
出産手当金とは?基本・条件・申請を完全解説
出産手当金は、健康保険に加入している女性が出産のために会社を休み、その期間に給与の支払いがない場合に、生活を保障する目的で健康保険から支給される手当金です。妊娠4ヶ月以上の出産が対象で、支給期間は出産の日以前42日間(多胎妊娠は98日間)と出産の日後56日間です。支給額は、休業開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均に基づいて計算されます。申請は、従業員、会社、医師・助産師が記入する申請書を、加入している健康保険組合や協会けんぽに提出します。退職後の受給には特別な条件があり、出産育児一時金とは目的が異なります。パート・アルバイトや公務員も対象ですが、男性や任意継続被保険者は対象外です。人事・管理職の皆様は、この制度を正しく理解し、従業員が安心して出産を迎えられるようサポートすることが重要です。

新卒から人事畑ひとすじ23年、制度設計から採用、育成、労務、果ては部下の恋バナ相談まで(?)幅広く経験。前職では人事部長として"長く活躍できる組織"を目指し、社内外から「人事の相談役」と呼ばれるように。現在はアトラエで"エンゲージメントプロデューサー(自称)"としてクライアントの組織づくりを支援しつつ、自社のエンゲージメント向上にも燃える毎日。牛丼を食べながら組織の未来を考えるのが至福の時間。口癖は「ごめんごめん、実はさ...」。ちなみに最近の悩みは「Z世代との絶妙な距離感」。
出産手当金とは?制度の概要
出産手当金は、健康保険に加入している女性が出産のために会社を休み、その期間に給与の支払いがない場合に、生活を保障する目的で健康保険から支給される手当金です。病気やケガで仕事を休む際の傷病手当金と同様に、働けない期間の所得を補償する役割を持っています。
この制度の対象となるのは、会社員や公務員、パート・アルバイトなど、健康保険の被保険者である女性です。支給は、出産を予定している従業員が経済的な不安なく出産・育児に臨めるよう、国が定める健康保険制度の一部として運営されています。企業の人事担当者様は、この制度を従業員に正しく案内し、円滑な手続きをサポートすることが、従業員の安心感を高める上で非常に重要です。
出産手当金の支給条件
出産手当金を受け取るためには、いくつかの条件を満たす必要があります。人事担当者様は、従業員がこれらの条件を満たしているかを確認し、適切に案内できるよう準備しておく必要があります。主な条件は以下の通りです。
健康保険に加入していること
: 勤務先の健康保険(協会けんぽ、健康保険組合など)の被保険者である必要があります。
妊娠4ヶ月(85日)以上の出産であること
: 正産期だけでなく、流産、死産、人工妊娠中絶なども含まれます。医師や助産師の証明が必要です。
出産のために会社を休んでいること
: 医師や助産師による休業期間の証明が必要となり、その期間に給与の支払いがない、または出産手当金の日額よりも少ない給与しか支払われていない場合に支給対象となります。
さらに、退職後の支給には特別な条件があります。退職日までに継続して1年以上被保険者期間があり、退職日時点で出産手当金を受給しているか、受給できる状態(産休期間中)にあること、そして退職日に出勤していないこと、が必須です。これらの条件は従業員の状況によって異なるため、個別の確認と、特に退職を考えている従業員への事前説明が人事担当者として重要になります。
出産手当金がもらえる期間
出産手当金が支給される期間は、法律で明確に定められています。従業員に説明する際は、以下の期間を正確に伝えてください。
出産の日以前42日間(多胎妊娠の場合は98日間)
出産の日後56日間
この合計98日間(多胎妊娠の場合は154日間)が支給対象となります。重要なポイントとして、出産当日は産前期間に含まれるため、この点も明確に伝えましょう。
また、出産予定日より出産が遅れた場合、遅れた期間も支給の対象となります。例えば、予定日より1週間遅れて出産した場合、産前42日間に加え、遅れた7日間も手当金が支給されます。この柔軟な対応は、予期せぬ出産日の変更に対応し、従業員の生活を保障するためのものです。支給期間を正確に把握し、従業員への説明、そして企業内の勤怠管理に役立ててください。
出産手当金の支給金額と計算方法
出産手当金の支給額は、従業員の平均賃金に基づいて計算されます。具体的な計算式は以下の通りです。
日額 = 支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3
ここでいう「標準報酬月額」とは、健康保険料や厚生年金保険料の計算に使われる、給与を一定の幅で区切った金額のことです。支給開始日とは、実際に産休に入り、給与の支払いがなくなった日を指します。
休業中に会社から給与が支払われた場合は、支給される出産手当金が調整されます。例えば、支給される日額より少ない給与が支払われた場合は、その差額が支給されます。もし出産手当金の日額を超える給与が支払われた場合は、出産手当金は支給されません。従業員が安心して出産に臨めるよう、支給額の目安を伝える際には、この給与との調整についても明確に説明することが求められます。企業側は、休業期間中の給与規定と手当金の関係を事前に確認しておくべきでしょう。
出産手当金の申請方法と必要書類
出産手当金の申請は、従業員自身が行いますが、多くの場合、勤務先の人事担当者様が手続きをサポートすることになります。スムーズな申請のために、以下の情報を把握しておきましょう。
申請先は、加入している健康保険によって異なります。
協会けんぽの場合
: 勤務先の所在地を管轄する協会けんぽの支部
健康保険組合の場合
: 各健康保険組合
申請時期は、産前分と産後分をまとめて、または分けて申請することが可能です。一般的には、出産後にまとめて申請することが多いですが、従業員の経済状況によっては産前期間が終了した時点で申請を希望するケースもあります。柔軟に対応できるよう準備しておきましょう。
主な必要書類は以下の通りです。
健康保険出産手当金支給申請書
: 従業員自身、医師・助産師、事業主(会社)がそれぞれ記入する欄があります。人事担当者様は、事業主記入欄の正確な記載と、従業員への記入箇所の案内をサポートします。
医師または助産師の証明
: 申請書内の所定欄に記入してもらいます。
事業主の証明
: 会社が休業期間中の給与支払状況などを証明します。この証明が正確でないと、支給が遅れる原因となるため、人事担当者様は細心の注意を払って記入してください。
申請から支給までは、通常1~2ヶ月程度の期間がかかることがあります。従業員には、余裕を持った申請を促し、不明点があれば積極的にサポートしてください。手続きの遅延を防ぐためにも、社内での書類提出フローを明確にしておくことが推奨されます。
まとめ
出産手当金は、妊娠・出産を控えた従業員が安心して産休を取得し、経済的な不安なく子育てに専念できるよう支える重要な社会保障制度です。人事・管理職の皆様は、この制度の正しい知識を持ち、従業員からの相談に適切に対応することで、従業員エンゲージメントの向上はもちろんのこと、企業の福利厚生への評価、ひいては優秀な人材の定着にも繋がります。
この記事で解説した「出産手当金とは何か」「どのような条件や期間で、いくら支給されるのか」「申請方法やよくある疑問点」といった情報を活用し、従業員への正確な説明や手続きのサポートに役立ててください。不明な点があれば、加入している健康保険組合や協会けんぽに確認し、最新かつ正確な情報を提供することが大切です。従業員が安心して出産を迎えられるよう、組織として全面的にサポートすることで、より働きやすい職場環境を構築していきましょう。
記事監修者

2013年からライターとして活動。DIOの立ち上げ時から企画・運営を担当。300社を超えるWevox導入企業への取材を通して、エンゲージメントや組織づくりのストーリーを届けている。「わたしたちのエンゲージメント実践書」(日本能率協会マネジメントセンター)のブックライティングも担当。











