「チームが変わっていっている実感を持てた」——常陽銀行の実践に学ぶ、メンバーが自律的に動き出す仕組みの作り方【Teamwork Sessionレポート】

「チームが変わっていっている実感を持てた」——常陽銀行の実践に学ぶ、メンバーが自律的に動き出す仕組みの作り方【Teamwork Sessionレポート】

株式会社常陽銀行
林 泉氏
林 泉氏
株式会社常陽銀行
営業企画部 戦略企画G企画グループ 調査役

2006年に常陽銀行に新卒で入行し、窓口業務を3年間担当。2009年に本部・事務指導部門に異動して、銀行事務の研修や指導に従事する。2011年に出産・育児休業を経て復帰し、営業部門で営業支援システムの企画・運用を担当。2022年からは、社内のエンゲージメント向上を推進する事務局として活動している。

多くの企業にとって重要な課題である「エンゲージメント」。伝統的な組織文化を持つとされる金融機関では、その取り組みは一筋縄ではいかないことも少なくありません。

茨城県に本店を構える常陽銀行も、全社的なエンゲージメント向上活動を進める中で、「活動の形骸化」や「現場との温度差」といった壁に直面していました。事務局が熱意を持って打ち出す施策も、多忙な現場にはなかなか浸透せず、空回りしているような感覚があったといいます。

この状況を打破する転機となったのが、一部の店舗で試験的に始まった「モデル店活動」でした。

担当者として2年半の試行錯誤を続けてきた林さまに、自律的なチームを生み出すまでのリアルな道のりをお話しいただきました。

林: 本日はお忙しい中、たくさんの方にお集まりいただき、ありがとうございます。常陽銀行営業企画部の林と申します。よろしくお願いします。

本日は、アジェンダにもあります通り、大きく四つの項目についてお話しさせていただきます。皆様のご参考になれば幸いです。

まず初めに、当行について簡単にご紹介します。常陽銀行は、茨城県の水戸市に本店を構えております。営業エリアは茨城、福島、栃木、千葉、埼玉、宮城、東京、大阪の一都一府六県で、181の支店・出張所を展開しております。

当行の規模は、従業員数が3007名、そのうち営業行員が1500名程度の地方銀行です。本日の話は、このくらいの規模の地方銀行の話であるということを前提にお聞きいただければ幸いです。

林: 次に、私の自己紹介をさせていただきます。私は2006年に新卒で常陽銀行に入行しました。そこから丸3年間は、銀行の窓口で資産運用の相談等の業務を行っていました。

その後、2009年に社内の事務を企画・指導する部署へ異動になりました。そこでは銀行の事務に関する研修や、事務指導を行っていました。そして2011年に出産・育児休業を経て、同じ部署に復帰いたしました。

しばらくして、今度は事務部門から営業部門に異動し、営業を支援するシステムの企画・運用を担当することになりました。そちらを長く担当した後で、社内でのエンゲージメント向上に向けた取り組みが始まる際に、主担当としてアサインされました。現在はエンゲージメント推進を担う事務局として、活動を行っています。

常陽銀行、エンゲージメント活動の概要

林: ここからは、実際に当行がどのような活動をしてきたかについてご説明します。

まず、2022年に当行が掲げた第三次中期経営計画があります。その中で「価値を創造する人材の育成・確保」「働きがいの充実に向けた取り組み」として、組織的にエンゲージメント向上に向けた取り組みを開始することになりました。

エンゲージメントが向上すれば、一人ひとりが主体的に仕事に取り組むことで生産性が向上し、お客様に対する課題解決力も向上すると考えています。最終的には地域経済の活性化につながるという考え方のもと、営業部門が事務局となって活動しています。

林: 事務局は私の他にもう一名おり、二名体制で社内のエンゲージメント向上に取り組んでいます。ただ、エンゲージメント向上の取り組みは、人事との連携も不可欠です。そのため、人事部のメンバーも事務局にサブとして入り、連携しながら進めております。

エンゲージメントサーベイは、2022年の11月から実施しました。開始当初は2ヶ月に1回の間隔で実施していましたが、昨年の11月からは3ヶ月に1回の間隔に変更しております。

サーベイの対象者は、支店長、副支店長といった各現場の管理職を除く全行員です。

サーベイ結果については、個人データの開示は行っていません。事務局や管理職も、チームや自店舗のスコアは閲覧できますが、個人のスコアは閲覧できない形で運用しています。

スコア自体は、開始当初は71でしたが、直近のスコアでは75で、だいぶ改善が図られてきている状態だと感じています。当行の特徴として、支援や人間関係のスコアが比較的高い傾向にあります。

一方で、金融機関という業務の特性上、決められたフローや業法があり、できることが決まっていることも多いです。そのため、挑戦する風土のスコアが低い傾向にあります。

ここからは、サーベイの実施と並行して、当行が取り組んできた活動をご紹介します。

これまで実施してきた、事務局主体の取り組み

林: まず、この取り組みを始めるにあたり、本日ファシリテートを務めていただいているWevoxチームの平井さんを講師としてお招きしました。そして、「エンゲージメントとは何か」「主体性とは何か」といった基礎知識を学ぶ、全社員向けの研修会を全3回行いました。

また、1年後にはフォローアップ研修として、今度は実践やアクションにつながるような内容を盛り込んだ研修を実施していただきました。

さらに、エンゲージメントの取り組みには、支店長や副支店長といった現場のマネジメント層の意識や働きかけが重要ということで、マネジメント層向けの研修を2回実施しています。

またアンバサダー制度を導入し、各営業店にエンゲージメントのアンバサダーを置き、事務局と現場の橋渡しの役目を担ってもらっています。当行には181の営業拠点があり、事務局が全ての拠点に出向いて活動を浸透させていくことは難しいという背景からです。

アンバサダーを任命するにあたっては、その役割に関する研修や、実際の活動における悩みを相談する会などを定期的に実施しています。

その他、私がEngagement Run!Academyで学んできたプチワーク集などを活用しています。毎月のテーマとして対話してもらうお題を提供したり、スコア読み解き道場やお化け探しのワークなども定期的に開催しています。

実際に社内で毎月出しているテーマとしては、「私の仕事のお供」や「ジェスチャーで元気度チェック」などがありました。年末であれば「私の今年の漢字一文字」など、季節感も意識して対話を増やせるようにしています。

林: また、私自身がアカデミーのクラスでジョブクラフティング(※)をやってみて、とても良かったと感じました。ぜひ行員全員にやってもらいたいと思い、昨年から人事部と共同で、年次で受ける研修にジョブクラフティングを必須項目として組み入れています。
(※個々人が仕事に対する捉え方を変容させたり、工夫を行うことで、エンゲージメントを育むアプローチ)

エンゲージメント活動、形骸化の壁をどう乗り越えるか

林: こうして2年半の活動を振り返ると、事務局が現場に向けて発信をしたり、活動を促すことは、結構やってきたなと感じています。

ただ、サーベイのコメントでは「効果を実感できない」「何をすればいいのかわからない」「忙しいから後回しになってしまう」という声が寄せられていました。

事務局側でも、いろいろ手は打っているものの、なんとなくうまく回っていないという感覚がありました。そんな時、どうすればいいのか課題を見つけたいという思いで、Wevoxチームのサーベイ分析サービスを利用させていただきました。

複合的に分析していただいた結果、「回答率は高いけれども、質の高い回答割合が下がってきており、形骸化の予兆がありますよ」というご指摘をいただきました。私たちがなんとなくうまく回っていないと感じていた原因が「マンネリ化」「形骸化」によるものだということがデータからも分かりました。

林: 先ほどご説明したように、2年半で様々な施策を打ち出してきました。しかし、実際には「効果が得られない」「現場がアクションに移せていない」という声をいただくことが多かったです。そのため、事務局が考えていることが現場に即した活動になっていないのではないかと感じていました。

日々の忙しい仕事の中で、負担感なくエンゲージメント活動をするためには、まず「何をやったらいいか」を形式知化する必要があると考えました。効果のある活動内容を現場に展開すれば、みんなが今より負担なく活動に移せるはずだという思いから、活動の形式知化と普及のための「モデル店活動」を始めることになりました。

「モデル店活動」が生んだ自律の芽

林: 以下が、実際にモデル店を募集する際の案内です。

林: 事前のヒアリングでは、「支店長がどれだけ関与しているか」で活動の進みが大きく変わることがわかっていました。

そこで、モデル店として手を挙げてくれた営業店の支店長とアンバサダーには、Wevoxチームにご提供いただいた学習プログラムEngagement Run! Boosterの短い動画コンテンツを受講してもらう形にしました。

支店長にはWevoxをマネジメントに活かす方法やマネジメントの役割に関する動画を。アンバサダーには、チームビルディングや相互理解に関する動画を見てもらいました。

その上で、Wevoxチームの平井さんにファシリテートしていただき、キックオフミーティングを開催しました。そこでは、「自店舗がどうあると良いか」「サーベイ項目の、どのキードライバーを活動のセンターピンに置くか」を考え、どう活動するかの具体的なプランまでを考えました。

林: キックオフミーティングでは、アクションプランまで完全に決まったチームはありませんでした。しかし、それぞれが持ち帰ってアクションプランを考え、活動を進めてくれました。

活動の途中にも、「相談会」という形で実際活動してみてのお悩みについて、平井さんに相談できる場を設けながら、モデル店活動を進めていきました。

また、事務局の方でも定期的に「活動のお困りごとはないか」「いつでもサポートが可能ですよ」ということを社内のチャットで伝えていました。しかし、実際にはモデル店のチームから特段サポートの依頼は事務局にはありませんでした。

では、サポートの依頼がなかったからうまくいっていなかったのかというと、決してそうではありません。モデル店では、自分たちで試行錯誤しながら自律的に活動を進めてくれていました。

最終的に活動の発表会を実施したのですが、その際の資料からも、自分たちのアクションを途中で修正したり、小さなことから試してみたりと、自分たちで考えて活動をしている様子が伺えました。

あるチームでは、このモデル店活動を、自分の営業エリアの他のお店に紹介する社内動画配信を行ったりしていました。事務局はサポートしていないのですが、どんどん積極的に活動を広げていこうという様子が、とても力強かったです。

「モデル店活動」自体を広げたら良い、という気づき

林: 参加したチームからは、「この活動をやってよかった」「やる前は不安だったけど、実際やってみたら楽しめたし、チームが変わっていっている実感も持てた」などの声をいただきました。

また、「エンゲージメントの向上は必要だと思うけど、日々の忙しさで後回しになっていた」「自分だけが声を上げるのは難しかった」という意見もありました。この活動に参加しているからエンゲージメント活動をやってもいいんだ、というある種の強制的な枠組みが背中を押してくれたという言葉もたくさんいただきました。

林: モデル店活動を通じて気づいたことは、モデル店で実施したアクションが、全ての店舗にフィットするわけではなく、一律に同じアクションを行わせても効果が出るとは限らないということです。

モデル店の中には、規模や人数も近く、センターピンとして決めたキードライバーも同じなのに、アクションは全然違うことをやったというチームがありました。課題やありたい姿が同じだとしても、アクションは自分たちに合ったものを自分たちで見つけ出すべきなのだと気づかされました。

また、先ほどの意見にもありましたが、やはりエンゲージメント活動の優先順位がまだまだ低い状況でした。「そんなことやってるなら仕事しろ」と言われてしまうのではないかと、やりたくても尻込みしている人が多かったのだと思います。モデル店活動という大義名分を与えることで、堂々と活動する背中を押してあげられるということもわかりました。

そして、どの店舗も、自分たちで試行錯誤して活動を進め、効果を実感するところまで気づいてくれました。効果を実感したことで、参加したすべてのチームから「今後もこの活動をやめることなく続けていきたい」という話をもらいました。まずは強制的に実施してもらうことが、自律的な活動につながるサイクルを生んでいるのだと感じました。

これらのことから、当初持っていた「成功事例を全社展開する」という考えは変わりました。モデル店のアクションを形式知化して一律に展開するのではなく、この「モデル店活動」という枠組み自体をみんなにやってもらう。そこからそれぞれが自分のチームに合った活動を見つけ出し、自律的な活動につなげることが出来るのではないか、と考えるようになりました。「何をしたか」ではなく、モデル店活動自体をモデル化しようという方向性に変わっていきました。

自律のサイクルを加速させる、次なる一歩と展望

林: 最後に、このモデル店活動を通じて、今後の当行のエンゲージメント活動をどうしていくかお話しします。

継続する施策としては、引き続きエンゲージメントの知識や理解を深めるための動画研修や、定期的なスコア読み解き道場などを実施していきたいと考えています。また、自分自身のエンゲージメントを向上させるための定期的なジョブクラフティングも、研修の中で実施していきたいです。個人だけでなく、チームのエンゲージメントを高めるための定期的なチームミーティングで対話を深めていくことも、引き続き行っていきます。

そして、今後チャレンジしていくものとしては、このモデル店活動を継続的に実施し、二期目、三期目のモデル店を増やしていくことです。

このモデル店活動でもマネジメント層である支店長の関与が非常に重要ということがわかりましたので、マネジメント層の理解や関与を深めるための研修も追加で実施したいと考えています。

林: この2年半で、エンゲージメントは知識だけではダメで、実際に実行していくことがエンゲージメント体感につながっていくのだと感じています。知識をアップデートすることと、ある種の強制的な枠組みで実行に移せる力をつけること。知識と実行力の両輪で進めていきたいです。そして、それぞれの場所で自分たちに合った自律的な活動ができるようになったらいいなと思っています。

簡単ではありますが、以上となります。ご清聴ありがとうございました。


ここからは、Teamwork Session開催時に寄せられた質問と、林さまからいただいた回答をご紹介します。

Q. モデル店を募集した際、何店舗くらいの応募がありましたか。また、その時の反応はどのようなものでしたか。

A. 正直なところ、当初は応募が集まらないのではないかと心配しており、指名制にすることも検討しました。しかし、各店舗の自主性を尊重したかったため、最終的には公募という形を取りました。その結果、6店舗から応募がありました。

当初の想定より多くの応募があり、事務局のサポート体制で手が回るかという懸念もありました。しかし、せっかく意欲的に手を挙げてくださったので、応募のあった6店舗すべてを対象にモデル店活動を実施することに決めました。

Q. サーベイ後の「対話」を社内で促すために、どのような教育や工夫をされていますか。

A. 私たちもサーベイ後の対話の重要性は当初から認識していました。サーベイを実施して終わるのではなく、対話を通じて課題を見つけ、アクションにつなげることが不可欠だと考えています。

そのため、最初の段階では、対話の機会を「強制的」に設けていました。具体的には、「サーベイ後、この期間内にこのテーマでチームミーティングを実施してください」と指示を出し、どのような話し合いがなされたかを報告してもらいました。テーマも「今回は一番スコアが低かった項目について話し合ってください」などと具体的に指定し、ミーティングの内容まで指示することで、確実に対話が行われるようにしていました。

Q. 匿名でサーベイを実施すると、スコアが低い個人へのアプローチが難しいと思います。それでもモデル店活動がうまくいった背景には何があるのでしょうか。

A. 私たちは当初から、個人のスコアを人事が閲覧したり評価に反映させたりはしないというポリシーを明確に打ち出してきました。あくまで「チームとして成長すること」を目標として周知していたため、個人のスコアに注目させないような工夫を心がけてきました。

例えば、個人を特定するのではなく「このチームにはこういうお化け(課題)がいる」といった形で課題を見つけるワークを定期的に実施しました。また、モデル店活動で「今日自分が頑張ったことをグループLINEに投稿し、みんなで『いいね』を押し合う」という活動をしたチームがありました。そうすると、投稿やリアクションが少ない人が、エンゲージメントが低い可能性があると自然に見えてきます。

しかし、その個人に直接アプローチするのではなく、「チーム全体がもっと盛り上がれば、その人も自然と参加したくなるのではないか」というアドバイスをいただき、実践しました。個人を責めるのではなく、チーム全体で引っ張っていく活動ができたことが、うまくいった要因だと思います。

(編集部コメント)
エンゲージメント体感を広げる鍵は「やらされ感」をなくすこと。事務局主導の施策を試行錯誤する中で見出した「自律的な活動を促す仕組み」は、多くの組織が直面する課題を解決するヒントになるはずです。ぜひ真似ができそうな取り組みがあれば取り入れてみてください!

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