
【特別公開クラスレポート】サーベイフィードバックの鍵を握る「5つの組織活動」<MIMIGURI東南 裕美氏>

立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期課程修了。立教大学大学院経営学研究科博士後期課程在籍。人と組織の学習・変容に興味を持ち、組織開発が集団の創造性発揮をもたらすプロセスについて研究を行っている。共著に『M&A後の組織・職場づくり入門:「人と組織」にフォーカスした企業合併をいかに進めるか』がある。
経営コンサルティングファームの株式会社MIMIGURIでリサーチャーを勤める東南 裕美氏登壇の特別公開クラス「サーベイフィードバックに必要な組織活動とはなにか?」。サーベイに対して、組織がしっかりとフィードバックし、改善に導く技術を意味する「サーベイフィードバック」がなぜ重要なのか、実施する際のポイントは何か。サーベイフィードバックの第一人者である経営学研究家、中原淳氏のもとで学ぶ東南さんの視点で、たっぷりと語っていただきました。
“サーベイで可視化して終わり”にしないためのサーベイフィードバック
東南:株式会社MIMIGURIという経営コンサルティングファームでリサーチャーをしている東南と申します。MIMIGURIに勤める傍で、立教大学大学院経営学研究科の博士後期課程に通い、組織開発をテーマとした研究も行っています。私が組織開発に興味を持つようになったきっかけは、組織開発が組織にとって重要な活動であると考える一方で、一部では「組織開発のための組織開発」になってしまっているケースがある点に問題意識を持ったことです。組織開発を組織が求めるような成果に繋げていくためにはどうすべきかという点がずっと気になっていましたし、どうすれば組織開発の効果性を発揮できるのかについて興味があったので、現在も研究を続けています。本日のテーマである「サーベイフィードバックに必要な組織活動」は私が現在進行形で研究している内容ですので、使えそうなものがあれば是非試していただけると嬉しいです。
そもそも、皆さんがサーベイを行う理由として最も多いのは「組織やメンバーの状態の可視化で、可視化した内容を手がかりとして組織をより良い状態に改善していくこと」だと思います。ただ、サーベイはあくまで職場や組織の状態を可視化しているにすぎないので、それだけでは組織をより良い状態にすることができません。ですので、サーベイフィードバックは、「サーベイで得られたデータを適切に現場にフィードバックして、現場の変化や職場の改善を導く技術」などと定義されています。

『サーベイ・フィードバック入門』に示されている外観図を見るとイメージしやすいと思いますが、サーベイとは、職場のエンゲージメントや満足度、ヘルススコアなど、組織の状態や課題をデータとして可視化すること、そのデータに基づき、問題の解決を目指して対話をすることをフィードバックと呼びます。ではなぜ、サーベイフィードバックが必要なのでしょうか。
サーベイフィードバックをしていないとどうなるか?
サーベイフィードバックに関する先行研究は一定程度ありますが、それほど多くありません。特に2000年代以降の研究は少ないのですが、その中でも参考になりそうな研究があるのでご紹介します。Allan H. Churchらの研究では、組織調査を行っている企業を「組織調査の結果を従業員と共有した軸」と「組織調査の結果から行動を起こした軸」により、4パターンに分類しています。

共有と行動の両方にイエスと答えているのは、サーベイの結果を共有して行動改善を行っている企業、つまりサーベイフィードバックを行っている企業です。ほかには、結果を共有はしているけれど行動はしてないパターン、結果共有はしていないけれど行動だけはしているパターン、あるいは組織調査は実施しているけれどもその結果に基づく対応は特にできていないというパターンがあります。

この研究では、各パターンと、従業員の評価との関連を調べています。この研究での「評価」とは、組織全体に対する印象や、サポートが得られていると感じているかどうか、あとは離職意向と実際に離職をしたかどうかなどを指しています。それらの評価でみたときに、一番良くなかったのは、「組織調査は実施しているけれどもその結果に基づく対応は特にできていないパターン」です。
対応が特にできていない場合に評価が低いのは容易に想像できますが、興味深いのは、組織調査の結果を共有しただけの企業は、特に対応していない企業と同じように、評価があまり良くないという結果が出ていることです。サーベイフィードバックをしている企業は最も従業員からの評価が高く、離職意向も低い傾向があります。共有はしていないけれど行動はしているパターンに関しては、「結果を共有はしているけれど行動はしてないパターン」「組織調査は実施しているけれど、その結果に対する対応は特にできていないパターン」よりもいい結果が出ています。
この結果から見えることは、サーベイフィードバックが最も効果的であるということはもちろん、調査を行うだけ、または結果を共有するだけで行動に変化がない場合はあまり好意的な印象が得られずに離職意向が高くなること、行動を起こすとよりポジティブに受け取ってもらえるということです。
従業員がPOS(知覚された組織的支援)を感じているか?
これとは別にもう1つ、最近日本でも盛んになってきている知覚された組織的支援(Perceived Organizational Support:POS)と呼ばれる概念をご紹介します。POSとは、組織が自分の貢献を評価し、ウェルビーイングを配慮してくれていると従業員が知覚していることを意味します。
POSの効果としては、組織が自分を認めてくれていると思うことによって社会的・情緒的な欲求を満たすと言われています。端的に言うと、組織に対する感謝の気持ちのようなものが従業員に芽生えてくる状態を、POSが高い状態と捉えることができます。POSが高まると、組織の目的達成のために役割として与えられている行動だけではなく、自分の役割の範囲を超えた役割外行動を行うようになります。また、職務満足度が高まったり、感情的に組織にコミットメントをする気持ちが高まったりするようになり、組織にとって有害になる行動や、離職の意思は低下すると言われています。
組織開発とPOSの関係性を示す実証的な研究があるわけではないのですが、この概念自体がとても興味深く、先ほどのChurchらの研究と併せてインプットすると、重なる部分があるようにも感じます。色々と手を尽くしても、従業員からその組織的支援を知覚されていなければ徒労に終わってしまいます。つまり、これら2つの観点での研究を鑑みると、「会社がより良い組織づくりのために行動している」と従業員に知覚してもらうことが鍵となっていると考えられます。この後の話の中でも通底するメッセージになってくるので、このことを念頭に置いてお聞きいただけたらと思います。
サーベイフィードバックに必要な5つの活動
では、ここからは具体的に、「サーベイフィードバックに必要な5つの活動」をご紹介します。

1.チームや職場メンバーが、お互いのことをより深く知れる状態をつくる
1つ目は、サーベイの結果をどう使うかの前に、チーム・職場のメンバーがお互いのことをより深く知れる状態をつくることです。「サーベイフィードバックに関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、サーベイフィードバックをする上での下地作りになる部分は非常に重要です。同じチームのメンバーの強みや興味関心のあることや今チャレンジしていること、今後の目標を他のチームメンバーが知っている状態と知らない状態では、対話をする上での差分も出てきます。
自分の意見を伝えるのが上手な人もいれば、あまり得意ではない人もいます。その方々の考えや意見を遮切らずにちゃんと聞いて、互いを理解しようと深掘りをすることが大切です。
困っていることやモヤモヤしていることも含めてキャッチできているか、振り返ってみましょう。これはサーベイを実施する前もそうですし、サーベイと並行して日常的にやっていくべき活動のひとつだと思います。

2.サーベイの結果に基づき、チームや職場に起きている課題の仮説を立てる
2つ目はサーベイの結果に基づいて課題の仮説を立てることです。結果が可視化されることがサーベイの強みですが、突出して悪い結果があるとか優れた結果があるとか、ピンときた一部のデータから安易に結論を導いたり邪推したりするのではなく、丁寧に読み解いて課題の仮説を立てることをおすすめします。気になるところがあったら、1つの視点に偏らないようにいろんな方にヒアリングをしながら仮説を立てるようにすると、仮説の精度も上がっていきます。
また、「この数値が高ければこっちの数値も高くなるはずなのに噛み合わないな」といった違和感のあるデータってありますよね。そんな時は、そこから「こういう因果関係があるんじゃないか」とか「この結果とこの結果が共にこう出ているということは…」のような形で仮説を組み立ててみると、より課題に対する見立ての精度が高まると思います。

3.サーベイ結果を伝達する際には、情報の取捨選択・伝え方に十分配慮する
3つ目は、サーベイの結果をフィードバックする際に情報の取捨選択や伝え方に十分配慮することです。項目が1つだけならまだしも、複数の項目についてそのまま全てを伝えると焦点が定まらなくなりがちです。また、「この結果から導けるのはこうです」と断定的に伝えると、「本当にそうだろうか?」と受け取り側に過剰な疑念や違和感を持たせてしまう場合もあります。
聞いた人たちが「ここが課題になっているという仮説があるのなら、自分たちも協力して組織の改善に取り組もう」と思えるような伝え方を心がけることが必要です。『サーベイ・フィードバック入門』でも、「日頃の労いを最初に伝えていますか?」という話や、まずは良いところを伝えた上で課題を伝えるやり方などが薦められています。どのような伝え方がいいかについては、伝える方々の顔を思い浮かべて考えてみるのがおすすめです。
また、課題を伝える際には、意図していなくても、特定の誰かを攻撃・非難しているように受け取られる内容がないかどうかにも注意してください。私が所属する会社はまだ規模が大きくないので、定性的に課題設定を導くことが多いのですが、同じ点を意識するようにしています。それでも、その後個別に話を聞いてみると違う意図で受け取られてしまっていたり、配慮が足らなかったと気付くことがあるので、日々試行錯誤の連続です。十分配慮して伝えつつ、気になる反応の方がいたら、どういう風に伝わったのか一人ひとりをフォローアップしていくのも良いかもしれません。

4.サーベイ結果についてチームのメンバーで話し合ってもらう。その際、“プロセス”を注意深く観察する
4つ目は、サーベイの結果についてチームのメンバーで話し合ってもらうことです。その際、場の主役は話し合っていただく方々なので、目に見えない「プロセス」を注意深く観察することが必要です。
組織開発の分野では、組織の課題を氷山に見立てていることがよくあります。組織の問題として目に見えている部分はいわゆる氷山の一角で、実際にはその下にとても深い、たくさんの問題が埋まっていることを意味します。
この目に見えている部分をコンテント、下に埋まっている部分をプロセスと呼びます。つまり、話し合いの場で話し合われているテーマや議題(=コンテント)に対して、見えていない部分である問題の真因がプロセスです。チームメンバー同士の関係性の話や、目に見えない感情的な部分なども含めてプロセスと呼ぶことができます。実際に話されている内容に注目が集まるのは当然ですし、プロセスは目に見えないため、ないがしろにされがちな部分ですが、是非注目していただきたいと思います。
例えば、いつもは発言量が多いのに今日は全然喋らない人がいないか、特定の誰かの主張に引っ張られて場が進んでいって、納得していない顔の人がいないか、集まっているメンバーからアイディアが生まれている状態なのかといったところに意識を向けてみるといいかもしれません。関係性や状況次第ですが、その場で「◯◯さんはどう思う?」と話を振ってみることも可能ですし、その場で声をかけるのが好ましくない場合は、話し合いの場が終わった後に個別で声をかけてみるのもアリだと思います。いずれにしても、まずはプロセスを観察するところから始めてみることをお勧めします。

5.チームや職場のメンバー自らが、サーベイ結果に基づく行動計画を策定・遂行できる支援をする
5つ目は、チームや職場のメンバー自らがサーベイ結果に基づく行動計画を策定・遂行できるような支援をしていくことです。組織開発はリーダーやマネージャーだけがすべきものではないですし、1人で組織開発をやっていると「こんなに頑張ってやっているのに」といった気持ちになりかねません。リーダーやマネージャーだけが担い手となり、メンバーには要望を伝えるだけになってしまうと、先程のプロセスでいうところのマネージャーとメンバーの関係性に溝がはいる可能性もあります。
1人で頑張っている時に周りを見渡してみると意外とメンバーの手が空いていることがありますし、自分ごととして捉えもらうためにも、できる限りメンバーを巻き込んでみましょう。特に、行動計画に関しては巻き込みが有効だと思います。最初にお伝えした研究の話でも、行動せずに共有しているだけでは低い結果しか出ないという内容がありました。ですから、まずは行動までやりきってみることが大事です。
行動計画を話し合う際に、話し合いのためのグランドルールを設けると意見が出しやすくなります。また、可能であれば、「何ができるか」「何をすべきか」だけではなく、「何をしたいか」といった部分も聞いてみると、メンバーの方々の衝動や、やりたいことに火がつきやすくなるかもしれません。こういった話し合いには下地作りが必要なため、1つ目にお伝えした「チームメンバー同士がお互いのことを深く分かっている状態をつくる」ことが効いてくると思います。
最後にお伝えしたいこととして、今回ご紹介した活動がどの程度できているかについては、同じ現場の中でも人によって認識が異なる可能性があります。POSにも代表されるように、リーダーやマネージャーが色々やっていてもメンバーがそれを認識していないケースもあります。1人で頑張るのではなく、みんなで良い組織をつくっていくことが認識を分かち合う上でも重要だということが、ご紹介した5つのポイントを踏まえて私が改めて感じているところです。
ありがとうございました。最後に皆さんへのメッセージをお願いします。
東南:皆さんも本当に日々試行錯誤されていることかと思います。私も同じく試行錯誤の日々です。誰かが組織づくりを1人で頑張っているような状況は生みたくないですし、皆さんと一緒にいいサーベイフィードバック活動をつくっていければと思っております。本日はありがとうございました。
※本内容は、東南・池田・中原(2024)「企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度の開発」( https://doi.org/10.15077/jjet.47116 )を元にしています。







