
人事だって失敗してもいいんだよ――組織を変えるための試行錯誤のススメ

1991年、日本IBMを退職、ICT技術を活かしてベンチャーを創業。携帯テクノロジーが注目され、未上場で時価総額 100億円超。バブル崩壊で創業者追放の憂き目にあい、3億円の借金を背負う。裁判敗訴、競売、事業売却と、厳しい起業の荒波に揉まれる中で経営学を学び、現場で実践し、新しい視点で体系化し続ける。その後、組織論と起業論を専門として 学習院大学 客員教授に就任。幸せ視点の経営講義が Z世代に響き、立ち見のでる熱中教室に。精神年齢が学生に近く、学生から「とんとん」と呼ばれはじめる。今は ビジネス・ブレークスルー大学 教授として教鞭をふるう。2018年には、社会人向け講座「hintゼミ」を開講。卒業生は 600名を超え、三ヶ月毎に約70名の仲間が増えている。
働きがい、多様性、イノベーション、パーパス経営…今、企業には様々な観点から組織変革が求められています。人事をはじめ、組織開発を担う人の重要性は年々増すなか、同時に新たな悩みも抱えるようになってきました。「組織変革のために様々な取り組みを行うも、職場の管理職たちからは冷ややかな反応しかない…」「経営層からは、分かりやすい成果を求められている…」。
このように、「いい組織にしたい」という思いを抱きつつも、孤独感や挫折感を味わう人も多くいるのです。こうした人事の悩みには、どう対応していけばいいのか。組織変革の実践的メソッドを1冊にまとめた、著書「だから僕たちは、組織を変えていける」(クロスメディア・パブリッシング)が大ヒット中の斉藤徹さんに、そのヒントを伺いました。
「人事施策は全社一斉で、失敗も許されない」という先入観を捨てよう
―多くの企業が組織変革を進めていく中で、人事部の存在は年々重要になってきています。しかし、経営層あるいは職場からの理解が得られず、見えにくい成果の中で心が折れてしまう人もいます。
そうした現状は、とても理解できます。組織変革を行おうと、様々な制度を作ったり、ツールを導入したり、研修を行ったりする企業が増えていますが、組織全体が一気に変わるなんてことはまず起こらないんですよね。ただ、多くの人事は「全社一斉に動かす」という先入観で考えてしまうので、なかなか成果が出ないと焦ったり、周囲から反発を受けたりと苦しい状況になりやすいですよね。
―「全社一斉に動かす」という考え方になってしまうのはなぜなのでしょう?
それは、従来の統制型のマネジメントモデルに即して、人事施策を実行しようとしているからです。例えば労務管理に関する制度変更などは、経営や人事が意思決定をして、全社一斉に変えることがほとんどですよね。そうした統制型、トップダウン型で人事施策を遂行することが、これまでの人事の大きな役割でもあったのです。
しかし、組織づくりは一人ひとりが持っている「こう働きたい、こういう組織にしたい」という内発的動機づけがとても重要になってきます。統制型のマネジメントでよくある、インセンティブなどの外発的動機づけや過剰な管理を前提に組織づくりを行うのは、本質的ではありませんし、継続性もありません。必然的に人事の取り組み方も変えなければいけないのですが、どうしても統制型の発想で、組織づくりも行おうとしてしまうので、無理が生じてしまうんです。統制型のマネジメントモデルの問題点については、著書の「だから僕たちは、組織を変えていける」にも詳しく書いてあります。
―例えば1on1をスタートしましょうとなったときに、いきなり全社導入をして、やらないとペナルティがある、あるいはやればインセンティブがある…みたいなやり方だとうまくいかないということですよね。
そうです。さらに、人事は失敗を恐れる傾向にあります。労務管理に関しては、確かに失敗ができないことも多いでしょうし、時間をかけて準備も必要かもしれません。しかし、組織づくりに関しては失敗なんて当たり前ですし、それよりもどんどんチャレンジして、試行錯誤を続けていくことが大切なんです。こうした発想の転換から、スタートしていく必要があります。

社内にいる20%のイノベーター/アーリーアダプターたちと共に変えていく
―とはいえ、いきなり失敗してもいいよと言われても適応できる人事とできない人事がいると思いますが…。
そこも、「人事が一斉に変わらなければいけない」という幻想を捨てることが大事です。人事の中でも比較的新しい取り組みに適応できる人、失敗を恐れずにチャレンジできる人が組織づくりを引っ張っていけばいいのだと思います。そして、次第に「失敗してもいいのか」ということが分かってくれば、徐々に同じような人事も増えていくはずです。
マーケティング領域で有名なイノベーター理論でいう、イノベーター/アーリーアダプター型の人事ですね。こういう人が旗振りをしていくことが、まずは大事なのかな、と思います。逆に言えば、今は人事が組織を変える変革者になれるチャンスでもあるんです。
―では、失敗をしてもいい、という前提のもとでどのような試行錯誤をしていけばいいのでしょうか?
まず、何か組織づくりの新しい取り組みを始めたとして、だいたいそれに乗っかってくるのは会社全体の約20%のチームや職場です。いわゆる「2:6:2」でいう意識の高い20%の層ですね。そうした人たちは組織の中に必ずいて、「待ってました」と言わんばかりに高い熱量で取り組んでくれるはずです。
その20%の人たちをしっかりとサポートして、組織が変わっていくようにしていくこと。他の熱量の低い人たちはいったん優先度を下げてでもいいので、まずは熱量の高い人に集中して取り組むことをオススメします。
―少しずつ、変えていくということですね。組織の中での熱量の違い、温度差に悩む人事も多いのですが、そういうものだと。
そうです。温度差は必ず出ますから、気にしないことです。そこで、全体の熱量を同じにしようと舵を切ってしまうと、先ほど話した「全社で動かす」発想に戻ってしまいます。
じゃあ何をすればいいかというと、まず人事がやることは、熱量の高い人たちを集めた社内コミュニティを作ることです。そして、そのコミュニティを無理に引っ張ろうとするのではなく、応援役としてサポートしていくことです。

「今、忙しいので」と言う管理職の業務を棚卸ししてあげる
―応援というと、具体的に何をすればいいのでしょう?
コミュニティを作って、最初にするといいオススメのアクションがあります。それは、「管理職の業務の棚卸し」です。人事は管理職からよく「今、忙しいから…」と言われて、取り組みをやんわりと断られることが多いですよね。
―そうした話は本当にたくさん聞きますね。
人事からすれば、「忙しいも何も、あなたたちのチームのために言ってるんだけど…」とやきもきするかと思いますが、一方の管理職からしても忙しいというのは事実だと思うんです。ただでさえ業務に追われている中で、組織と向き合う時間を作りましょうと言われても、なかなか前向きに捉えるのは難しいでしょう。そうした心に余裕のない状態では、心理的安全性が著しく低いコミュニケーションが生まれる可能性が高く、かえって周囲との関係性を悪くしてしまうかもしれません。
そこで、まずは管理職の業務を全て洗い出し、意味のない業務がないかを一つひとつ見ていくんです。実際にやってみると分かりますが、そうやって棚卸しをしてみると、人によっては50%ぐらいの時間を意味のない業務に費やしていることに気づくんです。
―私も前にトラディショナルな大手企業で働いていましたが、振り返ってみると無駄な業務はたくさんありましたね…。ただレジュメを読み上げるだけの会議とか、無駄な資料作成とか…。
すごく、分かります。多くの企業では、やる必要のない仕事が山ほどあるんです。これが、諸悪の根源とも言えるもので、多くの管理職を悩ませています。そうした無駄な仕事を、人事がサポートに入りながら一つひとつなくしていけばいいんです。
棚卸しをする際のポイントは3つあります。
1つ目は、定期的にゼロベース思考になること。この棚卸しは1年に一回ぐらいのペースで行うといいです。本当にゼロベースで、自分の業務を見直して、いらないものは捨てていく。断捨離のようなものですね。
2つ目は、無駄な仕事が積み重なっていたとして、対症療法的に考えるのではなく、なぜそうした無駄な仕事が発生しているのか、どういう状態があるべき姿なのか、といった本質的な問題に着目することです。
これは、「ダブルループ学習」とも言われているものです。例えば無駄だと思う会議があったとして、頻度を落とすか、時間を短縮するかといった考え方がシングルループです。一方ダブルループでは、「そもそもその会議の目的は何か?」から見直します。そうした本質から考え直すことで、会議をなくす結論に辿り着くかもしれませんし、会議の中身を変えてもっと有意義な時間にしようという結論になるかもしれません。
3つ目は、透明の力を活用することです。例えば経費精算などは多くの方が嫌がる仕事だと思いますが、全部オープンにしちゃえば、ピア・プレッシャーも働いて、必要以上に細かく管理する必要がなくなります。あとは、今ならチャットツールなどを活用して、仕事のやり取りやちょっとした相談事などもオープンな場で行えば、進捗会議を減らすなど効率化にも繋がりますよね。

統制型から自走型へ大変革したスーパーマーケット「カスミ」
―なるほど。そうした視点でアドバイスをしながら、管理職の業務を一緒に棚卸ししてあげると。
1つ、いい事例を紹介しましょう。「だから僕たちは、組織を変えていける」でも触れている、スーパーマーケットを展開する株式会社カスミでの組織変革の話です。
変革以前のカスミでは、統制型のマネジメントモデルを取っており、社員が働きがいを感じにくい状態でした。危機感をおぼえた当時の会長が、組織変革を決断して、自走型組織への転換を図ります。まずは、約150店舗の店長に意志を聞き、手を挙げた10店舗から社長直轄のもとで、改革を進めていくことになりました。
―最初に話していた20%の人たちですね。その人たちは、以前から変わりたいと思っていた。
そうです。手始めに、社長自ら店長が普段行っている業務を見てみたところ、日々の多くの時間をエクセルでの情報入力に使っていたんですね。だいたい、1日のうちの半分です。社長が「これは、何のためにやっているんだ?」と聞いたところ、店長たちは「取締役会で提出するために、事細かに情報を入れているんです」と答えました。つまり、取締役の人たちが、社長や会長から何を突っ込まれてもいいように、店長たちに必要以上に細かい情報までレポートさせていたんです。
社長はその事実を知り、こんな無駄なことを店長たちにやらせていたのかと、まずはその10店舗の店長たちに、レポート作成を一切辞めさせたんです。
―すごいですね。ゼロベース思考ですし、本質的にいらないのであればバッサリ辞めるのはダブルループ学習的でもありますね。
そうすると、店長たちは一気に楽になったんですよね。それで何が起きたかというと、今までよりも店内の装飾に気を使うようになったり、接客に気を使うようになったりと、要するに意識がお客様に向くようになったんです。
何か新しい飾り付けをしたら、スタッフが自分たちでFacebookに投稿するなど、これまでにない動きが生まれていきました。結果的に、それぞれの店舗が統制型組織から自走型組織に変貌して、パフォーマンスがすごく上がったんです。その様子を他の店長たちも見ていますから、次の年には変わりたいと手を挙げる店舗が40店舗ぐらいに増えました。そこから徐々に増えていき、4年間でついに全店舗が自走型に切り替わったんです。
―なるほど。自走する組織がじわじわと増えていく様子がすごくよく分かります。
「2:6:2」の6にいる人たちは、先に行っている人たち様子を伺っているんですよ。先に行っている人たちがうまくいっている様子が分かってくれば、少しずつ風向きが変わっていきます。ティッピングポイントみたいなものがあって、3分の1ぐらいまで変わると、一気に変化が加速します。そこまでは、長い視点を持って、じっくりと取り組むことが大切ですね。

小さな動きを積み重ねて、大きな変化を起こすアジャイル型人事
―切り替わるタイミングが来るまでは、変わりたい思いを持った人たちを応援し続けると。
時間はかかると思います。もったいないのは、経営者が「成果が出ていないじゃないか」と、取り組み自体を途中で辞めてしまうことです。20%の人に対しての取り組みだから、いきなり目に見えて分かりやすい成果は出てこないんですよ。そこを勘違いしてしまうと、せっかくの変化の芽もなくなってしまうので、経営者の理解を得ることも大切になってきますね。
―経営層の意識変革も必要ですね。
はい。エンジニアの領域だと、ウォーターフォール型開発からアジャイル型開発への転換がどんどん進んでいます。ウォーターフォール型はトップダウンの形で、決められた要件に沿って開発を行っていくものですが、変化への適応に弱く、開発途中で方針転換しようと思ってもほぼできないんですよね。多くの人事施策も、このウォーターフォール型で行われています。最初に戦略を立てて、それに沿って全社範囲で一気に施策を打っていく。これだと、失敗した後に取り返しが付きません。
一方のアジャイル型開発は、まずプロトタイプを作って、小さく改良を重ねながらソフトウェアを作っていきます。少しずつ開発していくので、途中で軌道修正もしやすいですし、失敗から得られた知見を開発に反映できたりもします。組織づくりにおいては、人事もこうしたアジャイル型の発想で取り組めるといいですよね。これから求められるのは、アジャイル型人事なんだと言ってもいいかもしれませんね。
―小さく動いて、失敗も活かせるようにしていく。確かにアジャイル型開発の発想は参考になりそうです。
私が主催しているオンラインスクール「hintゼミ」では、組織づくりに取り組む人を「スモールイノベーター」と呼んでいます。それぞれの会社で、彼・彼女たちは少数派ではありますが、イノベーターとして懸命に取り組んでいますよ。こうしたスモールイノベーターは、どの企業にも必ずいるはずなんですよね。

ですから、人事の方たちも、自分の会社にいるスモールイノベーターを見つけ、仲間になり、共に失敗をしながら組織を変えていってほしいですね。そして、少しでも取り組みで起きたいい変化などを経営層、職場に広報していってください。そうやって少しずつ機運を高めていけば、きっとどこかで風向きが変わる瞬間が訪れますから。諦めずに、がんばってほしいですね。
―人事だって失敗してもいいし、まずは少数でもいいので仲間を見つけること。そして、最初の一歩としての業務の棚卸しをサポートする…今日はとても多くのヒントをいただけました。
そうして徐々に仲間を増やしていったとしても、どうしても動かない人も組織には一定数存在するのですが、そうした人へのアプローチはまた次の機会にでもお話しましょう(笑)。
―ぜひお願いします!またいろいろと伺わせてください。今日はありがとうございました!







