
【特別公開クラスレポート】早稲田大学准教授の村瀬俊朗氏が語る組織に変化を起こすリーダシップとは?

1997年の高校卒業後、渡米。2011年にUniversity of Central Floridaから産業組織心理学の博士号を取得。Northwestern UniversityおよびGeorgia Institute of Technologyで博士研究員(ポスドク)として就労後、シカゴにあるRoosevelt Universityで教鞭を執る。2017年9月から現職。専門はリーダーシップとチームワーク研究。2019年から英治出版オンラインで「チームで新しい発想は生まれるか」を連載中。『恐れのない組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、野津智子訳、2021年、英治出版)の解説者。
「不安定な時代」に突入している現代において、多くの組織が変化を求められています。組織を変化させるには、トップ層の強いリーダシップが必要となりますが、「何がいいリーダシップなのか」はとても難しい問いでもあります。リーダーシップ論の第一人者である早稲田大学准教授の村瀬俊朗さんは、組織変化に必要なリーダーシップについてどう考えているのか。Wevox主催で行われた特別公開クラス「組織変化を起こすために必要なリーダーシップとは?」のテキストレポートを通じて、これからの組織に必要なリーダー像を探ります。
「不安定」がキーとなるこれからの30年
森山:本日のテーマは「組織変化を起こす為に必要なリーダーシップとは?」です。村瀬さん、お願いします。
村瀬:はい、よろしくお願いします。リーダーシップは身近な概念・表現ですが、「リーダーシップとは何か」は改めて考えるとなかなか分かりにくいものです。その点が面白く複雑で、非常に不思議な部分でもあります。今日は、そんなリーダーシップの一部にはなりますが、スポットを当てて進めさせていただきたいと思います。
僕は、組織における人の行動や感情、認知や考えがなぜ特定の方向に進むのか、どのようにチームワークやコラボレーションを起こしていけばいいのか。そしてそのチームワークやリーダーシップをうまく回すためにどういったリーダーシップ行動が必要なのかといった研究をしています。
これを皆さんにお話しするのは釈迦に説法だと思うのですが、現在、そして次の2〜30年の世界は、非常に不安定だということがキーとなっています。7年ほど前にマッキンゼーが200ページほどのレポートを出して話していましたが、稼げる業界というのは非常に限られてきています。あるいは、稼げる業界が全く違う業界に移り、今まで稼げていた業界が稼げなくなり、各業界でもトップ3までしか稼げないなど、いろんなことが起こってきます。同じことをやっていても、なかなかうまく競争できないというのが主なメッセージでした。
5年ほど前の他のレポートを見てみても、国内の200人以上の経営層の方々に「今のビジネスモデルでどのくらいまで食ベていけますか?」と聞くと、大半は「3年ぐらいは大丈夫だ」と答えます。しかし、5年後ぐらいになると半分ぐらいの人達が、「抜本的なビジネスモデルの変更は必要であろう」と答えています。同じことをやっていても食べていけないので、改革、変化、成長が非常に重要になってくるわけです。
Amazonが失敗を恐れず挑戦し続ける理由
こういった時代にどう対応するかについては、すでに数年前にAmazonの創業者のジェフベゾス氏が「基本的にはいろいろと挑戦するしかない」と話しています。Amazonの製品、新規事業、サービスの基本となっているのは「開発」です。要するに新しいことを行っていく、全くなかった価値を創造していくことです。
いろんな事に挑戦して失敗していくことと、新しいものを創っていくことは表裏一体であり、“失敗しないことに挑戦している”わけではありません。彼の厳しい表現は多くの企業、特に大企業を想定していたのですが、多くの大企業は新しいことをやるとは言いつつも、その過程で失敗から逃れてしまう傾向にあります。ですから彼は、本当に挑戦しているのかという点に疑問を呈している内容を、シェアホルダーの文書の中で表現していました。
Amazonか、もしくはAmazonに関係のある方がいたら申し訳ないのですが、去年、とあるアメリカの新聞社が面白い記事を書いていました。Amazonは2021年度のAlexaの開発費に42億ドルを投じました。莫大な投資を単年度の研究費で使っているわけです。全米におけるAlexaの使用率は25%で、Primeユーザーは27%です。Amazonが目指すのは、Alexaが物質的世界とバーチャルな世界を結合させる重要なドアとして機能することです。ですが去年のアンケートで判明したのは、音楽を聴いたり、料理タイマーとして使用したり、照明の調整をしたりといった3つほどが主な用途だということでした。
これは決して「Alexaはだめだよね」という話ではありません。Amazonがやっているのは「新しいことをやる」ことなので、当然すぐにはうまくいかないですし、いろいろと挑戦する中で批判されたり揶揄されたりしたとしても、どう挑戦をしていくかが重要なのです。なんでAmazonはそういった挑戦ができるのか、疑問に思いますよね。実はAmazonにも、Amazon Pay PhraseやFire Phoneなど「終了したビジネス」があります。成功しているように見えても、屍となった膨大な製品やサービスのもとで、主たる製品サービスが脚光を浴びているんです。ですから、やはり挑戦をしているということが重要なわけです。
リーダーシップによって生まれる組織特有の行動
ここでリーダーシップの話に移っていきたいのですが、リーダーシップと言ってもいろいろとあるので、そのうちの重要な一部としてお話ししようと思います。リーダーというのは組織をまとめる役割を持ちます。「まとめる」とはどういうことかというと、多くの人達が企業という名のもとに集まったときに、何を目指すかを示すことです。そして、何かを目指す過程の中で「特定の行動」をとってほしいと伝えることも大切な役割です。
ですので、リーダーは単にゴールを描くだけではなく、烏合の衆にならずに人がまとまり、組織として一致団結して行動するための行動基準を作っていかなければいけません。なぜその行動基準をリーダーが作っていく必要があるのかというと、我々の行動は個人の特性、考え方なり経験なり性格なりといったものが反映された価値観や、特定の行動様式を持っています。ただ同時に、その集団の中で我々が行動するときは、単純に個人の思想思考に基づいて行動するわけではないですよね。
この集団の行動を我々がどう制御しているかというと、その組織特有の文化や、行動様式が“なんとなく”規定されています。我々はどういう行動が各状況・環境で妥当かどうかを判断しているかというと、自分の価値観に基づくところと、周りの人がどう行動しているかを見ながら微調整を加えているんです。こうして組織に集まった人々が行動することで、平均的な組織特有の行動が生まれていくわけです。

Amazonの挑戦の裏にある「組織カルチャー」
そうした行動を指針や行動基準によって統制するために、社内コミュニティや国で必要なのが「組織カルチャー」です。この組織カルチャーが、先ほど言った個人の行動の指針になります。どういう行動がその組織・職場で妥当かが、指針・行動基準からなんとなく感じることができ、それに沿って多くの人達が行動することによって「組織特有の行動」が生まれます。
ですから、Amazonが挑戦できているのは、どういう行動が妥当かという基準や指針がリーダーの言葉や、組織設計の至るところを通じて従業員が感じられるからです。それによって、「挑戦的な行動を取ることがこの組織においては妥当だ」と個人が考えられるようになるわけです。
個人がバラバラに行動しないということは組織として非常に重要です。組織特有の行動は、大きなエネルギーの塊になって、個人では達成できないことが可能となります。同時に、違反者、つまり似たような行動をとらない人というのは組織カルチャーが明確になればなるほど、可視化されます。例えば皆さんは、行列に横入りをしようとすると、冷たい目で見られるので「横入りはしない」という選択をしますよね。そういった圧力がかかることで全体的に似たような行動を取らせるというのが、そもそもの組織カルチャーの役割です。
ですので、リーダーがイニシアチブを取って、組織カルチャーというものを作っていくことが非常に重要なわけです。
一人ひとりの行動が組織のカルチャーをつくっていく

組織カルチャーといっても少し分かりにくいので、ここでは多様性に特化して話を進めます。例えば近年だと、多くの組織が「多様性を重視する」と言っていますよね。ただ、ポリシーあるいは社内メッセージとして「多様性を大事にしていきます」と社会に訴えたとしても、その実態がどうかは、従業員の行動が大きく影響します。
これは非常に重要な部分で、多様性の重視に限らず、文化というものが形成されるときには、特定の個人だけではなく職場レベル、部門レベルでその感覚を共有していくことが非常に重要になってきます。ですから、特定の個人に「これは重要だ」と思わせるのではなくて、そこにいる多くのメンバーにその価値観を共有させていくのがリーダーの役割となります。さまざまなデータを見てみると、多様性を重視する企業では、「多様性を重視する文化を持っている」「この組織には多様性がある」という項目にメンバーが高い点数を付けており、一部の人間ではなく、大勢のメンバーが多様性の重要度を理解していることが分かります。
一方で、気をつけないといけないこともあります。いくら人事が頑張って「多様性を重要視しましょう」と言っても、上司が多様性のトレーニングを「面倒くさいけどHRがうるさいからとりあえずみんな受けといて」と言ってしまっていると、メンバーは「これってポジショントークなんだな」と感じてしまいます。仏像を彫って誰が魂を入れるかというときにリーダーが魂を入れないような発言をしてしまうと、それはあくまでオブジェとしてあるだけで、本当の仏様としては機能しません。
変化を生み出すための空気感をどうつくるか
実際にDXの改革を成功させている企業と苦労している企業の差を見てみましょう。200社以上の企業を対象に、何パーセントぐらいのリーダーが以下の行動をとっているかについて、所属しているメンバーにアンケートを採ったものが以上のスライドです。

青ができている企業、赤ができていない企業を意味します。質問内容は、経営層やリーダー層が「変化が必要だ」とみんなに唱えているか、あとは「変わらなければいけない」という意識を高める発言や行動をしているかなどです。DXは大体3割以下の企業しか達成できないと言われています。つまり、100社の企業がトライしたら大体70社は失敗するというのが原理原則です。実際に、多くの経営者と話しても「3割も行けば良い方だ」と話しているのを耳にします。イノベーションや改革というもののデータを見てみても、3割以上を達成するということはないので、基本的には失敗が大前提になっているというわけです。
そんな中でリーダーは、「これをやらないといけないよね」と危機意識を煽るような行動をしたりしなければいけません。ですが、それを通して挑戦をどんどんしていこうという空気感を作っていける企業の場合は、右の括弧内に書いてあるように、できていない企業と3倍や倍近くの差がつきます。成功している企業群のリーダーはそうした意識付けをやっているので、やはりリーダーとしてこの空気感や文化をきちっと作っていくことは大切な役割なのです。
実際にとある企業からコメントをもらった話なのですが、凄く利益を出している企業だとしても、リーダー層が意義や大義を語ってくれないと、結局多くの従業員は「やれ」と命令されるだけで、「何のため?」がよく分からずに腹落ちしていないことが多くあります。また、「どうして必要なのか」と上司に聞いたとします。しかし、その上司も意味が分かっていない場合、その上司がさらに上に聞きに行く姿勢がなかったり、疑問を呈さなかったりして、腹落ちしないまま改革が進められる、なんてことが起きます。
「仕事の意味」を理解することがどれだけ重要か
変化しなければいけないと言いつつも、上の人達がその意義を説明してくれないと文化は作られず、ポジショントークとして捉えられてしまいます。意義を伝えることの重要性に関して、こういう研究があります。アメリカのエリート大学では、莫大な基金を運営して学費の一部を賄っていて、経済的立場の弱い学生の支援や、新しい研究の支援などを行っています。ハーバードでは1兆円以上の基金を運営しているので、エリートスクールになると、大学内に200人規模のコールセンターがあって、いろんな方々に電話をして支援を募っています。そこで行われた研究というのが、グループを2つ作って、グループ1には「お金をなるべく多く集めてほしい」と伝え、グループ2には「お金を集める意味」を伝えたものです。
グループ2に対しては、支援金によって経済的立場の弱い学生が大学で学び、これから社会に羽ばたけるといった説明をします。この説明により、「お金を集める」ことが仕事なのではなく、「お金を集めて他の学生や研究者を支援する」ことが仕事なんだと理解しました。これによりお金の集め方もちょっと変わってきて、例えば説得の際に、なるべくお金を多く集めるというだけではなく、「こういう人たちを助けて教育を提供できるのでお願いします」と言えるようになります。我々が行動について考えるときは、どうしてそれをやらないといけないかをきちっと理解していないと、行動に対する動機が最大限に高まりません。リーダーとしては、その意味をきちっと社内に作っていくことが非常に重要です。ポリシーを作るのも同じく重要ですし、メッセージをただ伝えるだけではなく、どうしてそれやらないといけないのかを腹落ちするまで訴えかけていくのがリーダーのやるべき行動です。
リーダーに求められる分かりやすくかつ一貫したメッセージ
「No rules rules」というNetflixの本で、日本語版も出版されているものがあります。この本は、メッセージを伝えるには「その発言自体に時間軸に対しての一貫性がある」ことが大切だとよく捉えた、いい物語の本なんですよね。例えばNetflixでは、CEOやトップマネージャーたちと一般の従業員たちとの間の情報格差をなるべく無くしていきたい、情報の透明性や情報の共有をNetflixにおける重要な文化にしたいと考えています。それが価値だと考え、徹底的に言動の一貫を持ち、大小様々であったとしても全ての情報をきちっと共有されているわけです。
例えば財務、戦略だけに留まらず、リークされると非常に困るような情報でさえもこれに含まれます。情報の透明性を持つということ=一貫して透明性をきちんと持つこと、メッセージを伝えるということで、従業員に共有して終わりではなく、従業員が分かるようにすると語られていました。また、非常に複雑な状況でも読み解けるような訓練も提供されているそうです。オープンな透明性のある行動を作っていくというメッセージを一貫して届け続けているんですね。
「人は変化を嫌がる」ことを理解し泥臭くアプローチ
このあたりは非常に重要で、ビジョンや力強いリーダーが凄く重要である一方で、改革や変化を起こすとき、人は「変化は嫌だな」とか「新しいことって何が起きるの?」と不安になりますよね。そうした不安に対して、ロジックやビジョンをリーダーが伝えましょう、というだけでは不十分だと考えています。リーダーシップの文献を見ていると、部下に寄り添い、部下がどういう風にすると成長できるかをいろいろ考えているリーダーの下にいる従業員は、パフォーマンスが高いという研究が非常に多くあります。
多くの人達は、業務を部下にどういう風にやらせるかというところをメインに考えてしまっているかと思います。ですが、変化があって不安が高いときにはただビジョンを語るのではなく矢面に立たないといけません。もしかしたらすごい批判があるかもしれないし、恥をかかされるかもしれない。だからみんなの前に立ちたくない、という気持ちもあるかもしれませんが、リーダーであればそれも責任の一環なので、批判や非難の前面に立って従業員に変化の必要性を訴えていく必要があります。また、いろんな変化があって多少の不具合が起きたとしても、それに真摯に応えていけるような寄り添う精神がリーダーには必要なのではないか、と僕は多くの文献を基に考えています。
僕の知っているある社長さんは数千人規模の企業を運営しています。この企業でも、うまくいっていないときは、改革が必要と伝えるだけではなく徹底的に説得をしていました。タウンホールミーティングに従業員を招待し、彼らの質問が終わるまで2時間だろうが3時間だろうが質問には全部答えていくという姿勢を見せていたんですね。その甲斐があり、最終的には「ここまでやってくれるならしょうがないな」という気持ちが形成されました。このような事例もあるので、泥臭い部分できちっと従業員に寄り添っていくというリーダーの精神や行動が非常に重要なのではと思います。
100、1000回いい続けてようやく相手に伝わる
森山:ありがとうございました。続いてQ&Aに移ります。まず、最初の質問です。自社では従業員のエンゲージメントを高めていく為の、活動を実施していますが、活動自体に反対をしたり活動を前向きに取り組まないメンバーがいます。 (エンゲージメントは自身にとっても良いものだと思うのですが...)上記のような方を巻き込む為に、リーダーシップの観点でどのよう な取り組みが必要なのでしょうか?

村瀬:こういったケースの場合、前提として、リーダーが活動の意義を十分に伝えられていないのではと考えられます。これまでの調査を振り返ると、リーダーとしては意義を語っているつもりでも、従業員の方からすると1回2回言われただけでは理解できないということが多くあるからです。
同じ言葉を100回、もっと言えば1000回ぐらい言ってやっと意義が伝わるので、多くの組織がそこまでいってない状況だというのが僕の持っている前提です。エンゲージメント活動をやる理由を実際にリーダーが語って、リーダー自身も活動に参加し、自分が模範的な行動を取った上で反対しているのか。そういう地道な取り組みをしないで「いや、いろいろやっている」と言っているのかでは雲泥の差がありますし、まず前者の「語って伝える」ことをきちっとやっておくのが重要です。リーダーがやっていると思う10倍ぐらいはやらないと、その意義が伝わらないというのは研究から分かっていますので、それがまず1点目かと思います。
2点目は、活動自体への反対に関して言えば、エンゲージメント活動に限ったものではなくて、我々は他者がやることになかなか賛成できないものなんです。みなさん忙しいですから、基本的には新しい活動なんて嫌なんです。それは当たり前なのですが、その反対している理由というのを聞かずに、「あの人はいつも反対する人だからしょうがないよね」とか「自分はこういうことを言っていいはずなのにあの人がダメ」と自分中心に考えてしまうケースもあります。反対をしている人に対して「こういう人ってあまりよくないよね」と言いがちですが、実際我々がその人たちのことをどのくらい知っているかというと、結構知らないんですよね。
その人たちがどうして反対をするのか、彼らがどういった事情で現在の彼らになっているかを示す重要な物事を3つ4つ言えるかというと、全然言えません。ですから、そもそも相手のことを理解しないで説得しようとしても難しいわけです。説得などいろいろなお願いの前には、前提となる人間同士の関係性を強化していく必要がありますし、「活動に反対しているから説得しましょう」では、自分自身のエゴを満たしたい気持ちが中心になってしまっています。
少し遠回りになってもいいので、その人たちが実際に何を考えているのか、どうしてエンゲージメントに反対なのか、どうするとエンゲージメントについて考えるのかをきちっと話していくのが重要だと思いますね。
森山:人事や推進者の方、もしくは経営者の方にとっては「プレゼンやメッセージを出したので分かってくれているはずだ」と思いがちです。実際は、人は数回ぐらいで意義や意味を理解するものではなくて、口酸っぱく100回言って初めて伝わるということですね。
村瀬:僕は妻と10年以上の付き合いがあるのですが、未だに彼女のことを理解してない部分があります(笑)。これだけ付き合ってもなかなか難しいのですから、他者の発言の意図を理解するのはかなり難しいですよね。
組織カルチャーと心理的安全性はセットで考えられる
森山:次のご質問です。村瀬さんはエイミー・C・エドモンドソンさんの「恐れのない組織」(英治出版)を翻訳されています。先ほどあった、リーダーが一貫してカルチャーや行動基準を作っていく話と、心理的安全があるからこそ衝突を恐れずにいろいろな意見が出せるといった考え方は相反することなのかとも感じます。最近だと「まずは心理的安全性を大事にしなさい」といったことを口酸っぱく言われますので、リーダーシップや組織カルチャーと心理的安全性はどういう関係性なのかを、ご説明いただきたいです。

村瀬:非常に広い枠では組織カルチャーと心理的安全性は仲間同士で、同じカテゴリーに入っています。どの点で入ってくるかというと、組織カルチャーは特定の価値観の共有で、心理的安全性もいろいろ言っても大丈夫だという感覚の共有になるわけです。「規範」というカテゴリーに代表されるように、組織の中でどういう行動が重要か、何に従わないといけないのかという感覚がきちっと共有されている状態という意味では、カルチャーも心理的安全性も同じということが1点目です。
先ほどの多様性の話のように、リーダーが人の意見を聞かずに「いろんな意見を言ってね」と言ったとしても、従業員の方は懐疑的にならざるを得ません。リーダーは、何を重要視するかを伝えて、それが本当のメッセージとして刺さるまで、言葉と行動で一貫して示していかないといけないんですね。また、心理的安全性はなんでも言えばいいというものではなくて、我々はどういう風に相手にメッセージや価値を届けるかということを考えて伝えないと、当然伝わらないわけです。
ですから、いろいろ言いたい放題となると、心理的安全性を作れたとしても維持が難しくなります。非常に重要な点としては、心理的安全性の雰囲気を作りながら、どういうことであれば誰にどういう風にどのタイミングで言えば良いかを職場の中で整理しておかないといけません。例えば、いろいろと職場の中で思うことがあったとして、それを誰にどういう風にどのタイミングでどういう媒体で伝えますかと皆さんに聞いてみると、十人十色の意見が出てきます。そうするとやはり混乱が生じるので、いろいろなパターンに対して「どう伝えるのがベストか」というルールを作っておくと、メンバー同士も個人で努力できます。また、この場合だったらこのルート、この場合だったらこういうタイミングというように考えられるようになるかと思います。
空気感を作るために必要な「リーダーの象徴的な行動」
森山:全く一貫性のないメッセージから出してオブジェになってしまっては意味がないですし、雰囲気や空気を作っていこうとしても何からやればいいのか悩んでいる方も多いかと思います。「何から始めればいいのか、どんな行動姿勢から今取り組むべきなのか」というご質問についてはいかがでしょうか?
村瀬:雰囲気をつくる際は、例えばトップリーダーなどになると、部長層でも自分の部が大きければ、タウンホールミーティングなどで全体にメッセージを届けなければいけないのがまず1点目です。2点目は、例えばオピニオンリーダー的な人や、役職に関わらずその職場で重要視されている人たちがいて、その影響力のある人たちがオセロのようにひっくり返らないと雰囲気がなかなか変わりづらいという部分です。
我々は何が妥当か、何が正しいかについて全体を見つつも、特定の人物が意見を変えているか特定の行動をしているのかを重要なヒントにします。ですので、まずはオピニオンリーダー的な人たちを説得して、自分のやりたいことや自分のつくりたい雰囲気に同意・協力してもらうことが非常に重要になります。
3点目は、行動です。メッセージというのは発言だけでは表面的な話にしかならないので、模範的な行動をリーダーが地道に示すことが重要になってきます。例えば先ほどのNetflixの話ですが、CEOは「隠したくない」という考えを持っていますよね。自分のオフィスが上層階の誰も入って来られないところにあると共有もしづらいですし、自分はトップで誰もアクセスできないところにいるという印象を持たれてしまうので、その印象操作もきちっと変えているんです。具体的には、自分自身のオフィスを持たないとか、従業員と共にオフィスで活動するなどという象徴的な行動をとっています。我々も振り返ってみると、象徴的な行動にはいろいろあると思うので、自分自身の模範的な行動をきちんと行っていくことが重要ですね。
リーダーは「人は変わる」と信じること
森山:次の質問へと移ります。「今日のお話で心理的安全性や人に寄り添うこと、リーダーとしてのスタンスはよく理解しました。一方で、性善説に基づくお話や、人は変わるだろうという前提でお話をされていますが、本当にそうですか?長年培ったご経験からのお話でしょうか」というご質問ですがいかがでしょうか。
村瀬:これも相反することを2点言うのですが、リーダーであれば「人は変わる」ことを信じないといけません。リーダーだけではなくて我々が信じることって、あるレベルである程度、現実に起こりやすいですから。これはピグマリオン効果と呼ばれます。
ピグマリオン効果とはギリシャ神話が基になっているもので、ある彫刻家が石で彫った女神に恋い焦がれ、ご飯も喉を通らなくなり餓死しそうなところに、それを哀れに思った女神が降りてきて彫刻を人間に変え、彫刻家の恋を成就させるというお話です。実際にいろんな実験でも同じことは起こります。
例えば、教員であれば「この学生たちは頭が良いですよ」と先に言われていると、それが一般的な学生だとしても、普通の質問やどうでもいい質問に対して「やはり賢い学生はいろいろと質問するんだな」と思うんですね。他にも、皆さんにねずみを渡して「このねずみを迷路に入れて何分で脱出できるかを時間で測ってください。このネズミは遺伝子操作されていて頭が良いので楽しいと思いますよ」と言うと、皆さんは「頑張れ」と応援するような傾向があって、その結果、ねずみもテンションが上がって早く脱出します。
実際に組織の中でも、上司が「部下がイノベーティブである」と信じている方がより支援する傾向や、支援された部下も自信がついてさらに実験する行動をとる傾向があります。そのおかげで、最終的にイノベーションが起こりやすくなる環境が出来上がっています。リーダーが信じないで懐疑的でいると、変化はなかなか起きないだろうということが1点目です。
2点目はまさにおっしゃるとおりで、いろんな方がいて、例えば心理的安全性を馬鹿にしたり揶揄したりする人もいます。その場合はリーダーが模範的な行動をとって「この職場ではこの価値観が重要なんだ」ということを言葉と行動で示していかないといけません。馬鹿にしたり揶揄したりする人がいたら、まずはリーダーが率先して「それは駄目だ」「こういう風に行動すべきだ」と言って、特定の個人をモニターしたり、改善を促したりするべきです。そういったことをリーダーがやらないと「結局リーダーは口だけなんだな」と思われてしまいますから。
リーダーへのアプローチはリーダーの状態を理解することから始まる
森山:続いて最後のご質問です。今日ご参加いただいた皆さんの中には、どうやってリーダーを巻き込んでいけばいいか悩まれている方が多数おられます。実態とリーダーのメッセージにギャップがあると余計にエンゲージメントが下がるというお話もありますが、どうやってもう1つ上の層のリーダーもしくは社長層経営層を巻き込んでいけるのでしょうかというご質問ですがいかがでしょうか。
村瀬:僕が集めたデータの中で分かるのは、リーダーは「なかなか部下がサポートしてくれてない」とか、「部下が遠慮して距離が開いてしまって自分のことを分かってくれない」とついつい考えてしまうことです。ですから、リーダー層を巻き込むには、巻き込もうと思っている相手が何を重要視してどういうことがやりたくて、余裕がどのくらいあるかを理解する必要があります。
まず1点目としては先ほど僕が言ったように、問題があった際に、巻き込むことがゴールに設定されている場合だと、いきなり巻き込もうと思っても相手のことをきちんと理解できていなければいけません。なので、いろんな活動をする前にリーダーがどこに困っているのか、どういう支援がほしいのかを確認していくことが重要です。基本的に我々の中では「ギブアンドテイク」がある一定のレベルで効果を発揮しているので、その貯金のようなものが貯まっていくと、忙しいリーダーでもやろうかと思う傾向にあったりもします。
2点目は、リーダーに対してメッセージを出すときは、その人が重要視しているものと絡めたり、彼らが理解できる言葉で説明することが必要です。そこを理解できていないと、なかなか価値を分かってはもらえません。
3点目は、リーダーは忙しいので基本的に余裕がありません。ですから、リーダーに余裕を与えたいのであればメンバーが率先して助けることが重要となってきます。余裕があるとリーダーの聞く姿勢も強くなるので、巻き込む前にリーダーをサポートしていくという前提が必要だと思いますね。
森山:どちらの立場にあっても、相互理解やギブアンドテイクの精神が大事だということですね。本日は様々な貴重なアドバイスをありがとうございました。皆さんも、ぜひリーダーシップについて、改めて考えるきっかけになれば幸いです。ご静聴ありがとうございました。







