
安全推進活動の答えは一つじゃないと気づいた時、「チーム=多様な意見が交わされる」の真価が発揮される【DNP出版プロダクツ #2/2】

久喜工場においてAP・安全推進グループを立ち上げ、約5年にわたり活動を牽引している。久喜工場の強みは「人」であると考え、「人が大好き」という思いを根底に持つ。活動においては、単に成果や結果を求めるだけでなく、それらに繋がるエンゲージメントや風土にも焦点を当てた仕組みを構築。

KYT(危険予知トレーニング)活動を担当し、久喜工場の安全活動の中心的な役割を担っている。日々の安全は品質や生産全体に関わる重要な要素と捉え、職場の仲間とともに活動を推進。特に、KYT活動において、KYTトレーナーのチーム「チームKYT」を結成し、そのリーダーを務める。
組織づくりをする過程で、メンバーの当事者意識と継続的な活動に課題を感じることはないでしょうか。
「組織の最大の強みは人にある」と語るDNP出版プロダクツ久喜工場は、職場主体のボトムアップ型で安全推進活動を進め、その取り組みが社内の表彰で「3冠」を獲得するという驚異的な成果をあげました。
他工場の取り組みを参考に、当初トップダウンでスタートした安全推進活動。なかなか活動が軌道に乗らない中、あるリーダーが「他人任せではダメだ。職場が主体となって、チームで取り組もう」と動き出します。その一言から、工場全体にまで輪が広がり、ボトムアップの活動がスタートし、いまでは定着しています。
この記事では、製造現場における安全活動という、全社員の参画が不可欠なテーマを切り口に、トップダウンからボトムアップスタイルへ転換し、“チーム”で安全意識と生産品質を高めたプロセスを深掘りします。
前回の記事はこちら↓

勉強会を怠らずに高いレベルの活動を維持する
—活動の輪は広がっていますか?
大島: 2023年に4人のKYTトレーナーでスタートしたこの活動ですが、将来的には2027年までにトレーナーを100名体制にすることを目指しています。印刷と製本という工程の壁だけでなく、今後は隣接する白岡工場とも連携を深めていく予定です。すでに白岡工場のトレーナーとも情報交換を始めており、少しずつ活動の輪を広げています。
ただ、規模を拡大するにあたって、新しくトレーナーになる方が戸惑わないようなフォローも必要です。そこで取り組んでいるのが、「AP勉強会」です。

—「AP勉強会」とは、具体的にどのような内容なのでしょうか?
大島: これは、知識の定着とスキルアップを目的とした段階的な勉強会です。すでにトレーナー資格を持っている人には、これまで実践したことの復習やアップデートを行い、これから資格を取る人には、研修に行く前に予備知識を入れてもらうための場として機能しています。
私自身もそうでしたが、KYT(危険予知トレーニング)について、「知っているつもり」になっているケースが非常に多いのです。多くの人は「危険の芽を見つけて摘み取る作業」だと思っているのですが、本来のKYTはそれだけではありません。「危険な箇所を見つけ、対策を考え、実行し、最終的に怪我をしない状態にする」までの一連のプロセスがKYTなのです。
単に危険を見つけるだけで終わらせず、対策まで考え抜く。研修を受けて初めてその正しい定義を理解する人も多いため、チーム活動を通じて基礎から正しい知識を共有し、全員が同じレベルで活動できるように努めています。
唱和は「フリースタイル」で。型にはめない活動がボトムアップを定着させる
—正しい知識を持つリーダーが増えることで、現場の空気も変わってきそうですね。
井上: そうですね。先ほど大島リーダーが説明したように、まずは資格を取り、勉強会で意識を高めることがスタートラインです。ただ、私たちは決して「強制」はしません。あくまで「チームでやろうぜ」という前向きな空気を大切にしています。

井上: その象徴が、各課で行っている指差呼称(唱和)のスタイルです。実は、唱和する言葉は全社で統一しておらず、各課で自由に決めていいという「フリースタイル」を採用しています。
—「フリースタイル」ですか。安全活動としては珍しい柔軟さですね。
井上: はい。「うちの課はここが弱いから、この言葉を入れよう」と、自分たちの弱点に合わせて自由にアレンジしています。
例えば、「うちの課はまだ声が小さいな、元気がないな」と感じたら、「じゃあ印刷部門の元気なメンバーを呼んできて、一緒にやってみよう」といったコラボレーションも自然発生的に生まれています。誰かに指示されたからやるのではなく、自分たちで課題を見つけ、自分たちで解決策を考える。このボトムアップのスタイルが定着してきたことで、活動のレベルが格段に上がってきました。

—安全活動が、単なる事故防止以上の効果を生んでいるように聞こえます。
井上: おっしゃる通りです。KYTは「危険予知」ですが、実は安全だけでなく「品質」の向上にも直結します。現場の皆さんもそれに気づき始めていて、安全活動に加えて品質改善の視点も盛り込んだ活動を行ってくれています。
例えば、製本の過程において乱丁(ページ順がバラバラになること)の発生は避けなければいけません。乱丁が起きた際は機械が感知し、ストップしますが、大事なのはその後のリカバリーです。これまでは、機械を止め、異常を取り除けたかの確認を一人ですることもありましたが、KYT活動をきっかけに必ず二人での指さし確認を徹底するようになりました。
これは、事故防止であると共に、製品の品質の安定性を向上するKYTでもあります。
このように、私たちが細かく指示を出さなくても、現場から「これは使えるぞ」「次はこうしたい」という声が上がりやすい環境になってきました。その起点となったのが、やはり大島リーダーたちのチーム活動です。彼らが中心となって、「やらされる活動」から「自分たちがやる活動」へと空気を変えてくれたことが、今の成果に繋がっているのだと思います。

「自分には関係ない」という人に「あなたの意見が必要だ」と粘り強く伝える
—現場の中には、こうした安全活動に対して「面倒だ」「自分には関係ない」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
大島: おっしゃる通りです。全員が最初から前向きなわけではありません。中には「KYT(危険予知トレーニング)なんて自分にはあまり関係ない」「仕事が忙しいのに」と、関心を持てない方もいます。そうした方々をどう巻き込んでいくか、あるいは意欲をどう維持してもらうかは、私たちにとっても大きな課題でした。
ただ、そこで無理やり「やれ」と押し付けても逆効果です。私たちは、そうした方々に対して、まずは個別に話を聞くようにしました。「管理職から安全の話があったと思うけれど、どう感じた?」と、あくまで同じ目線で話を聞くのです。
—対話を通じて、どのように意識を変えていくのですか?
大島: 「KYTには正解がない」ということを伝えるのが一つの鍵ですね。多くの方は、テストのように「正しい答えを出さなきゃいけない」と身構えてしまっています。でも、KYTは現状を見て、「どうすればより安全に作業できるか」を考えるプロセスそのものが大事なのです。
「自分が当事者だったらどうするか?」という視点を持ってもらうこと。もし災害に遭えば痛い思いをするのは自分です。そうした根本的な部分を粘り強く伝え、「あなたの意見が必要なんだ」というスタンスで接することで、少しずつですが理解してもらえるようになってきました。
工場での仕事というと、やることが決まっていて、それをいかに効率よくこなすかに視点がいきがちだと思います。そういう仕事において、チームは必要なのか?という疑問も出てくるかもしれません。しかし、KYTをはじめとして安全を確保し、品質を高めていくための取り組みには実は正解がない。こうした取り組みを推進していくうえで、相互に教え合い、支え合うチームの価値というものを改めて感じています。
任せることと放置することは違う「いいぞ!」と肯定する大切さ
—世代や経験による「視点の違い」が活きるときはありますか?
大島: ありますね。ベテランの方は経験豊富な分、長年の作業手順が当たり前になっていて、危険な箇所に気づきにくいということがあります。一方で若手社員は、知識はまだ浅いですが、素朴な疑問を持っています。
以前、あるテーマで話し合った際、ベテランの方には見えていないリスクを若手が指摘したことがありました。逆に、若手が的外れな対策を提案した時に、ベテランが経験に基づいて修正する場面もありました。
同じテーマでも、立場が違えば見える「危険の芽」も対策も違います。「答えは一つじゃない」ということを全員が実感できた時、世代を超えた議論が活発になり、より精度の高い安全活動に繋がっていきました。
—そうした現場の自主性を育てるために、推進グループとしてはどのようなサポートを心がけているのでしょうか?
井上: 「任せる」ことと「放置する」ことは違います。現場に「任せたよ」と言いつつも、決して投げっぱなしにはしません。後ろからしっかりと見守り、フォローすることが重要です。
私が一番意識しているのは、「結果だけでなくプロセスを褒める」ことです。活動をしていれば、必ずしもすぐに成果が出るとは限りません。それでも、皆が動いてくれたこと、考えて話し合ってくれたこと、その事実自体を「よし、いいぞ!」と肯定し、背中を押してあげる。

井上: 現場が自走し始めたら少し距離を取り、また壁にぶつかりそうになったらスッと入って一緒に考える。この「押して、引いて」のバランス感覚が、活動を継続させるためのポイントだと感じています。
ラインを止める時間は「損失」ではない。安全活動を「人的資本への投資」と捉える経営判断
—活動時間を確保するために、会社として「生産を止める」という決断をされたそうですね。
井上: はい。本部長をはじめ上層部のみなさんが、作業を止めてでも、KYT活動やその他の活動を推進する環境を整えてくれています。
会社として、生産時間を削ってでも活動の時間を確保する。これは会社による「投資」だという話を聞きました。こういった安全活動やチーム同士で話し合う活動は以前から推奨はされていたんです。それでも、どうしても工場の場合だと「時間が取れない」ことがネックになって、活動が自然消滅することがほとんどでした。
本部長自身もそういった経験をしてきたこともあり、生産を止めてでも活動をする時間を作るという形で、私たちの取り組みを支援してくれています。
大島: 現場の人間からすると、「20分、30分機械を止めてもいいから、自分たちの弱いところを補う活動をしなさい」と言ってもらえるのは、本当にありがたいことです。
かつては「生産第一」で、こういった活動は二の次という風潮もありました。しかし今は、会社が「価値のある時間を過ごしなさい」と環境を整えてくれています。だからこそ、私たちも「忙しいからできない」とは言えませんし、招集をかければ必ずメンバーが集まってくれます。
井上: 時間をかけて人を育て、安全活動を行うことで、結果的にトラブルが減り、生産が安定します。これを「損失」と捉えるか、「人的資本への投資」と捉えるか。私たちの会社は後者を選びました。
もしこの投資を止めてしまえば、安全も品質も維持できず、長期的にはコストも増大してしまうでしょう。大島リーダーのような熱意ある人材が育ち、彼らが現場を引っ張っていく今のサイクルは、会社の方針と現場の努力がうまく噛み合った結果だと思っています。
—最後に、今後の展望についてお聞かせください。
大島: KYT活動は継続することが何よりも大事です。一回やっておしまいとか、数ヶ月に一回やって意識を高める…だと意味がありません。取り組み内容は毎回違うものにする必要はなくて、同じことでもいいんです。同じことを何度も繰り返し、安全意識を体と頭に染み込ませていくことが大事なんです。この活動を日常的に当たり前に存在する、文化のようなものとして定着させていきたいですね。
井上: 私たちのAP・安全推進グループが行っているのは「人づくり」です。人を育てるために時間とコストを投資することは、結果として安全だけでなく、技術力や生産性の向上にも繋がると確信しています。
グッジョブ活動やKYT活動もそうですが、私たちは「久喜工場の強みは人である」という信念のもと、全メンバーが当事者意識を持って働ける環境づくりをこれからも推進していきます。








