経営陣のマインドセットを変えなければ——ナガセヴィータはなぜ対話重視の「役員向けエンゲージメント研修」を実施したのか?

経営陣のマインドセットを変えなければ——ナガセヴィータはなぜ対話重視の「役員向けエンゲージメント研修」を実施したのか?

ナガセヴィータ株式会社
竹本 圭佑氏
竹本 圭佑氏
ナガセヴィータ株式会社
取締役

財務経理や会計コンサルを経て2010年に長瀬産業株式会社に入社。林原の買収を機に2016年に出向し、理念策定やサステナビリティ経営を主導。現在はナガセヴィータ株式会社へ転籍し、取締役として研究開発やコーポレート部門を管掌する。

飯島 学氏
飯島 学氏
ナガセヴィータ株式会社
コーポレートデザイン部門 人事総務部 人財・組織開発課

生化学の博士号取得後、食品会社で研究開発・商品開発に従事した後に、ナガセケムテックス株式会社に入社。ナガセヴィータ株式会社との事業統合を機に人財・組織開発課へ異動。現在は人事制度の設計や、サーベイを活用したエンゲージメントの向上施策を推進している。

メンバーのエンゲージメント向上に取り組むものの、「経営層の理解がなかなか深まらない」「職場まかせになり、全社的なうねりにならない」という壁にぶつかる人事は少なくありません。こうした課題と向き合うべく、ナガセヴィータ株式会社では、対話に特化した「役員向けエンゲージメント研修」を実施しました。

2019年からサステナビリティ経営の重要テーマとして「社員エンゲージメントの向上」を掲げ、部門横断プロジェクトや管理職向け研修など積極的に取り組みを続けている同社。長くエンゲージメント活動を続ける中で、なぜ、今「経営層」を巻き込んだ対話の場が必要だったのか。Wevoxのインストラクターによる研修は、経営陣のマインドや組織の空気にどのような変化をもたらしたのか。研修を企画した竹本さん、飯島さんにこれまでの歩みを伺い、組織づくりにかけるリアルな模索のプロセスを紐解きます。

環境改善だけでは変わらない、人事が気づいたエンゲージメントの本質

—先ほど、3時間にわたる役員向けのエンゲージメント研修が終わったばかりです。白熱した対話が行われましたね。

竹本:役員同士で今までにないほど、組織やエンゲージメントと向き合って話ができました。まだ、その熱が残っているので、たくさん話してしまうかもしれません(笑)。

—ぜひ、役員向けのエンゲージメント研修の狙いや手応えについて、いろいろとお話いただければと思います。最初に、ナガセヴィータがエンゲージメントに着目するようになった背景から教えていただけますか?

竹本:すべての始まりは2019年、サステナビリティの視点を取り入れた重要課題を策定した際、4つの重点項目の1つとして「社員エンゲージメントの向上」を組み込んだことでした。

この社会に、なぜ私たちの会社が存在しているのか。自分たちの毎日の事業活動が、どのような形で未来の社会や地球につながっているのか。そうした「意味やつながり」を社員一人ひとりが意識しながら働ける環境をつくりたかったのです。その後、2021年にNAGASEグループ全体の中期経営計画に連動する形で、チームエクスペリエンスプラットフォーム「Wevox」を導入し、エンゲージメント活動をスタートする土台が整いました。

—Wevoxが導入されてからの職場の動きはいかがでしたか。

飯島:私は2023年にこの会社にジョインし、最初はWevoxのサーベイを「受ける側」にいました。しかし、2024年に人事の部署へ異動し、「運用して組織を変える側」になってみて、組織づくりの本質に向き合う中で、「組織が目指している方向性・理念」と、個人の「これがやりたい・こうありたいという想い」がリンクしていないと、どれだけ待遇や環境を整えても本質的なエンゲージメントは向上しないことを認識したのです。それまでは、エンゲージメントを「従業員のやる気を引き出すためのもの。そのために待遇や環境の改善を行う」くらいに捉えていました。

ちょうど、2023年に策定した新たな「パーパス」と「バリュー」を全社へ浸透させることをミッションとして取り組みました。経営理念は経営陣が上から一方的に伝えるだけでは、腹落ちして全社へ浸透することはできません。

そこで私たちは、職場が主体性を持って理念への理解、共感を深めるための「全員参加プロジェクト」をスタートさせました。理念浸透活動を引っ張ってもらえる推進担当者を各部門でアサインし、具体的なやり方は各自で裁量を持って決めてもらうようにしたのです。

例えば、研究部門では「あなたの今の行動、我が社のバリューにぴったりで素晴らしいね!」とお互いに褒め合い、認め合う独自の表彰制度を自発的に立ち上げました。職場のメンバーが強制ではなく、自発的に理念を体感・理解する風土が少しずつ育まれていきました。

「一方通行の伝達」の壁を乗り越えるには、経営者が変わるしかない

—職場レベルでの成功事例や、主体的な変化の兆しが見えていた一方で、今回あえて「経営層向け」の研修を企画されたわけですよね。その背景にある課題感を教えてください。

竹本:そこについては、まさに私と飯島の間で何度も深い議論を重ねてきた部分です。背景には、サーベイ結果の変化を見ていく中で浮き彫りになった、強い危機感がありました。

職場での草の根活動の成果は出始めていたものの、全社のスコアを直視したときに、どうしても看過できない2つの大きな課題が見えてきたのです。1つ目は、「『やりがい』に関するスコアが弱い」、2つ目が「『理念戦略』のスコアが停滞している」です。

色々な施策を打っているし、職場でも動きが生まれているのに、理念戦略の数字が伸び悩んでいる。会社としては一生懸命に方向性を打ち出し、伝えているつもりでしたが、経営層の動き方、メッセージの伝え方そのものにも問題があるのではないか。

これが、私たちが直面した壁でした。

この厳しい現実を前にして、このまま今までと同じやり方で発信を続けていても、私たちのマインドセットや振る舞いが変わらない限り、組織の景色は絶対に変わらないだろう。そう痛烈に感じたのです。

—なるほど。「やりがい」と「理念戦略」への課題感を深掘りしていく中で、経営者自身の行動やマインドセットを変える必要がある、という考えにたどり着いたんですね。

竹本:はい、そうなんです。ですが、正直なところ、私一人ではどうやって経営層全員の動き方やマインドを変えていけばいいのか、その具体的な処方箋が分かりませんでした。だからこそ、このエンゲージメントというテーマについて、まずは経営層のメンバーだけで集まり、本音で、密に、とことん対話をする場を作りたいと強く願ったのです。

そのためのパートナーとして頭に浮かんだのが、数年前に私たちの管理職向けのエンゲージメントワークショップを担当してくださった、Wevoxのインストラクター、平井さんでした。というのも、当時のワークショップでの平井さんとの対話が、私の中で非常に鮮明かつ強烈に残っていたんです。

平井さんの研修は、いわゆる「教科書通り」の退屈なものではありません。こちらの懐へグッと深く踏み込んで、本質的な対話をしてくれる方なんです。平井さんに伴走してもらいながら、完全にクローズドな空間で、まずは自分たちの凝り固まった考え方をほぐし、経営陣同士で本音の対話をしてみたい。

そうした場を設けることこそが、経営層のマインドセット変革の重要な一歩になるはずだと、今回の研修を依頼しました。

—竹本さん自身が、かつて平井さんの研修を受けられた際に強烈な「腹落ち感」を味わったのですね。飯島さんは、人事としてその当時の管理職向けの研修をどのようにご覧になっていたのですか。

飯島:今回もそうでしたが、過去に行った管理職向け研修で平井さんが語ってくださったのは、「給与や職場環境を改善することだけがエンゲージメント活動ではない」「個人と組織が同じ方向を目指し、ギアが噛み合うとはどういう状態か」といった、「エンゲージメント」の定義の誤解を解き、個人の人生のあり方にもフォーカスした腹落ちできる内容でした。

竹本:そうそう、まさにそこなんです。平井さんのお話の中で特に痺れたのは、高度経済成長期のように「勝つための成功の方程式」があらかじめ決まっていた時代と、現代のように正解がない不確実な時代との対比でした。

「絶対的な正解がない課題」に対して、どのように組織として向き合っていくかが、今は求められている。事業運営において高いパフォーマンスを出し続けるための前提条件が、時代とともに完全に変わっているとお話しいただいたのです。

単に「エンゲージメントの定義はこうです、だからサーベイの数値を上げるためにこれをしてください」という表面的なノウハウではありません。歴史的な変遷や人間が本来持っている力をどのように発揮させるかという背景が、一本のストーリーとして語られました。

だからこそ、私の腹落ち感がすごくあったし、経営陣が平井さんのように話せるようになるといいなとも感じたんです。そうした共鳴が、今回の経営層向け研修の企画へとつながっていますね。

経営陣が背中を見せる。役員同士の熱を帯びた対話

—数値の改善という対症療法ではなく、激変する時代の中で経営陣自身が「人や組織のあり方」の前提をアップデートしなければならない、という危機感と確信があったのですね。研修の設計はどのように進められたのでしょうか。

飯島:今回の研修を企画するにあたっては、私の直属の上司である部門長も含めて、平井さんと何度も事前に打ち合わせを重ねました。

特に、「今の役員陣に、本当に理解してほしいことは何か」を突き詰めました。私たちが最も役員陣に伝えたかったのは、綺麗事としてのエンゲージメントの知識ではありません。「経営層自らが本気でエンゲージメントに向き合い、その背中を職場に見せてほしい」ということでした。

口で「エンゲージメントは大事だ」と言うのは簡単です。しかし職場のメンバーからすれば、「じゃあ、役員の皆さんは、何を考え、何を実践しているのですか?」という具体的な行動を見たいはずなのです。

現在、私たちの会社では、経営層である役員が年間で20回、職場のメンバー層と直接少人数の対話を行う会をスタートさせています。しかし、そうした貴重な対話の機会があっても、職場のメンバーから「私たちのエンゲージメントを高めるために、会社はどうしていくのか?」と問われた際、「実はよく分からない」と答えてしまっては意味がありません。

そうではなく、経営陣自身が「私たちは会社をこういう状態にしたいし、そのために自分自身も今こういう行動をしている!」と胸を張って語ってくれたなら、対面したメンバーの心も動くはずです。だからこそ、この研修を通じて深くエンゲージメントの本質を腹に落としていただくことが、何よりも重要であると考えていました。

—ここからは、実際に開催された「経営層向け研修」の具体的な中身と、その場でどのような変化が生み出されたのかについて、詳しく伺っていきたいと思います。当日は3時間という長丁場ながら、最後まで対話が絶えない熱い場になりました。オブザーブされていた飯島さんから見て、役員の皆さんの様子はどのように映っていましたか。

飯島:役員の皆さんは、日々の業務が非常に忙しいこともあって、サーベイ結果が出てもデータだけを表面に見て終わらせてしまうことが多かったのでは、と思います。「ああ、今回はどのスコアが低かったので改善しないと」という程度で、具体的な議論にまで至っていなかったのでは、というのが正直な感覚でした。

しかし、今回の研修では、平井さんという存在がいたことも大きく、その数値の背景にある本質を深く掘り下げていく対話が展開されました。役員の皆さんが、それぞれの担当部門の現状と課題を直視しながら、集中して議論を行っていました。

特に今回印象的だったのは、役員同士という「横の関係性」の中でディスカッションが行われていた点です。役員と部長が同じ場所に集まってエンゲージメントの対話をしても縦の関係性が影響してしまいます。同じ立場であり、共通の責任を持つ同志として、お互いにバイアスや上下関係がないからこそ、「○○さんの部門はこうだけど、うちの部門はね」と対等に意見を交わし合うことができました。

スコア低下の真因は「個人のやる気」ではなく「仕事のサイロ化」?

—データの見方や解釈の仕方については、平井のファシリテーションのもと、具体的にどのような深掘りが行われていたのでしょうか。

飯島:一般的な傾向として、サーベイのスコアが低い部署を見つけると、どうしても「ここが悪いね。じゃあどうやって対応しようか」という対症療法にすぐに走ってしまいがちです。実際に、具体的な解決策に注目する発言が、今回の研修のスタート段階では感じられました。

しかし、今回の研修は、そうした安易な「解答」を提示する場ではなく、平井さんのファシリテーションのもとで、「そもそも、なぜそのスコアが低くなっているのか」という根本原因へ、4人の役員がフォーカスして議論していきました。

そのプロセスで、特定の誰かのやる気がないから数値が低いのではなく、業務が細分化されすぎていて、自分の仕事が全体のどこにつながっているのかが見えなくなる「サイロ化」が起きているのではないか、「仕事の設計そのもの」に本質的な問題があるのではないか、という視点を持ちました。

「ただ黙々と作業をすればいい」という感覚に職場が陥ってしまうような仕組み自体が、エンゲージメント低下の真因ではないか、と役員の皆さんの理解が進んでいると感じました。

竹本:飯島が言う通り、あの3時間は私たちのマインドを大きくほぐし、アップデートしてくれる時間でした。私たちは普段、お互いに対して「この人はこういう役割の人だ」「こういう部門を背負っている人だ」というバイアスを持って接してしまいがちです。そのため、自分たちだけで話をしようとしても、どうしても普段の業務モードや、それぞれの部署の利害関係という小さな話にシュンと戻っていってしまう傾向がありました。

そこに外から平井さんが入ってくださり、一段も二段も大きな視野から組織の本質についての問いを投げかけてくれたんです。単に「エンゲージメントとは何か」を解説されるのではなく、高度経済成長期の「勝つ方程式」から脱却し、現代的な正解のない課題に向き合うための思考のヒントを提示してくれました。

それから、「フランス料理」のように普段していない特別な施策を打つというよりは、「おにぎりの味付けを変える」ような日常的なコミュニケーションこそが重要なのだという話も、非常に大きな示唆に富むものでした。

エンゲージメントの向上とは、給料を上げたり環境を良くしたりといった従業員満足度やモチベーション対策とは本質的に異なります。「会社と従業員が対等な目線で同じ方向を向き、組織のギアがカチッと噛み合うこと」「そのために、日々の対話、コミュニケーションが重要である」という本質を、経営層の全員が共通言語として深く腹に落とすことができたんです。

他の役員との、「社員との関わり方を見直さないとね」「社員と一緒になって、日々対話をしていく必要がある」「自分たち経営陣が何をやるか。それが職場にも伝わる」といった会話からも、マインドセットが少しずつシフトしていくのを感じました。結果的に、予定していた3時間はあっという間に過ぎ去り、時を忘れるほどの熱量に包まれたのは、私たち自身にとっても本当に嬉しい驚きでしたね。

エンゲージメントとは人と向き合うことであり、競争力の源である

—経営層の皆さんが多忙な業務から完全に離れ、3時間もの時間を割いて本気でエンゲージメントについて話し合った。この事実そのものが、組織全体に対して非常に強力な「メッセージ」になるのではないかと感じます。最後に、組織づくり、エンゲージメントに正面から向き合い、日々悩んでいる人たちに向けて、メッセージをお願いいたします。

飯島:私からお伝えしたいのは、サーベイの数値に一喜一憂するのではなく、経営陣を巻き込んだ、エンゲージメントや組織づくりの本質的な対話を諦めずに行ってほしいということです。

サーベイのスコアが低いと、経営陣や責任者は具体的な対策を職場に求めがちです。しかし、それでは職場のやらされ感を強めるだけで、本当のエンゲージメントは生まれません。

この激変する時代において、組織のエンゲージメントがなぜ重要なのかということを、経営陣自身の問題として捉えてもらうことが、一番の近道になるはずです。

トップのマインドセットと熱量が変われば、管理職の関わり方が変わり、最終的には職場の景色が変わっていきます。人事だけで組織を変えようとするのではなく、最も強力な味方である経営層を巻き込み、組織風土の基盤づくりをしてみてほしいと思います。

竹本:エンゲージメントとは人と向き合うことであり、対話を続けていくことであり、人と人、人と組織のいい関係性をつくっていくことなんだ。そして、それこそが会社にとっての競争力の源泉となっていくんだということを、組織づくりに向き合う人たちは深く心に留めておく必要があると思います。

私は、今後も役員同士で対話は続けていくつもりです。役員だからといって、完璧な人間だというわけではない。わからないこともたくさんある。だからこそ、役員同士が1つの「チーム」となって対話を続けて、正解のない課題に対して向き合っていく。こうした取り組みを積み重ねていきながら、よりよい組織になるように尽力していきます。

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