「若者は挑戦しない」って本当?高校生が価値観ワーク×海外研修で見つけた自分たちの進む道
富山県立魚津高校教諭。担当教科は芸術(音楽)。現在は学校全体の探究活動を推進するコーディネーターとして、地域、大学、企業と連携した探究学習の企画・運営に携わっている。
「若者は挑戦しないと言われているけど本当なの?」
この問いに対して、富山県立魚津高校の生徒たちが、海外研修を通じて自分たちなりの答えを導き出しました。普通科進学校に通う生徒たちが取り組んだのは、「価値観」をテーマにした探究活動。海外での価値観ワークを通じて、発見した「挑戦へのブレーキ」の正体に気づき、前へと踏み出すまでの軌跡は、まさに驚くべきものでした。
本記事では、このプロジェクトを牽引した関野早紀先生に、現地の学生との「価値観ワーク」で見えた海外と日本の学生の価値観の違いや、生徒たちの意識変容について深くお話を伺います。
チーム/組織づくりに励む読者のみなさんにとって、世代間の価値観の違いを理解し、若手にのびのびと活躍してもらうヒントが詰まった必読のインタビューとなっています。
課題解決能力を養う「探究の時間」の必修化
—本日は魚津高校の関野先生に、高校生が行った価値観ワークを通じたキャリア探究についてお話を伺います。海外研修に参加した高校1年生が、現地の学生たちと価値観ワークを行い、「挑戦」をメインテーマにいろいろな発見と分析を行ったそうですね。DIOは「チームづくり」をテーマにしたメディアですが、これから社会に出る若者たちのリアルな価値観や、ワークに取り組む姿勢を読者に届けるのはとても価値のあることかと思います。本日はよろしくお願いいたします。
関野:よろしくお願いいたします。私は魚津高校で教員をしている、関野早紀と申します。教科は音楽を担当しています。現在は学校全体の探究活動を推進するコーディネーターも務めていて、地域や大学、企業と連携したカリキュラムを作ったり運用したりしています。

—探究活動とは、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。
関野: 5人程度のグループに分かれて、生徒自身の興味や関心に紐づいたテーマを自由に設定します。そして、地域の方や大学の先生方からアドバイスをもらいながら企画や仮説を立てて、それを検証していくんです。大体1年半ほどかけて取り組むプログラムになっています。
—今回は、その探究プロジェクトとサンフランシスコへの海外研修を掛け合わせたとお聞きしました。学校としていろいろな取り組みをされているのですね。
関野:海外研修は毎年行っていて、今年度は24人の生徒が参加しました。1年生と2年生が対象になっており、今年の参加生徒は全員1年生でした。
それとは別で、実は4年ほど前から高校では「総合的な学習の時間」から、「総合的な探究の時間」に代わりました。探究型プロジェクトはこの一環として続けているものです。
— 全国で必修になっているのですね。具体的にはどのような狙いがあるのでしょうか。
関野: 自ら問いを持ち、自分の課題を解決していく力を身につけることが狙いです。普段の授業で身につけた様々な教科の知識を、総合的な探究の時間でフル稼働させながら問題解決に取り組みます。
—実践的な課題解決能力を養うための時間が必修化されているのですね。
関野: そうなんです。ただ、具体的なやり方は各学校の裁量に任されています。必修教科ではありますが、専門の担当教員がいるわけでも、専用の免許があるわけでもありません。そのため、今はどの学校も手探りでいろいろと試行錯誤を続けている状況です。
価値観の軸を持ってキャリアを選択する時代に
—今回行われた、海外研修×探究活動のプロジェクトでは、なぜ「価値観」に着目して構想を練っていったのでしょうか。
関野:本校は普通科の進学校なので、多くの生徒が大学進学を目標にしています。しかし、大学を出た後にどうするのかを言葉にできない生徒も少なくありません。そんな生徒たちの姿を見て、自分の強みや弱みを捉え直し、キャリアを考える必要性があるのでは、と考えるようになっていきました。
これまでは、偏差値を参考に進学先を考えることが、将来のキャリアを考えることとほぼイコールでした。しかし、これからの社会では、自分が何を大事にしたいのかという価値観の軸が重要です。どんな環境で、どんな力を発揮したいのか、そのために大学で何を学ぶのか…などを考える必要があります。

—これからの時代には、そういった価値観の軸がより求められるということですね。具体的にどのような場面でそう感じられますか。
関野:例えば、地域の方や大学の先生と関わる中で気づかされたことがありますね。正解のない課題に対して、違う価値観の人とアイデアをすり合わせる力が必要だと、多くの方が口にされます。対立することなく解決方法を探ることは、どの職場でも共通して求められる時代になっているのだと、ひしひしと感じています。
行政や学校でも、少子化などの問題に対して今までにないアイデアが必要です。ありたい未来を描く時に、何を大事にして何を守るのかを言語化しなければなりません。今はAIが普及し、教える人と教えられる人という関係性が揺らいでいます。何を軸に子どもたちを育てればいいのか、日々考えさせられていますね。
—正解のない問いに向き合うためにも、自分自身の価値観を知ることが大切なのですね。
関野:その通りです。探究活動を進める際、生徒たちは世の中への関心や問題意識を持ちにくい傾向があります。そのため、いきなり「社会問題について探究してみましょう」と言っても、生徒たちからすればいまいちピンとこないし、どうしても他人事のように思えてしまいます。そうした中で、最も自分ごとになりやすいのが自身の将来や価値観です。まずはそこに立ち返らなければ、プロジェクトが進まないと感じました。
自分の価値観を楽しく知る「バリューズカード」の活用
—そこから、具体的にどのように価値観を探究する企画を進めていったのでしょうか。
関野:今回の研修先はサンフランシスコで、ベンチャー企業やチャレンジ精神にあふれる人たちに触れる機会が多いと考えました。そこでまず、自分自身の価値観や将来について、一度客観的に向き合ってみる必要があるのではないかと思いました。
しかし、いきなり「価値観について話そう」と言っても生徒たちにすれば難しいですし、話が空中戦になってしまいます。そこで、以前個人的に購入していたWevoxの「バリューズカード」を使えないかと考えたんです。

—もともとは企業のチームづくりに向けて作られたツールです。それを高校生向けにどう活用したのでしょうか。
関野:10代の子たちは、自分のことをほとんど喋りたがりません。恥ずかしさもあるでしょうし、そもそも自分のことはぼんやりとしかわからない。曖昧なことについては、しっかり形になってから話したいという思いも強いので、いきなり「価値観は?」と聞かれても、意見を出せない生徒がほとんどだと思います。
しかし、バリューズカードを使えばゲーム感覚で直感的に自分の価値観を選べます。目線がカードにいくため、向き合って話すハードルが下がり、自然に会話も生まれやすくなるのではないか、という考えが私の中であったんです。
ただ、高校生には難しいビジネス用語もあったため、アトラエに問い合わせをしました。そこから、バリューズカードの制作者でもあるアトラエの竹田さんが高校生向けにアレンジしてくださることになったのです。
—竹田さんにも取材に同席してもらっているので、せっかくなので話を聞いてみましょう。竹田さんは、高校生向けにアレンジする際、どのような点を意識されたのでしょうか。
竹田:まず、高校生に馴染みのない、ビジネス用語的な横文字をなるべく無くすようにしました。そして、言葉が対になるように徹底的に言葉を選び直したんです。例えば「情熱」と「冷静」のように、どちらも大事だけどより迷うような対立構造です。また、言葉の意味が分からない時のために、学生向けの解説の一覧も作成しました。
このバリューズカードは、ゲームという言い訳があることで対話が生まれ、相手を知れることに大きな価値があると考えています。ただ、我々も高校生向けに価値観ワークを行うのは初めてでしたので、Wevoxチームから2人が直接魚津高校に赴いて、事前ワークのファシリテーションも行わせていただきました。
関野:まさか富山県まで来て下さるとは思っていなかったのでとても助かりました。Wevoxのメンバーの方に、価値観ワークについて説明していただいた後にワークを行ったのですが、想定していたよりも対話が盛り上がって、みんな楽しそうに自分の価値観について話してくれました。
この事前ワークのおかげで、生徒たちも「価値観とは何か」、「自分の価値観はどうなのか」…など、いろいろと理解が進んだように思います。
英語での価値観ワーク、帰国後の対話や分析…高校生たちの挑戦
—実際にサンフランシスコへ渡ってからのワークショップは、どのような様子だったのでしょうか。
関野:海外研修も兼ねているので、現地の学生たちの英語でワークを行う、というもう一つのハードルを超えなければいけません。
そのために、司会進行役、グループに入って一緒にワークを行う役、記録役…など生徒たちが役割分担をしながら入念に準備しました。
当日は私は引率せず、24人の生徒が2つの会場に分かれて生徒たち自身で進行しました。とはいえ、やはりとっさのやり取りは難しいので、英語の台本を作って、国内にいる間に何度もリハーサルを重ねて当日に臨んだんです。
—高校1年生が、英語で進行やワークまで行うとは、本当に大きな挑戦ですね。当日は想定通りに進んだのでしょうか。
関野:実は、お願いしていた現地の参加者が想定の半分ほどしか集まらなかったみたいで…。そうしたハプニングがありながらも、生徒たちは臨機応変に頑張り、ゲーム自体は滞りなく進めてくれました。サンフランシスコに集まった留学生は母国語がバラバラで、英語のレベルも決して高くありません。しかし、カードという共通のツールがあることで、言語の壁を越えてかなり盛り上がったと聞いています。
—ここまでの話でも十分すごいですが、さらに今回の研修を通じた学びを富山大学の「とやま探究フォーラム~既知と未知をつなぐ架け橋~」で発表したそうですね。
関野:はい。ただ現地に行って終わりではなく、そこから得られた学びを形にすることも大切です。帰国後に1ヶ月ほどかけて、海外研修での学びや価値観ワークで得たデータを分析しながら、一枚のレポートにまとめていく作業を進めていきました。
—現地でのワークからどのようなことが分かったのでしょうか。
関野:高校生と留学生が選んだキーワードを比較すると、明確な傾向が浮き彫りになりました。日本の高校生が特によく挙げていたキーワードは「努力」でした。一方で、留学生の人たちは「努力」をほとんど選びませんでした。留学生たちが圧倒的に多く選んだのは「情熱」という言葉だったのです。この違いは一体何なのかという点に、まずは注目して分析を進めました。
この分析に関しても、竹田さんがサポートしてくれたんです。
—竹田さんはどのように分析をサポートしたのですか?
竹田:魚津高校の生徒と、留学先の学生が選んだ価値観を、シュワルツの価値観円環モデルという、心理学の学術的な枠組みを使って分析を進めました。シュワルツの価値観円環モデルは、今回新たにアレンジしたバリューズカードでも参考にしていて、この円環のどこかに必ず用語がマッピングできる設計にしたんです。
分析をしてみると、対象人数は少なかったものの、傾向や差がはっきりと出ました。具体的には、「挑戦」に向かうための燃料が、日本のカルチャーと各国のカルチャーで違うことが見えてきたんです。
「18歳は挑戦しない」は本当か? 生徒たちの出した答え
—生徒の皆さんは、自分たちの結果を受けてどのように感じたのでしょうか。
関野:まずは、生徒たちを集めて話し合う場を作りました。その際に、「若者が挑戦しない」という趣旨の18歳意識調査(日本財団)の結果について共有したんです。この意識調査の結果は私も気にはなっていて、本当にそうなのかな?と疑問も持っていました。今回の分析結果を受けて、生徒たちと話し合ってみたいなと思い、議題として出しました。
そこから、自分たちの価値観と挑戦について、深掘りしていく話し合いを進めていったんです。
生徒たちからは、「挑戦はしたいけれど、そこに至るまでの労力を考えるとブレーキがかかる」といった意見が出ました。研修先では、発言しないと自分の存在がなくなってしまうため挑戦できる。しかし、日常に戻ると「手を挙げると目立つ」「周りにどう思われるか」と考えてしまう…。そんな話をする生徒が多くいました。
そうした対話から、日本にいると、至る所で挑戦に歯止めをかける要因があることが分かったんです。
—なるほど。挑戦したくないわけではなく、周りの視線や目立つのでは…といった意識がブレーキになっているのですね。
関野:はい。そして、「努力」というキーワードが多かった背景としては、日本人特有の「努力しない人は挑戦してはいけない」という前提があるのかもしれません。情熱だけで無鉄砲に挑戦するのではなく、ある程度努力をして準備をしてから挑戦したいのです。
私はその思いにとても共感しました。努力を重視するのは、慎重で誠実であることの裏返しですし、そうした生徒たちの姿勢は大事にしたい部分です。最終的に生徒たちは自分たちの意見として、「努力と情熱を合わせて、平坦な道ではなく、人が通らない道を選んでみよう」と前向きな姿勢に着地しました。
生徒たちが自分たちの価値観と向き合い、他国との文化の違いも受け入れた上で、前向きに前に進もうとする考えにたどり着いたことが、すごくうれしかったですね。こうした対話の積み重ねを通じて、生徒たちの成長も実感できました。
そして、分析や生徒たちの対話の記録を一枚のレポートにまとめて、大学で発表を行ったんです。なんと、その発表も全て英語で行う…というまた大きな挑戦もあったのですが、生徒たちは頑張って英語でプレゼンしてくれました。プレゼンを聞いた人たちからも、とてもポジティブな反応をいただいて、発表は成功に終わったかなと思います。

若者が輝く組織とは? 社会人・マネジメント層への示唆
—高校生たちがそこまで深く価値観について考え、他者を理解しようとしていることに驚きました。DIOの読者の多くはチーム、組織づくりに取り組んでいます。これから社会に出る若者が輝くためには、どのような組織づくりが必要だと考えますか?
関野:今の若い人たちは、正解が分からない中で自分がどう進むべきか不安を抱えています。だからこそ、これから社会に出て働く場が、個人の価値観が尊重される場所であることが大切だと思います。自分が気づいたことや違和感を気軽に話せる、対話が尊重される環境が働きやすさに繋がるはずです。
そして、若い人たちの挑戦が許されるマインドで溢れる組織が増えてほしいですし、生徒たちにもそういう組織で活躍してほしいと思いますね。
今回の探究型プロジェクトを通じて、「挑戦したい」という思いは、日本の高校生たちも持っていることがわかりました。そのために、努力も惜しまない。それでも、いざ挑戦しようとすると周りの視線が気になって自分にブレーキをかけてしまう。そうやってブレーキをかけることなく、思い切って挑戦できる組織が増えていくといいのかなと思います。
—最後に、このプロジェクトの今後の展望について教えてください。
関野:高校生は自己開示が苦手だからこそ、このカードは本当に相性が良いツールだと感じました。今後は、自己選択が迫られる高校3年生の進路学習の導入としても、活用していきたいと考えています。バリューズカードを通じて、未来を考えられる、とても楽しく、カラフルな機会があることは、本当に素晴らしいことだと思いますね。







