エンゲージメントと向き合い、美容師たちが長期キャリアを築きながら誇り高く働ける組織に

エンゲージメントと向き合い、美容師たちが長期キャリアを築きながら誇り高く働ける組織に

株式会社トミーズ・スター
山下 博和 氏
山下 博和 氏
株式会社トミーズ・スター
常務取締役

美容師として入社しサロンに勤務したのち、サロン事業の営業責任者、美容師の早期育成プログラムを全国規模で販売するエデュケーション事業の担当を経て、2018年より、介護美容事業、ブライダル事業、エデュケーション事業などサロン事業を除いた全事業を統括。

近年経営指標としても注目を集める「エンゲージメント」(いきいきと働いている心理状態)は、1つの決まった形があるわけではなく、10の組織があれば10通りの形が存在します。このシリーズでは、エンゲージメントサーベイ「Wevox」と共に組織づくりを行う企業のストーリーを通じて、様々なエンゲージメントの形を届けていきます。

今回は、東京都に本社を置き、サロン事業を始め美容に関する多様な事業を展開している株式会社トミーズ・スターのエンゲージメントストーリーをご紹介します。訪問美容事業における離職率の高さを課題に感じ、「Wevox」を導入したという山下さん。Wevoxの導入によって生まれた組織変化やエンゲージメント活動のポイントについてうかがいました。

直行直帰で働く従業員や組織の状態を把握するためにWevoxを導入

―まず、貴社の事業について教えてください。

東京都内で美容室を約18店舗展開しているほか、様々な事情によって美容室に行くことができない方を対象に、ご自宅や介護施設、障害者施設などに伺って理美容サービスを提供する訪問美容事業を手掛けています。他にも、ブライダル事業、エデュケーション事業、商品開発・販売事業など幅広く展開しています。

トミーズ・スター コーポレートサイトより
トミーズ・スター コーポレートサイトより

トミーズ・スター コーポレートサイトより

サロン以外にも多様な事業を展開しているのは、定年まで働ける会社が少ない美容業界の中で、入社した美容師の長期的なキャリアパスを用意するため。サロンで活躍した美容師が、その先のキャリアとして店長だけでなく、訪問美容やエデュケーション事業の講師なども選択肢として検討できるように複数の事業を展開しています。

―貴社は、2018年より訪問美容事業でWevoxを活用されています。どのような経緯で導入されたのでしょうか?

2018年から、私が関東、関西、九州で展開している訪問美容事業もマネジメントするようになって感じた一番の課題が、離職率の高さでした。パート勤務の従業員が多い組織で、入社3年目で離職率が高まる傾向にあったんです。

しかし、訪問美容という仕事上、直行直帰で働くのが基本なので、個々人の仕事や会社に対する思いなどを十分に把握できず、どうにかして1人ひとりの状態や、組織状態を把握する方法がないかと情報収集を重ねました。

そのときに出会ったのが、アトラエの新居代表とグロービス経営大学員講師の松林博文さんが著された『組織の未来はエンゲージメントで決まる』(英治出版)です。Wevoxを用いれば、多様な項目から組織や個々人の状態を把握できそうな点がまず魅力的でしたし、エンゲージメントを軸にすれば、組織づくりも進むのではないかと感じました。

とにかく組織や個々人の状態が分からなかったので、Wevoxの項目の中でどこが低いのかを把握して、必要な手を打っていきたいという思いでした。

2カ月ごとに全従業員でエンゲージメントへの理解を深める機会を設定

―導入はスムーズに進みましたか?

そうですね。導入に苦労した記憶はないです。エリアごとに従業員が集まる機会があるので、その場に行って目的などを説明しました。

―具体的にどのようにWevoxを活用されましたか?

幹部社員1人につき従業員5〜8人ほどでチームをつくっているのですが、最初は、幹部が毎月のサーベイ結果を見て自チームの良かった点と悪かった点を整理するとともに、それらに対する今後の行動方針をつくり、10日おきに進捗報告をする、ということを2年ほど続けました。

これにより、幹部社員自身が事業や組織について様々に考えるようになったことは、1つの成果です。

一方で、2年ほど経ったときに、「これ以上何をやればいいのか?」という状態になってきました。そんなとき、当時受講していたEngagement Run!のクラスでWevoxのスコアをより良く扱うための「組織におけるセンターピンの重要性」などについて学び、事業全体で共有する指標を決めよう、と全体の動きを少し変えました。

―どのように変えられたのでしょうか?

重要指標を「事業やサービスへの誇り」と「自己成長の支援」の2つに絞り、全体に共有し直したんです。

「事業やサービスへの誇り」は、直行直帰という仕事の仕方だからこそスコアを上げていきたいところでしたし、「自己成長の支援」は、幹部がメンバーを支援する体制を整えたいという考えから設定しました。

―この2項目のスコアを上げていくために、どのような取り組みをされましたか?

2つあります。

1つは、エリアごとに数カ月に1回、そのエリアの従業員全員で集まって行っていた全体会議を、全エリアをつないで2カ月に1回の頻度で実施する方法に変え、毎回必ずエンゲージメントへの理解を深めたり、エンゲージメント向上に資する取り組みを行ったりする時間を設けることにしました。

この形に変えてからこれまでに2回、全体会議を行っています。初回は、全員で「おばけのワーク」(※)に取り組み、行動目標や自分でできること、チームでできること、本部にお願いしたいことをそれぞれに議論・整理して決めました。

そして、その次の回で、2カ月前に決めたことが実践できたかどうかの振り返りを実施。加えて、チームごとにチーム目標も決めました。その目標の下でまた2カ月間動かしているところです。

※おばけのワーク…人間関係や職場環境、組織風土に存在している、エンゲージメント向上を邪魔する習慣や雰囲気、空気感を「おばけ」に例えて見える化し、理解や共通認識を図るワーク

―3回目の会議に向けて動く中で、従業員の皆さんに意識の変化などは見られていますか?

幹部からは、「メンバーと話し合える時間ができて良かった」という声が挙がっています。

あとは、「エンゲージメントとはお互いの関係性であって、お互いの関係性を良くしていくことで共に成長していける環境を話し合いながらつくっていこう」ということを全体会議で伝えていて、そこに向かってチームとして動き始められたかなという手応えも得ています。

ただし、これらがスコアに反映されているかというとまた別の話で、チームによってスコアにばらつきがあることが新たな課題として見えてきています。

―もう1つの取り組みは、どのような取り組みでしょうか?

「自己成長の支援」のための取り組みとして、1on1の導入を始めています。ただ、2020年秋ごろから導入できるチームから導入する形でゆるく始めたので、まだチームごとに取り組み度合いにばらつきがあるのが現状です。2カ月に1回、全体会議とは別に設けている幹部会議で、どうすれば定期的に実施できるかを話し合ったり、面談のロールプレイングに取り組んだりしながら、幹部全員が同じ意識で実践できるように動いているところです。

―Engagement Run!も受講してくださっていると聞きました。どのように活用されていますか?

Engagement Run!は2021年10月から受講していて、多いときで月に10回参加したこともあります。今も最低でも週1回は受講するようにしています。

エンゲージメントに関する様々な知識や取り組み方法についてインプットできる大事な時間ですし、Share Roomで同じような悩みを持つ様々な企業の方とも意見を交わせるのもいいですね。「この部分は絶対にうちに足りていないな」とか、他社さんで取り組んでいることについて「うちもできるかも」といったヒントをたくさん得られています。

そうしてインプットした知見は、毎月第3週目に、幹部とWevoxに関することを話し合う時間にアウトプットしています。受講内容をそのまま幹部に伝えることもあり、すごく役立っています。

エンゲージメントは、誇りを持って働ける職場をつくる指標になる

―Wevoxを導入されて3年が経過しましたが、一番の課題だった離職率に関して変化はありましたか?

離職率は下がりました。私が訪問美容事業を統括することになった当初は30名弱だった従業員数が現在は約60名と倍近くになりましたが、統括し始めて以降に入社した従業員はほとんど勤続しています。離職した従業員も、親の介護など会社がコミットできない事情による離職がほとんどで、取り組みの成果を感じます。

―離職率の低下に何が効いたと分析されていますか?

そこは悩みどころですが、要因は大きく2つあると考えています。

1つは、評価制度の導入です。これは、Wevoxの利用を始めて最初に取り組んだことなのですが、サーベイの結果として評価に対する満足度が明らかに低かったんです。そこで、半年に1回、自己評価と上司からの評価をすり合わせて、その結果に応じて時給が変動する仕組みを導入しました。

それまではパートさんたちに対する評価制度がなく、年次や勤続年数にかかわらず地域ごとに決めた時給がずっと続く給与体系でした。その状況で技術・経験面である程度できるようになってくる段階である3年目での離職率が高いということは、一定の技術・経験を得られた段階でトミーズにいる理由を会社側が構築できていないであろうことが考えられました。そして、評価に対する満足度が低いという結果が出たことから、すぐに導入したのですが、この効果が出たと感じています。

―もう1つは何でしょうか?

全体会議など、幹部に対してや美容師同士で話す場が増えたことです。それまではほぼ集まる機会がなかったので、コミュニケーション機会が増えたのは関係性の構築や相互理解につながっているのではないかと思います。

―なるほど、ありがとうございます。今後の組織づくりの展望についても教えてください。

幹部が自走できるようにしたいと考えています。今後はさらに組織を大きくしていきたいので、今は、統括する私が行っている事業経営に関する判断を、幹部に確実に下ろしていきたい。エリアごとにP/Lも出しているので、その中で幹部が自ら考え、判断して事業を進めていける組織にしたいと思っています。

―Wevoxはどのように活用していきたいとお考えですか?

美容師の仕事は完全な労働集約型で、人がすべてなので、従業員たちが事業に誇りを持ちながらきちんと働ける環境づくりをするための指標として、Wevoxはとても役立っています。

訪問美容の仕事をしていると、接した方が亡くなるということが現実に起こります。自分がその人の人生における最後の美容師になるわけですから、トミーズの一員であるという意識を前提としながら、利用される方の最後の一期一会にかかわる美容師であるという誇りを従業員1人ひとりに持ってもらいたいという思いがあります。そのための環境づくりの指標として引き続きWevoxを役立てていきたいですね。

―人がすべてという美容師の仕事において、エンゲージメントはどのような意味があるとお考えですか?

今日一番悩む質問ですね(笑)。

1つ言えるのは、多様性を理解する機会として、エンゲージメントについて考える場を活用できている実感があります。というのは、美容師には職人気質なところがあって、美容師のコミュニティにおいては、技術のある人や経験豊富な人が偉いとなりがちです。議論やワークをしても、技術のある人や経験豊富な人の意見が正しいとされてしまう。

でも、すべての場合において技術のある人や経験豊富な人が正しいというわけではないじゃないですか。そこで、議論やワークの場にWevoxのスコアを介在させることで、「そういう意見もあるんだね」「そんなふうに考えることもできるんだ」と、多様な視点を認識し、視野を広げる機会をつくることができると感じています。それが、トミーズの一員であるという意識や、仕事への誇りの意識の醸成にもつながっているように思います。

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