
「退職プロセス」を解説:基本用語・手続き・法的要件
「退職」とは、従業員と会社との雇用契約を終了する重要な出来事。人事・管理職が知っておくべき、退職に関する正しい知識と円滑な手続きの重要性を解説します。この記事では、自己都合や会社都合などの退職の種類から、退職届受理、社会保険や税金の手続きといった会社が対応すべき事務処理、業務引き継ぎや情報セキュリティ管理のポイントまで網羅的に解説。退職申し出期間や有給休暇の扱いにまつわるよくある疑問にも対応し、従業員の納得感を高めつつ、会社のリスクを最小限に抑えるための実践的な情報を提供します。適切な退職プロセスで、健全な組織運営を維持しましょう。

新卒から人事畑ひとすじ23年、制度設計から採用、育成、労務、果ては部下の恋バナ相談まで(?)幅広く経験。前職では人事部長として"長く活躍できる組織"を目指し、社内外から「人事の相談役」と呼ばれるように。現在はアトラエで"エンゲージメントプロデューサー(自称)"としてクライアントの組織づくりを支援しつつ、自社のエンゲージメント向上にも燃える毎日。牛丼を食べながら組織の未来を考えるのが至福の時間。口癖は「ごめんごめん、実はさ...」。ちなみに最近の悩みは「Z世代との絶妙な距離感」。
退職プロセスを円滑に進める重要性
退職とは、従業員と会社の間で結ばれている雇用契約を終了することを指します。これは、従業員が人生の新しい段階へ進むための大切な節目であると同時に、会社にとっては事業の継続性や組織運営に関わる重要な出来事です。人事や管理職の皆様は、退職に関する正しい知識を持ち、適切な手続きを行うことで、従業員が安心して次のステップへ進めるようサポートし、会社としてもスムーズな業務運営を維持する必要があります。
円滑な退職手続きを進めるための実践ポイント
従業員が退職の意向を示した際、人事や管理職は、単に事務手続きを進めるだけでなく、従業員が円満に退職できるよう配慮し、会社への悪影響を最小限に抑えるための対応が求められます。このプロセスをいかに「円滑」に進めるかが、企業のレピュテーションや残る従業員の士気にも影響します。
まず、従業員から退職の意思表示があったら、会社の就業規則に定められた退職申し出の期間(通常は1~3カ月前)を確認し、余裕を持ったスケジュールで手続きを進めることが大切です。その上で、退職の理由を丁寧にヒアリングする「退職面談」を実施しましょう。ここでは、表面的な理由だけでなく、従業員の本音を聞き出すことで、組織改善のヒントや潜在的な課題を発見できる可能性があります。これは、離職率の改善やより良い職場環境構築のための貴重なデータとなります。
業務の引き継ぎも非常に重要です。後任者がスムーズに業務を遂行できるよう、具体的な引き継ぎ計画を立てさせ、必要な場合は管理職も関与して進捗を管理します。引き継ぎが不十分だと、業務の停滞だけでなく、残された従業員への負担増大、ひいては新たな離職へと繋がるリスクもあります。また、会社から貸与されたパソコン、携帯電話、社員証などの物品返却や、機密情報の持ち出しがないかの確認も徹底し、情報セキュリティのリスクを未然に防ぎましょう。これは企業の競争力を守る上で不可欠なプロセスです。
退職後の手続きについて、会社側から従業員に分かりやすく説明することも信頼関係を保つ上で重要です。退職後の健康保険、年金、税金(住民税、所得税)に関する情報や、離職票などの必要書類の発行スケジュールを伝えることで、従業員は安心して次のステップに進めます。こうしたきめ細やかな対応が、退職者からのポジティブな口コミや、将来的な人材確保にも繋がります。
会社が対応すべき具体的な事務手続きと法的要件
退職の申し出を受けてから、会社が実際に手続きを完了するまでには、多くの事務作業が発生します。これらの手続きを正確かつ迅速に進めることで、従業員とのトラブルを防ぎ、会社の法令順守体制を維持することができます。法的要件を正しく理解し、実行することは企業のリスクマネジメントにおいて非常に重要です。
まず、従業員から提出される「退職届」または「退職願」を正式に受理し、退職日を確定します。この際、就業規則に記載された退職に関する規定に沿っているかを確認しましょう。書面での受理は、後々のトラブル防止に繋がります。
次に、社会保険関係の手続きです。退職日をもって、健康保険と厚生年金保険の「資格喪失届」を年金事務所へ提出し、従業員の資格を喪失させます。また、雇用保険については、「離職証明書」を作成し、従業員に内容を確認してもらった上でハローワークへ提出します。これにより、従業員は「離職票」を受け取り、失業給付の手続きが可能になります。これらの手続きは、期限内に正確に行うことが労働法規上の義務であり、怠ると行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
税金に関しては、退職時までの所得に対する「源泉徴収票」を発行し、従業員に交付します。これは従業員が確定申告を行う際に必要となる重要な書類です。住民税については、退職する月によって手続きが異なり、特別徴収から普通徴収への切り替えが必要になる場合があるため、市区町村への届け出を適切に行います。
これら一連の書類発行・提出に加え、従業員から会社貸与品を確実に回収し、必要に応じて返却物のチェックリストを活用すると良いでしょう。退職に関わるすべての事務手続きをリストアップし、期日管理を徹底することで、抜け漏れなくスムーズな対応が可能になります。
退職の基本理解と種類:企業経営への影響を考える
退職は、従業員と会社との雇用関係が終わることを意味しますが、その理由や経緯によっていくつかの種類に分けられます。それぞれの手続きや、会社が取るべき対応が異なるため、まずは基本をしっかりと理解し、それが企業経営にどのような影響を与えるかを考えることが重要です。
最も一般的なのは、従業員自身の意思で会社を辞める「自己都合退職」です。これは、転職や病気、家庭の事情など、従業員個人の判断に基づいて行われます。自己都合退職が多い場合、職場の環境、賃金、キャリアパスなどに課題がある可能性を示唆しており、退職面談を通じてこれらの根本原因を分析し、改善に繋げることが重要です。
次に、会社の都合によって雇用契約が終了する「会社都合退職」があります。これは、事業の縮小や閉鎖に伴う解雇、あるいは希望退職者の募集などが該当します。会社都合退職の場合は、従業員への補償や、失業給付の面で自己都合退職とは異なる扱いとなるため、特に慎重な対応が求められます。不適切な会社都合退職は、従業員からの訴訟リスクや企業のイメージダウンに直結し、将来的な採用活動にも悪影響を及ぼしかねません。
その他、事前に定められた年齢に達することで自動的に雇用が終了する「定年退職」や、契約期間の満了によって雇用契約が終了する「契約期間満了による退職」(有期雇用契約の場合)などがあります。定年退職は、ベテラン社員の持つ知識や技術の継承計画が重要となり、契約期間満了退職では、労働契約法に基づく適切な雇止め判断が求められます。それぞれの種類に応じて、就業規則や関係法令に基づいた適切な対応が、企業の安定的な経営を支える基盤となります。
まとめ
退職は、単なる従業員の離職ではなく、企業の人事戦略、リスクマネジメント、そして企業ブランドに深く関わる重要なプロセスです。人事・管理職の皆様が、この記事で解説した実践ポイント、具体的な事務手続き、法的要件、そしてよくある疑問への対応を理解し、適切に実行することで、円滑な退職プロセスを実現できます。
退職者を「会社を去る人」としてではなく、「かつての貴重な仲間」として尊重し、最後まで誠実な対応をすることで、残る従業員のエンゲージメントを高め、社会全体における企業の評価を向上させることに繋がります。退職手続きを通じて、企業としての信頼性やプロフェッショナリズムを示す機会と捉え、健全な組織運営に役立てていただければ幸いです。
記事監修者

2013年からライターとして活動。DIOの立ち上げ時から企画・運営を担当。300社を超えるWevox導入企業への取材を通して、エンゲージメントや組織づくりのストーリーを届けている。「わたしたちのエンゲージメント実践書」(日本能率協会マネジメントセンター)のブックライティングも担当。











