
自ら率先して組織づくりを学び実践していく――将来への不安と向き合うチームを変革するためにリーダーが取り組んだこと

開発部門を経て、2013年に事業推進統括部へ。マネージャーとして設計情報を管理するITシステムの新規導入プロジェクトなどに携わったのち、2019年、統括部内の設計業務部の部長に着任。組織改善の取り組みを始める。2023年より現職。
半導体試験装置などの開発・製造を行う株式会社アドバンテストで、長年、開発支援部門のマネジメント職に就いている塙さんは、2019年より、メンバーが抱える将来の不安と向き合い、チーム改善に取り組んできました。その経緯や具体的な取り組み、取り組みによって起こった変化、仕事の成果に与える影響などについて伺いました。
メンバーの「将来に対する不安の声」の多さから、組織改善に着手
―まずは、塙さんが設計業務部のマネジメントを担うようになった際の、組織が抱えていた課題を教えてください。
まず、端的に言うと「部の将来への不安」を多くの人が抱えていたことです。
経緯として、私は2013年から事業推進統括部に来て複数の課のマネージャーを務めたのち、2019年に統括部配下の設計業務部の部長職を拝命しました。それからしばらくして、テクノロジー開発本部全体に職場改善ワーキンググループができ、「職場で変えたいことは何ですか?」という大規模なアンケートが行われたんです。
その結果について、部ごとにフィードバックを受けた際に明らかになったのが、「部の将来に不安がある」という声の多さでした。
そもそも私の所属する事業推進統括部は開発支援部門であるため、直接お金を稼ぎ出すわけではありません。どれだけコンパクトに、効率よく業務を進めるかが最重要課題です。メンバーの中心は他部門から移動してきたベテランで、部の将来を考えたり将来に向けた活動を積極的には行っていませんでした。しかも、私自身が、部が歩むステップの方向性や、組織として何をすべきかといった話をメンバーに対して全くしていませんでした。「将来に不安がある」という声が挙がるのは、当然だと痛感しました。
―その状態・課題感から、どのように組織改善に動かれたのでしょうか?
2019年の秋頃に、設計業務部内で私たちの将来をどうすべきか考えるワーキンググループを立ち上げました。メンバーは、設計業務部のマネージャー3名と私の計4名です。そして、設計業務部のメンバー全員に対して、担当業務の将来について思っていることを半年くらいかけて聞いて回りました。
そうしてわかったのが、メンバーの多くは、将来のことを不安に思っている一方で「こうしていくべきではないか」といった意見もしっかりと持っているということでした。
「だったら、個々のメンバーの意見を吸い上げてチーム単位で組織の将来像を作り、実現できるよう、マネージャーが環境を作らなきゃダメだよね」とマネージャー同士で話し合い、2020年頃から、少しずつ施策を進めていきました。
―具体的に、どのような施策に取り組まれたのでしょうか?
例えば、かつて私がプロジェクトリーダーとなって大規模な社内ITシステムの導入を実行し、現在、運用管理を行っているチームがあります。大きなシステムなので、導入後15年くらいは使い続けるのですが、その間、ただ維持・管理するのではなくて、世の中のITの進化に応じて自分たちの仕事だって進歩させなければいけません。「必要だから管理する」ではなく、「『開発・設計部門の人たちはこういうことを欲しているだろう』という仮説をもとに、提案できるようなチームになろう」「そのためには、世の中の技術や最新のアプリについて知らなきゃいけないよね」「じゃあ、積極的に展示会に参加しよう」といった議論が起きました。そこから、「ITエンジニアとして必要だと言われている一連の資格を取ろう」「そのための研修費用も、毎年、予算で押さえよう」といった施策に落とし込んでいったんです。
また、設計業務部が支援している開発部門のプロセス全体について、部門をまたいで業務改善をファシリテートする機能とスキルを持った集団を立ち上げました。“部門をまたいで”というのがポイントで、通常、業務改善というと、部門のリーダーが案を描いて少しずつ改善していくことが多いですが、これでは部門ごとにしか最適化できませんし、しかもこのアプローチでの改善はすでにやり尽くしていたためです。
メンバーは、50代1名と、60代の嘱託社員4名です。皆、初めて取り組む業務なので、みんなで色々調べ、「こういう改善のメソッドで世界的に標準と言われているものがあるから、このメソッドを導入しましょう」「その中に出てくる専門的な考え方があるので、セミナーを受けて、読書会もしよう」などと話しながら、週に1〜2時間、メンバーみんなで勉強会の時間を取りました。
すると、皆仕事を理解して、だんだんと自分たちで動けるようになっていくんです。例えば、新しいツールの導入を積極的に検討したり、活用するための勉強会を自分たちでワイワイガヤガヤと行ってます。周りから「元気だね」「すごいよね」と言われるくらいのチームになってきました。
このようにして、チームごとに課題を設定したり、メンバーから話を聞いた上で「客観的にはこう見える、で、世の中がこうだから、こういうことやってみないか」と提案しています。そうやって、メンバーには納得して動いてもらうことで、それぞれのチームが活性化していく状況にあります。

自ら知識を習得し、メンバーと対話を重ねて施策を推進
―メンバーの皆さんに働きかけるにあたっては、ご苦労もあったのではないかと思います。どのような工夫をされましたか?
1つは、私自身が、チーム改革に必要な知識や理論、情報をものすごく勉強したことです。私から「こうしようよ」と言うからには、解決策につながる知識や情報を備えていないと説得力がない。それに、これまで誰もチーム改革なんてやったことがない組織なので、ナレッジを持ち込まないと次のステップになかなか進めません。Wevoxが運営するオンラインアカデミー『Engagement Run! Academy』に参加して組織づくりの知見を得たり、ITシステムをはじめとしたテクノロジーについてかなり勉強したり、知識や情報をバックグラウンドに備えたことは大きかったですね。
また、自分の中で一定の仮説を持ちながら、メンバーと対話を重ねて、一人ひとりの特性や考えを把握し、改革に進めるチーム状態かどうか見極めることを意識しました。そして、今やると効果があると判断したタイミングで、「こういうことできないかな?」と問いかけるようにしたんです。
いきなり全チームに対して画一的に「やろう」と言ってもダメで、個々のチームの状態を見て効果が見られそうなタイミングで施策案を持ち込まないと、メンバーの納得は得られません。
あとは、自分がネガティブなことがあっても気にせず前へ進んでいくタイプであることも良かったかと思います。ギャラップ社のストレングスファインダー(現・クリフトンストレングス)では、自身の強みの1位に「ポジティブ」、2位に「個別化」、3位か4位に「社交性」が入っているんです。そういった自分の特性もありましたし、うまくいかなそうなときはプランBを発動させるなど、メンバーと喧嘩してまで進めるようなことは全くなかったです。
―Engagement Run! Academyに参加して学ばれたとのことですが、Engagement Run! Academyでの学びは、組織づくりにどのように生かせましたか?
Engagement Run! Academyで学んだことは、すべて自分の気づきになっています。
ちょうど、チームを変えようとしているフェーズで参加したので、理論と実践が一致するというか、クラスで聞く話がひたすら自部署で起こっていることと結びつくんです。がっつり参加していた半年〜1年間は、「それなら、こうアプローチした方がいいのかな」とか、「ああいうふうにやったけどまずかったかな」といった気づきがずっとありました。タイミングも良かったし、内容も自分の課題感に沿っていたし、短期間で多様なテーマを集中的に吸収できたことも非常に良かったです。
今も、Engagement Run! Academyで学んだことは、チームを動かすときや、起こった問題を解決するときのバックボーンになっていますね。
メンバーのポジティブな行動にマネージャーが“チョコやガム”で共感を示す
―ほかにも、チームづくりのために取り組まれたことはありますか?

弊社のコア・バリュー「INTEGRITY」を1文字ずつ個包装のチョコレートに印刷して、メンバーがあてはまる行動をとったときに、マネージャーがチョコレートを渡して共感を示すという取り組みをしています。
弊社のコア・バリュー「INTEGRITY」は、その1文字1文字に意味を持たせて、行動指針や仕事をする上での価値観を9つ定義しています。例えば、「I」は「Innovation」、「T」は「Teamwork」、もう1つの「T」は「Trust」などです。その価値観にあてはまる行動、例えば、ちょっとした問い合わせに対して、「じゃあ私、これやりますよ」と動く。メールで話が混線した際に要点をぱぱっとまとめて「ここはこうだと思うので、これでやりましょう」と提案する。あるいは、ちょっと重そうなプロジェクトをメンバーが引き受ける瞬間に、マネージャーが「今のすごくいいと思うよ」とチョコレートを渡して共感を示すんです。
褒めるのとはちょっと違って、共感を示すことにより、その人自身が肯定されて、その行動が強化されます。そして、次に似た場面に出合ったときに、何の躊躇もなく踏み出せるようになると思っています。
マネージャーには、「成果に対して褒めるのではなく、行動に共感した際に渡してください。そして、なぜ共感したかも伝えください」とコメントして渡しました。ちょうど業績フィードバックの時期だったこともあって、フィードバック面談で「INTEGRITY」のどの行動を発揮したかについてコメントを返す際にもチョコレートを活用してくれました。

株式会社アドバンテストコーポレートサイトより引用。
―メンバーの皆さんの反応はいかがでしたか?
テクノロジー開発本部の中でWevoxに参加しているチームでは、「承認」の項目のスコアが驚くほど上がりました。マネージャーが思っていることを、ちゃんとメンバーにフィードバックすることがどれだけ大事かよくわかる出来事でした。
そうやって共感を示す重要性が認知されたことで、だんだんと日常に溶け込む形で使われるようになっています。ちなみに、チョコレートは夏に溶けてしまうので、ガムのバージョンも作っています。
あとは、「INTEGRITY」を全社に浸透させるために、全世界の拠点から社員が数名ずつ「INTEGRITY Ambassador」に任命されていて、私もその1人です。2023年7月に開かれた活動状況の共有機会でガムを配ったところ好評で、日本の各所のINTEGRITY Ambassadorがどんどん採用してくれて。エンゲージメントを高めるための1つのツールとして、活用される展開にもなっています。

―チームや組織の変革には、マネージャー層の方々の動きが重要かと思います。塙さんは、マネージャー層の方々とは、どのように対話したり、行動を促したりされていますか?
設計業務部の部長時代から、設計業務部内のマネージャー3人と週1回、組織づくりに関する勉強会をしています。もう2年くらい続けていますかね。具体的には、読書会のような形で、組織づくりに関する本を読み、持ち回りで内容をまとめてきてもらって、それぞれの意見や経験を共有しながら、学びを深めています。「こういうことを学ぶ必要があるよ」という、私からマネージャーに対するメッセージでもあります。
また、事業推進統括部の中で、メンバー全員に対して、業務時間内で週に半日は将来に向けた勉強をしようという仕組みを作りました。それと共に、マネージャークラスのメンバーによる勉強制度の推進チームが作られ、情報交換などがなされています。
ただ、マネージャー自身が学べているかというと、統括部全体ではまだ十分とは言えなかったりするんですね。読書会をしている人はいますが、忙しかったり、勉強しなくなってしまう人もいるのが実情です。でも、メンバーをコーチングしたり、チームの将来を描いたりといった、いわゆるリーダーシップは何もしていないと身に付きません。だから、私のこれまでの経験を統括部全体に広げて、マネージャーが学べる状況をつくり出すことが、これからやっていきたいことの1つです。
1人ではなくチームで仕事をする空気が生まれている
―組織全体の変化はどのように感じていらっしゃいますか?
この2年くらいで、マネージャーの間でチームづくりに関する話が当たり前になりました。例えば、先ほど話した嘱託社員だけのチームがすごく活気があって、チームの士気が上がったねといった話題が自然と出てきます。マネージャー会議で集まっても、業務報告だけでなく、組織づくりの取り組みに関する情報共有や「今こんなことを考えてるんだけど、どう思う?」などとディスカッションが起こる空気に徐々に変わってきています。これは、すごく大きくて、ポジティブな変化だと思います。
個々のメンバーについては、自分の部下など見える範囲では、元気になってきているし、前向きに仕事をしてもらえています。メンバーの自律性も高まっていると思います。
―そういった組織の変化が、業務の成果に対して何か影響を与えていたりはしますか?
メンバーの自律性が高まってきたことで、少しずつ「チームで対処しよう」という流れが各チームに生まれてきています。以前は、それぞれがマネージャーと決めたことをやる「マネージャーと私」の1対1の世界で仕事をしている状態でした。それだとマネージャーが大変になってしまって、トラブルが起こっても対応できないんですよね。それが、チームで対処しようという風に少しずつ変わってきています。
その結果、何かすごいパワーが生まれてきたかというと、まだ道半ばで劇的な変化は生まれているとは言えません。ただ例えば、今後チームリーダーやマネージャーを担っていく世代の社員たちが「こういう状況だけど、どうしたらいいですかね?」などと私のところに相談しに来ることが頻繁に起こっています。それに対して、私なりに助言はしています。こうした世代がリーダーになる頃には、組織全体が自律性やパフォーマンスの高いチームに変化できているんじゃないかと期待しています。
―楽しみですね。まだまだ組織づくりの途上ではあると思いますが、今後の取り組みの見通しなどを教えていただけますか。
2023年に副統括部長になり、マネージャーに2つ「やろう」と働きかけていることがあります。
1つは、自分たちの業務をもう一度整理することです。というのも、事業推進統括部は十数年にわたり組織の形が変わり続けていたという経緯があり、統括部外の人たちから見ると、何をやってくれる人たちなのかがわかりづらいんです。
それによって、「これやってとお願いしたけど、どうなってる?」「それはこっちの部署に移りました」といったことが日常的に起こって来ました。
すると、中にいるメンバーたちは、「私たちって認識されてないのかしら」となってしまいかねません。ですから、「大変だけど、すべての業務を一度洗い出して、整理しよう、人が入れ替わるときにもきっと役に立つから」と、今マネージャーに働きかけて取り組んでいます。
その上で、次は1段上がって、統括部の業務地図を作り、そこから将来を考えていく予定です。業務地図に合わせて、「じゃあ、私たちはどういう世界を目指すのか?」という、統括部全体のビジョン・ミッション・バリューを作りたいですね。これが2つ目です。
今後、どれくらい時間がかかるかわかりませんが、常に前向きに考えながら、積極的に発信して推進し続けていきたいです。







