
現場と経営層のすれ違いを解消する、マクロとミクロの視点【Weコラム-みんなで考える組織づくり- #14】

エンゲージメント向上に必要なスタンスやマインドセットを得るための学び/クラスを主に担当。「組織開発の悩みの多くは適応課題である」という考えのもと、テクニックに頼らない組織開発の考え方や、エンゲージメントの高め方などを参加者との対話を重視したセミナーによって伝授していく。大手企業を中心に企業研修も多数手がける。
このコラムでは、Wevoxやエンゲージメントをテーマに、これまで私達が蓄積してきた知見や考えを皆さんに伝えます。ぜひ、チーム作り・組織づくり・組織開発の際の参考にしてください!
すれ違う現場と経営層の実情
Wevoxカスタマーサクセス/Engagement Run!Academy講師の平井です。
企業のエンゲージメント活動に取り組むなかで、よく見かける構図があります。それは、経営層が思い描く戦略や制度と、現場での実情が大きくズレてしまい、施策がうまく機能しないというものです。
たとえば、ある企業では「働きがいの向上」を目指して、新しい評価制度を導入しようとしていました。経営層としては、制度を整えることで、公平な評価を通じて働きがいを高めるという狙いです。
しかし、人事の人と話をしていると、「会社はそういう制度を作りっぱなしにして放置しているように見える。」という声が聞こえてきます。実際の現場では、働きがいは給与や評価だけではなく、日々の仕事への納得感や、周囲との関係性の中での小さな達成感によって支えられているケースが多いのです。
こうしたズレを放置し続けてしまうと、やがて「現場は分かっていない」「上は現場を見ていない」といった対立構造に発展してしまいます。
ズレの原因は、視点の違い
ではなぜ、ズレが生まれてしまうのでしょうか。
私は、経営層と現場の視点の違いに原因があると考えています。
経済の世界においては、マクロとミクロの両方が学問として存在しています。全体を大きな視点で捉えるマクロ経済学と、一人ひとりの行動に注目するミクロ経済学。この2つの学問では、同じ現象でも全く違うアプローチがとられていきます。
たとえば、「レジ袋の有料化」は典型的なマクロ的施策で金銭的インセンティブを通じて、全体の消費行動を変えようとするアプローチです。一方で、「マイバッグを持ち歩くことを勧めるPOPを作る」「マイカゴを売る」といった施策はミクロ的であり、個人の習慣や行動に働きかける手法です。
では、組織のエンゲージメント活動における、マクロ的な施策の具体例を挙げてみましょう。たとえば、次のようなものがあります。
評価制度の刷新
組織構造の再編成
ミッションやビジョンの再定義
社内ベンチャー制度の導入や、全社新規事業イベントの開催
これらは、組織全体に影響を与える仕組みや制度を整えることで、社員の行動や価値観を一定の方向へ導こうとするものです。経営層にとっては、数値や組織全体の傾向を見ながら意思決定をしていくため、こうしたマクロ的な施策が中心になるのは自然なことです。
一方で、ミクロ的なアプローチは、個人の感情や人間関係、日々の行動に着目したものです。例えば以下のようなものです。
ジョブクラフティング(仕事の再構築)
雑談の促進
一緒にランチを取る・飲み会を開く
1on1ミーティングでの対話の質を高める
このように、一人ひとりの納得感や信頼関係を土台にして、エンゲージメントを高めていく施策は、どちらかというと現場側で生まれやすく、実感もしやすいのが特徴です。
マクロとミクロのアプローチはどちらもエンゲージメント活動の上では欠かせないのですが、経営層がマクロの視点のみで制度を作ると、現場のミクロの施策に繋がっていきませんし、現場がミクロの視点のみで施策を行っても、組織全体のマクロの施策に繋がりません。そうして、お互いが同じエンゲージメント活動をしているにも関わらず、お互いにそのありがたみを感じられないという、すれ違いを引き起こしているのではないでしょうか。
「マクロとミクロ」両方の視点を取り入れよう
マクロは全体の方向性を示し、ミクロは個々の納得感や関係性を育む。この両輪がかみ合ってこそ、エンゲージメントは本質的に高まります。
しかし、現実にはこの2つの視点が対立することが多々あります。
経営層は普段の仕事内容からして「全体を最適化すること」がミッションですから、数字や構造に基づいて判断する場面が多くなります。そのため、現場の感情や細かな違いを“扱いにくい変数”として 「考慮に入れない、かかわらない、触らない」ものとして扱うことがあるのではないでしょうか。
一方で、現場にいる社員は、日々の仕事や人間関係のなかで感じる、「ちょっとしたズレ」や「違和感」に敏感です。しかし、それらをどう全体像と結びつければよいかが分からず、「上は何も分かっていない」と思ってしまうこともあるでしょう。
この現場と経営層のすれ違いを解消するには、お互いが一歩引いた目線でメタ的に自分を見て、マクロとミクロ、どちらかの視点に寄っていないかを自覚することが大切です。
そして、どちらかの視点に偏るのではなく、意識的にもう一方の視点を取り入れる姿勢が求められます。
たとえば、マクロ的な施策を設計する際には、「この制度が現場でどう受け止められるか?」「現場の行動変容に本当につながるか?」というミクロ視点の問いを織り込む必要があります。制度を実施したあとも、現場でアンケートを取るなり、「実施後の現場」を引き続き見ていくことも肝要です。
一方、ミクロ的な取り組みをする現場側も、「この施策を全社で展開するにはどうしたらよいか?」「他部署や他拠点とどう連携するか?」というマクロ的な思考を持つことで、経営層の支援を受けられ、結果としてエンゲージメント体感の輪を広げることにつながります。また、経営層が考える制度を軽視せず「むしろ難しいことを考えてくれている、ありがたいもの」として捉える視点でリスペクトすることが重要だと感じます。
私たちが支援している企業の中でも、うまくいっている組織は、程度の違いはあれど、このマクロとミクロについて両方を理解しようとする“橋渡し役”が存在しています。制度をつくる人と、それを現場で体現する人が、互いの視点を尊重し、翻訳し合っているのです。
エンゲージメントは、単なる制度設計や表層的なイベントだけでは高まりません。一人ひとりの実感と全体の方向性が結びついて、はじめて意味を持つものです。
ぜひ、マクロとミクロの視点で、これまでの制度を見直してみたり、これからの施策に取り組んでみてはいかがでしょうか。
一緒に組織の力を引き出していきましょう。
執筆:平井 雅史(Wevoxカスタマーサクセス/Engagement Run!Academy講師)
編集:小澤 未花/平木 美紀







