あなたは部下について、実は何も知らない?“準ビジネスの情報”という盲点【連載:マネジメントのこれまでとこれから Vol.4】
Wisdom Topics

あなたは部下について、実は何も知らない?“準ビジネスの情報”という盲点【連載:マネジメントのこれまでとこれから Vol.4】

一般社団法人チームスキル研究所
田中 信氏
田中 信氏
一般社団法人チームスキル研究所
代表理事 コ・ファウンダー

大学卒業後、芝浦工業大学大学院 工学修士課程修了。日本能率協会コンサルティングにて企業・組織の改革・改善活動の支援に関わる。専門は、研究開発、商品開発、新規事業開発、事業改革など企業・組織内での「新しい動き」をつくる活動を中心とする。また人と組織の力を最大限に引き出す支援として、キヤリアビジョン開発、コーチング、ファシリテーション、リーダーシップ、社内コンサルタント養成などのヒト系ソリューション事業を開発してきた。2009年独立。現在までエグゼクティブ・コーチング、職場開発(チームスキル)、社内改革推進者養成や内製化など企業や団体の改革を支援している。2012年一般社団法人チームスキル研究所を設立。その後、Wevox組織・人財アドバイザー、一般社団法人経営支援機構 技術顧問などを兼務。現在に至る。

マネジメントに関する本、セミナー、動画…たくさんインプットして試しているはずなのに、なぜかうまくいかない。その背景には、正解が見えない時代の中で、マネージャーに求められるスキルの多様化、複雑化があります。

そんな時代に必要なのは、1人の“完璧なマネージャー”ではなく、“チームの力で成功に導くマネージャー”です。マネージャーであるみなさんが、よりよいチームの変化を促せるように、チームスキル研究所の田中信さん(マコさん)が、「マネジメントのこれまでとこれから」を軸に実践的なスキルを解説するコラムをお届けします。

Vol.4のテーマは「部下について、実は何も知らない」です。前回(vol.3)では、無意識のうちに持っている「相手の見方」に自覚的になることの大切さをお伝えしました。今回はその見方をつくっている土台、すなわち「そもそも部下について何を知っているのか」という、もっと手前の問題に踏み込みます。

シンプルなワークで気づく「部下のことを全然知らない…」

管理職研修で、「部下の仕事ぶりだけでなく、その人が何を大切にし、どんな思いで働いているかを知っていますか?」と質問することがあります。
すると、多くの方が途端に答えに詰まってしまいます。なかには「そもそも、部下のそんな内面まで知る必要があるのでしょうか?」と、その重要性自体にピンときていない方も少なくありません。

そこで、部下の仕事の側面ではなく、“人的側面”をどれだけ知っているかを確認するために、とてもシンプルなワークを実施しています。下図を参考に、日頃付き合いのあるメンバーの名前を4人ほど書き出します。次に、それぞれの名前の横にある「仮説」という欄に、その人についての理解を書き込んでもらいます。

いざ取り組んでみると、面白いほど反応が分かれます。事実をスラスラと書ける人もいれば、「たぶんこうだろう」という曖昧なイメージしか書けない人もいます。そして多くの人が、ペンを持ったまま手が止まってしまいます。

4人全員について満遍なく書ける人はごく稀で、「Aさんのことは書けるけれどBさんのことは全く分からない」といった人による偏りや、「性格は分かるけれど、将来どうなりたいかは知らない」といった項目の偏りが浮き彫りになるのです。

頭の中では「部下のことは分かっている」つもりでも、いざ文字にしようとすると、いかに自分が曖昧なイメージしか持っていなかったかという事実が可視化されます。

昨日の商談の進み具合、今月の目標に対する達成率、抱えている案件の難易度――そうした「仕事の中身」ならいくらでも語れるのに、いざ「その人自身」について書こうとすると言葉に詰まる。

これはその人の仕事ぶりや進捗を知らないという話ではありません。問題は、「その人がいったい何者なのか」という情報を、驚くほど持っていないということなのです。

「セクハラ・パワハラになるから」という言い訳の正体

ではなぜ、私たちは部下の人的側面に関する情報を持っていないのでしょうか。多くの管理職が口にするのは、「プライベートなことを根掘り葉掘り聞くのは、セクハラやパワハラになりかねないから」という不安です。

たしかに、今の時代、部下との距離感には細心の注意が必要です。しかし多くの人は、無意識のうちに「ビジネスの話」と「プライバシーの話」の極端な2択で考えてしまい、ビジネスの話が終わると「これ以上踏み込むとプライベートになってしまうからやめておこう」と、急ブレーキをかけてしまっています。

ここで整理しておきたいのが、情報を3つに分けて考えるという視点です。

1つ目は「ビジネスの情報」。業務そのものの進捗、スキルや能力、所属する組織のことなど、仕事の遂行に直結する情報です。ここはみなさん、すでに日常的にやり取りをしています。

2つ目は「プライベートの情報」。家庭のこと、恋愛のことなど、基本的には業務で無理に踏み込む必要のない個人的な情報です。もちろん、信頼関係のなかで部下の方から共有してくれたり、本人の価値観に関わる大事な要素であったりする場合は別ですが、上司からむやみに聞き出すものではありません。

そして、この2つの間にすっぽりと抜け落ちているのが「準ビジネスの情報」です。仕事そのものではないけれど、その人と仕事を円滑に進めるために、あるいはその人がエンゲージメント高く働き、貢献度を発揮するために欠かせない情報。ビジョンや価値観、キャリアへの思い、これまでの経験から培われた強みなどがこれにあたります。

多くの管理職は、「ビジネスの情報」の話が終わると、一足飛びに「その先は全部プライバシーだから触れられない」というステレオタイプに持っていってしまいます。しかしその間には、見過ごされている広大な領域があるのです。

8割のマネージャーが「まったく分からない」

実際に研修の参加者に聞いてみると、部下がどんなビジョンを持ち、何を大切にしているかを即答できる管理職は、体感でおよそ2割程度です。残りの8割は「まったく分からない」と答えるか、想像で書いてはみるものの「本当にこれで合っているのだろうか」と自信が持てません。

なぜ、「準ビジネスの情報」を取りに行く習慣が、多くの職場から失われてしまったのでしょうか。理由は大きく2つあります。

1つは、管理職自身の経験です。今の管理職世代は、かつて自分が若手だった頃に、上司から「君はどうなりたいんだ?」「何を大切に働いているんだ?」と丁寧に聞かれた経験があまりありません。自分がされたことがないため、聞く必要性自体を知らないのです。
もう1つは、環境の変化です。かつては、仕事終わりの飲み会、休日の社内行事、あるいはオフィスでのちょっとした雑談のなかで、各自の仕事以外の姿を見る機会がありました。しかし、リモートワークの普及や働き方の変化により、そうした場は激減しました。

皮肉なことに、これだけ人的資本経営やエンゲージメント向上が叫ばれる時代になってもなお、その土台となる「相手を知る」という営みは驚くほど手薄なままなのです。

知らないままだと、何が起きるのか

「準ビジネスの情報」を持たないまま部下と接すると、何が起きるでしょうか。一番分かりやすいのは、育成や業務の割り振りが、すべて「表面的なスキル」や「上司の思い込み」ベースになってしまうことです。

その人が本当はどんな挑戦をしたいと思っているのか、どんな瞬間にやりがいを感じるのかを知らないまま、「今のスキルでできるから」「これをやらせれば成長するはずだ」という上司側の理由だけで仕事を振り分けてしまう。

結果として、本人の意欲とはズレた業務の割り振りが続き、部下の中には「自分の強みややりたいことを理解してくれていない」「ただの駒として扱われている」という静かなモヤモヤが蓄積してしまうかもしれません。

vol.2でお伝えした「コミュニケーションのレベル」で言えば、いくら熱心に「伝えた」つもりでも、相手の内面を知らないままでは、その伝え方が相手に合っているかどうかすら判断のしようがありません。

「準ビジネスの情報」の欠如は、コミュニケーションの質そのものの土台を揺るがしているのです。

これは日々の1on1にも影を落とします。話題が常に「業務の進捗確認」にとどまり、深い対話が生まれません。対話の広さや深さが失われることは、ひいてはチームの心理的安全性にも悪影響を与えます。

そして厄介なのは、こうした兆候は業務上のトラブルという分かりやすい形では現れず、ある日突然の「退職相談」という形で表面化することです。

「準ビジネスの情報」を掴むことは、今や管理職の“役割”である

だからこそ、研修でお伝えするスタンスも変わってきました。かつては「こういうことも大事にしてみてはどうでしょう」という、あくまで提案・問いかけのレベルでした。しかし今は違います。「『準ビジネスの情報』を業務時間中にきちんと入手することは、管理職の役割です」と、明確に役割として位置づけてお伝えしているのです。

かつては飲み会や社内イベントといった、業務の外側にある場で自然と得られていた情報かもしれません。しかし今の時代、そうした場だけに頼ることはできません。だからこそ、意図的に、業務時間の中に「準ビジネスの情報」を取りに行く時間を組み込む必要があるのです。

プライベートに土足で踏み込む必要はありません。ただ、部下のビジョンや価値観、強みといった「準ビジネスの情報」を知らないままでは、その人の力を最大限に引き出すことはできない。そう捉え直すことが、これからのマネジメントの出発点です。

まずは今日、あなたのチームメンバーを4人思い浮かべてみてください。その人たちが大切にしていること、これから成し遂げたいことを、あなたはどれだけ言葉にできるでしょうか。

さっそく実践!TEAM EXPERIENCEでチームを成長させよう!

本コラムで解説したマネジメントを実践し、チームにいい変化を生み出していきましょう。Wevox、マコさんの共同著書「わたしたちのエンゲージメント実践書」では、チームの変化を5段階の「TEAM EXPERIENCE」として掲載しています。

マネジメントスキルを高めた上で、チームをどのように成長させていけばいいのか?その道しるべとして、ぜひ「わたしたちのエンゲージメント実践書」をご一読ください。本コラムと掛け合わせることで、チームで成果を出せるマネージャーに大きく近づけるはずです!

[https://get.wevox.io/books/engagement-practice-book](https://get.wevox.io/books/engagement-practice-book)
https://get.wevox.io/books/engagement-practice-book

Amazonからの購入はこちら


関連イベントのご案内

「指示・調整・評価」で動かすマネジメントから、一人ひとりの力を引き出すマネジメントへ変化する今。わたしたちの在り方から見直してみませんか?

今回のコラムテーマである「これからのマネジメント」を、講義とワークでリアルに体感できる特別講座を限定開催します。
「プレイヤーとしての過去の成功法則」から脱却し、チームの力を引き出すOSへアップデートする90分。マコさんや同じ悩みを持つマネージャーたちと、これからの組織運営について語り合いましょう。

  • 日時: 2026年10月5日(月) 19:00〜21:00(講座90分+交流会30分)

  • 場所: 株式会社アトラエ オフィス
    (東京メトロ南北線・都営大江戸線「麻布十番駅」5b出口)

  • 参加費: 無料

詳細・申し込みはこちら

関連記事↓

type: embedded-entry-inline id: 1jJUq3Eo9oAVFmbyoW0QO0

type: embedded-entry-inline id: 6ef7NHQFcBamXvifeuaLQm

資料を一括ダウンロードする