「なぜ、企業にはワーク・エンゲイジメントが必要なのか?」研究の第一人者、島津教授に聞く

「なぜ、企業にはワーク・エンゲイジメントが必要なのか?」研究の第一人者、島津教授に聞く

昨今、社員が活き活きと働くための指標として注目を集める「ワーク・エンゲイジメント」。健康経営や生産性向上など様々な観点から重要度が増すこの指標について、Wevox監修も務め、国内でのワーク・エンゲイジメント研究の第一人者である島津明人氏に伺いました。

一人ひとりが主人公となるのがワーク・エンゲイジメント

ーワーク・エンゲイジメントとは何でしょうか?

ワーク・エンゲイジメントとは、「活き活きと働ける心理状態」を指すものです。自身の仕事に誇りを持ち、熱意を持って取り組み、同時に仕事から活力も得られる。こうした心理状態をワーク・エンゲイジメントと言います。

対義語としては、バーンアウト(燃え尽き症候群)があります。従来は、「バーンアウトからどう回復するか?」に焦点を当てた議論が多かったのですが、ワーク・エンゲイジメントではそれに加え「いかに活き活きとした状態を生み出すか?」にも焦点を当てています。

ポジティブ心理学とも言われるもので、「ネガティブな状態を消していく」だけではなく、「ポジティブな状態を生み出していく」という発想も含まれているのが、ワーク・エンゲイジメントの特徴でもあるでしょう。

ー島津先生がワーク・エンゲイジメントを研究し始めたきっかけは?

ワーク・エンゲイジメントという言葉を始めて知ったのは、2004年にオランダのユトレヒト大学に訪問したときです。そこでお会いしたシャウフェリ教授から、ワーク・エンゲイジメントという概念について教えてもらったことがきっかけでした。いきいきと働くための心理学、という考え方が新鮮であると同時に、日本においてもすごく重要になると、研究をはじめました。

ーワーク・エンゲイジメントの研究というと、どのような形で行うのでしょうか?

いろいろな手法がありますが、主には働く人への質問票をベースに、調査を行います。最近だと、コロナ禍によってどう人々の働き方が変わっているのか、それによってメンタルヘルスにどのような影響があるかを定期的に質問票を行い研究しています。

それから、ワーク・エンゲイジメントにおいては、仕事以外でどのような生活をしているかも重要になってきます。ですので、育児中の方に対しての支援プログラムなども、科学的根拠をもって構築できないか研究を調べている最中です。

健康経営と競争力の強化、2つをまたぐ重要な指標

ー組織状態を測る指標として、「従業員満足度」がありますが、違いはありますか?

ワーク・エンゲイジメントと従業員満足度では、「主人公」が違ってきます。従業員満足度は、経営者の視点で従業員がどれくらい会社から提供された環境や処遇に満足しているか、を計測するためのものです。ですので、「主人公は経営者」ということになり、経営者にとっては大切な指標となります。

一方、ワーク・エンゲイジメントは働く人一人ひとりが自分の仕事に対してどういう心理状態でいるか、を示します。ですので、「主人公は働く人一人ひとり」であり、すべてのビジネスパーソンにとって大切な指標となってきます。

どちらが大切か、というよりは「何を計測したいか、何を高めたいか」によってそれぞれの指標と向き合うのがよいでしょう。

ー昨今、ワーク・エンゲイジメントが注目されているのはなぜでしょうか?

大きくは2つあります。1つは、情報産業化による人的資本価値の高まりです。製造産業が主流だった時代は、設備への投資を優先することで競争力を高めていきました。人よりも設備を優先していくことで、生産性を上げていた時代です。

しかし、今は様々な分野の情報化が進んだことで、設備だけでなく、様々な情報、データを活用し、「人」が高い生産性と創造性を発揮する必要が出てきています。つまり、設備よりも人が組織の競争力において重要な時代になってきているのです。

もう1つは健康経営の意識の高まりです。ワーク・エンゲイジメントはメンタルヘルスの観点から、非常に重要な考え方となっています。ストレスが発生しにくい職場、活き活きと働ける職場にしていくことでメンタルヘルスを健全なものにしていく。ストレスチェックをはじめ、従業員の心の健康面にもしっかりと取り組んでいこう、という社会的な流れが、ワーク・エンゲイジメントへの注目度を高めています。

ー高い生産性と創造性を発揮するために、活き活きと働ける環境が必要ということですね。

そうです。ワーク・エンゲイジメントが高い組織は、一人ひとりが高い意欲で仕事に臨み、コミュニケーションも活発で創造的な議論を行います。こうした組織がこれからの時代は競争力を高めていく、ということです。

情報産業化による「人」を起点とした競争力の観点、健康経営の観点。この2つの観点を横断する考え方として、ワーク・エンゲイジメントが注目されはじめているのです。

ー様々な分野において重要な指標となっているのですね。

そうですね。もともとは心理学をベースとしていますが、特にここ数年で経済、経営、産業医学など様々な分野で用いられるようになってきました。ワーク・エンゲイジメントに関する論文数も飛躍的に増加するなど、産学共に注目度は高まっています。

特定の1人が高ければいいわけではない

ーワーク・エンゲイジメントが高い組織にはどのような特徴があるのでしょうか?

ワーク・エンゲイジメントが高い組織、というのは厳密に言うと「ワーク・エンゲイジメントが高い人が多い組織」という定義になります。つまり、目の前の仕事に対して熱意を持ち、活き活きと働いている人が多い組織、ということになります。

そういう組織では、自然と相互作用がおき、コミュニケーションも活発ですし、利他的な行動も増えていきます。新しいアイデアなども活発に出されますね。

ーなるほど。じゃあ、ワーク・エンゲイジメントが低い組織というのは、その逆ということですね。

はい。目の前の仕事に熱意を持てない人が多い職場は、活気がなく、コミュニケーションも少なくなります。利己的な考えを持つ人も多く、アイデアも生まれづらい。そうした職場では、個々人がストレスを抱えやすくなりますし、生産性や創造性が低下してしまうのです。

冷めた組織、という言い方もしますね。極端に雰囲気の悪い職場もそうですし、雰囲気は悪くはないけど活き活きもしていない職場も含まれます。

ー悪くもないけど、活き活きもしていない…ですか。やっぱり、活き活きとしているか、ポジティブな心理状態で働けているか、が重要なのですね。

そうですね。一人ひとりは極端に不満は抱いていないけど、新しいアイデアが生まれなかったり、相互支援が生まれにくい職場もあると思います。そうした職場は、ワーク・エンゲイジメントが高いとは言えません。その違いは、意識するといいのではないでしょうか。

それから、誰か特定の1人がワーク・エンゲイジメントが高くても、実はあまり意味がありません。

ーどういうことでしょうか?

早稲田大学の黒田祥子先生(労働経済学)と共同で行われた研究で、売上が高い職場は「全体的にワーク・エンゲイジメントが高く、かつ、高い人と低い人とのばらつきが少ない」という特徴がありました。一方、売上が低い職場は高い人、低い人の差が大きかった。

つまり、誰か1人がヒーローのようにワーク・エンゲイジメントが高かったとしても、職場内でギャップが生まれマイナス影響をおよぼす可能性がある、ということです。「あの人は特別だからね」といったネガティブな心理状態が生まれてしまうのです。

9つのキードライバーがエンゲージメントを高めるスイッチに

ーワーク・エンゲイジメントを高めるポイントは何でしょうか?

何よりも、まずは自分たちの組織状態を可視化し、把握することです。そのために、エンゲージメントサーベイツールを用いて組織状態をスコア化し、課題と強みを抽出することは非常に重要になってきます。

それぞれの組織が抱えている課題だけでなく、組織が持っている強みを可視化することが重要です。課題を可視化して取り除く対策は多くの企業が行っていますが、強みも可視化し、それを伸ばしていく対策はもっと大切です。エンゲージメントサーベイツールを上手に活用することで,強みを伸ばすことにつながります。

ー様々なサーベイツールがありますが、どのような視点で選ぶとよいのでしょうか?

まず大切なのは、サーベイによって何を測り、何を高めていきたいか、を考えることです。単に社員が熱意をもって活き活きと働いているかだけでなく、それらを促す組織要因を定量的にスコア化できるとよいでしょう。これにより、組織のどの要因に注目して対策を行えば、ワーク・エンゲイジメントの向上につながるかの情報を得ることができます。

ー何のためにサーベイをするか、を考えるのはとても大切ですね。

そうですね。それから、ワーク・エンゲイジメントを高めるためのスイッチはそれぞれの組織、チーム、個人、またタイミングによって変わってきます。ですので、どうエンゲージメントが可視化されるかも重要なポイントです。

ーWevoxでは、「人間関係」や「自己成長」など9つの項目(キードライバー)でスコア化されます。

そうした項目があれば、どこが課題なのか、どこがエンゲージメントを高めるスイッチなのかは考えやすくなりますね。ただ、大切なのは、サーベイによって得られた気づきをしっかりと改善行動に結びつけていくことです。

ー我々も、「Wevoxは導入しただけで組織状態がよくなるものではない」ということはお伝えしています。

はい、その視点は非常に重要ですね。エンゲージメントサーベイによって得られた気づきを、しっかりと経営や人事戦略、組織マネジメントなどに活かしていくことが大切です。ただ計測しておしまい、では意味がありません。

施策を行い、再度エンゲージメントサーベイで組織状態を把握し、施策の良し悪しを分析する。そして、次はよりよい施策を実行していく。このサイクルを繰り返し続けることが、活き活きと働ける組織にしていくために大切になってきます。

組織の課題だけでなく「強み」を知ることにも価値が

ー個人、管理職、経営者、それぞれの視点でワーク・エンゲイジメントを高めるアクションのポイントはありますか?

個人の視点で言えば、自分がどういう状態のときに仕事に集中できているか、を知るといいと思います。たとえば、静かな環境で1人で作業する方が仕事がはかどる場合もあれば、周りに人がいる方がはかどる場合もあります。

ーなるほど、そういうことも繋がってくるんですね。

そうなんです。どう仕事をしたら気分が高まるか、をいろいろ考えてみるといいと思いますよ。

管理職視点で言えば、サーベイ結果を見た際にどんな属性の人がワーク・エンゲイジメントが下がっているか、といった視点を持ってみてはどうでしょうか。例えば、入社2年目の人が下がっているな、と分かれば彼、彼女らに対して働きかけをする。あとは、時系列で見るのも大切ですね。

ーどの時期に下がりやすいか、ですね。

はい。職種や所属部署、年次などの属性や時系列などで出されるスコアは、すべてが貴重な情報です。前回のサーベイと比べて極端に落ちているスコアがあれば、それは組織に対するアラートとなります。

ー経営者はどのような意識で向き合うといいでしょうか?

経営者は課題だけでなく、スコアが高い項目、つまりその組織の強みに特に着目するといいと思います。「自分たちの組織がどういう時にワーク・エンゲイジメントが高くなるのか」を把握し、強みを伸ばしていく。すると、必然的に他のネガティブな要素も底上げされて解消されていくケースもあります。

経営者の中には「自分たちの課題点に直面させられる」と、エンゲージメントサーベイを毛嫌いする人もいるかもしれませんが、「強みを知る」という視点で向き合ってみるといいのではないでしょうか。

ー強みにまずは着目する、と。

そうです。もちろん弱点も把握するのは大切ですが、悪い部分だけを見てしまうと、「誰のせいでこうなってるんだ」と犯人探しに繋がる可能性も高いです。悪いところ探しではなく、いいところ探しからスタートしてみてください。その強みが、組織の「活き活き」を生むスイッチになるはずです。

それぞれの朗らかさがあるはず

ーなるほど。島津先生には、いつも貴重なアドバイスをいただきながらプロダクトを磨いています。

Wevoxチームは、本当にみなさん活き活きと働いているように感じています。それぞれが自分たちの意見を持ち、積極的にアイデアを出していますよね。ワーク・エンゲイジメントが高い組織の特徴である、活気のある雰囲気があります。

チャットツールでのやり取りを見ていても、みんながいろいろな話題に対して乗っかってきますよね。ああいう雰囲気は、まさに活き活きとした職場だと思いますね。

ーありがとうございます。最後に、島津先生のこれからの展望を教えてください。

今は、それぞれの人によって異なる「活き活き」という概念があるのではないか、といろいろと調査をしています。活き活き、というとアドレナリン全快で、燃え上がるように働く、というイメージを抱く人も多いと思います。

でも、やりがいを心の中に秘めた「青い炎のエンゲージメント」もあっていいのではないか、と最近は考えているんです。

ー活き活きの形も、人それぞれということでしょうか。

そうですね。私は、朗らかに働くという意味での「朗働」という言葉をよく使います。人間には、それぞれの朗らかさがあるはずで、決してハイパフォーマー的な「活き活き」がすべてではないと思うのです。心の中のちょっとしたやりがいが、活き活きと働くことにも繋がるはずで、それをどう見出していくかを考えていますね。

ー常にアップデートし続けているのですね。

私自身も常に自問自答しながら、研究を続けていきたいと思います。これからも、活き活きとした組織、人たちが増えていくように、一緒にがんばっていきましょう。

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