
トップダウンの限界を破る!製造現場で「人」が主役になるボトムアップ型安全推進活動のプロセス【DNP出版プロダクツ #1/2】

久喜工場においてAP・安全推進グループを立ち上げ、約5年にわたり活動を牽引している。久喜工場の強みは「人」であると考え、「人が大好き」という思いを根底に持つ。活動においては、単に成果や結果を求めるだけでなく、それらに繋がるエンゲージメントや風土にも焦点を当てた仕組みを構築。

KYT(危険予知トレーニング)活動を担当し、久喜工場の安全活動の中心的な役割を担っている。日々の安全は品質や生産全体に関わる重要な要素と捉え、職場の仲間とともに活動を推進。特に、KYT活動において、KYTトレーナーのチーム「チームKYT」を結成し、そのリーダーを務める。
組織づくりをする過程で、メンバーの当事者意識と継続的な活動に課題を感じることはないでしょうか。
「組織の最大の強みは人にある」と語るDNP出版プロダクツ久喜工場は、職場主体のボトムアップ型で安全推進活動を進め、その取り組みが社内の表彰で「3冠」を獲得するという驚異的な成果をあげました。
他工場の取り組みを参考に、当初トップダウンでスタートした安全推進活動。なかなか活動が軌道に乗らない中、あるリーダーが「他人任せではダメだ。職場が主体となって、チームで取り組もう」と動き出します。その一言から、工場全体にまで輪が広がり、ボトムアップの活動がスタートし、いまでは定着しています。
この記事では、製造現場における安全活動という、全社員の参画が不可欠なテーマを切り口に、トップダウンからボトムアップスタイルへ転換し、“チーム”で安全意識と生産品質を高めたプロセスを深掘りします。
最大の強みは「人」。3年連続の社内表彰に繋がったボトムアップへの転換
—今日は、ボトムアップの安全推進活動についてお話を伺いたいと思います。製造現場において、安全性は重要な一方、全員が当事者意識を持った推進活動に難しさを感じる人も多くいるはずです。そうした方々へ参考や刺激になる体験談になるかと思います。
井上: 工場内での様々な活動を推進する、AP(アクションプログラム)・安全推進グループの井上です。私たちの経験が、少しでも多くの製造現場、工場のお役に立てればうれしいです。
私がこの推進グループを立ち上げてから、もう5年ほど経過します。私自身、本当に人が大好きで、この久喜工場の最大の強みは「人」にあると考えています。現在は、安全活動をはじめとする多様な活動を展開していますが、単に結果や成果を追求するだけでなく、そこに繋がるメンバーのエンゲージメントや、組織風土の醸成にまで広げていくような仕組みづくりを行っています。
—「人」が強みであるというお話、非常に興味深いです。その取り組みの一環として、社内賞を、3年連続で受賞されたと伺いました。
井上: ありがとうございます。大日本印刷(DNP)の社内で行われる、本年度のDNPウェルビーイング表彰の「安全」部門で受賞いたしました。一昨年は「ヘルス(健康)」、昨年は「挑戦」、そして本年度は「安全」と、3年連続での受賞となり、いわゆる「3冠」を達成しました。これらの活動は久喜工場の財産であり、宝だと思っています。

大島: KYT(危険予知トレーニング)活動を担当している大島です。2年ほど前から、職場の仲間と共にできることを作り上げていく、ボトムアップのスタイルで進めてきました。ある程度定着はしてきましたが、まだ道半ばです。KYT活動は当初トップダウンのスタイルで進めていたのですが、途中からボトムアップのスタイルへチェンジしています。こうした変遷も、参考になるのではないかと思います。
また、こうした活動は継続が非常に大事ですので、本日は私たちが日々どのように活動しているかを知っていただければ幸いです。
—具体的な活動のお話に入る前に、御社の事業内容と、この久喜工場の位置づけについて教えていただけますか。
井上: この久喜工場は、主に出版に関わる印刷を手がける工場です。みなさんが一度は目にしているであろう有名雑誌や様々な書籍がこの工場で印刷、製本されています。
特徴として、私たちは「ハイブリッド製造体制」を掲げています。何がハイブリッドかと言いますと、従来のオフセット印刷機(大量印刷向けの機械)や製本機に加え、少部数から対応できるデジタルプリンターを導入しており、その両方の製造方式をこの久喜工場に備えている点です。それらを掛け合わせることで、最適な製造をご提案しています。1部から、10万部単位の印刷までを同じ工場で手がけられるのが、私たちの強みです。
ここ久喜工場と、車で15分から20分ほど離れた白岡工場があります。主な取引先である出版社や倉庫の多くは東京北部や埼玉南部にありますので、物流の面でも決して遠くない位置に工場を構えています。
他工場の視察で生まれた「監視」頼みの安全推進活動からの変化
—久喜工場ではどの程度の人数が働いているのでしょうか?
井上: 全体で約1,000名規模の人員が作業にあたっています。
─AP・安全推進グループのこれまでの歩みと、活動の変遷について教えてください。
井上: 私たちの活動のベースにあるのは、工場全体のアクションプログラムと呼ばれる行動計画です。グループ名にあるAPとは、このアクションプログラムのことを指しています。当初、2021年にこのグループを立ち上げた際は、「人づくり(勉強会)」「安全活動」「小集団活動」という3本柱でスタートしました。当時は「安全活動」の中でも「安全パトロール(安全巡視)」などは別の部門が担当しており、3本柱をベースとした活動ながら限定的な部分もありました。

井上: 大きな転換点となったのは2023年です。コロナ禍が落ち着いた頃、「他の工場の良い活動を見てきなさい」という指示が出ました。そこで同じDNPグループの福岡工場へ視察に行き、持ち帰ったのが「グッジョブ活動」と「KYT(危険予知トレーニング)活動」という取り組みでした。
トップダウンの限界を突破した職場発信の「チームKYT」
─視察で得た「グッジョブ活動」「KYT活動」とは、具体的にどのようなものでしょうか?
井上: グッジョブ活動が始まるまで、安全活動の中心だった「安全巡視」は、どちらかと言えば監視や指摘が中心の堅いものでした。工場のメンバーからしても「ミスを指摘されないか」という思いで安全巡視を受けていたと思います。
それを福岡工場では、もっと柔らかく「ありがとう活動」のような形で行っていたんです。積極的に清掃をしてくれた人などを評価し、褒めるというポジティブな活動ですね。ミスを指摘するのではなく、いいところを褒めるという真逆の発想です。
「これは素晴らしい」ということで、私たちの工場でもグッジョブ活動という名称で取り入れようとなりました。
KYT活動も同じ福岡工場で導入されていた手法で、何か事故が起きてからの対処法を考えるのではなく、いかに事故を予防するかという視点で、常日頃から安全活動を推進する取り組みです。このKYT活動に関しても素晴らしい取り組みだということで、私たちもやってみようとなりました。
この二つの活動に関しては、本来は管轄部門が異なるものなのですが、「推進グループでぜひやってほしい」という話になり、従来の3本柱に加えてグッジョブ活動とKYT活動を新たに推進することになったのです。
─KYT活動は当初トップダウンでスタートしたとのことですが、活動初期はどのようなことをしていたのでしょうか?
井上: まずは現場の意識改革から着手しました。「福岡工場でやっている危険予知トレーニング、素晴らしいじゃないか。いい活動をやっているぞ」ということを周知し、導入の機運を高めていったんです。
活動を進めるにはリーダーとなる「KYTトレーナー」が必要です。このKYTトレーナーは、「中央労働災害防止協会」が主催する研修会に参加して、修了証をもらうことで認定されます。研修会は2日間や3日間など合宿形式で実施されます。
そこで、まずはしっかりと研修会に参加し修了証を取得できる体制を整え、工場内での勉強会を重ねていきました。
当初は、会社としてKYT活動をやるべきこととして位置づけ、勉強会を通じて社員に活動の大切さを繰り返しインプットしようとしていました。そして、トレーナー資格を取得した人が各課に戻って活動を始める、というスタイルだったんです。現場の意見を聞くというよりは、やらなければいけないこととして指示をするような、トップダウンの進め方です。
しかし、個々の課でバラバラに活動していると、どうしても途中で壁にぶつかり、活動が停滞してしまうことがありました。そこでもう一段階レベルアップするために立ち上げたのが、「チームKYT」です。このあたりから、トップダウンのスタイルから、少しずつ現場主導のボトムアップのスタイルに変わっていきます。
ここからは、実際にチームを牽引している大島リーダーに説明してもらいましょう。
危険表示が「風景」になってない? 部署を超えた「素人の目」だからこその気づき
─活動を活性化させるためのチームKYTですね。どのような経緯で結成されたのでしょうか?
大島: 私が研修会に参加しKYTトレーナーとなり、自職場で活動を始めたものの、やはり最初はなかなか活発に進まないという課題がありました。そこで、「私たちがどのように動けばいいか」をトレーナー同士で話し合えるように、まずはトレーナー資格を所有する社員で「チームKYT」を結成することにしたんです。
トレーナー同士で協力し、トレーナーである私たちが主体となって職場の改善を提案しています。例えば、大きなところでは労働災害が発生した場合の対応を変えました。以前はトップの判断に任せる部分があったのですが、チーム結成後は、災害が発生したら私たちが率先して現場へ向かい、原因究明や対策を行おうと決めたんです。

─日常的にはどのような活動を行っているのでしょうか?
大島: 「KYTの日」として月例でトレーナーが集まり、活動内容を共有・記録に残したり、現場巡回を行ったり、チームメンバーで意見を出し合う「本音トーク」という時間を取ったりと様々な活動をしています。
特に成果が上がっているのがチームで危険予知を行い、表示物(注意喚起のステッカー等)を作成する活動です。
今までも機械の回転部や高さのある場所には危険表示がありましたが、時間が経つにつれてそれが「風景」と同化してしまい、インパクトが薄れていました。そこで、作業者が見た時にハッと気づけるような、インパクトのある表示をトレーナー全員でアイデアを出し合って作り直したんです。
作成だけでなく、実際に機械へ貼り付ける作業も、トレーナーだけでなくメンバーと一緒になって行います。そうすることで、現場全体の意識を高めることにも繋がっています。
井上: 大島リーダーの話にあったように、この「助け合い」がチームKYTの最大の特徴です。各課だけでやっていると、活動報告や事故対応の資料作り一つとっても負担が大きく大変です。「じゃあ、みんなで集まって一緒に作ろうぜ」と。誰かが困っていたら、集まれるメンバーだけでいいから集まって助ける。強制ではなく、自主的に集まるスタイルだからこそ、活動が継続しています。
─チームで動くことによるメリットはどのような点にありましたか?
大島: 「現場三現主義(現場・現物・現実)」に基づき、実際に現場へ足を運ぶ回数が増えたことです。以前は、労働災害が起きても、その課内だけで類似災害の防止策を考えて終わることがほとんどでした。しかしKYTチームであれば、部署の垣根を越えて情報を共有できます。
安全活動においては、多くの意見を出し合い、方向性を決めることが重要です。各職場のトレーナーが集まり、特定の職場に偏らず、私たち自身の目で現場を見て判断する。トレーナーである私たちが動くことは非常に効果があると実感しました。
何か動かなければならないタイミングでは「緊急招集」をかけて集まり、危険予知の作業を行います。どうしても全員が集まれない場合でも、私が各トレーナーに「こういう災害が発生したので、それぞれの職場で点検してください」と依頼し、その結果をチームで共有するというスタイルで、迅速に横展開ができるようになりました。

—災害への対応を横展開することで、どのような効果があるのでしょうか?
大島: 最も大きな効果は「素人目線」を活かせる点です。私たちの工場には、大きく分けて「印刷」と「製本」という異なる工程があります。チームには両方の職場のトレーナーが在籍しているので、例えば、印刷担当のトレーナーが製本の現場を見ることができます。
普段その機械に携わっている人間は、どうしても「仕事目線」で見てしまい、危険な箇所が風景の一部になって気づきにくくなります。しかし、他部署の人間は、その機械に関しては素人であり、新入社員に近い視点を持っています。
「なぜここはこうなっているのか」「ここは危ないのではないか」という、現場の人間が慣れてしまって気づかないポイントを、新鮮な目で指摘してくれるのです。お互いに「素人の目」を持ち込むことで、今まで見落としていたリスクに気づかせてくれる。これがチーム制の最大の強みだと感じています。
次の記事はこちら↓







