「押しつけじゃない、自分たちのビジョン」 福井村田製作所がボトムアップで作った「シン・FMC計画」が生み出す“大きな夢と小さな行動変容”

「押しつけじゃない、自分たちのビジョン」 福井村田製作所がボトムアップで作った「シン・FMC計画」が生み出す“大きな夢と小さな行動変容”

株式会社 福井村田製作所
藤井 耀 氏
藤井 耀 氏
株式会社 福井村田製作所
管理部人事課

2015年、株式会社村田製作所に入社。本社人事部で組織変更や人事異動などを、株式会社伊勢村田製作所で人事制度の統合や経営理念の浸透を担当したのち、2019年より福井村田製作所へ。現部署にて採用や人材開発を担当したのち、2020年より人事制度、勤怠・給与、および組織開発を担当。

ムラタグループの新製品・新技術の開発拠点に位置づけられ、主力製品である積層セラミックコンデンサとその要素技術を応用展開したノイズ対策製品の開発から量産までを受け持っている福井村田製作所。同社は、2020年11月よりWevoxを導入し、エンゲージメント向上に取り組んでいます。その取り組みの歩みと、製造業におけるエンゲージメントの価値について、取り組みを牽引する藤井さんに伺いました。

製造部門を巻き込み、全社共通のウェルビーイングビジョンを作る

―御社は2020年11月よりWevoxを利用されています。まずは導入の経緯から教えていただけますか?

導入背景として大きかったのは、コロナ禍で社員間のコミュニケーションが減ってしまったことです。

一部の社員がリモートワークに移行したことによってコミュニケーションをとりにくい状況が起こり、若手社員の退職も見受けられるようになりました。働く幸せを考えた際に、「やりがい」と「つながり」は欠かせません。特に1年目の社員は、仕事で分からないことも多い時期ですから、「やりがい」以上に先輩や同僚との「つながり」から働く意味や目的を見出していく面があります。その「つながり」が作れない、あるいは失われつつある状況に危機感を覚えました。Iターンでやってきた社員にとっては、コロナ禍真っ只中の際には、地元に帰ることも容易ではありませんでしたから、そのような要素も拍車をかけたと思います。

製造現場においては、飲み会などによって形成されるチームビルディングがなくなったことで、業務の中で意図的なチームビルディングの必要性が高まりました。しかし、対面を禁止されたチームビルディングの訓練は積んでいませんし、効率化を追求する考え方が強い組織風土との掛け算で、コミュニケーションの希薄化が進んでいたんです。

こうした組織状態を、パルスサーベイによって見える化し、アクションに繋げていくためにWevoxを導入しました。

―Wevoxの導入後は、どのような活動をし、組織にどのような変化が生まれましたか?

各部門が当事者意識を持って、自分たちに必要な頻度でサーベイを配信し、その結果を見て自組織に必要な取り組みを進めてみましょう。気軽に測って自分たちの組織を少しでも良くしていきましょう。と、こういったスタンスで、各部の自発的な活動を促していきました。

結果、まずは会社全体に「エンゲージメント」という用語が定着していきました。「エンゲージメントを念頭に置いて活動しなきゃいけないんだな」と、各管理職が頭の隅に置いて組織運営にあたる状態が生まれたことは大きかったと思います。

他方で、Wevoxの導入によって会社として何を目指すかを整理できていなかったことが浮き彫りになってきました。それにより、管理職をはじめ各部で活動を推進している人たちの間で、徐々に「これって結局何を目指しているんだっけ?」という思いが生まれてきたんです。

加えて、スタッフ系部門の各部署が全社に向けて行う施策に重複が生じるようにもなっていました。例えば、人事が「エンゲージメント向上ワークショップ」を、健康管理系の部署は「ワーク・エンゲイジメントの高め方」という研修を行うなどです。目的は、エンゲージメント向上や健康経営、キャリア自律など主催部署によって異なるものの、受け取り手からすると、使いたい用語は同じなのに、名称が微妙に異なる、でも、似たような研修があるという状態です。これは、もう少し整理した方がいいんじゃないかという意見をもらうようになりました。

これらの背景から、弊社における「働きがい」や「働きやすさ」に関して全社共通のビジョンを作り、同じ方向を向いて施策なども整理して取り組んでいきたいと動き始めたのが、2022年の春です。そこから3カ月間ほどかけて各部門と対話しながら会社と社員のあり方など、弊社が定義する人的資本経営を1枚に言語化・ビジョン化した「シン・FMC計画」を策定しました。

―「シン・FMC計画」とは、どのようなビジョンなのでしょうか?

社員一人ひとりが、MustだけでなくWillを語れる会社と社員の「双方向的な天秤型」ウェルビーイング組織を目指すというものです。次の3点を伝えるべく、図に表現しています。

1.会社と社員が、図にある天秤のように対等に釣り合っている状態を目指すこと
2.会社で働く社員個人の「幸せ」を最上位の価値観の一つとして位置づけること
3.社員のWill(実現したいこと)と会社のWill(実現したいこと)の重なりを大きくすること(=エンゲージメント強化)で、それぞれの夢・目的の実現を目指すこと

重要なのは、会社の夢と目的だけを追求し実現することを目指したものではなく、社員と会社が共に夢と目的を実現しあう「Win-Winの関係」を目指しているということです。FMCとは、福井村田製作所の略称であり、「F(airで)M(ake happyな)C(hange, hallenge, ollaboration)」という意味も込めています。「シン」は、「新」しい福井村田、オールムラタグループの「芯」となる福井村田、常に「進」化する福井村田、と思いを込めていますが、映画にあやかって付けています。

―どのようなプロセスを経てこのビジョンを策定されたのでしょうか?

「シン・FMC計画」の図や考え方自体は、アトラエさんにも相談してご意見をたくさんいただき作成した仮のビジョンをスタッフ系部署、製造部門の順に対話の場を設けて提案し、意見をもらって肉付けしながら仲間を増やし、その上で経営会議の賛同を得たというのがおおまかな流れです。

スタッフ系部署については、まずは人事課内で、キャリア自律などエンゲージメント向上と親和性があるのにあまり連携が取れていなかった担当者や上司に声をかけて、共にビジョンを考える仲間を増やしていきました。そして、スタッフ系部署の各課から、管理職とキーマンとなるような担当者、合わせて2名ずつくらいに集まってもらって対話会を開きました。そこで、「一緒にやっていきませんか」とビジョンのたたき台を提示して意見をもらいながらある程度の形を作り、それぞれの自分のビジョンになっていった形です。その上で、製造部門に持って行きました。

弊社には5,000人を超える社員がいて、そのうち3,000人以上が製造部門で働いています。このビジョンが誰のためにあるのか?どの部門で機能しないと意味がないのか?と考えると、製造部門とも協力をしながら作っていくことは必須でした。

製造監督の協力を得るために何度も対話を重ねる

―製造部門のみなさんとは、どのようなコミュニケーションをとられましたか?

まずは製造部門の管理職と対話会を行ってビジョンについて説明しました。そして、このビジョンに共感してくれそうで、かつ、このビジョンを体現しているような現場レベルの監督者を紹介してほしいとお願いしました。

現場の作業者にとって、半径5m以内にいる上司は管理職ではなく製造監督です。製造監督が、「このビジョンいいな」「皆と一緒にやっていこう」とならない限り、現場の作業者には絶対に広がらないため、製造監督がセンターピンだと考え、人選をお願いしました。

結果、40人くらいの製造監督を紹介してもらうことができ、その人たちと集中的に対話会を行いました。

―製造監督のみなさんからは、ビジョンに対してどのような反応がありましたか?

最初は否定的な意見が多かったです。これまで弊社は、会社の目標に基づいた経営から現場への一方向的なピラミッド型組織でした。そのため、「トップダウンで明確な指示のもと製品を作っていくメーカーにおいて、社員と会社が対等にあるようなビジョンは想像できない」「従業員に幸せを提供するということは、ワガママな従業員を増やすことになるのではないか?」そんな反応がありました。

―その状態から、どのように合意を得ていかれたのですか?

とにかく、対話の機会を何度も設けたことです。それから、当初は「このビジョンを承認してくれませんか?」と働きかけていたのを、「一緒に作りましょう」「みなさんと共に考えないとダメなんです、助けてください」といった同じ目線に立つアプローチに変えました。

対話会は、多いときで月に5回くらい設けました。一度は、ほぼ白紙の状態で対話をする回を設けたこともあったんです。そこである製造監督の方が言ってくださったのが、「現場のメンバーが、自分たちにメリットがあると思えるビジョンを作れれば、押しつけじゃない自分たちのビジョンになっていくかもしれないね」という言葉です。その言葉に共感を示す製造監督も何人かいらっしゃいました。

「ということは、会社と社員は対等な関係性を築き、天秤のように釣り合っている状態が理想。そして、ただ釣り合っているだけじゃなくて、会社は社員に自己実現の場を提供し、同時に、社員1人ひとりは会社に対して自ら選んで自ら貢献するというWin-Winの構図を作る。これができれば、社員にとってもポジティブだし、会社にとっても目的の実現に繋がりますよね」と機を逃さずに、当初まとめていたビジョンの話をしたんです。すると、徐々に多くの人が納得してくれるようになり、「このビジョンでいこう」という気運が高まりました。

―そうして最終的な形ができたあと、経営層からの賛同はスムーズに得られましたか?

策定までのプロセスも含めて説明したところ、「皆が協力して一緒に作っているのであればいいかもね」と、比較的スムーズに賛同を得られました。一番理解を得たいと思っていた社長と管理部長には、早い段階からビジョン策定の意図などを共有していたこともあって、受け止められやすい土台があったように思います。あとは、何よりその場に一緒に登壇した人事課の仲間の熱量が突き動かしたと確信しています。

製造現場への浸透のために、製造監督の行動モデルを構築

―2022年8月に「シン・FMC計画」が承認されましたが、このビジョンの実現と社内への浸透のためにどのようなアプローチをされていますか?

まだまだ道半ばですが、まず行ってきたのが、策定段階で対話会を重ねていた製造監督者約40名との、3カ月に1回の対話会です。シン・FMC計画の実現には、管理・監督者層がメンバーの思いや自律を引き出しながら、自身の思いや会社の状況を自分の言葉でしっかりと伝えていくWin-Winのマネジメントが重要です。その上で、シン・FMC計画を体現していきたいと、まずはこの40名をファーストメンバーとして対話会を重ねてきました。

そして今、同じような管理・監督者層からセカンドメンバー、サードメンバーと広げていこうとしている状況です。

―対話会ではどのようなテーマで対話をされているのでしょうか?

40名に対する個別インタビューをもとに構築した「シン・FMC計画を体現する行動モデル」をまとめた冊子を共有し、自分は何を実践するか、それを実践してどうだったかということを3カ月ごとに振り返り、次の行動を考えるような対話を行っています。

私たちはシン・FMC計画を体現するマネジメントを「メンバーの思いと自律を引き出して、自らの思いや会社の状況を自分の言葉で語るWin-Winのマネジメント」と定義しています。とはいえ、管理・監督者層からすると、具体的な行動として何から始めればいいかわからないですよね。そこで、40名がそれぞれ職場でどのような行動をとっているのか、シチュエーションごとにヒアリングし、それらをコンピテンシー分析して、行動モデルを50個ほど構築したのです。

例えば、インタビューをしてわかったのが、毎日1時間、必ず現場を回って雑談する時間を確保している製造監督が40名中30名くらいいました。製造業において製造監督が現場を回って雑談をするのは当たり前のことで、皆その重要性は認識しています。しかし実際は、実務に追われてできていない人もいるため、40名中30名は予定に入れてやってるんだということがわかれば、行動が促されますよね。「同じような状況でも実際にやっている人がいるんだ…!」と。そんな、行動内容の解像度を高めていくような冊子を作り、皆で実践と振り返りをしています。

―製造監督のみなさんの行動には、どのような変化が生まれていますか?

行動がものすごく変わりましたね。例えば、先日の対話会では、「メンバーにもっと考えてほしい、もっと提案してほしいと思いながらも、自分がメンバーに考える余白を作らせずに解を渡してしまっていたことがわかった。時間がかかることもあるけれど、すぐに解を出すのではなく2往復くらいはやりとりをしようと心掛けるようになった」といった話が聞けて、行動変容に繋がってきていることを実感しました。

こうした変化を継続的に生み出すために、対話会や、シン・FMC計画の体現者のノウハウの型化と教育機会の提供は、力を入れてやっていきたいと思っています。

―他にも取り組まれていることはありますか?

人事課の中で、シン・FMC計画を体現するために必要な施策の検討・整理と実行を行っています。シン・FMC計画では、「キャリア自律」「社是共感」「心理的安全性」など6つの強化していく大切な「枝」と呼んでいるテーマがあります。この6つの枝について、それぞれ施策プロジェクトを作り、「マネジメント層」「女性」「若手」「中堅」「オペレーター」といった属性ごとに、必要な施策を検討・整理する対話会を2週間に1回行い、目線合わせをしています。

加えて、2023年から始めたのが、各部門の組織風土担当者のコミュニティづくりで、「シン・FMCサミット」と名付けて、情報共有の時間を設けています。というのは、社内でどの部門がどのような組織活性活動を行なっているかが共有されておらず、部門によっては、担当者が孤独感を覚えている状況がありました。そこで、横串を刺して取り組みの共有や悩み相談の機会を作り、各職場のボトムアップ型の組織活性活動を継続化したいと考え、コミュニティをつくって活動を進めています。

エンゲージメント向上は、選ばれ続ける会社であるためにも必要なこと

―まだまだ強化していくことも多い状況かと思いますが、今後の取り組みや目標をどのように見通していらっしゃいますか?

短期的には、まずは、シン・FMC計画を体現する製造職制の比率を高めていきたいという思いがあります。

長期的に目指すところとしては、私個人のビジョンと重なるところでもあるのですが、福井村田から始めて、ムラタグループ全体をより強い組織にしていきたいです。

これまで重視されてきた、「働きやすさ」や「to do=何をするか」ではなく「働きがい」や「to be=どうありたいか」などにフォーカスして、人軸をもっと強いものしていく。それによって、事業軸と人軸が掛け算されて、一人ひとりが幸せを実現しながら働くことができ、イノベーションが生まれ、さらに利益を挙げられるようになるという、強い組織をつくれるのではないかと思います。

福井村田から始めることで、ムラタグループや日本の製造業、世界に波及していく。こうした自身のビジョンを持って取り組んでいます。

シン・FMC計画自体は、進捗確認をする上で3年くらいで区切って進めていくことを考えています。しかし、組織の活性化は3年で終わるものではないので、経営理念のように個々人の中にずっと定着しているものになればいいなと思っています。

―製造業におけるエンゲージメントの価値や、エンゲージメントを高めるメリットとは何か?という点においても、今のお話は通ずるものがありますか?

そうですね。あともう一つ思っているのは、エンゲージメントを高めることは、選ばれ続ける会社であるためにも必要だということです。

それは、採用という観点においても、お客様からの信頼感という観点においてもそうです。内部の観点で言えば、社員一人ひとりが、自分の人生に対する責任は自分にあるという主人公意識を持って普段から活動していれば、自分自身のウェルビーイングが向上していきます。そして、その先に会社のイノベーションにも繋がる、Win-Winの関係を会社と作ることができる。そういう会社であれば、離職しないと思うんです。

これらの点で選ばれ続ける会社であるためにも、Win-Winの関係を作っていく組織になりたいと思いますね。

―では最後に、エンゲージメント向上のための活動を継続するにあたり、社内の熱が上がらない、協力を得にくいなどの理由から困難さを感じている方に向けてアドバイスをいただけますか?

協力を得にくいことについては、シンプルに、協力してほしい人たちに助けを求めることが大事かなと思います。私がシン・FMC計画について製造部門の賛同を得たときのように、命令ではなく意見を求めていく姿勢も大切かと思います。「あなたが重要で、あなたの力を借りて作らせてください」という余白を作ることや、相手の意見を取り入れられる余地を作ってみてください。ビジョンは承認を得るものではなく、同じビジョンを持つまでのプロセスにこそ価値があると思います。

あとは、難しさを感じて悩んでいる人の多くは、「やった方がいいとはわかっているけど動けない」という状態だと思うんです。私もそうでしたが、「こういう人と対話をしておいた方がいい」とか、「こういう人に依頼をかけておいた方がいい」とわかっているけれど、動けない理由を自分で作ってしまっているのではないでしょうか。

その状況を打破するために、私の場合、「何をリスクに感じて動けなくなっているんだろう?」と、自分の中にある恐れみたいなものを認識するようにしました。その上で、先ほど話した自分の中のビジョンを明確にして、実現のために必要な行動をとると決めたことで、いろんな人に話をしに行けるようになったんです。

一歩踏み出せないという人は、不安感から目を背けるのではなく、リスクとしっかり向き合った上で、自分自身のビジョンを明確にしてみてください。そうすれば、何をすればいいかがわかってくるはず。そして、行動を取ってみてください。私も引き続き、個人的なビジョンを胸にやった方がいいことがあればどんどんチャレンジしていきたいと思います。

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