
満足度100%の斜め1on1、アジャイル体験学習、トマト栽培——3つの実践に学ぶ「エンゲージメントセッション in DNP 2025」レポート

1989年大日本印刷株式会社 九州事業部配属。2001年営業課長、2006年営業部長、2011年ソリューション部門部長、2013年西日本エリアの働き方の変革事務局長、2016年本社労務部働き方の変革事務局リーダーを経て、2018年以降、本社価値創造推進本部にて「価値を生みだすための組織風土づくり」や、「社内DX環境づくり」に取り組んでいる。

2006年大日本印刷株式会社入社。2つの事業部で研究開発や営業企画に従事。2021年本社購買本部へ異動。調達業務を一年経験した後、2022年より購買管理部にて労務・総務を担当。現在は人的資本強化を目的に「エンゲージメント」や「人材育成」「DX推進」に取り組んでいる。

2001年、情報通信会社(後にDNP情報システムと合併)に入社。大手金融機関向けの業務システムの設計・開発に従事。2023年、ICTサービス本部の部長として、DNP社内向けサービスの開発・運用を統括。現在は人材開発部にて、全社員を対象としたIT人材育成およびキャリア自律促進施策の企画・推進を担当している。

2012年に新卒として日本ペイント株式会社に入社。入社以来技術職に従事してきたが、2021年から中央執行委員を担い、2023年より日本ペイントグループ公式コミュニティ:EFE(Engagement for Employee)の事務局に参画。労働組合の役員としては制度や賃金などの外発的要因の取り組みに携わり、EFEの事務局としてはエンゲージメントなどの内発的要因の取り組みにも興味を持ち活動している。

2015年大学卒業後、新卒として株式会社三井住友銀行に入社。2020年よりアトラエへ参画。現在はエンゲージメント解析ツール「Wevox」にて、カスタマーサクセスとして、大企業からベンチャー企業まで幅広いクライアントの組織改善に向き合っている。現在は事業部人事的な役割も担いながら社内での1on1や副業にてコーチングを実施する等、個人の支援も行なっている。
大日本印刷株式会社(DNP)による「エンゲージメントセッション in DNP」が、昨年に引き続き開催されました。会場とオンラインを合わせて約350名が参加し、「称賛と気づきの交換」をテーマに、エンゲージメント向上のための実践知を共有する場となりました。
Wevoxを運営する株式会社アトラエの魚住によるインプットセッションに加え、DNP社内から2事例、そして日本ペイントグループEFEから1事例の計3つの取り組みが発表されました。それぞれの組織が抱える課題に対し、対話やコミュニティ作りを通じてどのようにエンゲージメントを高めていったのか、具体的なプロセスと成果が語られました。
対話は「職場の霧」を晴らす手段
立野: 大日本印刷株式会社、価値創造推進本部の立野と申します。「エンゲージメントセッション in DNP 2025」として、昨年に続き本年も開催いたします。申し込みも多数あり、おそらく350名ほど参加されていると思います。
今日のスタンスは「称賛と気づきの交換」です。質問もぜひどんどん行ってください。明日以降、自社での活動の気づきになるようなことがあれば、ぜひ持ち帰ってもらいたいと思っています。
また、なぜ「エンゲージメントセッション」を行っているのかについて最初にお話しします。

DNPでは4年前からエンゲージメントサーベイを行っており、ボトムアップの活動やDVO制度(※)が機能しているチームは、エンゲージメントスコアも高い傾向にあります。課題としては、その活動をやっているところとやっていないところで、二極化してしまっている点です。その辺りの底上げをやっていきたいと考えています。
(※DVO制度……「DNP価値目標制度(DVO:DNP Value Objectives)」。組織のKPIに基づく「組織目標」と、各社員とチームの自律性・自立性を促す「チーム目標」を設定し、チームミーティング、1on1ミーティングを通して、各目標に対する進捗確認を実施するもの。)
その中でも1on1ミーティング等は製造現場でも広がっていますし、効果実感は約6割という結果も出ています。今後はどんな職場でどんな活動をして効果があったかといった情報を共有し、そこに思いを寄せる人を育てていきたいと感じています。
本日はWevoxを運営しているアトラエの魚住さんからインプットセッションをいただいた後、事例を3本紹介します。DNPからは2本、そして社外から日本ペイントグループEFEさんに来ていただいています。どんなふうに始めたか、つまずきも含めて事例をお話いただきたいと思います。
まずは魚住さん、お願いします。
魚住: 皆さんこんにちは、アトラエの魚住です。今日は3つの素晴らしい事例がメインですので、私はウォーミングアップとして少しお話しさせていただきます。

突然ですが、なぜ対話が大事なのか考えてみたいと思います。「対話をしてください」とよく言われますし、データでは対話の頻度が高いチームほどエンゲージメントが高いと言われますが、それはなぜなのか。今回、私なりの答えを持ってきました。

ここで少し考えてみてください。ある人物のエンゲージメントを上げるためのアクションプランを考えてみましょう。

「2015年入社、32歳、営業マネージャー」。この情報だけでアイデアは浮かびますか? おそらくほとんどの人が何も浮かばないと思います。
では、情報を小出しにします。「最近疲れている」「初めてのマネジメントに悩んでいる」「趣味は読書と筋トレ」「仕事はプロフェッショナルとしてこなし、世の中に価値を届けたい」。そして、この人にとってのエンゲージメントとは「仲間と切磋琢磨している時」「メンバーに感謝された時」だとします。

こうして情報が出ると、アクションプランが考えやすくなりませんか? 最初はぼんやりしていた人物像が、情報を得ることでクリアになっていきます。これが対話の重要性だと私は思っています。対話とは、個人や職場の「霧」や「モヤ」を晴らすための手段なのです。相互理解を深め、解像度を上げることで、エンゲージメントを高めやすくなる。


今日はそのような「エンゲージメントを高めやすくする」事例を3つお話いただけると思います。
立野: ありがとうございます、ではまずはDNP購買本部の伊藤さんから発表をお願いいたします。
事例1:満足度100%を記録した「斜め1on1」の仕掛け
伊藤: DNP購買本部の伊藤と申します。本日は「関係性向上とチャレンジにつながれ! 希望制&マッチング形式の斜め1on1」について紹介します。

私たちのグループは購買本部において労務・総務を担当しております。
エンゲージメント活動は2022年10月からスタート。これまで、「管理職向けのワークショップ」や、本部員の声から課題の抽出を図ろうと全本部員へのヒアリング「全国ヒアリング」を行いまして、今回の斜め1on1(※)実施に至りました。
(※ 他部署の社員や先輩など、直属の上司ではない相手と行うマンツーマンの対話)

今回、社内表彰制度の一つである「ウェルビーイング表彰」をいただいた取り組みは、従来の斜め1on1とは異なり、希望するタイミング、且つ、マッチングで斜め1on1の相手を決めるという取り組みです。

この取り組みですが、なぜしようと思ったのか?
まず、斜め1on1を企画した理由は、全国ヒアリングで「自分のグループ以外のメンバーと対話する機会が欲しい」という要望を受けたからです。
そして、なぜ「希望制かつマッチング形式」にしたのか。希望制にしたのは関係性づくりに対して自発的に行動してほしかったから、マッチング形式にしたのは「誰とマッチングするかな」と楽しんで参加してほしいという思いがあったからです。

概要ですが、目的は2つ「気づきを得る」ことと「風通しの良い風土、挑戦する風土の醸成する」ことです。期間は2ヶ月間、2025年の1月から3月の間、希望者と管理職のメンバーをマッチングさせていただきました。

マッチング方法はアプリではなくExcelの計算式を用いました。斜め1on1開始前に管理職に入力してもらった「管理職データ」と希望者が希望するタイミングで入力した「申込みデータ」を掛け合わせ、組み合わせを決定するという方法になります。
入力データは業務に関わることだけでなく「好きな食べ物」など嗜好に関する項目も入れることで気軽に参加できる状態を目指しました。

結果、申し込みは28件、満足度は100%となりました。目的は2つありましたが、目的1としていた「気づきを得る」では、「他者視点の重要性」だけでなく「自分の強み・弱み、価値観」など複数の気づきにつながりました。また、目的2の「関係性と挑戦の醸成」についても8割以上が効果を実感してくれました。



今回の取り組みのポイントは「まずやってみる」ことだと思っています。思いつきから開始まで約1ヶ月で、上司の後押しもあり、あまり危惧することなくスタートできました。
また、社内のAIサービスやPower Automateなどのツールを活用し、運営側の負荷を減らしたのもポイントです。課題は参加者の偏りと継続性ですが、現在は「必須」や「指名制」なども加えた新しい形を進行中です。

今後も、相互理解が深まり、「やりたいことをやりたいと言える」環境づくりを目指して、様々な活動を進めて行こうと思います。
立野: 発表ありがとうございます、管理職メンバーの実際の声も聞いてみましょう。当時参加された間々田さん、いかがでしたか?
間々田: 当時は大阪営業拠点の、入社6年目の女性とマッチングしました。何がマッチングしたのか今でも分かりませんが、エリアの方々の働き方や生の声が聞けて、自分にとっても非常に良い経験でした。エリアのメンバーのことも考えて施策をする上で参考になりましたね。
立野: ありがとうございます、それでは質疑応答の時間にしたいと思います。
Q: 管理職の方々への事前インプットや趣旨説明はどのように工夫されましたか?
伊藤: 2023年8月に実施した管理職向けワークショップの時点でまだこの構想はありませんでしたが、そこで「理想のチーム像」や「こういう組織を目指したい」ということ、また対話の重要性についても話をしていました。その上で、今回の実施前に説明会を行ったことで、管理職の皆様には真摯に対応していただけたのかなと思います。
Q: アンケートで相性を見立てたとおっしゃっていましたが、組み合わせを変えたいという声や、アンケート結果を運営側で変更するみたいなことはあったのでしょうか。
伊藤:変更はせず、運営側も誰と当たるか楽しみにしていました。意外な組み合わせもありましたが、「なぜこの人と?」という問い合わせには「結果がそう出ているので話してみてください」と返しました。結果として、共通点が見つかったり会話が弾んだとのことで、運営側で変更する必要はなかったと感じています。
Q: 斜めの関係で共通点も明示されていない中、どういうテーマで盛り上がったのでしょうか?
伊藤: テーマは申込み入力フォームに5つほど設定し、「話したい」「どちらでもいい」などを選べるようにしていました。ですが大半の方が「どちらでもいい」を選択しており、あまり用意したテーマは使われなかったようです。実際には趣味の話や、直属の上司には話しにくい「管理職になるためにはどうすればいいか」といった相談などで盛り上がったようでした。
立野: ありがとうございました、それでは次に、DNP情報システム 人材開発部の山田さん、お願いします。
事例2:「アジャイル体験学習」で若手の繋がりを再構築。研修後も続く関係性の作り方
山田: DNP情報システム人材開発部の山田です。本日は「対話と協働で若手社員の繋がり強化!」について紹介します。

さっそくですが、皆さんは仕事で困った時、誰に相談しますか?
上司・同僚・家族・友人、やっぱり同期かな、なんて思った方もいるのではと思います。
DNPではテレワークの普及で若手社員同士の横の繋がりが希薄になり、仕事の相談をしたい時に相談できる人が限られたり、なんとなく帰属意識が薄れたりする課題がありました。そこで、若手世代にフォーカスを当て、改めて横の繋がりを作る企画をスタートしました。テーマは「とにかく楽しく」です。コロナ禍で学生時代や入社時のイベントが減った世代に、記憶に残る時間を提供したいという想いを込めました。

取り組みは、箱根の研修施設で、部門を超えた30名の若手社員が参加する1泊2日の宿泊研修として実施しました。研修は次の3つの柱で構成しました。「コーチングスキルを活用した対話」「アジャイル体験学習による協働」「学びを定着させるバディ制度」です。

今回、コミュニケーションのツールとして、アジャイルというシステム開発の手法を用いました。アジャイルはシステム開発の手法といいつつも、お互いのコミュニケーションがとても重要になってくるものです。
そこでまず、アジャイルを通してコミュニケーションを学ぶための前段として、土台となる1対1の対話(コーチング)を取り入れました。
コーチングを活用した対話は事柄にフォーカスするのではなく、相手の背景や思いを丁寧に聴くので、相手との信頼関係を築くことができます。参加者の自己開示を促し、関係構築の土台を作りました。

次に、チームでのアジャイル体験学習です。ワークショップにゲームを取り入れ、チームでゴールを共有できているか、情報をオープンにしているか、互いの強みを認識しているかを意識するコミュニケーション方法等を学びました。これにより心理的安全性が作られ、チーム力が向上することを体験しました。

最後に、学びを定着させるための「バディ制度」です。3人1組で月に1〜2回集まり、近況や目標の進捗を話します。バディ制度の必須期間は3ヶ月としましたが、その後も続いているチームもあります。

これらの取り組みの結果として、参加者同士だけでなく仕事においてもポジティブなコミュニケーションが増え、仕事では顧客に対して自信を持って提案できるようになり、仕事以外でも同世代で気軽に相談できる関係ができました。


Wevoxのスコアでも人間関係や組織風土のポイントアップが見られました。
また行動変化としては、若手社員の外部研究活動への参加や、ボトムアップ活動の活発化も見られています。今回の企画を通じて、若手社員同士の繋がりだけでなく仕事の中でも参加者の成長が見られ、組織全体の活性化として効果を実感しました。
今後も毎年少しずつ内容を変えつつ、活気のある組織になることを目指して継続していきたいと思います。

立野: 発表ありがとうございました。では、質疑応答の時間にしたいと思います。
立野:まずは、 参加者の感想も聞いてみたいですね。実際に研修に参加した石川さんは、こちらの取り組みはいかがでしたか?
石川: 私は4年目で、コロナ禍での入社でした。今回、地方の方や先輩など様々な方と話せて繋がりが広がりました。特にバディ制度が印象に残っていて、私のチームは、今でも月に1回集まって話す関係性が続いています。たわいもない雑談や相談ができるだけでも発散できますし、学びになっています。
立野: ありがとうございます、では、質疑応答の時間にしたいと思います。
Q: プログラム完成までの経緯を教えてください。
山田: 流れとしては、まずアジャイル体験で協働関係を作りたい、そのために必要な対話スキルとしてコーチングを入れ、最後に定着のためにバディ制度を入れるというストーリーで構築しました。コーチングとアジャイルは外部の先生を呼びました。
Q: 運営で一番苦労した点は何ですか?
山田: 関係構築の場を与えた後で、どうその関係性を継続させるかという仕組み作りには苦労しました。ですから、研修の2日間でなるべく多くの人と話せる時間を持ち、自分に合いそうな人を見つけてもらう工夫をしました。
立野: ありがとうございました、それでは次に、日本ペイントグループの星野さん、お願いします。
事例3:「従業員の従業員による従業員のための活動」に学ぶ、強制しないコミュニティ運営
星野: 日本ペイントの星野と申します。私はこの会社に技術系社員として入社し、現在は労働組合の役員を担っています。本日はEFE(Engagement for Employee)という日本ペイントグループ公式社内コミュニティの事務局としてお話しします。

EFEは2021年、発起人の細山田さんから始まりました。リンカーン氏の「人民の人民による人民のための政治」をもじって、「従業員の従業員による従業員のためのエンゲージメント向上活動」としてEFEと名付けられました。私は2024年に誘われて参加し、様々な機会をいただきながら「エンゲージメントは自分の捉え方次第だ」との気づきを得ました。

活動としては、「学ぶ、つながる、行動する」をテーマに、会社での職位などによらないフラットな場を提供しています。現在、社内で約300名が利用しています。具体的には、毎月100〜150名が参加するワークショップや、組織開発、そして一見関係がなさそうな「トマト栽培」などの活動を行っています。
直近のワークショップでは「最高の休日の過ごし方」や「結局会社は思うように動かない?」などのテーマについて対話を行いました。一方、意識高い系が参加する場所と思われがちな側面もあり、私たちが行動変容人材として定義している“学ぶ、つながる、行動する”に立ち返り、その中で「つながる」に着目した活動として、カゴメ様と協創したトマト栽培を行いました。

このトマト栽培は私たちがもともと着想していたわけではなく、エンゲージメント推進活動でのご縁から実施に至ったプロジェクトであることが1つの特徴です。このプロジェクトには177名が参加し、そのうち66%がEFEの活動に初めて参加する人たちでした。満足度は高く、理由の多くはトマト栽培の楽しさでしたが、2割は「コミュニケーション・つながり」を挙げていました。ある事業会社の社長も参加し、トマトの病気について熱心に質問したり、それをきっかけに食堂で会話が生まれたりというエピソードもありました。

EFEは「学びを通じた縁:学縁」から成功体験を積み、やる気(モチベーション)・やれる気(エフィカシー)のサイクルを回すことを目指しています。私自身もこのプレゼンのために学び、行動したことで、このサイクルが回っていると実感しています。
立野:発表ありがとうございました。EFEメンバーである舘さんは、発表を聞いてみて、いかがでしょうか?
舘: 私はEFEに入って初めて星野さんと繋がり、今日星野さんが自ら手を挙げてプレゼンを学んで発表している姿を見て、あらためて影響を受けました。誰かが頑張っている姿を見て、また誰かが頑張るという連鎖がEFEから広がっていると感じます。
立野:ありがとうございます。 では、質疑応答の時間にしたいと思います。
Q: コミュニティが盛り上がっている秘訣は何でしょうか?
星野: 「強制・強要ではない」ことが一番の秘訣だと思います。強制は短期的には効果がありますが持続しません。EFEは自律分散型の組織で、意志が入った人が自主的に行動しているという点が大きいと思います。
Q: 参加者はどういう経路で増えているのですか?
星野: 最初はワークショップ中心でしたが、トマト栽培をはじめ、色々な仕掛けを作ることで、様々な方向から人を惹きつけられているのかなと思います。「学ぶ」活動から入る人もいれば、「つながる」活動から入る人もいるという形です。
Q: 若手・中堅社員に、エンゲージメントの大切さを気づいてもらうコツはありますか?
星野:「エンゲージメントはまず自分にベクトルを当てることだ」と気づく場があればよいと思います。私はアトラエさんのアカデミー(Engagement Run!Academy)を受講して、それに気づくことができました。
(Wevoxチームコメント):三者三様の発表でしたが、共通していたのは「個人の主体性」が求められるということです。ゼロから始める時の発起人の思いの強さが周囲に伝播していくのだと感じました。そして、この会場自体がエネルギーの交換の場になっていたと感じました。
自社での活動の気づきになるようなことがあれば、持ち帰って実践してみてください。








