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データヘルス改革で変わるヘルスケアの未来〜「産×官×学」で挑む変革――厚生労働省笠井氏講演レポート

データヘルス改革で変わるヘルスケアの未来〜「産×官×学」で挑む変革――厚生労働省笠井氏講演レポート

厚生労働省
笠井 南芳 氏
笠井 南芳 氏
厚生労働省
政策統括官付情報化担当参事官室 室長補佐

2011年厚生労働省入省。介護保険における地域包括ケアの導入、外国人材の受け入れ、リカレント教育の推進、高齢者医療などに携わる。現在、データヘルス改革やマイナンバー利活用など、厚生労働分野の情報化を担当。

働く人々のウェルビーイング向上を目的とし、産・官・学連携で、研究・実践事例の共有、発信活動を行う「仕事とウェルビーイングコンソーシアム」(代表者:慶應義塾大学 島津明人教授)。本記事では、同コンソーシアムの定期研究会にて行われた、厚生労働省の笠井南芳氏による講演「データヘルス改革で変わるヘルスケアの未来」のレポートをお届けします。厚生労働省が描くデータヘルス改革の全体像、そして実現に向けた「産・官・学」連携の重要性など、ヘルスケアの最先端の動向について詳しく語っていただきました。

※記事内挿入画像は笠井氏の登壇資料より抜粋したものです。

仕事とウェルビーイングコンソーシアムとは?

働く人々のウェルビーイングの推進、社会全体の幸福度の向上への貢献を目指し、産官学連携で、研究会や広報活動を行うコンソーシアム。ワーク・エンゲイジメント研究の第一人者、慶應義塾大学島津明人教授を代表者に、大学教授、民間企業などから多様なメンバーが参加。定期研究会での先進的な研究・実践事例の共有、国内外の良い事例を「知る・分析する・広める」活動などを行っている。

介護予防、疾病予防のために必要なデータヘルス改革

―本日の定例研究会のテーマは「データヘルス改革で変わるヘルスケアの未来」です。どうぞよろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。最近、デジタル庁の設立などで国の行政システムや手続きのオンライン化・デジタル化に注目が集まっています。私が所属しているのは厚生労働省の情報化担当参事官室というところで、厚生労働行政に関するデジタル化や、データヘルスに関する仕事を行っています。

政策を考えるときに私が大切にしていることは、「誰が」その未来を変えていくかということです。行政だけで未来が変えられるものではなく、大事なのは産・官・学で挑むことだと考えています。

まず、なぜデータヘルス改革が必要なのかという点についてです。日本の社会構造を見ますと、今は65歳以上の人口がどんどんと増え、超高齢化社会となっています。それに伴い、医療や介護の分野での社会保障費も増加しているため、人口構造に起因する社会保障費の課題などが日本の社会に重くのしかかっている状況です。これらの状況を踏まえ、令和元年に厚生労働省が2040年を展望して社会保障・働き方改革に関するプランを発表しましたが、その中に含まれているのが健康寿命の延伸、そして医療・福祉サービスの改革という2つの分野です。

健康寿命の延伸については、ただ漫然と寿命を伸ばすのではなく、なるべく自立して活動できるなど、健康で過ごせる寿命を伸ばすために介護予防・疾病予防に力を入れることに着目しています。また、2つ目の医療・福祉サービスの改革には、医療と福祉の生産性や時間あたりのサービス提供などの供給体制の改善が挙げられています。これらの実現に必要なものの一つが、データヘルス改革です。

データを連結し、個人の健康管理や研究に活用する

データヘルス改革では、病院の電子カルテの医療情報や、企業で受ける健康診断の健診データなど、様々な形で分散している健康医療情報を有機的に連結させたり、ICTを利活用することにより、健康寿命の延伸や、医療・介護サービスの効率的な提供を目指すこととしています。

例えば、がんの原因遺伝子がわからない場合なども含め、未知の病がたくさんありますが、ゲノム解析によって新たな治療法が開発され、国民や患者に還元される可能性があります。また、自身の健康医療情報を自身で管理できるPHR(パーソナルヘルスレコード)により、自分自身の健康づくりや、医療従事者とのコミュニケーションが円滑になることなどもメリットとして挙げられています。

患者・国民ご本人だけでなく、医療現場や研究などでもデータヘルス改革のメリットを感じてもらえることを目指しています。医療現場や保険者については、例えばAI音声入力を活用して診察時の会話からカルテを自動作成することにより、医師と看護師の負担を軽減することが望まれています。研究者・産業界・行政については、今まではデータがバラバラに存在していたため、これまでの疾病の状況を追跡したり、そこからどのような介護に繋がり、どのような治療を行うと良くなったのかといったことがデータで追いきれない部分があったのですが、それらを連結して提供することによって、データ解析を行い、研究やイノベーションに活用することができます。

皆さんもご経験があるような例として、異なる病院を受診する際、昔に受けた手術や治療歴を改めて書かないといけない場合があるのではないでしょうか。しかし、高齢者の方など、ご自身が飲んでいる薬やこれまでの治療歴を正確に伝えることが難しい場面もあるかと思います。そういった情報を自分のスマートフォンからマイナポータルなどで電子的に受け取ることができたり、お医者さんが患者さんの同意のもとに見られるようになれば、正確な情報として医療機関に伝えることができます。

ウェアラブルデバイスを活用した健康促進施策

これを可能とする具体的な仕組みの一つとして、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)があります。現在は、自分自身で検診・健診情報を持っていない方や、結果が紙で送られてきても机の奥にしまい込んで読み返さないという方が多いでしょう。また、災害などがあった時に、紙のデータだと消失するリスクも存在します。さらに、健診の情報は主体によって様々です。自治体検診なら自治体、事業主健診なら事業主や実施機関、学校健診なら学校が情報を持っています。PHRの取り組みでは、これらの情報をマイナポータルを通じて国民の元に集め、自身のデータを閲覧したり、医療機関などに見せることができるようになります。また、政府にはマイナポータルというアプリケーションはありますが、民間の事業者に参入してもらい、より使い勝手がよく、国民の皆さんの健康管理に資するサービスやアプリケーションを開発してもらうのが産官の目指している大きなポイントです。今後、健康管理アプリなどが民間のPHR事業者から提供されることが期待されます。

今は、Apple Watchなどのウェアラブル端末で健康管理ができるようになっていたり、日々の体重や睡眠、運動を記録できたりするようなサービスがあります。これらの日々の健康データと、マイナポータルを通じて個人のもとに集まる健康診断などのデータを組み合わせて提供されるサービスとして、例えば、「集めた検診・健診データを使いながら、1年後の検診・健診の結果をより良いものにするにはこういった運動が必要ですよ」といったように、アプリで日々の運動や健康管理を促すようなサービスの開発が想定されます。また、自治体で保健指導や運動プログラムを組むことにより疾病予防や介護予防を進め、保険料や医療費を抑えるなどといった活用方法も期待できます。もう少し医療寄りの内容であれば、日々の血圧データや心電図をウェアラブル端末に蓄積し、医療機関と連携して情報連携することで、自宅での健康管理ができるようになるといった可能性にも期待しています。

最近はマイナンバーカードが健康保険証として使えるようになっていますが、実はこれもデータヘルス改革の取り組みのひとつです。健康保険証の資格確認を電子的に即時に行えるようにしましょうというのが元々のきっかけでした。2021年10月からは、この「オンライン資格確認等システム」を基盤として、医療機関において、患者が飲んでいる薬や健診の結果などを、本人が同意することで閲覧することができるようになっています。また、2023年1月からは電子処方箋もスタートします。これまで処方箋と言えば紙で受け取るものでしたが、今後は電子的に発行されるので、本人が薬局に持っていかなくても、薬局で「この電子処方箋を調剤してください」と伝えるだけで処方箋のやりとりができるようになります。これが実現することにより、オンラインの診察から服薬指導、調剤薬の受け取りまでを、患者が家から一歩も出ることなく完結することができることも期待されています。

介護分野の話になりますが、 介護保険が始まってから20年近く、介護情報は介護のケアをする方達のノウハウに頼っていました。現在は、ある程度データで評価をしていくというような取り組みが始まっており、各事業所で自分達がどのような介護を行ったのかを入力し、全国平均と比較して「あなたの施設では、他の施設に比べてオムツの利用量が多いが、あなたの施設の利用者さん達の自立度を見れば、もう少しトイレでの排泄を促してもいいんじゃないか」というようなフィードバックを得られることが期待されています。

データ活用に挑戦し、成功事例を生み出してほしい

さらに、2022年4月からはNDB(ナショナルデータべース)と介護保険総合データべースとの連結解析も可能になりました。これにより、医療と介護をいったりきたりされている方であっても、どのようなサービス・治療を受けていて、どのように進んでいくのかを分析できるようになります。今後はレセプトの情報と、難病、小児慢性特定疾病などの、国が持っているデータベースと連結させることも予定されているので、多様な切り口からの解析が可能になるかと思います。今までこういったデータの利活用はあまり進んでいませんでしたが、日本の強みは、診療報酬や保険の支払いが全国的に行われており、そのデータがすべて国に集まっているところですので、その利活用を推進していけるよう取り組んでいます。

レセプトのデータとは別に、次世代医療基盤法というものが施行されています。リアルワールドデータとも呼ばれていますが、つまりは電子カルテの細かい臨床情報などを集めて匿名加工し、分析できるように扱う認定事業者を認定する仕組みで、大学や製薬会社での利用が始まっています。

多岐に渡りますが、国が行っているデータ改革について簡単にご説明させていただきました。改めて、タイトルの「データヘルス改革で変わるヘルスケアの未来」について、誰がヘルスケアの未来を変えるかというと、産・官・学で連携して挑むことが必要です。行政だけでは、プランを作るところまではできるものの、そこから先の実現まではなかなか辿り着けません。

我々だけでは辿り着けないところについては、現場での体験を重要視できればと考えています。色々とデータを使えるようになるとご紹介しましたが、サービスがなければデータは使えないので、民間のPHRサービスや自治体、研究の現場で「このデータってこういう使い方ができるんじゃないの?」といったことを局地的に試していただいて、成功体験を作っていただくことが非常に重要だと考えています。国でやるとどうしても全国一律でサービスを展開しがちですが、データヘルスの場合は非常にニッチなニーズもあります。この診療科のこのターゲット層、20代の健康な女性、といったような細かいターゲットに対して行う研究やサービスでもブレイクスルーが生まれていくというのが非常に大事だと思いますので、ぜひ全体像を知っていただきつつ、使えるところから活用していただければ嬉しいです。

質疑応答:民間事業者と国はどう連携を取っていけばいいか?

―ありがとうございました。ではここからは質疑応答へと移ります。

Q. 日本はRNAワクチンの導入もすごく遅い感じがしたのですが、日本の特殊なしがらみのようなものがあって、データを活用できていない部分があるのかなと思いました。今考えていらっしゃる中で、ボトルネックになりそうな部分や課題になりそうなものがあれば教えてください。

A. 我々の各国比較、制度比較の中で議論になってくるのがオプトイン・オプトアウトで、要するに本人の同意をどのように取るかということです。データヘルス改革のほとんどは、本人の同意を前提にして進めていく必要があります。そこでカギになってくるのがマイナンバーカードではないかと思います。マイナポイントの影響もあり少しずつ普及してきてはいますが、そもそもマイナンバーそのものに抵抗があったり、いろんな情報を国に知られるのではと不安感を持ったりする方は多いです。

電子政府と呼ばれているような国では、国民がそういった情報のやりとりに抵抗がないから成功しているという側面がありますが、特に日本は、自分の情報が漏洩してしまうのではないかという感情が強いように思います。とはいえ、日本が一朝一夕でエストニアのようになれるかというと、文化や歴史、国民感情はもちろんのこと、規模も違いますから、データヘルス改革のメリットを国民の方に感じていただき、情報提供などのやりとりに対して前向きになっていただくというところが重要になると考えています。国がいくら「この情報を使うとこんなメリットがありますよ」といっても、正直なところあまり訴求力はありません。国が作ったアプリ「COCOA」に対しては慎重になる一方で、民間の普通のアプリには抵抗なく個人情報を提供される方もいます。ですから、民間の方に入っていただいたり、研究の場で使ってもらったりしながら信頼性を高め、ハードルを下げる必要がありますね。

Q. 個人情報に直結するようなデータを誰が使うかという点でのルール決めは非常に大変だと思います。研究機関など様々な分野からデータを分析したいという要望があった場合、そのご判断はどのようにされているのでしょうか?

A. 誰でも接続できて誰でも分析できるというハードルの低さは非常に重要ですが、一方で、活用されている事業者さんのうちのどこか1つでも問題が起きてしまったり、目的に沿わない研究が行われたりすると、分野全体の信頼性が失墜してしまいます。そこに関しては、なるべく自由にやった方がいいというご意見と、規制をかけてほしいというご意見の両方をいただいています。我々としては、国がレセプトのデータを提供する場合は審査を設けていて、目的や扱うデータの範囲をかなり細かくご提出いただいたうえで審査を行い、データを提供しています。

また、本日お話した民間PHRサービスについて、ご本人のもとに集まる検診・健診データ等に接続できるのは、チェックリストに該当した事業者のみです。個人情報保護法とマイナポータルに接続するためのガイドラインを合わせたような、PHR事業者が守るべきガイドラインを作成しています。今後はPHRの業界団体のようなものもできてくるかと思うので、そちらの方は経済産業省とも協力をしながら、業界内でさらに高い水準のガイドラインを作っていただくところからスタートしていくことを目指しています。

Q. 私の組織でも様々なデータを集めているのですが、地域住民を巻き込んでPHR事業をやりたい、実証試験をやりたいという事業者さんが複数いらっしゃいます。そういった事業者さんと、今回お話しいただいた国の動きとを連動させる際、無駄に実証試験を行わないようにするためには、彼らにどのようなアドバイスをすれば良いでしょうか?

A.たくさんアイディアを持っていらっしゃると思うので、ぜひ色々と試してやっていただければと思います。私がデータヘルスを担当し、意見交換させていただく際に耳にするのが、自治体の方との連携が非常にカギになってくるということです。PHRの持ち方は色々とありますが、今お話いただいたように自治体に根ざして行う実証実験の場合は、ナショナルデータというよりも自治体が持っている検診データを活用することや、実証実験への参加について、自治体から住民の方への呼びかけが大事だと思います。

エリアによっては自治体のご協力を得るのが難しい場合がありますが、反対に、自治体が全面協力して上手くいっているエリアもあります。自治体の理解と協力が成功を左右するといっても過言ではないので、丁寧にコミュニケーションを取っていただくと進み方が違うのではと思います。また、国のシステムを介さずに研究の方にも幅広くデータを使っていただいている自治体さんもあるので、そういった意味では、国のPHRがPHRのすべてではないので、色々な活用をしていただけるといいですね。そこからの研究展開なども含めて自由に設計していただけるというのが、広い意味でのデータの利活用につながるかと思いますので、ぜひいろんなアイディアを出していただければ幸いです。

Q. 民間事業者がデータベースなどを提供している一方で、先ほどご案内いただいたマイナポータルなどもあります。それぞれで誰がどういうことができるのか、どういう設定をされているのかという全体の姿は理解できたのですが、個別のところではどういった落とし込みをされているのでしょうか?

A. 先ほどのご質問の回答にも通じるのですが、すでに健康保険組合や自治体ですとか、いろいろな事業者で独自に集められているデータは結構大きいなと感じています。そういう意味では、先ほどご紹介した中にすべて落とし込まれているというよりは、国が持っているデータについては国のPHRがあり、その周辺に検診・健診データや健康データが広がっているので、そこを利用者さんの同意を得ながら使っていただくのが全体像になります。データヘルス改革におけるPHRでは、国や自治体が決めている検診・健診の結果や、医療情報についても基本的にはレセプトを中心として集めることとしています。今後、対象は電子カルテについても広がる予定ではありますが、日々の健康データや事業主健診の問診データなど、独自に集められているデータの方がより具体的で使いやすいというケースもあるかと思います。そこは重複を広がりという形で捉えていければと思いますし、どういった広がりがあるのかは我々も知りたい部分です。ぜひ、いろんな使い方や、集めているデータの事例を教えていただければありがたいです。

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