社内向けの情報を社外へ!エーザイグループが取り組む、人的資本経営情報の開示とエンゲージメント推進

社内向けの情報を社外へ!エーザイグループが取り組む、人的資本経営情報の開示とエンゲージメント推進

エーザイ株式会社
三瓶 悠希氏
三瓶 悠希氏
エーザイ株式会社
グローバルHR戦略企画部 戦略グループ長

2005年入社。国内でのMR、マーケティング、グローバルの中期経営計画の立案・モニタリング、海外留学、CEO秘書などを経て、2023年より現職。同社が実施する2種類のエンゲージメントサーベイの統括や、「Human Capital Report」の編集責任者などを務めている。

徳田 泰二氏
徳田 泰二氏
エーザイ株式会社
グローバルHR戦略企画部 ディレクター

1998年入社。国内でのMR、内部監査、海外留学などを経て、2010年より人事業務に従事。2020年からはWevoxの導入・運用や、グローバルエンゲージメントサーベイの運用などにも携わっている。

 佐藤 寛子氏
佐藤 寛子氏
エーザイ株式会社
グローバルHR戦略企画部

2010年入社。国内でのMRを経て、2021年より人事業務に従事。2023年より現部署にて組織開発やWevoxの運用、グローバルエンゲージメントサーベイの運用を担当。

エーザイ株式会社では、経営戦略と連動する人的資本に関する取り組みやKPIをまとめた「Human Capital Report」を2023年から発行し、2024年度版では、Wevoxを始めとしたエンゲージメントサーベイの分析結果なども開示しています。そのねらいや、同社のエンゲージメント推進の取り組みについて、事務局の皆さんに伺いました。
※取材時(2024年9月)の部署・役職になります。

社内からも、社外からも、透明性の高い企業であると認められるために

―まずは、「Human Capital Report 2024」のテーマや発行の背景について教えてください。

三瓶:当社にとって、「Human Capital Report」の発行は2回目になります。初回は2023年で、国内外の投資家の皆さんや、社員、求職者、メディアの皆さんなど幅広い方々とのコミュニケーションをスタートしたいというねらいを持って発行しました。当社の人財情報を社外にさらけ出すことで、改善点や他社の事例など様々なフィードバックをいただき、それらを人事戦略に生かしていくというサイクルに意義を感じたのです。

実際に様々なフィードバックをいただくことができ、そのねらいは奏功したと感じています。そこで、2024年度版も発行することとしました。発行にあたり、社外の方々からのご意見をふまえて改めてレポートの位置づけを整理し、内容をブラッシュアップしています。

―どのようにブラッシュアップされたのでしょうか?

三瓶:大きく3点あります。1つめは、ターゲットです。2023年度版は幅広い読者を想定したコンテンツを用意しましたが、それだと切れ味が悪いのではないかという議論になり、社員、そして、将来エーザイで働くことを志望するような求職者をターゲットとすることとしました。

2つめは、当社が立ち向かおうとしている課題の明確化です。2023年度版に対して、「解決したい課題がはっきりと見えない」というご意見をいただいたことを重視し、2024年度版では「グローバル人事体制の強化」「イノベーションを創出する環境」「DE&Iカルチャーの浸透」「会社と社員の情報非対称性」の4つが最優先で取り組むべき課題であることを明記しました。

3つめは、グローバルの情報の充実です。グローバル企業であるにもかかわらず、2023年度版は国内の情報が中心でした。そこで、2024年度版では各リージョン・ファンクションヘッドの協力のもと、年1回のグローバルエンゲージメントサーベイの分析結果と打ち手について各リージョンならではの目線で寄稿してもらいました。

加えて、1つめのターゲットの話にもリンクしますが、国内外の役員・社員のインタビューを約50名分掲載しています。こうして、社員が「エーザイグループではこんな人も働いているんだ」「こんなキャリアが実現できるんだ」などと感じられる内容をグローバルレベルで目指しました。また、できるだけ読むハードルを下げるべく、社員の写真はスーツ姿ではなく、カジュアルな服装のものにしてフレンドリーさを感じるレポートに仕上げました。

―ターゲットを社員や求職者の方に絞ったのはなぜだったのでしょうか?

三瓶:2023年度のレポートは、社外の複数のアワードで賞をいただきましたが、半面、社内にはその内容がさほど浸透しなかったんです。今後、人を確保できない時代が必ず来ます。当社で働く優秀な人材が抜けていってしまうリスクも、新たな人を採用しきれないリスクも出てくるでしょう。そんな時代だからこそ、社員に発信したい情報をあえて社外にも公開することに意義があると考えました。社内の情報を社員に対してしっかりと開示し、かつ社外にも発信すれば、社内外から透明性の高い企業として認めてもらえるのではないかと考えました。

例えば、2024年度版では、内部通報制度に基づく1年間の調査実施件数から違反行為として認定された件数、懲戒件数まで記載しました。ネガティブに受け止められてもおかしくないデータですが、我々としては、内部通報制度がしっかりと機能していることを伝えるデータでもあるため掲載しました。

―社内外からの反響はいかがですか?

三瓶:社内においては、社内向けの特設サイトでの閲覧件数が2000件ほどに上っています。また、社員から直接もらう声は体感で99%がポジティブなメッセージです。加えて、人事異動なしに自組織外の仕事を知る社内インターンシッププログラム「EKKYO」への応募人数が、2023年度の約2倍の160名超となりました。このレポートがどこまで貢献しているかはわかりませんが、少しずつポジティブな効果が出ているのではないかと自負しています。

また、社外からもご好評をいただいています。様々なメディアからの取材依頼や、他社の方からの訪問・問い合わせなどを受けており、コミュニケーションツールとして機能し始めていることを感じます。

エンゲージメントサーベイの分析結果の開示により、社員の組織改善活動を促す

―「Human Capital Report 2024」では、御社が実施されているグローバルエンゲージメントサーベイのスコアとWevoxのスコアの高い相関性や、Wevoxの活用についても言及されています。どのようなねらいでこれらの情報を掲載されたのでしょうか?

徳田:2つのサーベイの位置づけから説明します。まず2020年4月に、エーザイ株式会社を対象に国内でWevoxを導入しました。毎月の体重測定のような位置づけで、スコアの変動や特徴をもとに各組織で対話してボトムアップで組織改善のアクションを実施し、エンゲージメントを推進させることを目的に使用しています。

その後、よりグローバルに展開しやすく、世界各地で客観的なベンチマークデータをとることができるWillis Towers Watson社のグローバルエンゲージメントサーベイを、全世界の社員向けに2022年3月に導入しました。国内ではWevoxと併用し、年1回の定期健康診断のような位置付けで、主に部門長以上の目線で組織の状態を見るところに活用しています。

2023年度末のグローバルエンゲージメントサーベイのデータをWevoxと同等の算出方式で再計算した上で両サーベイのスコアを相関分析したところ、Wevoxの総合スコアが高ければ、グローバルエンゲージメントサーベイの主要評価項目である「持続可能なエンゲージメント」のスコアも高いという相関が見られることがわかりました。

これはすなわち、Wevoxを主体としたボトムアップの組織改善活動をしっかりと実施していくことでWevoxのスコアが上がり、連動してグローバルエンゲージメントサーベイのスコアも上がっていくということです。この相関をしっかりと示したいという考えから今回のレポートに掲載しました。

―Wevoxの活用事例を掲載された背景についても教えてください。

佐藤:当社では、Wevoxのカスタムサーベイを使って組織ごとのWevoxの活用度を把握するアンケートを定期的にとっています。その結果から、スコアの共有ができていない組織や、スコアの共有や話し合いはできていても、アクションを実施するところまではできていない組織などがあり、組織によって活用度が異なっていることがわかりました。

そこで、Wevoxのスコアを活用してアクションを実施している組織の事例をHuman Capital Report 2024で共有することで、「スコアの共有→話し合いの実施→アクションの実施」というサイクルを多くの社員がイメージできることを期待しています。

―レポートには2名の組織長の方のWevox活用に関するインタビューも掲載されていました。人選の背景を教えてください。

三瓶:1人目は、2023年にアメリカ・日本で承認を得た早期アルツハイマー病治療剤「レケンビ」の国内マーケティングを統括している組織長です。彼は、新薬の普及という重責を担うがゆえに多忙な現状で、メンバーのモチベーションやエンゲージメントを保てているのか?と危惧を感じ、早い段階からWevoxの活用法の相談を寄せてくれていました。

我々との議論を経て彼が行ったのは、優先的に改善したい項目を決めた上で、グループごとに1人のメンバーをエンゲーメント担当にアサインし、改善に向けた議論や取り組みを牽引してもらうことでした。結果、メンバーが主体的に組織の課題を考え、話し合う風土が醸成され、スコアも改善させることが出来ました。このような背景を踏まえて、組織長がメンバーをオーガナイズし、エンゲージメント担当(アンバサダー)ともしっかりとコミュニケーションをとった事例として紹介しました。

2人目の組織長も、自身の管掌するグループごとに推進リーダーを選定し、改善活動を行っていました。2023年に国内の各拠点で組織長向けのワークショップを実施した際に活動の概要を知り、ぜひ紹介させて欲しいと依頼し、事例として掲載させてもらっています。

人的資本経営の推進に社員のエンゲージメントを高めることは必要不可欠

―改めて、御社がエンゲージメント推進に取り組まれている背景や理由を教えてください。

佐藤:人的資本経営を推進していく上で、社員のエンゲージメントを高めることは非常に重要なことだと位置づけています。また、魅力的な会社である上でも、社員のエンゲージメントが高い状態であることは目に見える要素として非常に大切だという考えもあります。これらの点から、当社では全社のマテリアリティ(重要課題)の一部にエンゲージメントを含めており、執行役報酬に連動するKPIも設定しています。

三瓶:当社は2022年に「会社の憲法」と言われる定款をガラッと変えたんです。大きな変更としては、顧客を「患者様とそのご家族」から「患者様と生活者の皆様」に広げました。加えて、人的資本に関する内容も変更し、従来の「安定的な雇用の確保」に加えて「人権および多様性の尊重」「自己実現を支える成長機会の充実」「働きやすい環境の整備」を追加しました。人的資本経営が叫ばれる時代において、これらの要素をしっかりと反映した企業でありたい、当社で働く社員にしっかりと報いていきたいという思いを強く反映し、投資家・株主の方々と約束したということです。

そして、エンゲージメントスコアはこれらの要素の結果指標の一つであると考えています。

―先ほどお話しいただいたように、国内の各組織では、Wevoxのスコアをもとに対話を行い、改善のアクションを実施することを促していらっしゃいます。その現状について教えてください。

佐藤:事務局からは、各組織長に毎月のサーベイ結果を元に対話の機会を設定していただきたいということを発信しています。組織の状況によって月1回の対話が難しい場合などは、数カ月に1回であっても継続することを意識してほしいと伝えています。

徳田:その上で、推進上の悩みがあれば事務局までどんどん相談してくださいと、マネージャー研修を始めいろんな場で呼びかけています。

三瓶:あとは、その月のスコアだけを見るのではなく、長期的な変動を見ましょうという話をことあるごとにしています。というのは、今の当社の課題は、Wevoxの活用やエンゲージメント推進に無関心な組織長をいかに少なくするかというところにあります。無関心の理由の一つに、スコアを見た時に全社比やベンチマーク比で「まずい!うちの組織低い!」と感じて見なかったことにしようとするマネージャーが一定数いることがあります。

まず、会社としてスコアを通知表のように扱うようなことはしないことを伝えています。その上で強くお願いしているのは、長期的な変動を見て少しでも上昇傾向が見られたら、何か良いきっかけや改善につながるアクションがあったんじゃないか?という点を議論してほしいということです。また、何か一つでも相対的に高いスコアの項目があれば、その背景についての対話から始めてほしいともお伝えしています。

―組織長の皆さんの関心を高めるために、どのような取り組みをされていますか?

佐藤:2023年度は、全国の拠点を回って計19回、組織長を対象とした「Wevoxワークショップ」を実施しました。取り組み以前は、組織長のエンゲージメントそのものに対する理解や、エンゲージメント推進に取り組む意義についての理解がまだ十分ではありませんでした。なので、ワークショップを通じて、エンゲージメントスコアと業務の生産性との相関性などのデータを示しながら説明し、意義を理解してもらいました。また、グループワークを通じて、自らアクションを考えてもらうことも行っています。

三瓶:当時は、Wevoxというツールがなんとなく良さそうだから回答はしてくれるけれど、スコアの意味や活用方法を自分の言葉で話せる人がすごく少ない状況でした。そのあたりを佐藤が中心にしっかりと説明したことで、事務局に届く質問や相談も変わってきたと感じています。

―ほかにも、ワークショップの効果を感じる点はありますか?

佐藤:各組織長は自組織のスコアのみを見られる設定にしているので、ワークショップは、隣のチームのスコアや取り組みを知り、「同じ仕事をしていてもチームによって特徴があるんだな」「自組織にはできていないことをやってるんだな」といった気づきを得る機会になったのではないかと思います。

三瓶:無関心層にとても効いたワークショップだったと思います。例えば、同じエリアの複数の組織長に集まってもらった回では、かたやWevoxをまったく活用していない組織長がいて、かたや「メンバーに毎月結果を共有すると、こういう気づきや反応をもらいますが、どうリアクションしていくといいですか?」といった高度な質問をする組織長がいる。すると、まったく活用してない組織長も「自分もやらなきゃ」と思わざるを得なくなります。間違いなく底上げに繋がっていると思いますね。

徳田:2022年度にも、組織長を対象とした機能横断的なWevoxワークショップを実施し、累計200人ほどが参加しています。ただ、その時は参加者の所属部署がバラバラだったために、情報交換はできても現場に戻ってからの実践になかなかつながりませんでした。そのため、2023年度は事業所や営業エリア単位で実施したという経緯があります。結果、お互いに状況がよく分かる人同士でよりリアルで親身な相談や意見交換ができ、近い組織で連携して取り組んでいこうという動きも出てきたので、事業所や営業エリア単位で実施する方がより効果があると感じました。

三瓶:いくつかのエリアで独自にプロジェクトを起こすケースが増えていますよね。例えば、国内営業部門の東北本部では、どのようにしてエンゲージメントを高めていくかを考えるプロジェクトが立ち上がり、事務局にいろいろな質問が来ています。また、組織長ではない準リーダークラスのメンバーを対象としたワークショップの要望をもらって実施したりもしています。ワークショップの参加者が自組織に戻って潤滑油となり、組織長に「こういうことをしましょうよ」と働きかけてくれるなどして、いい感じで対話が回ることを期待しています。

―組織長の皆さんとのコミュニケーションや施策の実施において、事務局として工夫・意識されていることがあれば教えてください。

佐藤:私が意識しているのは、納得性を高めてちゃんと腹落ちしてもらうことです。「やってください」と言うのは簡単ですが、当社の社員は皆、人がよいので、「良いスコアをつけた方がいいんじゃないか」などと忖度してしまう人が出てくる恐れがあります。そうならないように、Wevoxの活用やエンゲージメント推進に取り組むことが結果的に自分のためになることや、チームを良くすることに繋がること、また、マネジメントもしやすくなることなどをユーザー目線で伝えることを意識しています。

三瓶:先ほども話しましたが、絶対にスコアを組織長や組織の通知表とはみなさないことは口酸っぱく言っています。本来のサーベイの使い方を守るためにこの点は徹底していますし、スコアは目的ではなく議論のポイントだと私は思っています。これまで曖昧でなかなか形にならなかったものがスコア化されることで、組織内での対話を促す潤滑油になると思っています。なので、スコアの数値を見て一喜一憂するのではなく、ぜひ対話の潤滑油として使ってくださいということは、社員に強くお願いしたいです。

徳田:組織の貴重なプレイヤーであり、貢献を生み出す主役である社員1人ひとりが、「しっかりと対話することでチームとして価値を発揮できるんだ」と実感して活動していければ、個人も組織も本当に良くなっていくと思います。ただし、Wevoxを活用するだけで実現するかというとそうではありません。啓発やチームビルディングに関する施策など様々な施策に取り組みながら相乗的にエンゲージメントを推進させられればという考えで試行錯誤しています。

―では最後に、今後、目指したい組織のあり方や、事務局として挑戦していきたいことなどについて教えてください。

佐藤:建設的な議論ができる組織をつくりたいと思っています。というのも、グローバルエンゲージメントサーベイの結果から、イノベーションのスコアが他の項目に比べて低くなっており、中でも、オープンな議論がなかなかできないことが課題だと分かっています。自分に自信がなかったり、自分の意見を否定されてしまうんじゃないかと考えてしまったりして、議論を積極的にできていない組織がまだまだある状況です。

建設的な議論ができる組織となるには、オープンで透明性の高いコミュニケーションを取れる組織風土を作ることがすごく大事だと思っています。そのために、Wevoxを始めとしたあらゆる施策や取り組みを通じて、メンバー1人ひとりの意見やお互いのフィードバックを大切にできる文化を醸成していきたいです。その結果として、エンゲージメントも高まっていくのではないかと思っています。

徳田:継続的に良い対話をする組織をつくっていきたいと思っています。当社は、Wevoxを全社展開した2021年4月と同時期に、1on1の実施も全社で推進し始めました。継続的な取り組みにより1on1はだいぶ浸透してきた一方で、Wevoxを活用した対話は十分にできていない組織が少なからずあるのが現状です。組織での対話がうまくできるんだという成功体験をなるべく多くの人に味わってもらって、Wevoxを活用した対話はもちろん、そのほかの場面でも常に良い対話ができる組織をつくっていければと思います。

三瓶:少し観点がずれるかもしれませんが、私は病気をして1年半ほど休職していた時期があります。その療養期間中、社内の様々な制度に助けられましたし、CEOも含めた様々な方から励ましの言葉をいただき、当社が人の健康を本気で願う会社であることを実感しました。

ただ、その風土や充実した制度について、あまり社員に伝えられていないことが大きな課題だと思っています。だからこそ、エーザイグループの社員に、エーザイという会社をありのまま知ってもらえれば、社員のエンゲージメントは必ず上がり、エーザイがもっと素晴らしい会社になれると私は考えています。

会社の各種制度を知ったり、みんなで対話をしたり、組織を超えて議論したり、いい会社だなと実感するきっかけとなるような活動を増やすことで、結果としてエンゲージメントスコアが上がればいいと考えています。我々はそこに協力していきたいです。

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