相互理解・相互支援は「対話と感謝」が鍵。心理的安全性を高め、活発に意見が飛び交うチームに変わるまで

相互理解・相互支援は「対話と感謝」が鍵。心理的安全性を高め、活発に意見が飛び交うチームに変わるまで

大日本印刷株式会社
石川 浩二氏
石川 浩二氏
大日本印刷株式会社
技術・研究開発本部 研究開発統括室 室長

1991年にDNPへ入社。食品・日用品向けのパッケージ開発を担当後、本社でR&Dや新規事業開発を経験。多様な分野でキャリアを積んだ後、6年前より研究開発統括室に所属している。長年にわたる開発と研究の知見を活かし、同社の研究開発を牽引する。

​​加戸 卓氏
​​加戸 卓氏
大日本印刷株式会社
技術・研究開発本部 研究開発統括室 副室長

2001年にDNPへ入社。以来23年間にわたり、食品や日用品向けのパッケージ等の製品開発の業務に一貫して従事してきた。2024年10月、現在の研究開発統括室へ異動。キャリアの初期には、同じ部署の先輩であった石川氏から数年間指導を受けた。開発現場で培った豊富な経験を武器に、新たな領域での挑戦を続けている。

専門性の高いプロフェッショナルが集まるチームは、個々の能力は高い一方で、連携が希薄な「個人商店」の集まりになりがちです。チームとしての相乗効果をいかに生み出すか、頭を悩ませる管理職やリーダーが多いのは想像に難くありません。

本記事でご紹介するのは、まさにそうした課題を抱えていた大日本印刷株式会社(DNP)の研究開発統括室の事例です。かつてエンゲージメントスコアが50点台だったチームは、ボトムアップ型の目標制度を活かし、「自分らしく生きる」というチーム目標を自分たちで掲げます。この一見、業務とは離れた目標をもとに、「感謝の見える化」や「全員自己紹介」などの相互理解・支援施策を実践し、一体感のある組織へと成長を遂げました。その具体的なプロセスや、実際に起きた組織の変化とは?
※取材時(2025年10月)の部署・役職になります。

専門家集団だからこそ希薄になりがちな「横の繋がり」

—お二人の部署では、ボトムアップでチームづくりに取り組まれていると伺いました。その中で生まれた変化や具体的な取り組みについて、室長の石川さんと、副室長の加戸さんにお話を伺います。本日はよろしくお願いいたします。

石川: お願いします。我々の部署は、専門性の高いメンバーが集まり、年齢層にもばらつきがあります。そんな組織ならではの難しさや工夫について、お話できればと思います。

加戸: 私たちの経験が、少しでもみなさんのお役に立てれば幸いです。

—まず、技術・研究開発本部とは、どのような役割を担う部署なのか教えてください。

石川: 技術・研究開発本部は、直接的に利益を生み出す事業部門とは異なり、全社的な視点で戦略的に技術や研究開発を推進する部署です。本部内には、全社のICT基盤を推進する「ICT統括室」や、工場の製造技術を統括する「生産革新統括室」、あるいは環境問題に取り組む「環境推進室」など、現在8つの室があります。

私たちが所属する研究開発統括室は、その名の通りDNP全体の研究開発を統括する部隊です。研究開発に関する現状を正確に把握し、今後の会社の成長のためにどうすべきか戦略を立て、実行していく役割を担っています。

—全社の研究開発の戦略立案と実行、というと非常に広範な役割ですね。

石川: はい。直近の分かりやすい例をお話しします。数年前、DNP内で『日本の拠点だけで研究開発を行っていては、世界の動きから遅れてしまう』という課題が出てきました。そこで『海外に研究所を作る』という戦略を立て、2年ほど検討を重ねた結果、今年の9月1日にDNPとして初めての研究開発拠点をオランダに設立しました。

このように、どこで、だれが、どんな研究をするか。そうした骨子を本社組織の私たちが考え、実現させていくのがミッションです。

—なるほど。そうした全社的な役割を担うために、研究開発統括室にはどのようなメンバーが集まっているのでしょうか。

石川: 全社のことを理解する必要があるため、できるだけ多様な分野から人材を集めています。エレクトロニクス、包装、モビリティ、セキュリティなど、様々な専門分野を持つメンバーがいます。年代も、若手から豊富な経験を持つシニアまで様々です。現在、約15名のメンバーが在籍しています。

—多様な専門家が集うチームだからこそ、チーム運営における難しさもあったのではないでしょうか。今回のDVO制度(※)を活用した取り組みの背景についてお聞かせください。

※DVO制度……「DNP価値目標制度(DVO:DNP Value Objectives)」。組織のKPIに基づく「組織目標」と、各社員とチームの自律性・自立性を促す「チーム目標」を設定し、チームミーティング、1on1ミーティングを通して、各目標に対する進捗確認を実施するもの。

DVO制度はチーム力強化とマネジメント変革の取り組みに位置づけられている/DNP Integrated Report 2025(P.59)より抜粋

石川: おっしゃる通り、15名のメンバーはそれぞれがプロフェッショナルとして重要なミッションを担っています。海外の研究所設立を検討する担当、半導体分野の戦略を考える担当、オープンイノベーションを推進する担当など、テーマがそれぞれ独立しているのです。極端な話、15人いれば15の異なるテーマがある「個人商店」の集まりのようになりがちで、メンバー間の連携が希薄になるという課題がありました。

一方で、15人全員が力を合わせなければならない業務も存在します。例えば、各事業部や研究所から上がってくる情報を集約して議論したり、まだカタチになっていない技術やアイデアの種を社員同士が共有・対話するイベント『未来づくりミーティング』を主催したりといった業務です。個々のテーマは解決できても、チームとしての力がなければ、これらの業務はうまく推進できません。

実際に、以前はチームのエンゲージメントスコアも非常に低かったのです。3年ほど前は50点台、決して高いとは言えない状況でした。ベテランの声が強いと若手が萎縮してしまいますし、「自分の成果さえ出していればいい」という雰囲気では、組織全体の力は上がりません。個々の力を結集させ、チームとして機能させるために、協力し合う風土を醸成していく必要がありました。

マンダラチャートの真ん中に記した「自分らしく生きる」

—個人商店化という課題に対し、具体的にどのような取り組みを始められたのでしょうか。

加戸: まず、管理職が参加したワークショップで学んだ「マンダラチャート」という手法を、メンバー全員で実践することから始めました。これは、メジャーリーガーの大谷翔平選手が活用していたことでも話題になった目標達成の手法ですね。

—マンダラチャートはどのように作成していったのですか?

石川: 週に一度のミーティングの場で、2ヶ月近くかけてじっくり議論を重ねました。その中で、「最終的には、働く私たち自身が幸せでなければ、チームの力を良くするとか、成果を出すといったことには繋がらないのではないか」という意見が出てきました。そこから、「自分らしく生きる」という言葉をマンダラチャートの中心に据えることに決めたのです。

研究開発統括室のメンバーたちが作成したマンダラチャート(※)

※「マンダラチャート」は一般社団法人マンダラチャート協会の登録商標です
https://mandalachart.jp/

—チームを良くするための議論が、個人の幸せに行き着いた、というのは非常に興味深いです。

加戸: そうですね。「自分らしく生きる」という中心テーマから、周囲に8つの項目を書き出しました。「R&Dの風土改革」「チーム力向上」といった仕事に関わることから、「会社を知る/好きになる」、さらには「Offを満喫する」「健康増進」といったプライベートに関わることまで、多岐にわたるアイデアが出ました。

そして、それらの項目を達成するために具体的に何をすべきかを全員で書き出していくと、面白いことが分かりました。「相手の良いところを褒める」「違いを認め合う」「協力を惜しまない」「感謝を伝える」といった、人と人との関わりや支え合いに関する言葉が多く見られたのです。

これらの意見を集約し、私たちのチームが目指すアクションとして、「助け合い」「学び合い」「支え合い」という3つのキーワードを全員で決めました。マンダラチャート、そして3つのキーワードは私たちが自ら考え、設定したボトムアップ型の目標となります。DVO制度のようなボトムアップを推進する目標制度があるからこそ、考えることができたと思います。

「対話」と「感謝の見える化」がチームに好循環を生む

—「助け合い、学び合い、支え合い」という3つのアクションを、日々の業務の中でどのように実践していったのでしょうか。

加戸: 単なるスローガンで終わらせないために、具体的な活動として「助け合い、学び合い、支え合い」の実践の共有をスタートさせました。

毎週、「この1週間で、自分の強みを活かして誰かをサポートしたこと」と、「誰かに助けられて感謝したこと」を、各メンバーが日記のように「いついつ、誰々に〜」といった形で書き出します。そして、それを週に一度のミーティングで共有するのです。

—共有時間を設けて、何か印象的な出来事はありましたか?

加戸: 誰かに助けられたとき、心の中では誰もが感謝していると思います。しかし、それを改めて言葉や文字にして「見える化」することの効果は絶大でした。書いた本人は自分の行動を振り返って頭の中が整理されますし、感謝を伝えられた相手はやはり嬉しいものです。それが、「また次も誰かを助けよう」という気持ちに繋がり、チーム内に良い循環が生まれていきました。

また、この活動は心理的な安全性も高めてくれたと感じています。以前は連絡事項の伝達が中心だった週次ミーティングが、若手からベテランまで誰もが安心して意見を言える「議論の場」へと変わっていきました。

石川: そうですね。以前は一方通行な報告会のような雰囲気でしたが、今では「今日は何を相談しますか?」「何を議論しますか?」と主体的に議題を決めることがほとんどになりました。ボトムアップ目標をどうするかを決める際も、管理職はあえて口を出さず、メンバー主体で議論を進めています。若手の方が、「もっとこうしたい」という活発な意見をたくさん出してくれるようになりましたね。

成果を出すためのチームづくり。エンゲージメントはあくまで「結果」

—取り組みを通じて、チームに様々な良い変化が生まれているのですね。

加戸: はい。対話と感謝の共有を通じて、「あの人はこんな強みがあるんだ」とお互いを深く知るきっかけにもなりました。そこからさらに、「もっとお互いのことを知ろう」と、各メンバーがプライベートな趣味なども含めた自己紹介資料を作成し、改めて発表する、といった自発的なアクションも生まれたんです。

—メンバーの声をきっかけに、どんどん新しいアクションへと繋がっていくんですね。チームのいい雰囲気が伝わってくるエピソードです。

加戸: そうなんです。この自己紹介資料のおかげで、新しく入ってきたメンバーも、すぐにチームに溶け込めるようになったと思います。新しく入るメンバーが自己紹介する機会は、必ずありますが、長くいるメンバーが自己紹介する機会って案外なかったりするんです。

長くいるメンバーも1年もすれば、そのときハマっているものや、取り組んでいる仕事は大きく変わります。定期的に、全てのメンバーが自己紹介する機会をつくるのは、相互理解においてとても有効だと思いますね。

—エンゲージメントスコアにも変化はありましたか?

チーム力を高める活動は、あくまで個々の専門性とチーム力で「成果を出す」という最終目標を達成するためにあります。決して、スコアを上げればいいわけでもないですし、仲良く和気あいあいとしているだけの“緩い組織”にしたいわけではありません。働きやすい環境をつくり、チーム力を高め、成果を出した結果として、エンゲージメントスコアも上がっていく。そのように考えています。

ただ、このようなマネジメントの意識を持つようになったのは、エンゲージメントという考え方の影響は間違いなくありますね。

加戸: そうですね。私たちの組織のように、各々が異なる専門テーマを持つ個人商店の集まりだからこそ、「チーム環境を良くする」というボトムアップ目標の設定は非常に効果的だったと感じています。

これが、例えば「未来のアイデアを出す」といった“仕事に関する目標”だったら、全員が当事者意識を持って参加するのは難しかったかもしれません。

—最後に、今後の展望についてお聞かせください。このチームを、これからどのような姿にしていきたいですか?

石川: チーム力はかなり上がってきたと感じています。次のステップとしては、メンバー一人ひとりの仕事に対するモチベーションをさらに高めていきたいですね。そのために私に何ができるかを考え、昨年からメンバー全員の誕生日に手書きのメッセージを添えたプレゼントを贈っています。

これは、完全に個人的な取り組みです。上司から自分の仕事ぶりを認められたり、期待の言葉をかけてもらえたりすることが、少しでもモチベーションの向上に繋がれば嬉しいです。

加戸: 私は、この研究開発統括室が「社内で何をしている組織なのか」という認知度をもっと上げていきたいと考えています。1年前に異動してくるまで、私もこの組織が何をしているか詳しくは知りませんでした。「DNPの研究開発をより良い方向に導く専門家集団」として社内で広く認知されれば、それがメンバーのやりがいにも繋がっていくはずです。

そして、やりがいに満ちたメンバーたちが相互理解、相互支援のもとで活躍しながら、DNPにとって価値のある研究開発をどんどん生みだしていく。こうしたチームを目指して、これからも「自分らしく生きる」を真ん中に置きながら、チームづくりに取り組んでいきたいと思います。

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