
エンゲージメントと事業成長を実現する「両利きのチームづくり」のカギはミドル×トップの対話【加藤雅則氏×Wevoxユーザーの対話イベントレポート/前半部分特別公開】

日本興業銀行、環境教育NPO、事業投資育成会社を経て現職。2000年~2007年まで、日本におけるコーチングの紹介と普及に取り組む。2000年以来、上場企業を中心とした人材開発・組織開発に従事する。経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とする。 「両利きの経営」の提唱者であるオライリー教授(スタンフォード大学ビジネススクール)の日本における共同研究者であり、オライリー教授が会長を務めるコンサルティング会社changelogic社(https://changelogic.com)の東京駐在も兼務する。大手企業を中心に、人材育成・組織開発・後継者育成に関するアドバイザーを多数務める。
2022年3月に開催されたオンラインイベント『管理職の方必見!自部署のエンゲージメントと事業成長を継続させる両利きのチームづくりとは?』(※)。両利きの経営でおなじみの株式会社アクション・デザイン代表取締役加藤 雅則氏が登壇し、Wevoxユーザーのお悩みに対話形式で解決の糸口を探っていきます。チームの視点で、両利きはどのように実現していけばいいのか? カギを握る「ミドル層とトップ層の関係性」について、様々な対話が交わされました。本記事では、イベントレポートの前半部分を特別に公開いたします!
※本イベントはWevoxが運営するエンゲージメント向上アカデミー『Engagement Run!』の特別公開クラスとして開催されました。
両利きの経営は目的ではなく、手段。
―本日のテーマは「管理職の方必見!自部署のエンゲージメントと事業成長を継続させる両利きのチームづくりとは?」です。エンゲージメントと事業成長を継続させる両利きのチームづくりは、組織におけるチームづくりとも言い換えられると思いますが、ご意見をお聞かせいただけますでしょうか。
加藤:このテーマ、最初聞いたときは正直なところ無茶振りだなと思いました(笑)。「エンゲージメント、事業成長、両利きって全部盛りじゃないか!」って。ですがあえてチャレンジしますと、まず両利きの経営はそれ自体が目的ではありません。あくまでも手段であり、エンゲージメントを高めながら事業成長することを目的としています。やりがいを感じてほしいし、自分の働いている会社に誇りと希望を感じてもらいたいし、結果的に事業成長にもつながる好循環を生み出したいわけですよね。
両利きは、極端に言うと、新しい事業をやるときは今までの事業のやり方と変えた方がいいよねって話をしているだけなんです。今の事業は野球のようなルールでやっている一方で、新しい事業はサッカーのような形でやらなきゃいけない。事業システムが違うんだという認識が非常に大事です。全社レベル、事業レベル、チームレベルなど様々なレイヤーがありますが、両利きの経営は全社から事業レベルまでの考え方だと思います。というのも、探索事業の経営資源をどう配分するかという話を個人レベルまで落としてしまうと、個人の中で異なる領域に対してどう向き合うかという話になり、テーマが少し変わるんですよね。

そうした前提の中で、両利きのチームづくりに大事なのは、自分たちのモードチェンジをどうするかということです。既存事業は今までのものをいかに効率的にやるかという話になりますが、探索側の事業をやるときには、実験をするようなモードなんですよね。僕の中では、帽子をかぶり直すイメージです。既存のことをやってるときはこの帽子、新しいことをやるときは違う帽子、といった感じで自分のキャラクターを変えるぐらいの気持ちでやられるが、メリハリがついて面白いと思います。昨今の副業ブームもそうですが、1つのことだけ見ていると視野が狭くなってしまうので、たまには大きな構えで、外で何が起きているか見てみるというのはとても大事なポイントですね。チームレベル、個人レベルの両利きでは、そういった認知行動・自分のモードを変えることに意識を向けられるといいと思います。
チームだけでは解決できない、構造的な問題にどう向き合う?
―ありがとうございます。ではここからは、事前にエンゲージメント向上アカデミー「Engagement Run!」の会員の皆様からいただいたご質問にお答えいただければと思います。まず1つ目のご質問です。
「(エンゲージメントサーベイ)Wevoxを用いてチーム単位でエンゲージメント向上活動に取り組んでいます。1on1などを増やして相互理解を深めながら、各チームの課題についてアクションを決めて実施しているのですが、スコアが上がるチームと上がらないチームがおり、上がらないチームは、部署間のパワーバランスなど、自分たちだけでは解決できない構造的な問題を抱えているように見えます。こういった問題に取り組むときのタイミングの見極めや、ポイントを知りたいです。」
というご質問です。質問者の方に補足もしていただきましょう。
質問者:当社では約1年前からWevoxを使った活動を開始し、3カ月に1回サーベイを行っています。私は開発部門でとある大規模システムを扱っており、その1つのシステムに約10部署、総勢100人程が関わることもあります。今までの歴史でこの部署はこういう役割をするみたいなことが決まっていて、まさに既存事業の深化をしているような開発なのですが、役割が固定化されたり、発言力が大きいと、言われるままに従って動くだけの組織になってしまっている部分があります。Wevoxによる活動の意味はあると感じる一方で、こういった問題はコミュニケーション活動だけでは解決できないな、という局面にぶち当たっていると考えています。
加藤:まず、こういう取り組みをされていること自体に敬意を表したいと思うし、構造的な問題にも気付いて質問をいただいているんだなと理解しました。すでにファーストステップはやられているんですよね。相互理解からスタートして、自分たちでやれることをやりましょうと。でも、組織ってそれだけでは変わらないんですね。僕は、組織を見るときにはプロセスの話と構造の話があると思っています。さらにもう1つ、キャパシティの話です。プロセスは一生懸命いろいろと工夫されているようですし、それはそれで大事なんですけど、人不足や設備などのキャパシティは質感が違うから対話では解決できないですよね。1on1や2on2をやると組織が変わるという人もいますが、それは言い過ぎだよ、それならもうみんな変わってるよ、と僕自身は思います。じゃあ何をしないといけないかというと、構造的な問題に踏み込まざるを得ない。自分の部署だけが変わろうと思っても、バリューチェーンに組み込まれている限りは前後がいますから変われません。
本来担うべき人に、課題を戻していく
構造的な問題にはキャパシティの問題も入ってくる場合もありますが、取り組む場合はどうすればいいのか。管理職のみなさん方はどうしても意識が部下にいきますが、自分の上司をどう動かすかという視点が非常に大事になってくると思います。「ここに課題がある」とまで言えるようになってきたならば、今度は上を動かすというフェーズに入る必要があります。ご質問の内容で言えば、僕自身は2つ上のポジションの方に興味がありますね。その方は課題を認識しているのか。それはその方の仕事、hisジョブですよね。前回お話ししたハイフェッツの適応課題の考え方でいうと、その課題を本来担うべき人に戻さなきゃいけないということです。
ですから、1つ上ではなく2つ上の上司にどうボトムアップするかがとても大事なエッセンスじゃないでしょうか。もちろんこれは、マネジメントができていないと批判している話ではないですよ。現在の課題に我々がどう適応していくのかという問いかけ、ボトムアップをすることが、管理職のみなさんに期待されていることです。上から落ちてくる課題をどうこなすかに意識がいきがちですが、実際はトップダウンとボトムアップを行ったり来たりの相互作用です。トップは大きな方向性は示しているけれど、細かいことが分かっている訳ではなく、方向性を具現化していく上での構造的な問題には意外と気付いていないんですよ。ですから「ここをぜひ支援してほしいです」といったアプローチで、課題を提示することが必要になるかと思いますね。
Wevoxは自分たちのチームの状態を洗い出してくれますし、それもとても大事なんだけれども、チーム内だけで解決しようというのは無理がある場合もあります。すでにいろんな取り組みをやっていただいていますから、次のフェーズは、上を巻き込んでいくような動きが大事になってくるのかなぁと。
質問者:すごく合点がゆくというか、やっぱりそうかと思いました。というのも、こういう問題を抱えているという話を1つ上の部長と話をしまして。部長も気付いてはいるんですけど、どう対応していいか分からない状況でした。今後はさらに上の層も巻き込み、みんなで考えていこうと思います。適切なレベルの人が適切に働きかけをしないと、現場の人たちが一番大変な思いをして右往左往してしまうので…。明日からアクションを起こせそうな回答をありがとうございました。
加藤:極端に言うと、上司には給料分働いてもらわないといけないんですよ(笑)。この課題をどうしたらいいんだろうと相談することが決定的に大事だと思っていますし、枠組みの問題は1on1をやっても解決できません。あと、他部署間の協力を得られないという相談を受けたとき、僕が実際の組織に入ってインタビューする度に見えてくるのは、上同士が仲良くない、1チームになっていないというケースが非常に多いということです。それが結果的に、下に問題として表出されているんですね。ですので、ぜひあなたの仕事なんだよという心構えで、上司に気後れすることなく問題提起されるのがいいと思います。または「こういう仮説があるんですけど、どう思われますか?」といったような相談モードもいいかもしれないですね。
部下を両利きに導くには…?
―ありがとうございます。では2つ目のご質問です。
「ただでさえ忙しいのに、部下をどのように新規事業・開発に導いていけばいいでしょうか?予算を達成しても、新しい仕事が来たら断るわけでもなく、さらに利益を上げていかなければいけない。部下はすでに疲弊しているのではないか。そんな中、どのように新しいことを一緒にやっていくか。残業してやればいい、休日出勤してやればいいというわけにもいかず、いつも悩んでいます」というご質問ですが、こちらに関して補足をいただけますでしょうか。
質問者:私は会社でチームを率いていますが、自分では、衰退期にあるような商品を扱っている部署で、効率よくこなしていくのが一番利益の上がる方法といった段階にあると思っています。仕事は安くすれば取れる部分もあるのでどんどん増えますが、かと言ってこれをずっと続けていると当然未来はありません。新しいことはやりたいと思いつつも、部下に声をかけてみても返って来ないです。みんな忙しいし残業もたくさんしていることも理解しているので、これ以上は…と進まない現状があるので悩んでいます。
加藤:ありがとうございます。まず両利きの基本のようなお話になるんですけども、既存事業をやりながら探索もやるって、実はすごく難易度が高いんですよね。既存事業に適しているやり方と探索に適しているやり方は全く違うところがあるので、会社レベルや事業レベルなど、どのレベルでこれを捉えるかです。ご質問内容はどのレベルでのお話ですか?

質問者:10人のチームレベルです。技術分野でもあるので、新しい開発、こういう手法が商品になるとか技術的に試してみるとか、そう言ったこともやろうと思えばできる環境ではあります。
加藤:なるほど。少し角度を付けて申し上げると、2つ上の上司に、一時的に利益が下がってもいいか確認した方がいいですね。利益は下げるな、だけど今と同じこのメンバーで新規事業もやれ、というのは基本的に無理な話だと僕は思います。どれくらいの覚悟を持って両利きをやれと言っているかは経営のコミットメントの話です。両利きというのは、メーカーだったら「5年くらい利益が出ないことも覚悟してやれ」と言っているような会社じゃないと成立しないわけで、短期の収益を追いながらアレコレもやりつつ両利きもやるなんてことができればみんなとっくにやっています。
ですから、まずはその覚悟を問う作業が非常に大事だと思います。既存のことだけをやるのは簡単で、値段を下げれば量は取れるけれども、それだけをやっているとまずい。だから新しいことを始めたいと……








