
「トップ層が率先してエンゲージメントと向き合わないと変化は起きない」――トレンドマイクロ執行役員が語る“強い組織”へのビジョン

2005年にトレンドマイクロ株式会社へ入社、仮想化・クラウド対応セキュリティ・標的型攻撃対策・サイバー攻撃対策コンサルティングサービスなどの立ち上げを経て、現在は日本のトレンドマイクロのセキュリティエキスパートを統括。
近年経営指標としても注目を集める「エンゲージメント」(いきいきと働いている心理状態)は、1つの決まった形があるわけではなく、10の組織があれば10通りの形が存在します。このシリーズでは、エンゲージメントサーベイ「Wevox」と共に組織づくりを行う企業のストーリーを通じて、様々なエンゲージメントの形を届けていきます。今回は、情報社会の安全を守るサイバーセキュリティのリーダー企業で、セキュリティ関連製品の開発・販売を行うトレンドマイクロ株式会社のエンタープライズSE本部のエンゲージメントストーリーをご紹介します。セキュリティエキスパート統括の新井 源杓氏を中心にWevoxの取り組みを進める同社に、導入の目的や意義、エンゲージメントが組織づくりに与える影響などについて伺いました。
サーベイの項目がマネジメントに必要な要素を網羅
―まずはWevox導入の経緯から教えてください。
発端はミドルマネジメントが機能しているかどうかを測定したいと考えたことでした。2017年頃からマネージャ向けにワークショップ形式で毎月1回トレーニングを実施し始めたのを機に、彼らのマネジメントがどのような影響を組織に与えているかを測定するツールとして、HR担当からWevoxを勧められたのです。
以前は他社のモチベーションサーベイを年2回実施したり、年1回Great Place to Work®に参加したりしていましたが、毎月のトレーニングに対してそのサイクルだと効果の具合が測りにくかったんです。その点、Wevoxは毎月簡単にサーベイができるので魅力でしたし、トライアルで使っていたマネージャたちからの反応も良く、導入を決めました。
それで、実際に本導入後に使ってみると、私が一番のヘビーユーザーになったんですよ(笑)。
―そうだったのですね!
IT企業ですし、私もエンジニア上がりなので、新しいツールには目がないんです。要するに趣味ですよね(笑)。可視化されるので、毎回データを見ながら自分たちで解釈を決めていったのですが、早い段階から「スコアを上げよう」という話はしなくなりました。高いと良いとか、低いと悪いではなく、「上がり・下がり」に注目しようと。どういう行動や出来事がそこに作用したのかをしっかり見ていこうというところに議論が落ち着きました。結局、良い行動を積み上げていけば総合値は上がるわけですからね。

―マネジメントの影響を測定する点において、Wevoxをどのように活用していただいたのでしょうか。
日本だけで230名ほどのセキュリティエンジニアがいるのですが、ミドルマネジメントが各ユニットを正しく導いてくれる状態にならないと、組織の力は上がらないと思っているんです。ミドルマネジメントが機能しているかを確認するのに、Wevoxのサーベイ項目が、ぴったりとハマっていたんです。
そもそも、マネジメントがケアしないといけない領域はすごく広いんです。トレンドマイクロとしてもサーバントリーダーシップやミドルアップダウン型のマネジメントに力を入れていますが、それらがWevoxのスコア項目において言語化されていたんです。「理念戦略」「組織風土」など大事な要素が項目別にまとめられていて、マネージャとしてケアしないといけないことが網羅されているところが使いやすかったですね。
―メンバーのエンゲージメントの測定と同時に、マネージャの育成にも使えると。
そうですね。当社のようにマネジメントラインを作っている会社だと、現場の社員はマネジメントを通して会社を見ると思います。つまり、自分のチームが会社で、マネージャが会社を現す存在だということです。マネジメント層がビジョンやミッションを体現する存在にならないと、現場の社員が会社に対して全然違うイメージを持ってしまうことにもなりかねません。
自社の現状や挑戦を、メンバーがマネージャを通して感じる事が重要です。色んな情報を伝えれば、自分がそこに貢献したいという「自分ごと感」が生まれます。メンバー自身の内側から「自分ごと感」が生まれたなら、会社と自分を隔てる心理的な障壁が消えるのでエンゲージメントが高まります。これはエンゲージメントが高いチームに共通していますね。Wevoxはマネジメントの育成に加えて、チームメンバーの会社との距離感をモニタリングできます。これが「自分ごと感」のモニタリングに近いと感じています。
ルーチンワークに組み込むことで当たり前に使うツールにする
―運用のポイントがあれば教えてください。
おそらく私が一番真面目にこのサーベイを使ってきたと思っているので、カルチャーサーベイ(※)の導入をきっかけに「Wevoxをどういうふうに使っているのか」をまとめて、現場のメンバーに見てもらおうと考えました。
※カルチャーサーベイ:Wevoxにて別途提供する組織カルチャーを計測できるサーベイ
―それは「マニュアル」としてですか?
いえ、そこまで強制的なものではなく、「読みたかったら読んでほしい」という位置付けのものです。Wevoxをどういう意図でどう使っているのか、あとは私自身がどれくらいWevoxで得られるデータを大事にしているのか、さらには、みんながこれにちゃんと答えることがどれくらい大事で、みなさん自身が環境をつくっているんだと伝えたかったんです。
Wevoxを実施する中で「トップ層が導いてくれる」と思っているメンバーもいたと思いますが、実はそうではなく、今の環境は一人ひとりの意見が反映されてこうなっているんだというのをわかってほしかった。だから、時と場合によっては面倒臭いかもしれないけど本気で回答してもらいたいんだと伝えました。

―新井さんの思いが込められているわけですね。結果としてどれくらいのメンバーが見たのですか?
最初の1週間で半数を超える120人ほどが見てくれましたね。資料ではカルチャーサーベイの結果もつけているので、それが見たかったのかもしれませんが、「データがどう活用されているのかがわかった」といった声も聞こえているので、良かったのかなと思っています。
―その他、運用で気をつけたことはありますか?
ミドルマネジメントの効果測定という目的ではあったものの、マネージャからメンバーに対しては「組織の健康診断」ということはしっかり伝えてもらいました。
スコアが低いから悪いのではなく、いろんな要因があるので総合的に判断し、主観と客観の両方で見ながら適切な組織運営をしていこうとまずはマネージャに対してしっかり伝え、それをチームメンバーに説明してもらったという流れです。
―Wevoxをマネージャ層に積極的に使ってもらうための工夫はありますか?
あえていうなら、ルーチンワークに組み込んだことですね。どんなことでも言っただけだとなかなか使ってはもらえないものです。色々なマネジメントメソッドも使わないと意味がありません。エンゲージメントサーベイが、社内ツールとして標準化されている状態にするには、日頃のルーチンに組み込むこと。そのために、私自身も自分の配下のディレクターと話す際は、Wevoxのスコアをベースに組織の健康状態について話す習慣を作りました。
―日常的に触れる習慣を作っていったんですね。
そうした中で、私自身がWevoxに対して最も効果を感じたのが、現場のメンバーと「共通言語」が持てることなんです。私はセールスエンジニア上がりなのですが、私自身が経験していない仕事の部署も見ています。そんな彼らと話す際に、エンゲージメントサーベイとその定量的なデータが共通の会話の土台になれば、自分が得意じゃないことであってもいろんな話ができるんです。1on1で押さえるべき基本的なことから、悩んでいることを掘り起こすなど、会話がしやすくなっていますね。
個人のパフォーマンスが上がれば、会社全体のパフォーマンスも上がる
―組織のエンゲージメント向上のための取り組みを「現場任せ」にしてしまう経営層も多いのが現状です。新井さんのように積極的にご活用いただくケースは少ないのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?
会社の形態や段階にもよるので、その分、経営層が事業や他のところに力を入れているということもあるかもしれません。結果、人事部に任せてしまうといったケースは確かに多いかもしれませんね。
当社の話をしますと、トレンドマイクロのカルチャーには「P=p−i」という考え方があります。これは、その人のパフォーマンスは、その人が持っているポテンシャルから妨害する要因を引いたものであるということを意味しています。となると、一人ひとりがパフォーマンスを発揮してもらうためには、妨害するものをどれくらい減らせるかがポイントになります。これはまさにエンゲージメントにかかってくる話だと思います。
個人のパフォーマンスが最大化されることで会社のパフォーマンスが最大化されるとすると、妨害する要因について徹底的に考えること、つまりWevoxで計測されるエンゲージメントスコアに目を向けることが会社の業績にも直結するということですよね。そういうカルチャーを持っているかはすごく重要なことですし、会社のカルチャーとエンゲージメントは密接に関連するものだと考えています。そして、エンゲージメントを高めていくための取り組みを、率先して考えていき、いいカルチャーをつくっていくことがトップ層には求められているのだと思います。

―コロナ禍だからこそ、大事になってくる話でもありますよね。
当社では、コロナ禍になってからすごくいろんな取り組みが始まっているんです。例えば、部門の情報発信が活発化していたり、一人ひとりの活躍が見えるようにスポットを当てる動きが増えていたり。その根底にあるのは「個々人のパフォーマンスにすごく期待している」ということと、「それをみんなにもっと知ってもらいたい」ということなんです。
―リモートワークでコミュニケーションが減るのではなく、むしろ増えているのはすばらしいですね。具体的にどういうことをしているのですか?
例えば、その月に活躍したタレントをピックアップして我々がインタビューして動画で紹介する「Player Moments」は、毎月8人取り上げて2年間で全員を紹介しようと思って進めているラジオ感覚の企画です。チャット上でも色々な話題が飛び変わっていて、すごく盛り上がっています。
エンジニアが自分たちで学びたいテーマを出して仲間を集めるテクニカルイベント「Tech JAM」や、自由なテーマで一人が15分間のライトニングトークを行う「JAM Session」は、新しいスキルや仲間を得る「場」として機能しています。オンライン朝会では、各部門の取り組みをシェアすることで部門全体の透明性を高めつつ、重要プロジェクトの成果発表を通じて暗黙知を形式知に変えようと進めています。最初は私がみんなと1対Nで対話できる機会をと思って番組を始めたんですが、そこから次々にみんなが色々なことをやり始めたんです。
大事なのは、トップ層が率先して「やり続ける姿」を見せること
―すごく理想的なカルチャーが生まれていますね。
最初はメンバーも「やっていいのかな?」という雰囲気だったんです。そういうときこそ、トップ層がまずは行動で見せてあげることが大事なのかなと思います。
こういう取り組みについて話をすると、「うちではそんなに人は集まらない」とか「やっても人が来なかったらどうしよう」みたいに言う人もいるんですが、まずは「行動を起こすこと」だと思います。それを見て自分の下のメンバーが同じような行動を起こすかもしれないですし、メンバーがリモートなどで発信し始めるかもしれません。怖がらずにやる・やり続けるということが大事で、それで現場の信頼を得ていくことだと思っています。実際は私の活動だってメンバーに影響を与えていなかったかもしれませんしね(笑)。でもトップが行動していると、同様の事を現場のメンバーがしたいと思った際の行動の障壁はいくらか取り除けるんじゃないかと信じて続けています。
―トップ層が組織づくりへの積極的な姿勢を見せていくのは大切です。最後に今後の組織づくりの展望があればお聞かせください。
世の中の流れはものすごい速さで変わっていて、どの業界においても昨日の常識があっという間に変わってしまう可能性があります。そんな中であっても、「経営側が考える戦略」と「現場が感じている肌感覚」の2つをうまく融合させていければと思っています。現場から生まれてくる形式知や暗黙知、実践知が経営側にちゃんとフィードバックされ、それがまた現場に戻っていく。そんな繋がりが実行される強い組織を目指していきたいです。
あとは、業績を上げることが先ではなく、まずは自分たちが必死に行動して実践知を積み上げ、それによって成長することでビジョンを実現し、お客様に認められる。そうやって事業が発展し、業績に繋がり、組織が回っていく…そんな形になれば、すごく理想だなと思っています。








