有志で立ち上げた「エンゲージメントプロジェクト」が仲間を増やし経営層にも認められた理由

有志で立ち上げた「エンゲージメントプロジェクト」が仲間を増やし経営層にも認められた理由

日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
細山田 隼人氏
細山田 隼人氏
日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
経営管理本部 戦略企画部

2014年4月に新卒で日本ペイント株式会社自動車塗料事業本部(現:日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社)に、技術人材として入社。技術者として自動車用塗料の顧客担当に従事。その後、グループ会社での経営企画業務を経て、現在在籍の会社において新規事業であるフィルム事業に従事。2022年に経営企画部へ異動。現在は経営企画部にて企業戦略や事業戦略業務、経営の意思決定支援を担当しながら、社内のエンゲージメント有志団体を結成し、活動を牽引。

日本初の塗料会社である日本ペイントの、自動車用塗料を取り扱う日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社の経営企画部で働く細山田さん。かつては技術者として様々な拠点で働いており、日々多くの同僚と接する中で、「従業員はこの会社への思い入れが少ないのでは」と課題感を抱くようになります。この課題に対応するために、有志と共にエンゲージメント推進プロジェクトを立ち上げた細山田さんは、少しずつ仲間を増やしながら同時に経営層からの理解も得ていきました。今や約70人がWevoxのサーベイに参加し、ワークショップには80人を超す参加者が集まるなど、組織を変える原動力となっている細山田さんの活動の足取りを振り返ります。

相互理解を進めることで、社内のモヤモヤを解消したいと思った

―貴社のエンゲージメント向上活動のプロジェクトは、細山田さんが強い意志を持ってスタートさせたと聞いています。そのきっかけから教えてください。

私は経営企画部に在籍していますが、入社以降、ユニークなキャリアを歩んでおり、本社や工場を含む様々な拠点での勤務を経験しています。

そんな中で、いろいろな方とコミュニケーションをとるうちに、従業員の皆さんの会社に対する愛着や思い入れ、絆といったものが本当に強いのか疑問を持つようになりました。また、「会社がやりたいこと」と「従業員がやりたいこと」がマッチングしているのかな…?などとも思い始めました。

―ズレを感じるようになったと。

はい。このようなズレからだんだんと上と下のコミュニケーションが悪くなったりして、「上司のせいだ」「部下をもっとこうしないと」みたいな雰囲気が出始めた、と感じています。愚痴を言ってストレス発散する程度ならいいのですが、あまり生産性はないですよね。だったら、そこを何とかできないかなと思いました。「誰もやらないなら、私がやる」と、思い立ったのがきっかけです。

その時に大事だと思ったのが、「両者の相互理解」があって初めて行動が変わっていくのではないか、ということです。以前参加したワーキンググループでエンゲージメントについて学ぶ機会があったことから、今回はエンゲージメントに着目した活動でここを乗り越えられないかと思いました。

―プロジェクトは細山田さんお一人で立ち上げたんですよね?

きっかけはそうですね。風土改革については、本来は人事部などが主導することが多いですが、自分の業務と切り離し、技術者出身の私が「やりたい」と手を挙げてみたという感じです。技術者が多い会社ですので、技術者の気持ちはわかる方だと思っています。

具体的にやったことは、まずは仲間を集めることです。あとは「ありたい姿」を考えて経営に提案することと、現状把握のために30歳以下の全従業員や当時の幹部職50名以上に直接ヒアリングを行い、現場の生の声を集めました。そして、従業員のためのエンゲージメントとして、この有志の仲間を「Engagement for Employee(E for E)」と呼称し、2022年6月頃に活動をスタートさせました。

プロジェクトは「有志の団体」であり、強制力は一切なし

―「E for E」の事務局はどうやって立ち上がったんですか?

具体的なきっかけになったのが、社内の階層別研修で「J&Jのクレド」を拠り所に経営理念を浸透させている事例を学んだことです。同じ研修を受けたメンバー同士で「すごいけど、“すごい”で終わらせちゃダメだよね」という会話をきっかけに、私が以前から疑問に思っていた「従業員の皆さんの会社に対する愛着や思い入れ、絆といったものが本当に強いのか」、「会社がやりたいこと、従業員がやりたいことがマッチングしているのか」について、何かアクションに繋げたい、と思い立ったわけです。

―そこからメンバー集めですか?

はい。私が発起人となり、一緒にやりたいと思う仲間を順番に口説いていきました。その時に声をかけた最初の7人がコアメンバーとなる人たちです。

―どういうメンバーに声をかけたんですか?

一言で言うと、私の中での「人格者」と思う同世代です。何かを相談した時に、ポジティブに「じゃあどうしようか、一緒にやってみようか」という会話に繋げてくれそうな人を選びました。私自身がいろいろな拠点で働いたこともあり、社内のあちこちに顔見知りが多かったのが良かったと思っています。実際にひとりずつ口説いたことで、「ビジョンや念(おも)い」についてお互い語りあい、そして共感することができたと思っています。その結果、「私は一人ではない、同じ志を持ち共感してくれる仲間がこんなにも沢山いるんだ!」と感じたこと、それが変え難い意欲になったと感じています。

―誰かから命令されてやるのとは全然違うわけですね。

全く違うと思います。あとは、プロジェクトの立ち位置を「有志の団体」としました。エンゲージメント活動を業務にはせず、会社の施策からも外すことで、「いつまでにこれをやります」みたいなコミットメントを無くすことや手段が目的となってしまうことを防ぐためです。したがって、フォーマルな報告義務はありませんが、我々の「覚悟や念(おも)い」はしっかりと表に出したいため、適宜私たちから経営への報告を行ったり、従業員へのフィードバックを行ったりしています。あくまで従業員が自発的に活動していく団体という位置付けです。

―強制力を働かせなかったと。

そうです。ただ、活動を進めるうえで予算の問題はどうしても発生します。そこについては、副社長にスポンサーになっていただくよう相談し、適宜アドバイスをもらいながら予算を引き出せるような仕組みを整えました。

―すごいですね。スポンサーの話も含め、どのように経営を巻き込んでいったのですか?

コアメンバーが集まったところで、「このたぎっている今の思いをアウトプットしたい!」という気持ちが高まり、社長と副社長にメールで「こんなことをやりたい」を伝えました。その後、活動の骨子や「あるべき姿」をまとめ、正式に2名に対してプレゼンを行いました。

―社長や副社長の反応はどうだったのですか?

「やっと来たか」という感じで嬉しそうだったことは今でも鮮明に覚えています。当時の社長(武田川 信次氏)は、従業員とのコミュニケーションを取るために自ら現場に赴き、毎月座談会や交流の場を設けていました。社長としては、当社従業員が自ら主体性を育んでほしいという念(おも)いもあり、今回私たちが活動したいと名乗り出たことに対して、「やっと来たか!嬉しいね!」と言っていただけました。

そのプレゼンの場で社長にリクエストされたのが、「相互理解のためには上位者の理解も必要だし、現場だけが盛り上がってしまえばエンゲージメントとは程遠いものになるから、会社の幹部職全員を口説いてほしい」ということでした。それが先ほどお話しした幹部職へのヒアリングに繋がることになります。

この時に、どうやって口説けばいいか、エンゲージメントを知らない人にも分かりやすく伝えるにはどうしたらいいのかをじっくり考え、勉強したことが、後々の活動を支えていったように感じています。

「実践のための題材」としてWevoxを活用

―プロジェクトを社内にどのように浸透させていったのですか?

最初に危惧したのが、いきなり私たちが講師ぶって何かをやるのでは、話を聞いてもらえないのではないかということです。

そこで考えたのが、まずはマスコット的な第三者にズバズバと斬ってもらおうということでした。「不確実性が増す今の社会で、人材流動も頻繁になり、コロナで価値観も変わっている。今のスタンダードは違うところにあるからこそ、変わっていかないといけないんだ。」ということを、まずは自分ごとに考えてほしい、と思いました。

そのために、書家でありながらプレゼンテーションクリエイターで、元ソフトバンク、かつソフトバンクアカデミア一期生を首席で卒業されたというすごい経歴を持つ前田鎌利さんという方に講演会を依頼しました。素晴らしいプレゼンテーションにより講演会は大成功。結果的に私たちの狙いは達成されました。

―多くの方の心に刺さったわけですね。

その良い流れの中で、施策の検討などを進めていっているのが現在の状況ですね。Wevoxの導入や月1回のワークショップの実施、さらには私自身がアトラエの皆様が提供してくださるオンラインアカデミー「Engagement Run!」に参加することでエンゲージメントについての知識をつけながら、それを有機的にアウトプットする方法を考えています。

―そうした活動の中で、Wevoxはどのように活用いただいているのですか?

実は調べてみたら、2年ほど前に当社で3ヶ月ほど試験的に運用していた実績があったんです。当時の担当者に聞いたところ、スコアをとって、あとは現場の上司やメンバーに運用を任せたが何もできず、正式な導入には至らなかったようです。

今回導入するにあたって一番気をつけたのが、「自分ごと」に感じてもらう仕掛けです。要は、実体験に紐づくような体系的なものでないと、一方的な知識の押し付けになってエンゲージメントは上がらないし、取り組み自体も長続きしないと思いました。だからワークショップとセットにして、「ああ、こういうことね」という腹落ち感を引き出すことを大事にしました。

Wevoxはあくまで心理状態の可視化であり、心の健康診断だと伝えるとともに、上がっても下がっても良くて、それは今の心の状態に過ぎないんだと繰り返し発信しています。大事なのは、スコアをもとに自分自身の体験を振り返り、自分なりに取り組んだことでどう変化するのかを把握してもらうこと。そういう「実践のための題材」として活用しています。

―どのくらいの方が参加しているのですか?

スタートから4カ月ほど経ちましたが、Wevoxのサーベイを受けているのが70名ほどで、毎月のワークショップに参加している人が80名程度です。我々としてはワークショップの方に重きを置いており、ワークショップだけ参加しているという人もいます。

Wevox結果のフィードバックについては、参加者の中に上司がいれば、その方には名前を伏せてチームの平均スコアの情報をお渡ししています。もしチームのフィードバックがほしい場合は、上司自らの参加および自部門のメンバーに対して参加を働きかけてもらうようにお願いしています。そうやって、いろんな方に協力をお願いしながら、輪を広げているところです。

「若い子が頑張っているから、おじさんも変わらないといけない」

―あらためて振り返っていただき、有志の活動がうまく進んでいるのはなぜだと思います?

率直に感じているのは、戦略とか戦術ではなく、「共感性」だと思っています。たまたま、私自身が多くの拠点で働いたことがあり、多くの従業員を知っており、そして表面上の付き合いに留まらず多くの方と苦楽を共にしたという心理的側面があったのかなあ…と考えています。

あくまで私見ですが、いわゆる人事などの事務系の人たちが旗を振っても、「自分たちのことを本当にわかっているのかな?」というお互いのプライドがあるがゆえに、双方の理解が進むのに時間がかかるのではないかと思います。その点、現場の苦労も含めてわかっている自分のような人が旗を振ったことで、心理的なハードルが少し下がり、共感を生みやすかったのでは、と感じています。

―なるほど、自分たちのことをわかってくれているかどうかは、重要なポイントかもしれませんね。

そうだと思います。実際にWevoxのコメントには「お前だからやっているんだよ」とか「自分よりも忙しくしているお前がやっているのに、やらないわけがないじゃん」みたいに書いてくださる人がたくさんいます(笑)。

あともう一つあるとしたら、我々の活動を一つの「ハブ」にしている点です。このプロジェクトで提案されるものに対して、経営や人事などの他部署にお願いできるものについては相談するようにしています。ハブ機能として我々を通過すれば、他の施策とアライメントが取れて、線で捉えたものが面にもなると思います。実は、そこを意識してプロジェクトメンバーは年齢もキャリアも職種もバラバラになるよう選んでいます。

―そこは戦略的に、ですね。

人事部からもメンバーに入ってもらっているので、お互いに協力関係の中でできているとは思っています。

―社内に感じられる変化のようなものはありますか?

直近のWevoxのフリーコメントには、数多くのポジティブな意見をいただきました。例えば「これをきっかけに自分の仕事を見つめ直した」とか「自己肯定感が上がった」といった声は、やってよかったなと思いますよね。

また、「今までは一個人で組織の考えていることはどうでもいいやと思っていたけど、若いメンバーがいろいろやっているのを見て、おじさんたちも変わらないといけないと思った」というコメントは嬉しかったですね。

―プロジェクトメンバーの皆さんはどうですか?

「何か手伝うから仕事を振ってほしい」と頼まれることは増えていますし、「こんなゲームを考えたんだけど」と持ち込んでくれるケースも増えています。

この活動自体が私というもので支えられているのであれば、私がいなくなった時に一気に頓挫してしまいます。そのため、メンバーの中でも「意志のある人をもっと育てていこう」という理解が進んでおり、それぞれの活動への思いも強固になっていると感じています。

―最後に、細山田さんが目指している組織の姿について教えてください。

事業に結びつけて考えていくと、メーカー業界全体を俯瞰して見た時に、Aiやロボットの活用という話がよく言われます。しかし、メーカーとしては「あなただから買うんだ」と言われたいですよね。我々の活動の先には、そこに繋げるための人材バリュー向上の話があると思っています。ESGのSをあらためて表明するための一助になればいいなと思っています。

さらには、従業員皆さんの日常会話の中に、「心理的安全性」とか「信頼貯金」などのワークショップで得た言葉が出てくるようになったらすごく嬉しいですね。そうやって少しずつ、一人ひとりの意識が変わっていった先に、「日本ペイントグループで育った人材は即戦力だね」などと外部からも評価してもらえるようになったらいいなと、そんなことを日々考えながら、これからもエンゲージメント活動に力を注いでいきたいと思います。

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