
【心理的安全性】半径5メートルから、チームを変えていく/イベントレポート

1991年、日本IBMを退職、ICT技術を活かしてベンチャーを創業。携帯テクノロジーが注目され、未上場で時価総額 100億円超。バブル崩壊で創業者追放の憂き目にあい、3億円の借金を背負う。裁判敗訴、競売、事業売却と、厳しい起業の荒波に揉まれる中で経営学を学び、現場で実践し、新しい視点で体系化し続ける。その後、組織論と起業論を専門として 学習院大学 客員教授に就任。幸せ視点の経営講義が Z世代に響き、立ち見のでる熱中教室に。精神年齢が学生に近く、学生から「とんとん」と呼ばれはじめる。今は ビジネス・ブレークスルー大学 教授として教鞭をふるう。2018年には、社会人向け講座「hintゼミ」を開講。卒業生は 600名を超え、三ヶ月毎に約70名の仲間が増えている。
書籍「だから僕たちは、組織を変えていける」でおなじみの、ビジネスブレークスルー大学教授の斉藤 徹さんを招いて行ったイベントレポートをお届けします。今回、斎藤さんには、心理的安全性をテーマに、5〜10人規模のチーム、つまり半径5メートルの範囲でのチーム変革について語っていただきました。手の届く範囲で、チームを変えるために、はたしてリーダーはどう振る舞えばいいのでしょうか?
※記事内スライドはすべて斉藤氏が制作したスライドになります。スライドはこちらからダウンロードいただけます(②【心理的安全性】半径5メートルから、チームを変える)。
「腐ったリンゴの実験」〜毒を持った人間がチームに入るとどうなるか?
―本日のテーマは「【心理的安全性】半径5メートルから、チームを変えていく 」です。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。テーマにある心理的安全性ですが、今日僕が話すのは、組織全体を変えるといった大きな視点のお話ではありません。まずは自分自身が変わる、それで自分の半径5メートルをもっと素敵にする、といった内容になります。ですので、ご自身を中心に考えて聞いてもらえれば嬉しいです。
簡単に自己紹介を。僕は技術者でしたが、29歳で独立して以降、31年間ずっと起業家として活動しています。現在も現役の起業家で、本を書いたり、ビジネスブレークスルー大学の教師をしたりしています。去年の11月に「だから僕たちは、組織を変えていける」という本を出版し、おかげさまですごく売れています。

この本の目的はやる気に満ちたやさしい組織をつくることです。しかし、組織というと何だか大きな感じがしますよね。ですから、一人から始める、自分から変わって自分のチームが変わって、それが組織に波及していくというメソッドを書いたものとなっています。今日のテーマとなっているのは「チーム」は、5人とか10人のイメージでお話を進めていきたいと思います。
さて、本題に入りましょう。僕は「hintゼミ」という社会人向けのオンライン講座をやっていまして、そこでとても人気の話から始めようと思います。「腐ったリンゴの実験」というオーストラリアで行われた実験についてです。どのような実験かというと、「皆さんのチームに、ネガティブな影響を与える人が入った場合、生産性はどのくらい落ちるのか」といったことを調べたものです。

実験結果では、1人そういったタイプの人間が入るだけで生産性は30〜40%落ちました。実験のために人を雇うことはできないので、ニックという演技力のある学生が演じています。例えば、すごくやる気のあるチームにニックが入ってずっと下を向いてると、段々とみんなも腕を組んで下を向き始めちゃったんです。しかし実験には1つ例外がありました。「ジョナサン」というメンバーがいるチームだけは生産性が落ちないんです。パターンあったチームのいずれも、ジョナサンがニックの毒を中和しているようなんです。これはどういうことだろうと教授も興味を持ち、ジョナサンに注目し始めます。そこでジョナサンが何をしていたかというと、ニックが嫌味を言ったり暴言を吐いたりしたとき、それを注意するのではなく、代わりに身を乗り出して笑顔を振りまいていたそうです。
ジョナサンは半径5mを照らすやさしい太陽だった
「ジョナサンがボディランゲージをしている」ということでさらによく見てみると、そこには1つのパターンがありました。ニックが何か毒を放つと、ジョナサンはすぐにそれを中和するような態度を取るんです。それにより、その場にいる人にまず安心してもらう。それに留まらず、ジョナサンは簡単な質問をします。他のメンバーが「それはこうだと思う」と言うと、ジョナサンはそれに対して「なるほど、確かに」と熱心に聞くのです。そうすると、質問に答えた人の心が開きますよね。さらに次の人の意見を聞き「なるほど、いいね」と言うと、またその人の心も開く。そういう風にメンバー1人ずつの心を開いていったんです。結局ジョナサンが何をしているかというと、とにかくその場に安全を提供しているんですね。
「ここは安全な場所だから怖がらずに自分の意見を言ってもいいんだよ、みんなの意見を聞きたいと思っているんだ」ということを、ボディランゲージあるいは小さなメッセージで送り続けているということが分かったんです。ジョナサンはリーダーではなく、指示も鼓舞もしていないのにこのような結果が生まれました。ジョナサンのこの行動について、アメリカのMITのメディアラボがソーシャル物理学という研究の中で、ある発見をしました。彼らはジョナサンのような行動を「帰属シグナル」、つまり「安全な繋がりを構築する態度」と名付けました。帰属シグナルがたくさん出ているチーム=生産性が高いということです。

例えば、ジョナサンがチームメンバーに向ける笑顔は強い帰属シグナルですよね。それ以外にも、距離の近さやアイコンタクトなど、その人の個性とその場の問題によって色々とありますが、場を安全にしようとするメンバーからのシグナルがあればあるほど、そのチームの生産性が高いということが分かりました。この実験においては帰属シグナルが唯一の解で、一番相関関係が高いものでした。
この帰属シグナルにはどのような特徴があるかというと、まず1つ目はコミュニケーションを促すこと。これは、ジョナサンがやっていた問いかけに該当します。2つ目は、特定のリーダーやサブリーダーだけでなく、一人ひとり均等にみんなの意見を聞くこと。3つ目は、問いかけの内容が未来志向でこれからも続くこと。例えば「これをこういう風にするとさらに良くなる」とか「このチームはこういうことのためにやっているから、こういうことはどうだろう」と関係が続くことを示唆する。こういった要素の揃ったシグナルがたくさん出ているチームは、生産性が高いということですね。
つまり、ジョナサンは半径5メートルをさりげなく照らすやさしい太陽だったんです。普通、ニックみたいな毒のある人が入って場が暗くなると、みんなも暗くなってしまいますよね。だから普通の人は月なんです。場が明るければその光を反射できますが、場が暗くなると暗くなってしまう。その点ジョナサンは太陽なので、場が暗くてもさりげなく照らせるんですね。
心理的安全性を脅かす4つの不安
これを踏まえて、みなさんがジョナサンになるにはどうすればいいのか考えていきましょう。ジョナサンへの道には、5つのポイントがあります。
まず1つ目、ジョナサンは「場に飲まれない」。その場の雰囲気を安全にしているとお話しましたが、つまりこれは心理的安全性です。今経営学でとても注目されているキーワードの1つで、エドモンドソンという女性の教授が1999年に提唱し、Googleのプロジェクトアリストテレスという研究をきっかけに、注目を集め続けています。エドモンドソン曰く、心理的安全性は対人関係のリスクで阻害される、例えば皆さんの心の中に4種類の不安が出てきた時に心理的安全ではなくなるそうです。

1つ目の不安は無知の不安、「こんなことも知らないのか」と言われてしまいそうな不安です。2つ目に無能の不安、「こんなこともできないのか」と言われてしまいそうな不安。3つ目に邪魔の不安、「これをしたら邪魔になってしまうのではないか」。4つ目に否定の不安、「この人の言うことは否定できないな」というような不安。こういう不安が心理的安全性を妨げていってしまうんです。例えば無知の不安や無能の不安というのは喧々諤々な持論を戦わせるような場で出てしまいがちで、つい「強がりの仮面」を身に着けてしまうんですよね。おそらく多くの方が、ビジネスの場では強がりの仮面を着けるかと思います。
一方で少し目立たない、パッと見では凄くいい感じだけど実は一人ひとりかなり空気を読んでいて、「この人にこれを言ったら傷つけちゃうな」とか「これは反対できない」というような場も、同じように心理的安全性が低いんです。この場合は「いい人の仮面」を着けてしまっているんですね。このいい人の仮面は、表立っては目立たないし、Z世代で着けている人が多いんです。この強がりの仮面もいい人の仮面も、どちらも本音で話していませんよね。仮面を脱いで、リーダーもメンバーも自然体で話して、それで本音で競争できるような場が良いということなんです。
自分が自然体でいることが、周囲の心理的安全性に繋がる
心理的安全性において大切なのは「ホールネス」という考え方です。これは個人の中の全体性、自然体の自分に戻ることを意味します。場がいくら自然体だとしても、自分の自然体に戻れていなかったら意味がないですよね。だからこれが一番ベースなんです。僕達は小さな頃はみんなホールネスだったんです。でも、期待に応えたいという気持ちがどんどん強まっていって二面性が出てきてしまうんですね。
自分自身の内面から出た「したい」ではなくて、外部からの期待に応えるために出た「しなくては」という気持ちが心の中を染めていくんです。特にビジネスではそうですよね。普段「しなくてはいけない」と思ってはいないですか?これを1つにすることがホールネスなんです。スティーブン・コヴィーが「7つの習慣」という本を書いており、彼は主体的な生き方と反応的な生き方に分けて話をしています。
反応的な生き方は、周囲の人達から期待がある、だから期待に応えなくてはという感覚。でも期待に応えられるかどうか分からないし、凄く不安が出てくるので、防御の意味で強がりの仮面とかいい人の仮面をつけてしまうんですね。こういう生き方ではなくてコヴィーが提唱したのは、主体的に生きることが大切だということで、これがホールネスの肝なんです。

刺激と反応の間に自らの選択を入れる。周囲の人達の期待があるというのは悪いことじゃないですよね。しかしそうした期待を前に、“自分はどうしたいのか”も同時に考えることです。「この期待は自己成長につながる」「私はこの人の笑顔が見たい」とか、「だから私は期待に応えたい」、もしくは「私は今凄くパンパンだからこれは期待に応えられないな」とか、そういったことを自ら自然体で考えられるということがとても大切です。自己価値観とも言いますが、「私は私であればいい」とか「何かを達成しないと価値がある・ない」とかではなくて、そのままで価値があるという考え方ですね。自然体の自分に戻る。まずはこれが一番の基盤です。ジョナサンは、心理的安全性が高く、ホールネスな状態でいるから、場に飲まれない。これが1つ目のポイントです。
他者を「それ」として扱っていないか?
2つ目は「ジョナサンはやさしい」です。今日の私の話は基本的に、組織全体を変えるためには、まず自分から変えることが一番大切ということが根底にあります。だから皆さんは強がりの仮面を外しているか、いい人の仮面を外しているか、そういう風に聞いてもらえれば嬉しいです。

例えば、私は「私」なんだけれども他人のことは「それ」っていう感じで見ることって、ビジネスではとても多いですよね。私情は抜きにして、人には役割とか機能だけを求める動きがビジネスでは推奨されていたんです。それはなぜかというと、今までは統制するような組織が効率的だったからです。統制しやすい組織にするためい、そうしたカルチャーにしていたわけですね。
しかし皆さんが、例えば上司や周りのメンバーから「それ」としてしか見られていなかったら、心理的安全性は生まれないですよね。僕は自分の人生を主人公として生きていて、99%は自分のことを考えています。皆さんもそうですよね。ここに今90名以上の方が集まっています。僕は1人で90名以上の方にお話をしていますが、では僕は一人ひとりのことを軽んじていいのかというとそんなことは全くないですし、そもそも軽んじられないです。

みなさん一人ひとりが主人公として生きてきて、今聞いていらっしゃいますよね。ビジネスでは、この当たり前のことを忘れてしまうんです。この当たり前のことを思い出すようにすれば、優しくなれる。それにより他者の視点に立って、相手の経験や感情を自らのことのように想像することができる。そうすると脳と脳との間に共感を制御する神経メカニズムが作動し始めるんです。だから想像力ってとっても大切なんです。人に興味を持って想像するということですね。ちなみに、コーネル大学の研究では他者に寛大な人ほど、家庭や職場で安定した協力体制を築くと言われています。人を人間として尊重すると、プラスとなって自分に返ってくるということです。

人間が本来持っているコミュニケーション能力「ミラーニューロン」
3つ目は「ジョナサンは笑顔で話しかける」です。先程の1と2のホールネスと他者の尊重というのは自分の中のマインドセットの問題ですが、ここからはコミュニケーションの話になります。

コミュニケーションには5つのレベルがあって、まず初めて会ったときに挨拶をして、そこからコミュニケーションを増やします。ただ、それだけでは本音で話せる間柄にはなれないんです。悩みやお互いのことを分かち合うと、相互に理解が進んで目的や価値観を共有できるようになります。ここまで話せる、レベル3をクリアできるかどうかが重要なんですね。僕のようなおじさんの時代は、これを居酒屋のお酒の席なんかでやっていましたが、今ではなかなかできないですよね。加えてコロナの影響もありハイブリッドワークになっていますから、例えばオンラインで会ったことがなくてもこういう間柄になることが大切です。
そこでポイントとなるのが、ミラーニューロンです。これは人間や猿が持っている、目の前にいる人の行動を見て脳内に鏡のように映し出す神経細胞のことで、目の前の人の表情などをコピーするような機能があります。つまり、笑顔や共感、信頼というのは表情に出ていて、神経学的には関与し合っているんです。例えば、幼児の幸せそうな顔を見たお母さんの脳内でドーパミンが出て笑顔になると、幼児もそれによって笑顔になります。だけど、お母さんの注意がそれると消えてしまう。
このように、ミラーニューロンは幼少期から僕たちは強く持っています。大切なことは自分から笑顔になる、オープンになること。これにより、相手の心の中から不安な気持ちが抜けて、相手もきっと変わってくるはずです。その場ですぐに変わるかどうかは分からないですが、これを2回3回と繰り返しているうちに変わっていきます。

「この人は自分を攻撃しようとしていないんだ」ということが分かるからです。自らオープンになる、例えば間違いを認めたり悩みを伝えたり、相手の魅力を発見したりすることが大事です。また、感謝を伝えたり、自分にない相手の魅力を発見すると、相手も心を開きやすくなります。あとは共通点を発見すること。同郷の話とか共通の苦労とかがあると、すごく仲良くなりますよね。これにより、お酒がなくても本音で話せる間柄になれると思います。
コンフォートゾーンに留まると組織力は落ちていく
ここまで話したのは、「だから僕たちは、組織を変えていける」の中で書いている、組織の土壌を良くして無関心ゾーンを学習ゾーンに、やる気に満ちたやさしい組織にするための2つのステップのうち、1つ目のステップです。職場を心理的に安全な場にすることによって、ホールネスや他者の尊重、相互の理解でコンフォートゾーンに入り、チームがいい関係性になります。

ただ少し気を付けなくてはいけないのは、コンフォートゾーンに留まってはいけないということです。留まるとどうなるかというと、エコーチェンバー現象が発生します。仲良くなり過ぎると、その中でだけフィードバックが行われるので、自分たちで同調し、自分たちの意見にすごい自信を持ってしまうんです。
例えば「eToro」という株や債券の投資を行う投資サイトがありますが、このサイトではビッグデータを解析して、取引の分析を行っています。ある分析結果を見てみると、投資先とコミュニケーションを取らない独立系のトレーダーは投資効率が低く、一方でコミュニケーションを適切にすると投資効率が高まるという結果が出ている。しかし問題は、コミュニケーションの頻度が高まると、特定の閉鎖されたフィードバック、閉鎖されたグループの間だけでコミュニケーションが行われるようになり、投資効率が下がるというデータがあるんです。このように、コンフォートゾーンにずっと留まってしまうとエコーチェンバー、つまり空気の読み合い、同調圧力の高まりによって心理的安全性が低下して、組織の成果も落ちてきてしまう。一種の村社会のようになってしまうんです。

パーパスを重視するコミュニケーションを作る
ですから、コンフォートゾーンに入ったらすかさずラーニングゾーンに行くことが大切なんですね。これはジョナサンもやっていることです。4つ目のポイントです。

恐らくジョナサンは、質問によってパーパスを大切にしたのだと思います。質問によってみんなの意識を価値創造に向けていった。ニックみたいな影響力がある人もいるし、組織にもパーパスありますよね。例えば会議でも、気持ちはお客さんの方に向いているものの、権威のある人が一言「これはこうだと思うよ」と発言すると、メンバーはそれを忖度して「ボスは違うことを思っているから調整しないと」という感覚になることがあるかと思います。これが人間関係重視のチームです。
外のパーパスを重視する=価値を重視するということ。パーパスというのは「自分達が社会に対して作り出す価値」のことなので、内側じゃなくて外側に注目しなければいけません。これについては経営者も発言の仕方に少し注意する必要がありますし、メンバーの方の「自分たちは何のためにこの会議やっているのか」や「何のために今のチームがあるのか」という意識も必要です。意識を内から外に、人間関係から価値創造に向ける必要があるんです。

「推論のはしご」はゆっくり登っていく
さて、5つ目です。これは私の想像ですが、ジョナサンは意見をまとめるのも上手いと思います。これは「第三案の競創」という、みんながパーパスを共有したら意見がいろいろと出るようになり、そこから本当にいいアイディアを出せるかどうかということです。

営業部と開発部を例に出してみましょう。営業部と開発部って大体仲が悪いじゃないですか。営業部の人はお客さんからの要望やクレームを耳にしているので、開発部とは少し感覚が違うんです。お客さんからの強いクレームを受けたとある営業部の人が、開発部の反応の悪い態度に怒ってしまったとします。「どうしていつもお客さんの声を軽視するんだ」とか「文句を言われる身にもなってくれ」と。

こう言ってしまうと戦いになるので、第三案なんて絶対に作れません。ではなぜ営業部がカッとしてしまったのかというと、「推論のはしご」という思考プロセスで、頭の中に架空のストーリーを作ってしまったからなんですね。営業部の人の中には「お客さんの要望やクレームが多い」「今日の会議でも反応が薄い」「開発はいつまでも変わらないからこのままじゃ駄目だ」と考える人も少なくないのではないでしょうか? ビジネスでも、議論に勝つとか先手を取るとか、マウントを取るような文化になってしまっていることが多いですが、まずは推論のはしごはゆっくり登ることが大事です。
会議については「反応が薄いのは何か理由があるはずだ」というところからゆっくりと考え、「その理由って何だろう」「お客さんを軽視してるのかな」「忙し過ぎるのかな」「分からないから丁寧に話し合ってみよう」といったように進めていくと「話し合えばきっと理解し合える」というメンタルモデルになってきます。先程の話では「お客さんからクレームが入った」ことに対し、開発部が「すぐに対応するのは難しいな」と言ったのでここでカチンときたとします。しかしここで「そうですか。でもお客さんの立場で考えるとつらいですね。私たちで何かできることはないでしょうか」と少しゆっくり登ってみましょう。
そうすると開発部も「この問題は開発部でも認知していて、でも次のバージョンでカバーできるんですよね」と本音が出てきます。それにより営業部も「ではすぐそれを伝えますね。でもお客さんには笑顔になってほしいです。何か他にできることはないですか」と歩み寄れますし、開発部も「では少し調べてみますね」と言って過去の対応を検索し、回避策を提供できるかもしれません。このように、お互いの本音が出てくるようになるわけですね。ただはしごを持つだけではなく、建設的に第三案を競創するためには、推論のはしごをゆっくり登ることが大切です。

これがジョナサンになるための5つのステップです。また、今日は僕の本の中にある第1章と第2章「の一部を抜粋してお話ししました。本では、関係の質、次に思考の質を高め、それから行動の質を高めていくこと、さらに1人から組織・全体を変えていくまでどういうステップを踏めばいいのかについて書いています。dakaboku.jpでフルのスライドもダウンロードできますし、今日のテーマである半径5メートルのスライドもアップしておきましたので是非ご覧ください。ご静聴ありがとうございました。
Z世代はパーパスの共有を大切にしている
―ありがとうございました。ここからはEngagement Run!講師の平井も参加し、パネルディスカッションに移りたいと思います。最初のテーマは、Z世代についてです。今の時代、様々な世代と一緒にチームを作るということがスタンダードになってきているかと思います。雇用形態の広がりもあり、様々な考え方を持つ方々と一緒に働いていくということが国内でも普通になってきていると感じています。斉藤さんが見て感じる、若い世代の方の特徴などがあれば教えていただけますでしょうか?
斉藤:若手って言うと主にZ世代、25歳以下ですよね。僕はZ世代の子たちと凄く仲がいいんですよ。学習院大学の授業をやっていて、毎年アンケートを取ったりしています。そこで分かってきた特徴は、Z世代というのは小さい頃から触れているスマホとソーシャルメディアの影響が凄く大きいということです。
小さな時からソーシャルメディアでずっと繋がっているので、人間関係を凄く大切にするという特徴があります。しかし人間関係を大切にする反面、争いごとを凄く嫌います。それでいて承認欲求が強いので、さっきお話しした「いい人の仮面」を被りやすいんですね。なかなか本音が出てこないので、こちらが先にホールネスにならないといけない場合があります。
僕達みたいな世代は昔から理不尽なことがいっぱいあったので慣れているんですけど、今はハラスメントに厳しい社会になってきていますよね。もちろんこれはとても良いことなんですが、人間関係で理不尽なことが減っている分、ストレス耐性が低くなっています。だからといってそれを鍛えろと言っているわけではありません。
ただ、ストレス耐性が低く、争いが嫌いだという特徴がありますね。沢山いろんな人たちとソーシャルメディアで繋がっていて、自分の心地いい環境を持っているので、人間関係で会社や人と上手くいかないという感覚になったら、諦めて自分の心地良いところに行こうとしがちです。また、多様性を大切にするのも特徴のひとつですね。多様性が当たり前の世界で生きているので、価値観の押し付けを嫌います。特に、ビジネスにある経済至上主義がいかに環境や社会に悪影響を及ぼし、それによって自分達が生きているうちに地球があるかどうかも分からないというようなパーパスや、意味の共有を大切にする側面があります。
平井:エンゲージメント活動の支援をしていると、若手の方の承認欲求や、パーパスに対する意識が高いという話を本当によく耳にします。まさに今日お話しいただいた5つのステップの中でも、ホールネスや、自分自身でありたいとか、他者を尊重するといったところは、すごく役に立つ考え方ですよね。パーパスに目線を向けていくという点もすごく役に立ちそうですが、改めてそういう目線から斎藤さんがアドバイスするとしたら、どのように若い人と関わるのがいいと思われますか?

斉藤:Z世代に限った話ではないですが、1つ注意しなくてはいけないのは、相手を変えようとしないことです。相手を変えようとすると意味や価値観の押しつけになりますし、そうするとみんな守りに入るため、ホールネスではなくなってしまうんです。
相互作用なので、自分が変わると相手は変わります。お伝えしたいことは、強がりの仮面もいい人の仮面も外して、自分からホールネスになるということ。僕は小学校5年生からあまり精神年齢が上がっていないので、若い人とも仲が良いんです(笑)。僕がこんな感じだから、「この人の前で格好つける必要はないな」という感じになるわけです。ただ、ビジネスではきちんとしなくてはいけないので、「この人にどう見られてるかな」と常に評価されている感覚を持つと承認欲求の塊になっちゃうんですよね。とにかく、自分から変わるということ。今日お話しした、他者の尊重は特に大切だと思います。
平井:なるほど。「自然体であれ」と若者に求めるのではなく、まず自分自身が自然体になるということでしょうか。
斉藤:自然体になっていない人から「自然体になれ」って言われても、いい気はしませんよね。これは若者だけではなく、誰しもがそうだと思うんです。人にそう言いたいんだったら自分から自然体になる。自分がそうなれば、人は言わなくても変わっていきます。
ホールネスになり、相手を尊重することはハラスメント防止にも繋がる
―ありがとうございます。次のテーマは、部下とのコミュニケーションについてです。最近我々の方でも、管理職の方から「パワハラが怖くて部下と話ができない」や「飲み会に誘いづらい」というご相談をよく受けます。こういったお悩みに対して、斎藤さんならどのようにお考えになるでしょうか?
斉藤:社会が、ハラスメントやコンプライアンスを大切にするようになってきましたね。これはとてもいいことなんですが、一方で「ハラスメントしてはダメ」と、企業が社員に考え方を一方的に伝えようとすると逆効果になりがちです。自ら「変えなくちゃ」という気持ちが芽生える前に、「そっちの方がいいのかな」と会社が期待するいい人の仮面を着けることになるんですね。
そうしたいい人の仮面を着けたまま「これを言っていいのかな」が表情に出ると相手も不安になりますし、奥歯に物が挟まったような、長たらしい言葉になってしまいます。これは若手に限った話ではなく、みんなそうですよね。例えば企業の失言が話題になった際に「こういう発言には気を付けてください」と全社に通達するとします。そうするとみんな、「これ言っていいのかな」「これはどうなのかな」と考えてしまいますよね。
でもそれよりも、相手を想像すること、すなわちホールネスや他者の尊重が大切なんです。他者を人間として尊重すれば、そんな発言は出てきませんし、出ようがないんです。相手の立場を自分と同じように尊重すると、マーケティングであっても、人の行動を無理に変えたり囲い込んだりするような発言は絶対に出なくなります。「何かしなくちゃ」の前に、人間として当たり前のことを取り戻さないといけないんですね。こういうことを言うとよく「それは難しいですね」と言われるんですが、凝り固まっちゃってるから難しいのだと思います。実はそれって、素の自分を取り戻せば済む話なんです。そもそも人間というのはみんな一人ひとり主人公で生きてるわけで、それを思い出すということです。実は凄くシンプルなことで、僕はそこが重要だと思います。
平井:「こういう言葉は言っちゃいけない」というようなテクニックに目線を向けてしまうと身動きが取れなくなってしまうんですけど、素の自分に戻ることがすごく重要。今の斉藤さんのお話の中で、私が凄く印象的だったのは「取り戻す」というお話です。プレゼンの中でもありましたが、元々人間はミラーニューロンという能力を持っている。そうした能力を取り戻していけば、ホールネス、他者への尊重が生まれるのではないかと思いました。
斉藤:その通りだと思います。例えば僕のhintゼミでは、40〜60代の方でも素の自分を取り戻せているので、実はそんなに難しいことではないんですよ。ホールネスになると本当は皆さんとてもやさしい方々で、ビジネスのときに強がりの仮面を着けてしまっていただけということが分かります。
「人をコントロールしよう、コントロールしなくてはいけない」と思っているんです。実際、昔の統制する組織の中ではそちらの方が生産性が高かったですからね。時代が知識社会に入ったことにより、そういう感覚ではクリエイティビティとか人間的な対応ができなくなってしまった。チームに一体感が出ず、心理的に安全な場を作れなくなってきた今だからこそ、変わっていく、元に戻っていくことが大切だと思います。
相手がホールネスになってくれないときは…?
質問者:自分では強がりの仮面を着けずにホールネスで接しているつもりですが、相手がいつまでもホールネスではないというか、強がりの仮面やいい人の仮面をつけていると、精神的にへこんでしまいます。そういう時は、どう自分を保てばいいのでしょうか?
斎藤:なるほど。ちなみにお酒は飲まれますか?お酒を飲んで気分がパァッと明るくなることは?僕も昔は飲んでいました。飲む度に意識不明になっていたので、今は飲んでいないんですけどね(笑)。
意識不明になっては良くないですが、ほろ酔いでオープンになって何でも話せる、なんてことがあるじゃないですか。ああいう感じになって話してみてはいかがでしょうか。僕は飲まなくても割とそうなんですけど、そういう感じで接してみると何か少し変わるかもしれないです。ただ、相手に合わせて無理にテンションを上げる必要はありません。疲れてしまうので。先程もお話ししましたが、自然体に戻ることができればいいんですよね。
最初は、カッコつけるよりも間違いや悩みを言うことの方が勇気の要ることなんです。特にリーダー的な立場になってくると、自分の弱みを出すことがさらに難しく感じるかもしれません。それでも、自分から弱みを晒け出すと相手の人も安心して「この場は強がらなくていいんだ」という気持ちになります。ビジネスの経験が長いとどうしても強がりの仮面がどんどんぴったりと顔に貼り付きますけど、そういう人でもお酒を飲めばパァッとなると思うんです。そうすると、きっとホールネスになってくれるのではないかと思います。

―ありがとうございます。では次のご質問へと移ります。
質問者:弊社は600名ぐらいの規模の会社でして、ある一定の盛期を終えてブランドとしてはもう衰退に入りつつあります。今は組織で事業を多角化している最中なのですが、いわゆる創業者のワンメッセージでは求心が上手くいかず、去年からパーパス経営を始めています。パーパス経営にあたって組織内で対話を積み重ねるということで、パーパスの浸透を行っていますが、明日の業績をどう上げるかというチームや事業の場合、先生が仰っていたような心理的安全性を作っていくことや対話を積み重ねていくことについて、すごく時間がかかるという印象を持たれてしまっています。この場合は、この方がいいんだと推し進めていくべきなのか、または事業の成長スピードによって方法を変えるのか、工夫点があれば教えていただきたいです。
斎藤:僕自身、新規事業開発で一番大切なものはクリエイティビティだと思うんです。クリエイティビティは、数字作りや外発的な動機づけからは生まれないですし、むしろ削がれてしまいます。心理的に安全な場でのフロー体験、仕事に熱中することで生まれるのです。恐らくその辺りが分かっていらっしゃらないのかもしれません。数字を上げたいと考えるのは健全なことですが、数字を上げるためにどういうことをすればいいのかという点を誤解されているんですね。
物が中心の昔の工業社会かつ人の仕事が単純だった場合は、外発的動機付けが非常に効くので、数字を上げたいと思えば数字を上げられたんです。数字を上げたいのは当たり前ですが、今はどんどんクリエイティビティや人間性が大切になってきています。ダニエル・キムが提唱した「成功循環モデル」にもあるように、成果を上げたいのは当たり前として、それを上げるためには関係・思考・行動を結果に繋げていくという、数字の上げ方の因果関係をきちんと理解することが大切だと思います。
理解すると「根本が少し違っていた」「このやり方だといつまで経ってもそこに辿り着かないな」ということに気が付くんじゃないかと思います。もしくは、すごく質の悪い結果が出てくることにもなるかもしれません。無理やり数字を作るために中身がスカスカだったり、長期的に見ると凄くマイナスになってしまうけど短期的に何となく作ってしまう、といったことになりかねないなと。宣伝になっちゃいますが、ぜひ「だから僕たちは、組織を変えていける」を読んでいただくといいかもしれません。
―ありがとうございました。では最後に、斉藤さんから皆さんにメッセージをお願いいたします。
斎藤:やはり最初の一歩が重要だと思います。ホールネスを身に付けると無敵感があるというか、自分がそもそも幸せになるし、周りの人達に好感を持ってもらえるようになりますよね。好感を持たせたいと思って行動しても、周りの人達に好感を持ってもらうことはできません。僕達がどういう人を好きかというと、やはり自然体の人の方が好きで、承認欲求の強い人のことはあまり好きじゃないんです。ですから、ホールネスになることが最初の一歩だと思います。







