エンゲージメント推進活動における企画づくり

エンゲージメント推進活動における企画づくり

第一三共ビジネスアソシエ株式会社
吉田 美加氏
吉田 美加氏
第一三共ビジネスアソシエ株式会社
人事推進部 主席 キャリアサポート機能統括&(人・組織)ビジネスコーディネーション担当

第一三共人事部での経験を経て、2018年シェアード系グループ会社である第一三共ビジネスアソシエに女性初の管理職として転籍。組織統括の役割を持ちながら、エンゲージメントに関する自社内活動を推進。現在は、人事推進部内の業務も担いながら、社長直轄で活動を推進している。

連載:インターナルコンサルタントに聞くエンゲージメント活動のホントの話 吉田さん編
インターナルコンサルタントとは、社内で組織変革を推進する役割のことを指します。吉田さんは過去から女性活躍推進、中期経営計画浸透のための全社対話会の設計・展開、新規部門立ち上げ時の垂直立ち上げ支援などのテーマでインターナルコンサルタントとして活動をし、現在は自社内でエンゲージメント活動の推進を担っています。今回は、エンゲージメント推進活動における企画づくりのポイントを伺いました。
※本記事の構成上、前回取材と重複することがあります。予めご了承ください。
※取材時(2024年7月)の部署・役職になります。

インターナルコンサルタントの詳細については以下の記事をご参考ください。
今が好機!社内から組織を変える専門家「インターナルコンサルタント」が輝く時代に【連載#1】

前回の吉田さんのインタビュー記事は下記をご覧ください。
企画フェーズでの動き方とインターナルコンサルタントの価値について

以前吉田さんにはお話をお伺いしましたが、改めてエンゲージメント推進活動をはじめるきっかけはどのようなものだったのですか?

吉田:私が第一三共から現在の会社にグループ長として転籍した当時の上司(部長)が、私が第三共時代に女性活躍推進活動や中計達成のための組織開発活動などをリードしてきたことをご存じで、転籍後に私が第一三共から組織開発案件の業務委託を新規で受託する話が出た際にも実現に向けて支援下さるなど、人・組織系でのチャレンジに理解を示してくださる方でした。

その流れで、前回の記事でも少し触れていた2019年の部長以上が出席する組織活性をテーマに議論をする会議におけるファシリーテーター役としてお声がけをいただき会議に参加させていただきました。この会議で議論を何度か重ねた中で、当時の社長も含めて「うちの会社は活力が足りない。もっとイキイキしないとまずい」という共通認識が生まれました。2020年初めには次期中計(2023年4月スタート)の立案に向け、社長から3つの指標が示され、検討が指示されました。3つの指標のうち2つはビジネス目標系でしたが、加えてもう一つ社長の「ビジネス目標を達成するのは社員であり、その社員たちが元気でなれば目標達成は加速し得ない」という考えのもと、社員の活性化やエンゲージメント向上の検討も指示されました。

同年6月から中計立案のための検討チーム(同年11月に役員会へ答申)が各指標毎に設定されました。そのひとつに組織活性・エンゲージメントのテーマが設定され、その検討メンバーとして私がアサインされました。

ー中計立案のための検討チームの体制や進め方などについて教えてください。

吉田:中計立案のための検討チームの運営は、これまでは管理部主導で実施する形が一般的でした。管理部が事務局となって、毎回議論用のタタキ台を作成し、検討チームメンバーはミーティングの場で意見を出し、管理部が適宜吸い上げて中身を固めていくやり方です。検討メンバーの自由発想が求められる側面は少ないやり方でした。

一方、組織活性やエンゲージメント向上のテーマはこれまで管理部が主導で策定していたビジネス目標とは異なる領域でもあり、新しい運営方法を試行することになりました。管理部が主導するのではなく、メンバーの一人として管理部からも検討メンバーに入ってもらう形です。また検討メンバーの選定について、当初は管理部の指示で主たる部門から一人ずつ候補者が選出されていましたが、このままだと面白いプロジェクトにならないだろうと危惧されたので、当時の上長(部長)に相談し、エンゲージメント向上プロジェクトには面白い発想を持てる人、かつ世代や性別などの多様性があるメンバー構成にする意図で、こちらから候補者を逆指名し、管理部長や社長と交渉して一部メンバーの変更に対してご理解いただきました。

メンバーの選定の過程では、予め逆指名予定の候補者の方々へ個別対話の機会をつくり、私から活動の意図や参画への関心の有無などを確認しておきました。その後、管理部から各候補者への参加の最終意思確認をしていただきましたが、そのタイミングでは参加意思の確認もできていましたので、スムーズにメンバー選定プロセスを進めることができました。組織活性・エンゲージメントに関心のあるメンバーを一定数確保できたことでその後の検討プロセスにおいて、議論が上滑りすることなく検討が充実したと思います。

ーメンバーの選定やメンバー各自への事前確認がポイントになった印象を受けました。

吉田:そうですね。「何をやるか」の前に、「誰とやるか」は大切だと思います。またメンバー各自に個別に関わり、本人の意思を大切にすること、この人と一緒にこのプロジェクトをやりたいと思っていただくことも、その後の活動推進中の参画意識を高めるために重要なことだと思います。

ー検討チームの体制づくりなどで上司のサポートも大きい印象を受けました。

吉田:はい、当時の上長(部長)とは、検討チームづくりにおいて何度も意見交換をさせていただきましたし、部長自身もエンゲージメントに関して勉強されていて、とても協力的な方でした。

とはいえ、転籍当初は女性初のグループ長ということもあり、部長から試されている印象もありました。時間の経過と共に、私が個人的な研鑽目的でマネジメントのカウンターパートをお願いしていた相談相手と進めてきた様々なグループマネジメントの打ち手について、効果を認めて頂き、部長以上の会議体の場で好事例として何度もご紹介いただく機会をいただくことができました。また、自グループを超えて若手を育てるためにリーダーを育てる部の取り組みを自部署内で企画し、他の若手社員がいる部署にも声がけして一緒に巻き込んで実施したり、新規事業として請け負った組織開発ビジネスで自社の売上に貢献した事例ができたり、部長にとっても誇らしく思っていただける自部署成果につながったことが信頼に寄与したと思います。

上述のカウンターパートからも上長の成果に貢献することの重要性は議論に挙がっていたので、自分もその点には留意しながら動くよう心掛けていました。

ーありがとうございます。次に検討チームの立ち上げ期について教えてください。

吉田:社長から方針が出されたのは4月でしたが、検討チームメンバーの選定ほかの準備を経て実際にメンバー全員が集まる機会は6月下旬でした。それまでの期間、改めて各メンバーとの個別対話機会を持ったり、エンゲージメントに関する情報収集を開始しはじめました。2020年当時はまだエンゲージメントに関する情報も今のようには充実してはおらず、社内でもエンゲージメントについての理解は皆無で、私自身もゼロから学ぶ必要がある状況でした。

6月下旬に検討チームメンバー全員が揃う場を設定しました。この場の目的は「メンバーの目線合わせ・心合わせ」どんな人が一緒にやるのかお互いを知る場であり、気持ちを合わせていく場としました。参考までに事前に予定していたアジェンダと実際の進行を挙げておきます。

またそれと合わせて、中計策定の概要や本プロジェクトの位置付け、あとはアトラエ社を通じて教えていただいたエンゲージメントに関する概念資料、及び本プロジェクトをどんな活動スケジュールで進めていくのか、について事前に私のほうで外部の専門家やカウンターパートと相談した内容をもとにタタキ台として書き出しておき、メンバーに頭出し的に共有しました。こちらも当時作成したレベルのスケジュールを挙げておきます。頭出しとしたのは、スケジュールの詳細について触れるというより「こんな風な形で進めていくことを想定しています」といったレベルで共有することで、メンバーにスケジュール感を掴んでいただくことを目的にしていました。理由は、メンバー自身もエンゲージメントについて詳しい状況ではありませんでしたし、プロジェクト活動としてどんな内容を実行すればよいか、についても認識がバラバラだったからです。

ープロジェクトメンバーを集める際に、まずはお互いを知ることから始めているところがエンゲージメントを扱う活動としても有効な印象を受けました。

吉田:はい。いきなり活動の目的や実行スケジュール、役割分担などの事柄に焦点を当てるのではなく、「このチームはどんな人たちの集まりなのか?」についてお互いに理解し合う時間づくりを大切にしました。またこの目線合わせの回を通じて、メンバーのエンゲージメントに関する認識のバラツキ度合いも明確になったので、改めてプロジェクトのキックオフ会を社長も含めて実施することにしました。

このプロジェクトチームの運営については、当初、何となく私が幹事的に進めるイメージでスタートしたのですが、メンバー間の対話を通じて方向性を決める、などのリーダーシップも必要になりそうでしたので、上司や管理部長、社長に相談してキックオフ会まえにプロジェクト・リーダーに選任してもらいました。このプロセスを通じて私自身も覚悟を決めることができ、「よいものに必ずするのだ」という気持ちを明確にもつことができたと思います。

ーそのほかに目線合わせの会において、なにか特別に実施されたことはありますか?

吉田:プロジェクトの課題管理表の運用をメンバーに提案しました。内容はプロジェクトを進める中で出てくる課題を全て書き出し、各課題の対応の仕方や主担当、対応の進捗状況などを一覧で見える化するものです。このプロジェクト活動ではなにを、どのように、いつまで実施すればよいかが活動当初は明確ではありませんでしたので、エンゲージメントに関する情報収集や社内の現状調査などをする過程で、様々な課題が出てくることはカウンターパートとも相談して想定をしていました。そのように活動途中で出てくる課題についても、一覧表で見える化することで、出たとこ勝負の課題対応ではなく、全体像を俯瞰しながら進めていくことができました。課題管理表のイメージについても挙げておきます。

ー課題管理表のようなプロジェクト運営ツールは継続が難しい側面もあると思いますが、ご苦労された点などいかがでしょうか?

吉田:プロジェクト活動をしてく過程で出てくる懸念や問題点などをどんどん書き足していくことが大切だと思います。書き足しやリストの整理はわたしの方で責任をもって進めました。プロジェクト会議での進捗検討の際にも、このリストを用いて進めるようにしました。

最初の頃はリストへの記入者は私だけでしたが、メンバー各自の役割が決まり、活動が具体的になる過程で、メンバーも書き加えてくれるようになりました。このリストに自分がどんな活動をしたのか、またどんな気づきや課題が発見できたのか?などについても書き加えていくことでメンバー自身の参画意欲も高まってきたと思います。堂々巡りに陥る場面もありましたが、このリストを用いて進捗を見える化できたので、状況の見える化にもなり、また一番若手のメンバーの貢献やスピード感も明確にできて、プロジェクト全体の推進力も高められたと思います。

ーこのプロジェクトのアウトプットは何だったのでしょうか?

吉田:プロジェクトのゴールは、次期中計に盛り込むエンゲージメント活動のマスタープラン(5年間を想定)と1年目の詳細な活動計画を策定することでした。その前段階として、活動の開始前にはエンゲージメント向上活動を進めていくかどうかの必要性検証の意図もありました。

以下に答申時のアジェンダ及びマスタープランと一年目の詳細計画を挙げておきます。

ープロジェクト活動のアウトプット作成に向けて、大切にしたことを教えてください。

吉田:プロジェクト活動を進める過程で何回も社長と推進メンバーとの対話を実施しました。社長ご自身はこの取り組みにおいてエンゲージメントの大切さを発信して下さっていましたが、その内容は当初は従業員満足度に寄っていたので、何度もすり合わせをしながらプロジェクトの活動内容とトップの発信のずれを減らしていくことを意識しました。

また現状把握については、できるだけ多角的に調査データを使うようにしました。エンゲージメントに関するサーベイだけでなく、意識調査やストレスチェックなどを管理部にお願いしてプロジェクトメンバーに開示してもらえるようにしました。こうした多角的なデータ分析結果から、当社の人・組織における課題がメンバー内でも明確になっていきました。

加えてデータだけでは分からない事柄については、インタビューを通じて実際の現場の声をきかせてもらう機会を設けました。当初提案では個別インタビューを企画したものの了解に至らず、実際にはグループインタビューの形での実施となりましたが、「エンゲージメント向上がうまくいくグループとそうでないグループの差は何か?」などの貴重な情報を得ることができました。

加えてエンゲージメント・サーベイではWevoxのカスタム質問の機能を用いて、「いきいきと働くためにあなたが重視すること」「提案したいこと」など社員からの意見収集も有用でした。

他社の活動状況についてもプロジェクトメンバー達の社内人脈が活かされて、他社へのインタビュー調査なども実施することができました。

5年間のマスタープランはエンゲージメント推進の大枠を示すものとして提案しました。エンゲージメントの推進活動は経営幹部から一般社員までの意識改革や習慣の改革が求められるため、単発で終わらせず長期間にわたって継続することが必要と考えていたためです。

活動計画の運用については、2020年に実施した予備調査のプロジェクト体制と、2021年の中計1年目の推進体制の継ぎ目を切れ目のない運用とするために、「世話人」を設定することで、前年度のメンバーが交代しても新しくアサインされた次年度メンバーの活動をサポートするしくみとしました。

更には、出来れば予備調査の時のメンバーの一部には推進メンバーとして残ってさらに1年間続けてもらえるよう口説きました。これにより21年度もスムーズに活動が進められました。それ以降は活動は2年間とし、1年毎に半数ずつメンバーを入れ替えていく方法を取ったことで22年度以降の活動についてもシームレスに進めることができています。

また活動の好事例や社外事例の共有などを行う目的でEMO(エンゲージメント・マネジメント・オフィス)機能を上申しました。その思いは活動名のECHO 活動(エンゲージメント・チャレンジ・オフィス活動/社員と会社が響き合う) にも反映されバーチャルな形で活動をサポートしていくことを目指しています。

ー最後に、これからエンゲージメント推進活動に関する予備調査やマスタープランを作成する方達へのメッセージをお願いします。

吉田:まずはメンバーと全体感を共有するためにも、ゴールからバックキャストでざっくりでいいのでマスタープランを作ることで時間軸を活動メンバー間で共有することが出来ます。その上で優先度が高いものから課題管理表に落とし込んでいくことで具体化が進みはじめます。その課題の一つにマスタープランのブラッシュアップも入れておけば良いですからね。

いずれにしても、最初はメッシュが荒くてもどんどん皆で足し込んでいけばいいやと思って、ちゃんと作ろうと思いすぎない割り切りも必要です。

なお、活動を進めるにおいて、予備調査でデータから得られる情報だけではどうとでも解釈出来てしまいます。でも、皆さんは活動を推進する役割(インターナルコンサルタント的な役割)を担ってらっしゃる立場だからこそ、実際の現場からの声もインタビューやちょっとした対話の中から聴き出しやすい立場ですし、また普段自分自身も組織内に身を置くひとりとして感じる課題感もお持ちのはずなので、それらを大事にしながら、統合して課題設定することが出来ます。

自分の感覚やこうしたいという想いを信じ、仲間と共に頑張ってください。

ーありがとうございました。

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