急成長するスタートアップで揺らぎはじめていたもの——組織の一体感を取り戻すエンゲージメントの価値

早稲田大学創造理工学部経営システム工学科に在学中、ビジネスに興味を持ち、ベンチャー企業2社でのインターンを経験。その経験を生かして、2017年6月に株式会社High Linkを創業。2019年1月より香りのプラットフォーム「カラリア」を運営。香りで世界を彩るミッションの実現に向けて事業を推進し、たくさんの人の人生を彩る、価値ある事業を作り続けられる会社を目指す。

2018年大学卒業後、広告代理店でBTL領域のプロモーションプロデューサーとして活動。事業会社に転職し、toC向け教育事業のPM・BizDev業務に従事。管理職や教育事業を通じて人材・組織開発の可能性に気づき、Bizから人事へキャリアチェンジ。株式会社High Linkに業務委託としてジョインし、その後、正社員となってフルコミット。Philosophyを体現した組織の可能性を心から信じている。
エンゲージメント活動は、会社のフェーズや組織の規模によって、目的も導入・運用の仕方も変わってきます。
2017年6月に創業した株式会社High Linkは、社員数40名規模のスタートアップ。香水を毎月使いきりサイズで届けるサブスクリプションサービス「カラリア 香りの定期便」を展開しています。
理想の香りとの出会いをもたらし、ユーザーの世界を彩る。一人ひとり異なる「好奇心」や「課題意識」を、社会の価値に変えられたなら、もっと多様で、彩りに満ちた未来が待っているはず。
そう信じる彼らは、「わくわく」する心を原動力に、自分たちの役割や領域を超え、世の中の常識をも超えて、誰もがわくわくできる新しい世界を拓くべく、エンゲージメント活動を経営の一環として取り入れました。事業が立ち上がり、育っていく過程で浮き彫りになった「組織開発」の課題。同社の創業者であり、代表を務める南木 将宏さんと、人事責任者の波多野 佑紀さんに、エンゲージメント活動についてお話を伺いました。
個々の裁量からチームで結果を出す働き方へのシフト。事業フェーズの変化で意識し始めたエンゲージメント
―そもそも「エンゲージメント」を意識し始めたのは、いつ・なぜですか?
南木:私たちがエンゲージメント活動を意識し始めた背景には、創業当初から根付いている「人を大切にする」というカルチャーがあります。今も昔も、そこは全くぶれていません。
ただ、エンゲージメントという言葉自体を深く理解していたわけではなく、「自分たちがやりたいこと=エンゲージメント活動だ」と認識していたわけでもありませんでした。あくまで、一緒に働く仲間を大切にしたいという思いが出発点だったと思います。

転機になったのは、2022年の春頃から正社員採用を本格的に増やし始めたタイミングです。スタートアップにありがちな話ですが、最初はリファラル採用が多く、組織開発やエンゲージメントといった概念を意識することもありませんでした。私自身、学生時代から起業していたこともあり、そういった領域の知識はほとんどありませんでした。
そこから約2年ほど経った2023年の後半、組織の規模が大きくなるにつれて、いくつかの変化が見えてきました。各部署のリーダーが自己流でマネジメントをしていたこともあり、マネジメントの質にばらつきが出始めていました。また、コロナ禍の影響もあって、リモートワーク主体の働き方は、自由度が高い一方で、個々の裁量に任せる部分が大きく、組織としての一体感や共通の価値観が揺らぎ始めている感覚もありました。
さらに、メンバーの熱量にも差が出てきているように感じるようになっていたんです。これはスキルの問題ではなく、スタートアップとしての向き合い方や気持ちの部分での温度差です。ただ、それは個人の問題というより、マネジメントの仕組みや環境づくりの課題だと捉えています。当時は若いメンバーも多いので、なおさら影響が出やすい状況でした。
こうした状況を踏まえ、「このままではいけない。組織開発に本腰を入れないといけない」と感じ、当時の人事マネージャーに相談したのが、エンゲージメント活動を明確に意識し始めた最初のきっかけだったと思います。正直に言うと、当時はまだふわっとした感覚でしたが、組織としての成長に必要な取り組みだと強く感じていました。

ーエンゲージメント活動を始めるにあたって、ファーストアクションは、何をしましたか?
南木: 私が当時、人事トップに託した期待は「高い数値目標に対して、強度高く追いかけていける組織をつくりたい」というものでした。そのためには、まず現場で働いてくれているメンバー一人ひとりが何を感じ、どこにエンゲージメントを持ってくれているのか、逆にどこに課題を感じているのかを把握する必要がありました。しかし、当時はその解像度がほとんどない状態だったんです。
そこで、「まずは現状を定量的に把握できる状態をつくろう」という話になりました。エンゲージメントを測定し、組織の状態を客観的に理解できるベースを整えることが、ファーストアクションだったと記憶しています。ここからようやく、組織開発を“活動”として捉え、継続的に改善していくための土台づくりが始まった感覚があります。
波多野: 私はWevoxの導入が始まるタイミングで業務委託としてジョインし、その後正社員として入社しました。導入初期から伴走していたため、エンゲージメント活動を立ち上げていくプロセスを同じタイミングで共有していました。
前職のtoC向け教育事業の会社では、事業企画やマーケティングを担当し、管理職として事業を伸ばす過程を経験する中で、「結局、事業成長には組織開発が欠かせない」という気づきを得ました。全社の制度を自発的に改善したりと、組織づくりに関わる取り組みを片手間で続けていました。そうした経験の蓄積から「組織開発を本業としてやりたい」という思いが強くなり、人事へのキャリアチェンジを決断しました。
ちょうどそのタイミングで、私たちの会社が組織開発に本腰を入れたいと考えていたこともあり、組織開発マネージャーとしてジョインすることになりました。
エンゲージメントという言葉については、私自身も「聞いたことはあったが、人に説明できるほど咀嚼できていたわけではなかった」と感じていました。そこから理解を深めるために、WevoxのCS(カスタマーサクセス)ミーティングで積極的に質問したり、Wevox主催のウェビナーに参加したり、関連企業のセミナーに足を運んだりと、体系的に知識を吸収していきました。
こうした学びを重ねる中で、「何がエンゲージメント活動なのか」「どこに取り組むべきなのか」といった輪郭が徐々にクリアになっていったと感じています。
“自社らしさ”を体現できるスコアをピックアップ。エンゲージメントスコアとの向き合い方
ーエンゲージメントサーベイが導き出した「数値」を初めて見た時の印象は?
波多野: 最初にエンゲージメントスコアを見たときのことは、今でもよく覚えています。正直、どう受け取ればいいのか分からず、戸惑いが大きかったんです。WevoxのCSチームとのミーティングで「すごく高いスコアですよ」と言っていただいて、「ああ、そうなんだ」と思いつつも、人間ってどうしても“欠けているところ”に目がいってしまうじゃないですか。たとえ 80 や 90 といった高い数値が出ていても、「100 に近い方がいいんじゃないか」と考えてしまう自分がいました。
そのせいで、スコアをどう受け止め、どうアクションにつなげていくべきなのかが分からず、最初はかなり悩みました。他社との比較もできない状態だったので、基準がないまま数字だけを見ても判断が難しかったんです。
そういう意味では、WevoxのCSに結果を見てもらい、「他社と比べるとどうなのか」という視点を入れてもらえたのは大きかったと思います。経営会議で初めてスコアを共有したときも、経営陣も同じように咀嚼に時間がかかっている印象がありました。ネクストアクションを議論する前に、「この結果をどう受け取るべきか」という共通認識をつくるところに、かなり時間を使っていた感覚があります。最初の 3 回くらいは、ずっとそのフェーズだったように思います。
南木: 当時のことを振り返ると、最初にスコアを見たときの記憶は意外とシンプルなんです。波多野から「他社と比べても結構高いらしいです」と聞いて、「ああ、そうなんだ。まあ、そうだよな」という感覚で受け取っていたのを覚えています。
そのうえで、じゃあこの結果をどう捉えればいいのかという部分は、当時は正直まだよく分かっていませんでした。項目ごとに分析はするものの、最初の頃は「で、何をしたらいいんだろう?」という感覚が強かったと思います。
ー可視化されたエンゲージメントを受けて、どんなアクションを取りましたか?
南木: 導入初年度にあたる2024年は、完全に試行錯誤の一年でした。私たちにとって大事なのは、Philosophyを体現できている組織であること。その前提に立ったときに、「どのスコアが高い状態であることが、私たちらしさにつながるのか」をまず整理していきました。
その中で、特に重視する4つのスコアを定めて、そこに大きな変動がないか、毎月ピックアップしながら見ていくという運用を続けていました。
いろんな項目がある中でも、「High Linkらしさを表すには、この数値が高くなければいけないよね」という共通認識をつくっていったのが、最初の大きなステップだったと思います。
波多野: 重視している指標はいつも4つ程度にしています。試行錯誤を重ねながら、現在は「やりがい」「達成感」「成長機会」「成果に対する承認」の4つを指標としています。
これらを高めていくために、まずは毎月の経営会議で状態値を共有し、変動を追いかけるところから始めました。同時に、各チームのリーダーとも対話を重ね、現場の感覚と数値のズレがないかを確認しながら進めていました。

また、定量的に受け取るうえで「どうセグメントを切るべきか」「どの対象で見るべきか」といった分析の仕方も、毎月試行錯誤していた時期だったと思います。数字そのものよりも、“どう読み解くか”の型をつくることに時間を使っていました。
社員への共有についても、具体的な数値までは伝えないものの、「私たちはこの項目を大切にしていきます」というメッセージは全社共有のタイミングで伝えていました。月に一度アンケートを取っている中で、「会社はこの指標を大事にしているんだ」と社員が理解できる状態をつくることは、旗印を立てる意味でも重要だったと思います。
ただ、正直に言うと、徹底しきれていたかというとまだまだでした。浸透には相当な継続と工夫が必要で、当時も今も「もっとできることがある」という感覚は強く持っています。
小さな成功や前進が可視化される取り組み。日々の小さな前進が共有できるSlackの「モメンタムチャンネル」
ーエンゲージメント活動を始めるにあたって、メンバーたちの反応は?
波多野: メンバー側の感覚として、サーベイって正直「面倒くさい」と思われてもおかしくない作業だと思うんですけど、実際にはそういった声はほとんど出ていませんでした。むしろ、回答率は常にほぼ100%で、みんなすごく協力的だった印象があります。
もちろん、その背景にはHRチームがかなり粘り強く追いかけたことも大きいです。「ごめん、まだ回答してないよね?お願い!」みたいな軽いやり取りで、嫌がられることなく協力してもらえるように意識していました。みんな協力してくれたのは、本当にありがたかったですね。
一方で、メンバーから「サーベイを通じてこんな気づきがあった」といった直接的な声は、正直あまり回収できていません。サーベイの結果を個人の成長につなげるのは、今後の課題の一つだと認識しています。
成長機会ややりがいの高さが、モメンタム(推進力)やエンゲージメントに直結するということは、この2年間でかなり明確になってきました。だからこそ、私は常に「今、メンバーの成長機会は十分にあるか?」という視点を意識しています。
例えば、スコアが下がってきたメンバーがいれば、「最近同じ仕事が続いているよね」「新しいチャレンジを提供できていないよね」といった観点で配置や役割を見直す提案をしたりしています。また、達成感や賞賛も非常に重要なので、社内に“モメンタムチャンネル”をつくり、個人のポジティブな成果にしっかり光が当たるようにする取り組みも始めました。
こうした個人スコアの変化はかなり細かく見ていますが、従業員からの直接的な感想はまだ十分に拾えていない部分もあります。とはいえ、数字の動きや行動の変化を見る限り、個人レベルでの活用は確実に進んでいると感じています。
ーモメンタムチャンネルとは、どんな取り組みですか?
波多野: モメンタムチャンネルは、Slack上で “Big Win” と “Small Win” というスタンプを押すと、自動的に専用チャンネルに投稿される仕組みです。日々のコミュニケーションの中で誰かがスタンプを押すと、その瞬間に「Win」として記録され、モメンタムチャンネルに一覧で流れていくイメージです。

例えば人事であれば、「採用の承諾をいただけました!」という報告に対して誰かが Win スタンプを押すと、そのままチャンネルに投稿されます。どの部署でも同じように、小さな成功や前進が可視化されるようになっています。
この取り組みの狙いは大きく二つあります。一つは「日々の達成感を感じてもらうこと」。スタートアップは大きな挑戦に挑むがゆえに、日々の小さな前進が見えにくくなりがちです。そうすると熱量が落ちてしまうこともあります。だからこそ、どんなに小さなことでも “Small Win” として積み上げていけるようにしたかったんです。
もう一つは「部署間の見えない仕事を可視化すること」。他部署の仕事って、意外と知らないままなんですよね。でも、誰かが Win を押すことで「こんな成果があったんだ」と気づける。これが相互理解やリスペクトにつながると感じています。
結果として、社内の空気が少しずつ前向きになり、互いの仕事に対する理解も深まってきた実感があります。Slack上で自然に “Win” が積み上がっていくサイクルができたことは、組織にとって大きな意味があったと思っています。
南木: モメンタムチャンネルについては、私もすごく良い取り組みだと感じています。まず単純に、見ていてテンションが上がるんですよね。私たちのビジネスは領域が広く、メンバーごとに取り組んでいる仕事もバラバラなので、全体会議があっても具体的な動きまでは把握しきれないことが多いんです。
そんな中で、物流の現場で「こんな大きな改善があったんだ」とか、SNSチームが「すごく良い投稿をつくってくれたんだ」とか、大小さまざまな“嬉しい出来事”がリアルタイムで流れてくるのは、見ていて純粋に気持ちがいいですし、他部署への理解も自然と深まります。参加しているメンバー同士も「いいね、これ!」という空気感でつながれるので、組織にとってすごく大事なチャンネルだと感じています。
モメンタムチャンネルを導入してからの数値面での変化についても、達成感や賞賛に関するスコアは安定して高い状態が続いており、全体として上昇傾向にあると感じています。やはり、日々の小さな前進が可視化されることは、メンバーのエンゲージメントに直結するんだと改めて実感しています。

数字が示す“意味”を丁寧に読み解くことが、組織開発では重要。エンゲージメント活動で解決したい今後の課題
ーエンゲージメント活動を通じて、どんな課題を解決できたと考えていますか?
南木: 当時、私たちがずっと感じていた課題の一つに、「経営陣が何を考えているのかが現場に十分伝わっていない」という点がありました。経営会議の中で意思決定が完結してしまい、情報発信自体はしているものの、階層ごとのリーダーがしっかりチーム内に広めさせていくところまでやり切れていないという感覚があったんです。
そこで、月次の経営会議が終わったタイミングで、経営陣が話した内容を各リーダーに確実に浸透させる仕組みをつくりました。これによって、「会社がどこに向かっているのか」「経営陣が何を考えているのか」といった項目のエンゲージメントスコアが、分かりやすく改善した記憶があります。
スタートアップは意思決定のスピードが速く、状況に応じて方針が変わることも珍しくありません。その背景を十分に伝えきれないまま進んでしまうと、どうしてもメンバーが振り回されてしまう瞬間が出てきます。だからこそ、変化の理由や意図をしっかり握り合い、納得感をつくることが、メンバーの熱量を保つうえで非常に重要だと感じています。
また、当時はまだ社内イベントや定期的なコミュニケーションの場も少なかったのですが、Wevoxを導入した頃から、社内のコミュニケーション量を意識的に増やすようにしました。結果として、経営陣と現場の間に自然な対話のサイクルが生まれ、方向性の共有が以前よりスムーズになったと感じています。
スタートアップは距離が近いからこそ、「普段一緒にいるから伝わっているはず」という錯覚が起きやすいのですが、実際には意識してコミュニケーションを取らないと伝わらないことが多い。そこに気づき、丁寧に対話のサイクルをつくれたことは、組織にとって大きな前進だったと思います。

ーエンゲージメント活動の継続で、次はどんな課題を解消していきたいですか?
南木: 私たちは自分たちの会社をかなりホワイトだと思っていました。残業時間も少なく、いわゆるフィジカルな負荷が高いわけではない。それなのに「仕事量が多い」と感じているメンバーが一定数いるという状況がサーベイ結果から見えてきたのですが、正直その理由がわからなかったんです。
「仕事の渡し方が悪いのか」「期待値の設計がうまくできていないのか」──いろんな可能性は考えられるものの、何が本質的な要因なのかが分からず、どう対応すべきか悩んでいました。
ホワイトな環境を整えているつもりなので、これ以上、仕事量を減らすわけにもいかない。そんなジレンマがありました。ただ、話を重ねていく中で、「仕事が多い」と感じることが必ずしも悪いわけではない、という捉え方が徐々にできるようになりました。
残業が多くて押しつぶされているわけではなく、「やるべきこと・挑戦すべきテーマがたくさんある」という意味での“仕事の多さ”であれば、それはスタートアップとして自然な状態でもあります。むしろ、挑戦の量があるからこそ成長できる側面もあると感じています。
この経験から、「数字はそのまま受け取るだけではダメだ」ということを強く実感しました。背景を見ずに点数だけで判断してしまうと、間違ったアクションにつながりかねない。数字が示す“意味”を丁寧に読み解くことが、組織開発では本当に重要だと思っています。
また、成果に対する承認の項目についても、サーベイを通じて大きな気づきがありました。
私自身は「ちゃんと褒めているつもり」だったのに、メンバーには全然伝わっていなかったんです。これは1on1を重ねる中で気づいたことで、まさにマネジメントあるあるだと思いますが、なかなか難しい課題だと感じています。
この項目は組織全体でも他よりスコアが高くない部分で、私自身も、そして他のマネージャーも向き合うべきテーマなんだろうなと感じています。「ありがとう」と本気で思っているのに、それが伝わらないのはやっぱり寂しいですし、改善していきたいポイントです。
こうして振り返ると、サーベイは社員のエンゲージメントを上げるためだけのものではなく、マネジメントの質を可視化する指標としての役割が半分くらいを占めていると感じています。世の中にはマネジメントに悩む人が多いですが、自分のマネジメントが数値として見えることで、改善の方向性がつかみやすくなる。そういう意味でも、Wevoxは非常に価値のあるツールだと思っています。






