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海外展開に自社ブランド。老舗企業の新たな成長期 | 「社員の幸せも“儲け”も大きく」進化する堺の老舗包丁屋さん、六代目社長に聞く経営や組織のこと

海外展開に自社ブランド。老舗企業の新たな成長期 | 「社員の幸せも“儲け”も大きく」進化する堺の老舗包丁屋さん、六代目社長に聞く経営や組織のこと

株式会社福井
福井 基成氏
福井 基成氏
株式会社福井
代表取締役

2006年に株式会社福井入社後、販路開拓の結果、直近13年間増収をキープ中。業容拡大に伴い、採用強化・システム整備などに従事しつつ、2017年からWevoxを利用開始。現在にいたるまでワーキングエンゲージメント向上に努める。2019年、株式会社福井代表取締役就任(6代目)。座右の銘は「粗にして野だが卑にあらず」。

明治創業、110年以上の歴史を誇る堺の老舗包丁屋さんが、過去最高の売り上げを更新し続けています。その原動力は、EC向けの卸売事業と、今や注文が3年待ちという自社ブランド「HADO」、そして何より一人ひとりが活き活きと働く組織の力です。

しかし、その目覚ましい成長の裏には、離職率の高さに苦しむ時期がありました。「社員が暗い顔をしているような組織では未来はない」。藁にもすがる思いで始めたエンゲージメント経営は、次第に会社を変えていくことになります。

伝統産業の殻を破る事業の多角化と、泥臭い組織改革。新たな成長痛とも向き合いながら、二つの挑戦を両輪で進めるリーダーの声を全三回にわたってお届けします。

明治創業企業の連続増収を支える事業の多角化

—福井さんは、メディアができてすぐの2018年に取材させていただき、2023年にはチームワークセッションに登場していただきました。そんな、組織づくりに力を入れる福井さんの最新の動向や、これまであまり深掘りできていない事業のことも伺えたらと思います。

よろしくお願いします。エンゲージメントと出会えたからこそ、今の状態があると思ってます。自分の経験が、他の方にも少しはお役に立てればとも思いますので、何でも聞いてください。

—ありがとうございます。まずは、改めて会社の概要についてお聞かせいただけますでしょうか。

弊社は、大阪府堺市で1912年、つまり明治の最後の年に創業した会社です。

堺の刃物屋は、だいたい明治期に創業してるところが数で言うと一番多いんちゃうかなと思います。ですから、我々は堺の包丁屋の中では、だいたい平均年齢ぐらい。もちろん、戦後に始められたところもあれば、江戸時代からやってらっしゃる老舗もありますけど、ちょうど中央値ぐらいにおるんやないかなと思います。

—110年以上の歴史があるのに平均年齢というのは、すごいですね。まさに、伝統産業と言えます。

他には、岐阜県関市や新潟県三条市が日本の三大刃物産地と言われています。堺には、今でも弊社を含めて100社ぐらいの刃物関連の会社が残ってますね。

弊社の事業所は、本社が堺にあり、その向かい側に物流センターがあります。この物流センターは、もともとは堺の地場産業である自転車の協同組合さんの建物があった場所なんです。釣り具や自転車で有名なシマノさんも堺の会社でして、もともとは金属加工という括りでは同じやったんですけどね。

あちらの業界は何度もイノベーションを起こして突き抜けていかれましたけど、我々は大きなイノベーションなしでここまで来てて(笑)。長らく大きな変化がなく、事業を続けてきた会社になります。

—御社は近年、目覚ましい成長を遂げられていると伺っています。事業の推移についてもお聞かせいただけますか。

記録が残っている1965年からで言うと、売り上げはずっと右肩上がりで、高度成長期とともに伸びて、バブル崩壊とともに下がって…と、まあ日本の中小企業らしいグラフを描いてきました。それが最近、なんとか盛り返してきまして、2018年には1995年以来の最高売上高まで回復し、毎年増収を続けています。特にこの数年は、コロナ禍以降に成長のスピードが若干上がった感じですね。

—現在の事業の柱について、詳しく教えていただけますか?

事業は大きく分けて三つあります。一つは「堺打刃物の製造」、二つ目は包丁も含めた金物類全般の「卸売」、そして三つ目が、倉庫にたくさんある商品を活かした「Eコマースによる小売」です。

売り上げの構成比で言いますと、卸売りが一番高く、次いでEコマース、刃物の製造という順番です。

—事業の柱の中でも、特に成長を牽引しているのはどの分野なのでしょうか。

一番伸びてるのは、実は卸売事業なんです。近年我々の売り上げを大きく牽引しているのが、「EC卸」と呼んでいる分野です。具体的には、個人向け大手通販サイトや事業者向けの通販サイトへの卸売ですね。この分野が、2016年比で5倍ほどの売り上げに成長しました。EC卸、昔ながらの卸、ホームセンター向けなどを全部含めて、我々は「卸チーム」と呼んでいます。

偶然から生まれた自社ブランド「HADO」

—なるほど、EC向けの卸売が大きな成長ドライバーになっているのですね。一方で、売り上げの構成比としては低いながらも、自社での包丁製造にも力を入れていらっしゃるのですね。

そうなんです。売り上げはまだまだ伸ばさないといけませんが、この包丁事業は需要がありまして、今、実に3年分もの注文を抱えている状況です。

もともと刃物産業は伝統的に分業制でしてね。弊社は100年間、協力工場さんを束ねブランディングや全国への営業活動を主に担当する「問屋」という存在でした。

—では、なぜ自社で製造まで手掛けるようになったのでしょうか。

大きく二つの背景があります。一つは、海外からの需要が非常に増えてきたこと。もう一つは、その頼みの綱である協力工場の職人の高齢化が目立つようになってきたことです。「このままやったら、あかん」ということで、5年ほど前から内製化を本格的に始めました。ですから、本当の意味での自社製造は、ここ10年も経っていない、社内ベンチャーのような形で始まった事業なんです。

—海外需要というのは、具体的にどのような経緯で生まれたのですか。

内製化を始める少し前の2018年ごろから、海外に活路を見出そうと動き始めました。国内市場はどうしても同業者と競合してしまいますからね。アメリカはすでに同業者が多く進出していたので、私たちはヨーロッパに目を向けました。

ちょうどその頃から、海外で和食ブームが起こり、オープンキッチンでシェフが料理をするスタイルが高級店で流行りだしたんです。そうなると、シェフが使う包丁も「見られる」ことを意識するようになります。見た目も美しい日本の包丁は、そこで一気に注目を集めました。

それに加えて、ありがたいことに、若い世代は日本のアニメを見て育っているのもあってか、「日本の包丁は無条件によく切れる」とポジティブに受け止めてくれるんですよ(笑)。おかげで営業も非常にやりやすい。そうした追い風もあって、2021年には自社ブランド「HADO」を立ち上げ、現在ではオーストラリアやヨーロッパを中心に20数カ国に輸出しています。この海外展開は、堺市からの支援も大きかったですね。

—海外展開をきっかけに、社内ベンチャー的に始まった包丁の製造が、今や3年待ちの人気事業になっている。非常に面白いお話ですね。

自社で製造するに至ったきっかけは、本当に偶然やったんですよ。当時、営業をやってた社員が「辞めたい」と言い出して。理由を聞いたら、「私、刃物が好きでこの会社に入ったのに、全然刃物がない。友達に包丁の研ぎ師がおるんで、そいつに弟子入りして研ぎ師になろうと思います」と。ちょうどその頃、私も先代の親父と「もう一回、包丁を本気で売らなあかんな」と話していたところやったんです。

そこで、彼を引き留めて、「うちで給料出すから、協力工場に修行に行っといで」と。それが2016年のことでした。彼が修行を終えて帰ってくるまでに売り先を見つけなあかん、ということで海外を開拓し、ちょうど受注が入り始めた2020年に彼が戻ってきて、本格的に製造がスタートした、という流れですね。

—EC卸の急成長を支え、また新たな事業を創出する上で、物流や社内システムの強化も重要だったのではないでしょうか。

おっしゃる通りです。弊社は物流を競争優位の源泉と位置づけてまして、2016年に本社の物流センターを、そして2022年には新潟支店の物流センターを本格稼働させました。

新潟はもともと小さな営業拠点だけやったんですが、東日本向けの物流機能を担う拠点として拡張しました。この業界は、「供給力をつければ需要も伸びていく」という、不思議な側面がありましてね。物流拠点は今後も拡大していく方向で考えています。

社内システムも同様です。私がこの会社に入った15年ほど前は、本当に「紙と鉛筆、そろばんの世界」でしたから。そこから、サイボウズ Officeを導入して業務日報やスケジュール管理を一元化したり、RPAやVBAを活用して業務を自動化したりと、デジタル化を進めてきました。

事業の多角化もあり、社員数もここ数年で増え続けています。特に2016年以降からが顕著で、2015年時点では24人だった正社員が、2023年には65人になりました。正社員以外も含めると150人近くになり、組織としての規模も拡大しています。

このように、ここ数年は、売り上げと人が増えていく成長期とも言えるフェーズではありました。ただ、同時に組織づくりにおいてはこれまでにない苦労も経験することになります。

つづきは

金太郎飴みたいな組織からの脱却 | 「社員の幸せも“儲け”も大きく」進化する堺の老舗包丁屋さん、六代目社長に聞く経営や組織のこと
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