのところにあるように、ストーリー立てた話が非常に重要になります。
クオンツは、大手の運用会社である海外の投資家も含めて、サステナブル投資方針が重視されている傾向があります。気候変動であればカーボンニュートラルの取り組みはどうなのか。例えば、石炭火力の比率をこの数字以上持っていたらダメだと判断されます。あとは、社外取締役が3割または5割いないとダメだとか、議決権行使ではなく、クライテリアと投資の条件を決めて、そこの範囲でしか投資をしないという方もいます。そういう方は仕方ないですが、ESG評価を行う投資家の場合、特にグローバルでは今後、ISSBなどで「こういうもの開示しろ」という流れになっていくと思います。
ですから、まずある程度その手のものを意識し、内閣府の可視化指針などを見て、なるべく多くの情報を出していく必要があります。ストーリーを重視する人と項目の網羅性を重視する人の両方が存在するので、どちらも相手にしたいという場合は、しんどいですけど両方やっていただくしかありません。
KPIについては、人的資本に関わるところで議決権行使の基準に入り始めているのは女性取締役の人数・比率だと思います。当社も今年度からプライム市場・全企業に対して、女性取締役を最低1人選任しないと必ず反対票を入れるというような基準を設けています。今の人的資本では、男女間賃金格差に反対票を投じると言った動きありますね。また、KPIとは別の話になりますが、過剰労働や、労働基準局が入り込んできたなどという人材絡み・働き方に関するような不祥事があった場合は、議決権行使をする際に反対票を投じることもあります。KPIからは少し逸れてしまいましたが、こういったところを意識されながらご開示いただくのがよろしいかなと思います。
どこにフォーカスをしてエンゲージメントスコアを開示するかを決める

寺沢:冒頭に川本さんがお見せしていた資料のエーザイさんと三井住友さんのページのような形で開示されていくものなのかなと思っています。Wevoxの質問項目って、各社ごとに考えたりすることもあるわけですよね?
川本:標準の項目やオリジナルの項目もありますし、各社で決めるものもありますね。
寺沢:なるほど。各社の中で従業員エンゲージメントのヒアリング項目なりスコアの一部なり、重視している部分を切り取って出していただくとか、役員や部長クラスなどの階層別に出すこともできるそうですが、これって実は闇雲に出せばいいという話ではないんですよね。「人事の取り組みとしてこの辺りに焦点を当てています」「今はスコアが低いですけど、このままではいけないので危機感を持っています」というような話と共に取り組むことが大切です。
もっとありがたいのは「数年前から取り組んでいるのでこの項目のスコアが上がってきました」というような全体の数字を出していただくことです。何となくぼやけたものよりも、上がってきている項目をピンポイントで、というのも1つのいい出し方になるのではと思っています。じゃないと「で、何なの?」と思われてしまいますし、響かなくなりますから。三井住友さんで言うと、メガバンクの中では最も挑戦する姿勢がある会社だと思いますが、元々、若い方を含めて強さを広げていくような出し方が非常に素晴らしいんだろうなという気がします。若手の動きに絞って出してみるのも、大きなポイントかもしれません。

寺沢:確かに中小企業の方々は、人的資本に取り掛かる以前に材料の価格を転換できないとか、様々な取り組みがある中で人的資本をやる余裕なんてないというのが本音だと思います。ですが義務化対象外であっても、取り組みは行っていただきたいですね。取り組みを行わないと、やはりどこかで行き詰まっていくと思いますから。社長1人で死ぬまで頑張ると言うのであれば別かもしれませんが、開示を行わない=アピールをしないということなので、ファイナンシャルな面で見向きされにくくなるかなと思います。先ほどの内閣府の開示指針全部の項目を出さなくてもいいんです。どこを重要視するかについては各社ごとに様々な課題がありますが、つまりは「どういった投資家にアピールするか」なので、ジャッジメンタルのアクティブ運用者であるとか、融資をしてくれる銀行に対して何を見せたいかを考えて開示をされればよろしいのかなと思います。
プロフェッショナルが集まる会社でのエンゲージメントのあり方

寺沢:私は人事部長でも当社の経営者でもないので何とも言えないところですが、運用会社であれば、例えばファンドマネージャーやアナリティクス、場合によっては法人年金、プロフェッショナル向けの営業担当者といったような各分野では、非常にプロフェッショナリティが求められていますよね。私も運用会社にいて感じたのは、日経の運用期間の間でも転職などが頻繁に行われているということです。
ですから、まずはプロフェッショナリティを持っている分野における転職マーケットはどうなのか、このぐらいのクラスの人にはどれくらいのお給料を払わなければいけないのかといった点をしっかりと捉えて、仕組みを作れば、エンゲージメントが醸成されていくのではと思います。実際当社はどうかというと、そんなにリテンション強いわけではなくて、人が出ていくことの方が多いのかもしれません。
当社は4つの会社が合併してできたので、元々の会社と比べて、風土や職場、労働条件が必ずしも皆さんに満足してもらえるものではありませんでした。これは事実ですが、プロフェッショナリティが高い分野でどう処遇していくか、あとはこの処遇に加えて活動しやすい場をどう作るかが重要ですね。
これは非常に難しいところで、投資哲学、ファンドマネージャーやアナリストにしても、最終的には何らかの情報を使って1人だけで運用するというケースはありません。プロフェッショナルが働きやすいような、連携を組めるようなチームをどう作っていくか、それをどう運用すればチームをマネージする仕組みを作れるか。プロフェッショナルを多く抱える部署は現場の経験を持って、そのプロフェッショナルが何にこだわりを持つのかを考えて、働きやすさを高めていくことがエンゲージメントだと思います。
ご質問いただいた方は全員が一匹狼だろうというようなご想像があったのかもしれませんが、これはお医者さんの外科手術のチームと同じです。ドラマでは時々1人で手術しているシーンもありますが、一般的にはチームでやりますから、そのプロフェッショナルが働きやすい環境を作るためにどうマネジメントしていくかが非常に重要です。人的資本の中でも私が一番注目しているのは、人材ポートフォリオ、特に鍵となる部署です。鍵となる部署のヘッドをどう選んでいくかですね。好き嫌いで人事を選ぶのではなく、「この部署のヘッドにはこういうことが必要だ」と、社内になければ外から取ってくるようなことも含めて定義付けをする必要があります。
長期的な視点での企業戦略も重要に

寺沢:先ほどのエンゲージメントスコアのところでも少しお話ししましたが、エンゲージメントスコアの話であれば、なぜこのスコアを開示することにしたのか、なぜここを重視しているのか。例えばデジタル人材といっても、スキルが強い人なのか、仕組みづくりを重視しているのか。このあたりを企業の戦略にしっかりと結びついた形でストーリー立てて説明していただくと、投資先を選んで投資するファンドマネージャーや、ファンドマネージャーの情報を伝えるアナリストに響くと思います。
川本:今日はプロフェッショナルの立場からお話お聞かせいただきまして誠にありがとうございました。最後に寺沢さんからメッセージをお願いいたします。
寺沢:経営戦略との一体化というようなお話をさせていただきましたが、全体の長期のサステナビリティに関する取り組みや、企業が長期的な目線での経営をどう作っていくかも、大きなポイントになるかなと思います。
こちらの価値共創については経産省のHPからご覧いただけます。会社の価値観や長期戦略、人的資本はこの中の3-6にありますが、これは実行戦略をどうサポートしていくかということの一部になります。
ですから、人的資本への取り組みが目的ではなく、会社全体の経営の中にどう位置付けていくかがポイントになるわけです。開示が義務化されたからといって、勉強しないで答案を書いたところで何のアピールにもなりません。まずはしっかりといろんな部署で、社長も含めて、会社としてどちらに向いていくのか、何が重要なのか、どういう事業を伸ばしてどういう事業を縮小させていくのかを定め、それに対する人の打ち手を決めるような取り組みを進めていただきたいと思います。人的資本にいきなり取り掛かるのではなく、基本に立ち返って考える。それによって当然、それを裏付けするような人的資本に関わる開示事項もアピールとして出てくるはずなので、ぜひともこういった取り組みを進めていただけることを強く期待しています。







