
「部下を承認しているつもりが…」エンゲージメントサーベイで意識のギャップを自覚する意味
「個人と組織」、「個人と仕事」などとの繋がりを示すエンゲージメント。近年経営指標としても注目を集めるエンゲージメントは、1つの決まった形があるわけではなく、10の組織があれば10通りの形が存在します。このシリーズでは、エンゲージメントサーベイ「wevox」と共に組織づくりを行う企業のストーリーを通じて、様々なエンゲージメントの形を届けていきます。
今回は群馬県に拠点を置き、ヤクルト製品の販売を手がける群馬ヤクルト販売株式会社のケースを紹介します。2015年に全社横断で様々な社内プロジェクトがスタートした中、2019年よりエンゲージメント向上プロジェクトが立ち上がった同社では、若手・管理職の垣根を超えていろいろな取り組みが進められています。これまでの活動について、人材開発部部長の竹垣咲紀さんに伺いました。
「なぜこの会社で働くのか」を一度立ち止まって考える必要があった
― まずは組織の特徴から教えてください。
当社はヤクルト製品の販売会社で、群馬県前橋市に拠点を置いて群馬県内の約7割となる管轄エリアにて展開しています。いわゆるヤクルトレディーさん、当社では「ヤクルトスタッフ」と呼んでいますが、彼女たちを通した宅配事業と、スーパーやコンビニなどの店舗、学校や幼稚園などの給食、あとは自動販売機などに卸す直販事業を主に展開しています。
ヤクルトスタッフは約600人いて、その約3分の2は個人事業主です。その他に正社員が約170名おり、今回のエンゲージメント向上プロジェクトでは、今のところはその正社員を対象にしています。
― 今回はそのエンゲージメント向上プロジェクトについてお聞きしたいのですが、まずは立ち上げた背景を教えていただけますか?
発端となったのは、2015年に全社横断でいくつかのプロジェクト活動が始まったことです。その時はビジョンを作るものや、業務の仕組み化を進めるものが中心で、主に経営課題に直結するテーマを、管理職を中心に選出して進めていました。その中で、エンゲージメント向上プロジェクトは2019年度に1期目がスタートしました。

―エンゲージメントにフォーカスしたきっかけは?
当社では毎年、スローガンを掲げているのですが、2019年度のスローガンが「最高のチームを作ろう」というものでした。最高のチームを作るためにはエンゲージメントを高める必要があるのではないかということで、プロジェクトを立ち上げたのです。エンゲージメントという言葉が注目されている背景もありました。
ただ、それまではエンゲージメントという言葉はほとんど使ってはいませんでした。「モチベーション」とか「ロイヤリティ」みたいな言葉で表現していたと思いますし、組織について皆で考えたり話し合ったりすることはほとんどなかったんです。
―初めて、エンゲージメントを意識したということですね。
そうです。エンゲージメントは対仕事・対組織とあると思いますが、当社では特に会社と個人の間に生まれる「組織への自主的な貢献意欲」が重要であると捉えています。つまり、モチベーションのように個人単位のものだけではなく、会社からの働きかけで高まるエンゲージメントを意識することで生産性が上がったり、楽しくイキイキとやりがいを持って働けることにもつながると思いました。
もちろんこれまでも、漠然とした「やりがい」とか「楽しさ」はありましたが、そういうものを掘り下げてみることで、きちんと認識しながら仕事ができるかなと考えました。
あと、これは追い追いプロジェクト活動の中で調べてわかったことなのですが、若手と管理職層の間で「仕事のやりがい」のギャップがすごくあったんです。だから一度立ち止まって「なんでこの会社で働いているのか」「自分のやりがいとは何なのか」を考える機会が必要なのではないかという気持ちが根底にはあったように思います。
組織の課題を話し合い、wevoxを使って答え合わせ
― エンゲージメント向上を促すために、どういう活動を進めていったのでしょうか?
プロジェクトがスタートした時点では、まだwevoxは導入していませんでした。それもあって、まずは自分たちの組織がどういう感じなのかを、メンバーの肌感覚で話し合うところから始めたんです。1期目は管理職を中心に構成したのですが、話し合う中で上司と部下のそれぞれに課題がありそうだということが見えてきました。それが絡み合って、当社の「理念」と「行動」に何かしらのギャップが生じているのではないか?という結論が、自分たちの肌感覚で共有できたんです。
―それを踏まえてwevoxを使い始めた、と。
そうですね。wevoxで肌感覚との「答え合わせ」をする感じになったのですが、スコアを見るとやっぱり「ミッションやビジョンへの共感」はすごく高かったのですが、それ以外のところとのギャップがあることがわかりました。その中で私たちがもっとも注目したのが「人間関係」のスコアでした。基本的にはスコアは悪くはなかったのですが、その中で「仲間との関係」と「上司との関係」のスコアに少し点数の開きがあったんです。
そこから、仲は良い組織だけども、上司との関係性がうまく機能していないのかな、と考えました。ならば、そこを埋める時間を持った方がいいと考え、「1on1ミーティング」の導入を提案しました。当社では「ボイスの時間」と呼んでいるのですが、ここまでが第1期の活動ですね。
―1期目のメンバーを管理職で構成したのはどうしてですか?
エンゲージメントについての文献や書籍を読んで調べる中で、共通して書かれていたのが「エンゲージメント向上のカギは管理職にある」ということでした。やっぱり上から変わっていかないと全体に波及していかないのかな、と。それに、あくまで難しい話ではなく、自分たちの身の回りのことを共有する場だと捉えていたので、社歴も多少重ねていて会社に愛着を持っているメンバーの方が、主体的に行動してもらえるかなと思いました。
― プロジェクトはどれくらいの頻度で進めたんですか?
月2回の集まりで、1回あたり1時間半から2時間半程度です。事前に簡単な課題やテーマを伝えて、意見を持ち寄ってもらいました。1期目は12名で、2期目に入るところで若手を中心に3分の2のメンバーを入れ替えました。
上司チームと部下チームの分科会にし、それぞれが施策を検討
―2期目は1期目の活動を引き継いでスタートしたわけですね。
はい。まずは「ボイスの時間」の広報や定着させるための方法を考えるところから始まりました。同時並行で、新たな取り組みとして研修やワークショップを考えたり、wevoxで集まったコメントの共有や、「ボイスの時間」にちなんだ川柳大会みたいな楽しい企画を考えたりもしたんです。
―川柳大会、面白そうですね(笑)。研修とワークショップは、具体的にはどういうものでしょうか?
2期目からは、プロジェクトの中で上司チームと部下チームに分けて分科会にし、上司チームが「研修」を、部下チームが「ワークショップ」を、それぞれ実施することにしたんです。

その中身ですが、まず上司チームの方は「1on1ミーティングをやる側に対しての実施者研修」ということで研修を実施しました。部下がもっと「仕事のやりがい」を見つけられるように導くことが上司の役割だと考えて、上司むけに個人ワークやグループワークなどの学ぶ場を用意することが研修の狙いです。
その中で大きなテーマとなったのが「承認」でした。wevoxのスコアを分析する中でも見えてきたことだったのですが、上司側は承認できていると思っていたのに、部下からしたら実はできていなかったというのが、ギャップが生じた一つの大きな要因だったんです。
「もっと意識して承認していかなければ若手が育たない」というのがプロジェクトを通じての大きな気づきだったので、それを社内の管理職に伝えていくことも研修に盛り込みました。また、傾聴力を高めたり、実際の質問の仕方や部下に合わせた声の掛け方などをロープレしたりと、具体的な内容も盛り込んで一日がかりで実施しました。
― かなり充実した内容ですね!
今回のこの研修を、部署の仕事ではなくプロジェクトとして進めることができたことにすごく意味があったと思っています。いろんな部署の人が集まって、それぞれがやらされ仕事ではなく自分たちが考えたことをきちんと伝えようとするので、発信される情報の伝わり方、響き方が違ったと感じています。
― 部下チームの「ワークショップ」はどのようなものだったんですか?
部下チームは、同じ立場の若手社員と話し合う場を作りたいと考えてワークショップを実施しました。まずはチーム内で「やりがいを感じていない社員が多い」という課題意識を踏まえて「そもそもやりがいとは何か」みたいなリアルな意見交換をしたんです。そして、「やりがいはないわけではなく、気づく機会がなかっただけなんじゃないか」という仮説を導き、だったらそういう場を作るためにどうしたらいいのかと考えて、座談会を企画しました。

最近は何かとオンラインでのやり取りばかりで、向き合って話す時間がどうしても少なくなっていたので、この座談会に関しては対面で実施しました。10人ほどの若手の参加者を3〜4人のグループに分け、それぞれで意見交換してもらったんです。その中で、先輩社員が自分の経験として「仕事の引き継ぎや後輩の育成をする際に仕事のやりがいを感じやすかった」みたいな具体的な話が出たりして、近い立場の人同士で話すことは意味があったのかなと感じましたね。
管理職に「現実をしっかり見せる」ことが、組織改善の第一歩
―こうした取り組みを通じて、社内に変化は起こり始めていますか?
やっぱり「承認」が不足していることが明確にわかり、それを上司側がきちんと自覚できたのは大きかったと思いますね。これはwevoxで調べなかったらわからなかったことだと思います。そもそも、そういうことはできている会社だと多くの人が思っていて、でも実際のところ部下側はそうは感じてなかったわけです。そのギャップが可視化でき、対策に向けたアクションが生まれたのは良かったですね。
― 承認意識の高まりを通じて、若手社員の仕事ぶりやモチベーションなどに変化の兆しは生まれそうですか?
そこに期待していますし、変化は生まれるでしょうね。「上司がしっかり話を聞いてくれる」ということも1つの承認の在り方だと思いますし、そうしたコミュニケーションを通じて「自分のやるべきことが明確になった」という声は聞こえてきているんです。あと、嬉しかったのは「早く自分も1on1をやる側になりたい」という声。「自分もこういう風になりたい」と目標を持ったり、未来を描ける社員が育ってきているのは、すごく明るい話だなと思いましたね。
全社的にも業務の効率化や生産性の向上で以前と比べると業務時間は厳しくなっています。そんな中であっても、業務時間内のコミュニケーションは増やさないといけないんだなあとあらためて思いました。
―組織づくりにおいて「いかに管理職を巻き込むか」で苦労している会社は多いですが、今回意識したことや、何かアドバイスをいただけますか?
今回、私もそこは一番苦労したところですね(笑)。
1つ言えるのは、いかに当事者意識を持ってもらうかだと思います。そのために、最初のステップとして「まずは現実を見てもらう」のが大事なのかなと思います。スコアもそうですし、wevoxの場合はコメントがすごくリアルじゃないですか。この会社の一員としてそれを見た時に「どうにかしたいな」という気持ちが間違いなく芽生えるはずなので、その最初の意識づけが大事だと思いますね。
―「どうにかしたい」という意識は必ず芽生えるはずだと。
そう思います。そしてその後は、面倒くさがらずにしっかり議論することですね。いろんな意見が出るので、「これってまとまるのかな?」「本当に総意?」みたいに悩むことは間違いなくあると思います。でも、「これくらいでいいかな」で終わらせずに、メンバーが納得するまで話し合うこと。それができれば、あとはやるだけですから、大きな原動力が生まれると思います。
大切にする価値観や気持ちを、もっと伝え合える組織に
―今後はどのような取り組みを予定されているのですか?
7月から3期目がスタートするので、そこでは「承認」を1つのキーワードにして管理職向けに何かしらの新しい取り組みを進めていこうと考えています。まだまだ「ボイスの時間」も導入したばかりなので、粘り強く、地道に、定着に向けて活動し続けていこうと思っています。
―プロジェクトを通じて、竹垣さん自身の気づきや「やってよかった」と感じたことがあれば教えてください。
2年間リーダーをやって一番強く感じたのは、当社には「利他の心」という価値観があり、それに共感している人が集まっているのですが、あらためて「人を大事にしたい」という気持ちが強い会社であることを実感できたことです。
ただ、そう思っていたとしても、それが行動に移せていなければ、特に若手社員には伝わりません。だからこそ、せっかくあるその大切にしたい価値観を、もっと表現したり、普段の活動の中で生かして機能させていきたいと思うようになりました。
―なるほど。思っていることを伝えるための「手段」に意識が向き始めたと。
そうですね。例えば「承認」の第一歩って、「挨拶」だったり「感謝のありがとう」だったりしますよね。そうした何気ない一声を、今まで以上に伝え合える風土を作っていければ、もっともっといい会社になるんだろうなと思うようになりました。
同時に、自分が求められていることを理解して主体的に仕事ができれば、個人の成長や幸せにもつながりますし、お客様の幸せにもつながるはずです。エンゲージメントの向上をきっかけに、いろいろなことにもっと目を向けて活動を広げていければと思っています。








