
「ワクワクしながら創造的に働ける会社」であり続けるために――戸田建設が挑むエンゲージメントを実感できる組織づくり

1989年に新卒で戸田建設に入社し、技術職として16年間勤務。企画業務にも携わる。その後、株式会社ミスミグループ本社、ワタミグループに転じ、2022年に戸田建設へ再入社。イノベーション本部の顧問として、同本部に必要な取り組みを企画し実行する役割を担い、その1つとして、エンゲージメント活動の事務局を務めている。

2001年に新卒で三菱グループ内の企業に入社。環境管理業務や経営企画業務などに従事したのち、2022年に戸田建設へ。現部署にて環境事業に従事しながら、エンゲージメント活動の事務局を務めている。
病院や学校、高層ビルなどの建築、高速道路や鉄道などの土木事業に強みを持つ戸田建設。浮体式洋上風力発電をはじめとした再生可能エネルギー事業や建築・土木技術の研究開発、新技術の事業化などを担うイノベーション本部では、2023年5月からWevoxを導入し「ワクワクしながら創造的に働ける会社」を目指してエンゲージメント活動に取り組んでいます。活動内容と事務局の小出さん、尾登さんの組織づくりへの想いについて伺いました。
社員100人へのヒアリングから見えた、組織の課題
―御社では、イノベーション本部を中心に2023年5月からWevoxを導入し、エンゲージメント活動に取り組まれています。どのような経緯でエンゲージメント活動を始められたのでしょうか?
小出:私は2022年7月に顧問という形で戸田建設に再入社し、イノベーション本部に必要な取り組みを企画し、実行するという役割をいただいています。そこで、まずは復職の声をかけてくださった、戸田副社長(イノベーション本部長も兼任)が一番困っていることに取り組もうと話を聞いてみることにしたんです。すると、20代、30代の若い社員がポロポロと離職していることを何とかしたい、と聞きました。離職して他のところでチャレンジするのはいいけれど、この会社にいる間は、充実した時間を過ごしてほしい、ワクワクしながら創造的に働ける会社にしたい、そのために組織としてどうすればいいか考えてほしいと言われました。
そこで、まずはリサーチから始めようと、同じタイミングで中途入社した尾登さんに同行してもらって、現場から内勤まで、合計100人くらいの若い社員にヒアリングをしたんです。すると、3つの課題が見えてきました。
―どのような課題でしょうか?
小出:1つ目は、コロナ禍もあって、コミュニケーション機会が限られていたために、トップの声が伝わっていないことです。現場に行くと戸田建設のビジョンや方針がたくさん掲示されていますが、誰1人として自分ごととしている感じがなかった。トップとのコミュニケーションの場を、持たなければと感じました。
2つ目は、夢やキャリアプラン、今後やりたいことなどについて、ほとんどの人が答えられなかったことです。しかも、ある女性社員は、私が東京の本社から支店まで足を運んで話を聞きに行くと、「こんなふうに話を聞いてもらったのは初めてです」と涙を流して話をされたんです。そこでハッとしました。何か、会社と社員との関係性に課題があるんじゃないか、関係性を変えなきゃいけないんじゃないかと感じました。
3点目は、内勤と外勤の意識のギャップです。現場の人たちは「内勤の人たちは土日の作業なくていいよね」、内勤の人たちは「外勤の人たちは手当てがある分給料がよくていいよね」などと、お互いに不満を抱いている状況でした。
これらを戸田副社長にレポートして、取り組むべきことを検討しました。

―尾登さんは、ヒアリングを通してどのようなことを感じましたか?
尾登:私が感じたこととしては、いい人が多いことと、積極的な人材開発・人事制度改革が行われている一方で、会社に「組織開発に取り組む文化」があまりないため、外から来た私のような人間が新しい風を吹かせなきゃいけないのかなということでした。というのも、私は前職でグループ内企業と一緒にエンゲージメントの研究会活動を行ったり、そこで得た知見を社内に展開したりということに1〜2年ほど取り組んでいたんです。そうした組織開発を行ったり、関係性の質に働きかけたりといった経験をこの会社でも活かしていけるのではと感じました。
小出:私が感じた会社と社員の関係性に課題があるのではないかという点について、尾登さんから「これってエンゲージメントですよ」と言われたんですね。その言葉は目にしたことはありましたが、理解できていない概念で最初は戸惑いました。しかし、自分が会社経営をしていたときのことを振り返ると、意欲の高い社員がスピンアウトすることがあり、自分はみんなに叱咤激励はしていたけれど、耳を傾けることはしてこなかったなという強い反省がありました。エンゲージメントを高めることの重要性を尾登さんに教えてもらったと思います。
尾登:こういった経緯があって、私と小出さんの2人でエンゲージメント活動をスタートさせました。
リーダーがエンゲージメント施策の企画と実行を担い、事務局が伴走する
―これまで、どのような取り組みをされてきたのでしょうか?
小出:まず、1つ目のコミュニケーション不足という課題に対して、2022年3月から、戸田副社長と社員が直接コミュニケーションをとる「Morimichi Café」という場をおおむね月1回、設けることとしました。Morimichiというのは戸田副社長の名前、守道からきています。
尾登:加えて、共通の物差しで組織の状態を定期的に測るのがいいだろうということで、2023年5月からWevoxの活用を始めました。
小出:もともと、年1回、全社員を対象としたストレスチェックの中で、エンゲージメントサーベイが行われていますが、回答者本人にはフィードバックされるものの、個々の部署がサーベイ結果を活用して施策を打つといった取り組みはされていなかったんです。パルスサーベイがいいなと思ったのは、無理なくその月の状態がわかり、現場の施策の効果を1〜2カ月後には把握することができる点です。まずはイノベーション本部と一部の事業部の合計140人ぐらいの社員で取り組んでみて、成果が上がってきたら、徐々に社内に広げていこうという方針で始めました。
―エンゲージメント活動の中で、Wevoxはどのように活用されていますか?
尾登:まず取り組んだのが、管理職のスコアに対する正しい理解の醸成です。取り組み方としては、先行企業がプロセス・コンサルテーションをベースに実践されていた、組織長を支援することで各組織の個々の状態・課題にアプローチしていく方法を参考にしています。リーダーの皆さんに、スコアから自部門の課題を把握してもらい、エンゲージメント施策を考え、実行してもらえるよう、まずは、リーダー向けの勉強会を行いました。
―勉強会は、どのような内容で実施されたのですか?
尾登:組織開発やエンゲージメントについて、アトラエさんから紹介いただいた「マンガでやさしくわかる」シリーズ(日本能率協会マネジメントセンター)なども活用しながら説明をしました。その上で、スコアに踊らされる必要はないということ、短絡的に単発の施策を打って終わりにするのではなく持続的に取り組んでいく活動であること、対話やコミュニケーションをとることを特に重視して取り組んでほしいことなどを伝えました。
全体を通じて、迷ったときには、「ワクワクして働ける戸田建設にしたい」という戸田副社長の想いに立ち返るマインドセットがつくられることを意識して行いました。

小出:エンゲージメントを下げてしまうリーダーの行動例のリストを渡して、「こんなことやっていませんか?」と自己分析してもらうこともしました。「ミーティングや面談ではほとんど自分が話している」「メンバーに頼ったり、弱みを見せてはいけないと思っている」など、私自身もやってしまっていることがあります。そういったNG行動事例を共有して「皆さんはどうですか?」と投げかけるんです。「これは俺もやってるなー」という声が挙がるなど、メンバーと対話していくにあたってのスタンスを理解してもらう上でインパクトがあったと思います。
尾登:あとは、別途時間を設けて、戸田副社長とリーダーたちで、アトラエさんから提供していただいた「価値観共有ワークシート」を使ったワークショップも行いました。このワークで相互理解の重要性についてリーダーたちに腹落ちしてもらい、自部門に持ち帰って自身のメンバーたちとも行ってもらうことを促しました。
その後は、隔月実施のサーベイに合わせて、結果が出たタイミングでリーダーたちと振り返り会を行っています。そして、スコアやコメントをふまえて各リーダーがエンゲージメント施策として取り組むこと、事務局に相談したいことなどを書き込むスプレッドシートを作って進捗を共有しています。推進チーム3人は、事務局として部長級以上のリーダーの方たちからのいろいろな相談に乗って伴走型の支援をしたり、部門の定例会や振り返り会に参加してリーダーを支援することもしています。
小出:あとは、2週間に1回のイノベーション本部全体での連絡会でも、エンゲージメント活動の状況やスコアについて情報共有しています。
尾登:また、課長以下の社員からも、エンゲージメントに興味があるという人が出てきているので、その人たちを集めた研究会活動も始めています。9月に第1回を行い、僕がいた三菱グループや他の企業の事例を紹介したり、小出さんに起業経験をもとにお話ししてもらったりしました。そうして今、課長以下の社員の中からキーマンになりうる人たちが出て来ているので、その人たちを今後アンバサダー化するようなことをやっていこうかなと考えているところです。
―リーダーの皆さんは、どのような施策に取り組んでいらっしゃいますか?
尾登:自ら部のパーパス・共通言語を掲げられるリーダーもいますし、リーダー自身からではなく、少し若い中核層に「あのメンバーとお酒か食事にでも行って、悩みなどを聞いてみてほしい」とマネジメントを工夫し始めているリーダーがいたりします。
小出:ある部門でスコアに悩むリーダーが「どうしたらいいんだろう」と相談をしてくれたこともありました。その相談をきっかけに、対話の重要性などを伝え、実際にメンバーとの対話を増やすなどしたことでスコアが上がって成果を実感したリーダーもいましたね。
―エンゲージメント活動に対する、一般社員の皆さんの意識については、何か変化は起こっていますか?
小出:一番の変化は、「エンゲージメント」という言葉を全員が知ったことです。尾登さんが「エンゲージメントリングのことだと思ってください」と説明してくれたのですが、その例えでエンゲージメントは会社と社員の繋がりを強めていくことだとみんながわかってくれたと思います。それから、2カ月に1回、Wevoxでサーベイをすることで、エンゲージメント向上のための取り組みを始めたという認知を得られたことも、この半年間の大きな成果かなと思っています。
今後、エンゲージメント活動によってWevoxのスコアが上がったり、さらには事業として新しいものが開発できたり業績に貢献したりと組織のパフォーマンスに成果が出てくると、さらに、「これだ!」となるかなと思います。
小さな成功体験を積み重ねていくことで、エンゲージメントの意義を皆で実感したい
―今後の課題やこれから取り組んでいきたいことについては、どのように考えていらっしゃいますか?
尾登:課題は大きく3つあって、1つ目は、せっかく記入してもらっているコメントに十分に対応できていないことです。すべてのコメントについて希望通りの対応をするのは難しいですが、例えば、「本部や部署を超えた交流の機会がほしい」といった声など、頑張れば本部レベルでは改善できるものがあるので、それらには応えていけるようにしたいと思っています。
2つ目は、リーダーによって若干の温度差がある点です。エンゲージメント施策の実行まで移れている人、やりたいことは書いたけれどまだ実行に移せていない人など差はあります。支援が必要そうなリーダーをプッシュ型で支援していくことも必要だと感じています。
3つ目は、2割弱くらいいる未回答の方への対応です。無理強いして回答率を上げることは本質ではないものの、人的資本経営が重要になる情勢、メンバー同士でも意識的にエンゲージメント・働きがいを高めて行けることなど、理解を醸成していくところは課題だと思っています。

小出:尾登さんの話に加えて重要だと思っているのが、「こうやっていくとみんなのエンゲージメントが上がるんだ」「エンゲージメントが上がると、組織のパフォーマンスが上がるんだ」ということを実感できる体験をいかにして積み重ねていくかです。
これまでは、本社主導でさまざまな調査や施策が降りてくるばかりで、自発的に組織のエンゲージメントの状態を測り、その結果をもとに改善の取り組みを考え、実行することに慣れていないと思うんですよね。だからこそ、事務局の我々が伴走しながら各部の「どうしたらいいの?」に応えていかなきゃいけない。そうして、「こうすると自分やみんなのエンゲージメントが上がるんだ」と各自が実感できてくるといいかなと思っています。
そして、さらに一歩進んで、「エンゲージメントが上がると、組織のパフォーマンスが上がるんだ」という小さな成功体験をリーダーが積み重ねることができれば、持続的な活動になるのではないかと思っています。これだけ劇的に変化する社会環境の中では、何か大きな社会変動があれば企業の業績は容易に落ちていくし、そうなると、社員のエンゲージメントも下がり、何か打ち手が必要になってくる。それはずっと続いていくことなので、「エンゲージメントが上がると、組織のパフォーマンスが上がる、だからエンゲージメント向上に努めるんだ」とリーダーが思えるような成功体験を積み重ねていきたいです。

―さきほど、アンバサダーを立てていきたいというお話がありましたが、どのように進めていく計画ですか?
小出:こちらが指名するのではなく、「私がやりたい」と思う方になっていただけるといいなと思っていて、これから試行錯誤していきます。
尾登:第1回のエンゲージメント研究会に部長クラスから、課長クラス、30歳前後の若い社員まで14人ほどが手を挙げて来てくれたので、その人たちを大事にすることが必要なんだろうなということを強く思っています。
手始めに、12月のMorimichi Caféに各組織のエンゲージメントを上げるキーマンになっているような、中堅クラスの社員数人を招く予定です。そこでまた風通しのいい議論ができるといいなと思っています。
―お二人はEngagement Run! Academyにも参加されています。参加の動機について教えてください。
小出:リーダーから相談や質問を受けたときに的確に答えるために、他社さんの事例を知っていたり、知識を深めていることが必要だと思って参加しました。
―何か印象に残っているクラスはありますか?
小出:一度、グループディスカッションをするクラスに参加させてもらった際、やはり皆さん、社員の自発性を喚起することにご苦労されていました。メンバーからチーム単位であっても自発的に変えていこうぜと動く文化が育っている企業は少ないこと、部門ごとにアンバサダーを決めて、推進役を担ってもらう方法があることに気づかせてもらって、そこはチャレンジしてみたいという気持ちにさせられました。
―ご自身の組織の課題と照らし合わせて考える機会になっているのですね。
小出:そうですね、自分の組織を相対化している感覚です。絶対的にこの組織がいいという組織は世の中には存在していなくて、すべての組織が、時代とともに変化していく必要がある。こうした中で、自分の組織が今どんな位置づけにあるかを相対化するときに、指標になるものとして、他社のお話を聞けるととても参考になります。
そのときに重要なのは、バイアスを持たずに参加することだと思っています。例えば、「建設業とサービス業では比較にならないよね」「ベンチャー企業と歴史が140年もあるうちとは違うよね」といったバイアスを持って参加すると、入ってくるものも入りません。できるだけバイアスを除いて参加できたらと思います。
活動が徐々に全社に広がっていくことを期待
―今後、さらに活動を進めていく上で、イノベーション本部の皆さんに伝えたいことがあれば教えてください。
小出:本部のメンバーには、「人生には、『人は必ず死ぬ』『人生は一度きり』『いつ死ぬかわからない』という3つの真理がある。だからこそ、たった1回きりの大切な人生を充実させてほしい。そのために、不満を持って働くよりも言いたいことを発言して人生を充実させないか」ということを伝えたいですね。
今までの戸田建設には、意見を言いづらい雰囲気があったのではないかと感じています。だから、会社としては「何かあったら意見を言っていいんだよ」という心理的安全性をつくり、社員としては勇気を持って発言してみるということをしませんか、と。
その結果、皆さんにとってはきっといい人生になる。そして、人生が充実している社員の集団である戸田建設が社会から必要とされる存在になれば、いい循環かなと思っています。
―では最後に、今後の組織づくりの目標や意気込みをお聞かせいただけますか?
尾登:戸田副社長が最初に語っていた、「ワクワクしながら創造的に働けるような会社にしていきたい」という想いを忘れないようにしたいですね。このような想いとともに発展してきた会社ですから、若い社員や中堅社員が「もう嫌だ」という想いやストレスを抱えて辞めないような会社になっていきたいです。
小出:今は、イノベーション本部を中心とした140人の方々に発信していますが、戸田建設には4000人の社員がいます。まだ1割にも満たない人たちでのチャレンジなので、徐々に社内の他部署にも広がっていくといいなと思っています。
ただ、全社で一気に強制的にやるのは、負担が多く効果も限定的になるでしょうから、徐々に広がって、気がついたら全社でやってたねという状況になるといいなと思います。今、本社の全社戦略を練っている部署や、600人の社員を抱える設計部門から話を聞かせてほしいと打診を受けているので、そこからまた広がってくれるといいですね。







