
「導入1年目の失敗があったから、今がある」現場と人事が手を取り歩む、エンゲージメント向上の道

2001年にエンジニアとして新卒入社。2015年よりグループ内案件を担当する営業を兼務し、その後は営業専任に。2019年からは人事として組織開発に関わり、同年4月よりスタートした社内のエンゲージメント向上プロジェクトの推進役となる。2020年からは人事専任となりプロジェクトを牽引する立場になり、現在はエンゲージメント向上推進や新卒・中途採用など多岐に渡る役割を担う。

2007年に中途入社。主にエンジニア畑一筋で、入社後は主に製品の回路設計などを担当。現在は製品の評価業務を担当。2020年度よりリ・スタートしたエンゲージメント向上プロジェクトにおいてアンバサダーに就任し、推進役としてチームの組織活性化に務める。
「個人と組織」、「個人と仕事」などとの繋がりを示すエンゲージメント。近年経営指標としても注目を集めるエンゲージメントは、1つの決まった形があるわけではなく、10の組織があれば10通りの形が存在します。このシリーズでは、エンゲージメントサーベイ「Wevox」と共に組織づくりを行う企業のストーリーを通じて、様々なエンゲージメントの形を届けていきます。
今回は、ヤマハグループの製品開発を担うエキスパート集団であるヤマハハイテックデザイン株式会社のエンゲージメントストーリーをご紹介します。同社では2019年度より組織活性化のためのエンゲージメント向上プロジェクトを進めるも、1年目は現場との意思疎通に失敗。その経験を糧に仕切り直し、現在は対象チームを絞った取り組みで着実に成果を上げ始めています。そんな同社の取り組みについて、管理課でプロジェクト推進役の坂本 竜一氏と、アンバサダーを務める大石 雅也氏に伺いました。
「エンゲージメントの高いエンジニア集団を目指す」をビジョンに掲げる
― 貴社では、ビジョンに「エンゲージメントの高いエンジニア集団を目指す」を追加したことが象徴されるように、組織づくりに力を入れていますね。どのような経緯があったのでしょうか?
(坂本)前社長の働きかけがきっかけでした。「自主的に働ける人を増やし、組織内でもっと協力しあう雰囲気をつくりたい」ということで、私に「一緒にやってみないか?」と声がかかったんです。ヤマハグループ内では、先行するかたちでエンゲージメント向上活動に取り組むことになりました。
取り組みの一環として、Wevoxでのサーベイや1on1などをスタートさせたのですが、最初はなかなかうまくいきませんでした。大石さんは、今はアンバサダーとして積極的に組織づくりの活動をしていますが、最初の頃はどう受け止めていましたか?
(大石)坂本さんとは同期のような間柄ですので、今日は率直に話しますね(笑)。正直なところ、スタート時はそういう「思い」や「意図」は現場にはあまり伝わっていませんでした。ですから、突然何かが始まった、という印象だったんです。最初に簡単な説明はありましたが、それ以降はこちらにまかせきり、という感じでした。
(坂本)全体集会で、社長から何をやるかを説明してもらったんですが、はっきりいって事務局からの発信はそれだけでしたね。あとは各チームで出てきたスコアを元に分析してもらって、アクションを話し合って実行してほしい、とお願いするスタンスでした。
(大石)今思うと、事務局からの介入が基本的になかったのが、現場としてはきつかったんです。「いきなり『サーベイ結果を分析して』と言われても、何をやったらいいの?」と、戸惑いが大きかった。
― サーベイ開始時に、組織内で起きやすい推進側と現場側のすれ違いですね。
(坂本)その時は「エンゲージメント=自主的なものでないとダメ」という意識が強すぎて、できるだけチームにおまかせしようと思っていたんです。事務局からやり方を指示するのではなく、「現場ごとに考えてほしい」という気持ちでした。
(大石)振り返ると、そこがうまくいかなかった大きな要因の1つでしょうね。現場としては、やらされ感しかないですし、「業務が増えた」という感覚もあって、前向きには取り組めませんでした。
(坂本)最初の1年で失敗を経験しましたが、私自身はその1年間ですごく変わることができたと思っているんです。

― どういう変化があったのでしょう?
(坂本)以前よりも、組織全体の課題を意識するようになり、「こういう組織にしたいな」という思いが少しずつですが芽生え始めたんです。それこそ、最初から熱い気持ちがあったわけではなく、もがきながらも続けることで興味がわき始めたというか。そこからはすごく勉強し始めましたね。
自分で本を読んだり、Webで調べたり、あとはWevoxが昨年スタートしたエンゲージメントについて学べる「Engagement Run!」に参加するようになりました。これは、Wevoxの講師からエンゲージメントの知見や具体的な行動に繋がるワークなどを、オンラインのクラスで学べるサービスです。
(大石)失敗も無駄ではなかったということですよね。
(坂本)失敗して悩んでわかったことは、推進側が熱い気持ちを持っているだけではダメだということ。現場との温度差が開きすぎれば、ただ溝が生まれるだけなんです。あとは、推進側が「やってください」「考えてください」とただ伝えるだけでもダメ。お互いに寄り添って、「一緒にやっていける状況」をつくることが大事だということですね。
(大石)そうですね。組織をよくしたい、という考えを否定する人は現場にもいないと思います。ただ、現場は現場で自分たちの考えがあります。一方的に押し付ける形では、どうしても反発は起きてしまいますからね。今でこそ、坂本さんの思いや考えは理解していますが、当時はできていなかった。こちらが汲み取れなかった点もありますし、お互いが歩み寄るようなコミュニケーションは大事だと私自身も学びました。
― 最初の1年での学びから、どう取り組みを変化させたのでしょう?
(坂本)昨年4月から、一度やり方を見直しました。Wevoxのカスタマーサクセスの方に相談したところ、「『アンバサダー』を募集して現場の方と一緒に取り組みを進めてはどうですか」とアドバイスをいただいたんです。一度試してみようと思い、全社員対象に社内で募ったところ、2人が手を挙げてくれました。
(大石)そのうちの1人が私ですね。
(坂本)2人は違うチームなので、まずはその2つのチームだけで進めてみようと思い、一度全体での活動を止めることにしました。Wevoxのサーベイは毎月全社員が実施しますが、振り返りなどの活動はアンバサダーの所属するチームだけに絞ることにしたんです。まずはそこで成功事例を作ろうと思いました。
― 大石さんはなぜアンバサダーに手を挙げたのですか?
(大石)チーム全体でコミュニケーションが取りやすくなると思ったからです。実はこの活動が始まるちょっと前から、自分のチーム内の同じ業務をしている仲間同士で、組織をどうするか定期的に意見交換していたんです。その対話の中で、チーム内で違う業務をしている人とのコミュニケーションが足りないのでは、という課題感が出てきていました。
そんな折に、アンバサダーを有志で募る話がきました。自分がアンバサダーになれば、違う業務をしている人とも接点が増えて、会話も増やせるのでは、と思い手を挙げたんです。
(坂本)そこからは、アンバサダーと私で話し合いながら、課題について意見交換したり、次のアクションを一緒に考えていく運用に変えていきました。まかせきりにするのではなく、一緒に伴走しながら進めていくやり方です。
― アンバサダーとしてどのような取り組みをしていますか?
(大石)チームで、組織について話し合う場のファシリテーションを務めています。ファシリテーションを始めたときは、自分でスコアをもとに答えを想定したり、場の流れを考えて話を振ったりと、いろいろ試しました。でも、こちらの思惑が多すぎると絶対に本音は出てこないと感じました。
(坂本)わかります。
(大石)仮にそうやって何か一定の意見が出たとしても、その一般的な意見をチームの総意と結論づけようとすると、またそれに対して反発というか、やる気を削ぐことになるんです。メンバーからしたら、意見を出しているのにやらされ感が強くなって、納得感もない。だったら、大雑把でも「自分たちはどうなりたいのか」「このメンバーで何ができるようになるといいのか」みたいな話をしようよ、と坂本さんと決めたんです。あまりスコアに固執しすぎないようにも気をつけるようになりました。
(坂本)そのあたりから、チームの雰囲気が変わり始めましたよね。

―素晴らしいですね!
(大石)今思えば、私自身も肩肘張っていたし、意気込み過ぎていたんでしょうね。意識を変えてからは、いい意味で力が抜けました。集まること自体も重く感じなくなり、集まって対話することが定着し始めたんですよね。
(坂本)同感です。話し合いに加わるみんなの力も抜け、自由に意見が飛び交うようになりましたよね。それはちゃんとスコアにも現れていたんです。チームの雰囲気が良くなってきたら、追いかけるようにスコアが右肩上がりで推移していくんです。面白いですよね。
あと、Wevoxのコメント欄を見ても、「自分の持っていない考え方に触れることができて面白い」と言ってくれる声が増えているんですよね。
(大石)みんな、自分だけの考えに飽きてきたのかなあ(笑)。
(坂本)もしかしたら、これまでよりも他人に興味が湧くようになったという人が増えたのかもしれませんね。エンジニアって「1人で調べて、1人で進めることが一人前だ」みたいな考え方が染み付いている人が多くないですか? 「協力するよりは、1人で何とかする」という働き方がいつの間にか当たり前になっているというか。でも心の中では「みんなと一緒に協力できれば」とか「困っていたら助け合いたい」と思っている人もいて、もしかしたら、その気持ちがこの活動を通じて表に出てきているのかもしれません。
(大石)別に隠していたわけではないけれど、縛られていたものから自由になったり、忘れていたものを思い起こしたり、そういうことにつながったのかもしれないですね
― 今は毎週違うテーマで組織づくりの定例会をしていると聞きましたが、具体的に教えてください。
(大石)坂本さん、チームメンバーと共に定例会で扱う5つのテーマを考えました。他の人の考え方や取り組み方などを、雑談を通じて共有し合う交流会、各自の業務を紹介する会、それぞれがやっている学びを紹介し合う会、そしてメンバー同士で業務に必要なことを教え合う勉強会、ですね。それと月に1回は坂本さんにエンゲージメントに関する知見を共有してもらう時間を設けています。週1のペースでこれらのテーマを順繰りに回しています。

(坂本)ちなみに、他者理解につながる交流会が多いのは、先ほど話に出たような「自分とは違う考え方に触れたい」というところが強く出てきたのかもしれないですね。
(大石)そうですね。お互いの仕事や考え方などを知ることで、「これについてはあの人に聞けばいい」といった安心感の醸成にもつながりますしね。毎週のミーティングの後は、Teamsに感想を上げたりするんですが、「刺激になった」「触発された」といった意見は増えているんです。
(坂本)各テーマの担当も、メンバーに割り振って毎回違う進行役でやるようにしているんですよね。
(大石)そうなんですよ。しかも、メンバーから声があがってそうなったんです。チームの変化はそういうところにも見えてきているのかなと感じています。
(坂本)そうした変化も、確実にスコアには現れているんです。当社の場合は、カスタムサーベイを活用していくつか質問していて、例えば「組織が活性化している実感があるか」の問いに対しては、昨年の6月、12月、そして今年の6月ときれいに右肩上がりで、点数でいうと23点も上がっているんです。
(大石)すごいですよね(笑)
― 失敗のままで終わらせずに、継続して取り組んだ成果ですね。
(坂本)はい。同様に、「心理的安全性」「主体性」や「この活動を継続したいか」といった質問に対しても軒並みスコアが上がっています。コメントも前向きなものが多いですし、変化は見えてきていますね。

(大石)定性的なところでは、当初目指していた通り、違う業務をしているメンバー同士の会話は増えています。あとは、全体的に雰囲気が明るくなりました。Wevoxに回答する時は、その瞬間の心理状況が影響すると思いますが、みんな表情もいいですし、ゆとりもありそうで、それがスコアにも現れているのだとしたら、チームの状態はすごくいいと言えますね。
(坂本)私は個人のスコアまで見られているからわかるんですが、続けていくにつれて、スコアが低かった人が底上げされているんです。「262の法則」でいうところの、下の2割と6割の人が上に引っ張られているようなイメージというか。
(大石)なるほど。ということは、チーム内の不安や不満をなくすとか、イライラさせるものを排除するとか、そういう活動が結果的にはスコアにいい影響を与えるということかもしれませんね。
(坂本)今後については、失敗からの反省でもある「推進側と現場の温度差をどう埋めていくか」をしっかり考えていくことが大事かなと思っています。その時に、自分も現場に入り込んで一緒に考えていくやり方は効果がありそうなので、そこは大切にしたいですね。「推進役は嫌われ役でいい」みたいに思った時もあったのですが、今はそれはちょっと違うなと感じています。
(大石)現場との信頼関係ですよね。一緒に進めていく、お互いにわかろうとし合う、そういうことの積み重ねが大事ですよ。
― 赤裸々に話していただき、多くの企業の共感と学びを生む事例共有になりそうです。最後に、展望をお聞かせください。
(坂本)大石さんのチームでの経験を他でどう生かしていくかは、今後の私自身の1つの課題になると思います。今回の成功事例がじわじわと社内に広まっていき、全体が良くなっていくのが一番の理想なので、そうなるようにうまく伝えていければいいですよね。ただ、強制するものではないので、そこはやっぱり難しいですね。
(大石)アンバサダーであり現場を任されている立場としては、チームの雰囲気の良さを継続していくことを第一に考えたいですね。その時に、メンバーから出てきた声や提案は大事にしたいです。
(坂本)ちなみに、アンバサダーをやってみてどうですか?
(大石)もちろん大変ですが、やるからこそ学べることはたくさんあると思います。すごく当たり前のことですが、メンバーそれぞれに意見があるとか、正しい意見が必ずしも正しいわけではないとか、自分以外の人がどう考えるかを考えるための、すごくいいきっかけになりました。
(坂本)活動を進めていくうえで、アンバサダーというポジションが大事になってくるのはもちろんですが、マネジメント層もカギを握っていると思います。当社では昨年就任した現社長も含めた管理職のメンバー全員が3ヶ月限定で「Engagement Run!」を受講したんです。それによって何かが劇的に変わったわけではないですが、お互いに関心を持ったり、理解しあうところがすごくやりやすくなったように感じますね。
(大石)ヤマハグループ内でエンゲージメントへの関心も高まっていますし、社長も一緒に受講したというのは、強いメッセージになりますよね。
(坂本)それは間違いないですね。いかにマネジメント層を巻き込むかは課題ですが、当社の場合はその点で恵まれているかもしれません。今後はアンバサダーに興味を持つ人を増やすのはもちろんですが、管理職の人たちにどう協力してもらうか、そこもしっかり考えていきたいと思います。








